新人を見送った後、若葉大尉は窓口に戻りチヒロに話しかけた。
「ちひろさん、作戦変更をお願いします。」
「はい。彼を案内するときにこちらの受付窓口に来たということは、彼を案内する前に特別な何かが起きたということですね?通常任務の窓口とは違いますし。」
「はい、現在テンショングリーン、アイマス起動可能と思います。なので、能力がいつもより高くなる前提で配置変更お願いします。」
「IMAS、偶像と精神が補助する性能の仮説ですね。
それなら前線での防衛作戦が進行中なのでそこへの援護をお願いします。
モビルスーツの指定はありますか?」
「できればジム系列で、ある程度の距離からの狙撃ができる装備、または耐久性が高いモビルスーツがあるといいですね。」
「ジム系列のモビルスーツなら標準装備が一式揃っていて比較的状態のいいものが1機あります。
実体弾の75mmスナイパーライフルとビーム系のロングレンジビームライフルが両方ありますし視界補助システムも新型の物になっています。」
「良いですね、実体弾の弾数は?」
「5発装填済みと予備10発です。」
「装備はそろっている、本体の部品はそろっていますか?腕が足りないとかはありませんよね?」
「ジェネレータの出力がやや不安定ですがそれ以外は万全です。総合的な機体の状態はグリーンからブルーといったところでしょうか。」
「ジェネレータは一番大事なところだと思いますけど、不安点が一か所なら贅沢は言えませんね。
ではその機体で出撃します。防衛目標と役割の指示をお願いします。」
「防衛目標は名無湖中央の浮島から見て北方向の警戒、北方向から未確認機の襲撃があった場合の撃退または攪乱。
名無湖の北の平地またはその周辺には友軍機がいる可能性が高いため必要に応じて連携をお願いします。
機体に異常があった場合は早めの撤退を心がけてください。」
「了解、日下部若葉、ジム、出撃します!」
チヒロの視線の方向の壁を見ると、壁が変形して滑り台のような通路が出てくる。そこに飛び込んでモビルスーツの配置場所へと移動する。
「なんだこれ、ジム、なのかなー?
外見も装備も普通のジムとは別物のようだけど、使いこなせるかな?
いや、今日ならいける。今日のわたしはおねーさんだから、みんなのお手伝いができるのは当たり前ですからね!」
名無湖北の平地に、2体のズゴックが待機している。1機のズゴックは片方の腕部ユニットが特徴的な三本爪ではなく普通の腕のような部品と付け替えられていて、その手には小さな銃、ビームスプレーガンが握られている。
「定時有線通信、大原みちる、腕部換装型ズゴック、状態イエローで変わらずです。」
「渋谷凛、ズゴック、状態イエローで変わらずよ、壊れるまでイエローだし壊れたら終わりなんだからほとんど意味無いわよね、この確認。
状態ブルー以上のモビルスーツなんか回ってこないんだから。」
「そうですね、人間ならパンを食べれば元気になれますがモビルスーツはパンを食べれませんから難しいところですね!修理班のみなさんには頭が上がりません。」
「パンを食べるだけで元気になれるのは安上がりでいいわね。
私は食欲無くなるわ、出撃前は。」
「あたしならパンを食べる気が無くなることは無いと思いますが恐ろしいですね。
社員食堂の補給物資がパンの日にはやる気が倍増します、パンのためなら今日も戦える。」
「無事に帰ったら夕食の時にコッペパン買ってあげるからあなたもしっかり見張ってよね。
今日みたいにミノフスキー粒子濃度が高い日は爆撃機やモビルスーツがよく来るんだから。
名無湖隊なんて落としたってたいした手柄にもならないでしょうになんで来るのかしらね、来なくていいのに。」
「おお、コッペパンですか!ありがとうございます、楽しみにしています。
名無湖はパンが売ってて水が取れるからパンと水がそろう環境ですからね、軍的にはたいしたことが無いと思わせるようにはしているようですが貴重です。
ミノフスキー粒子は名無湖側で敵対勢力の接近を予想した時に撒いているので敵対勢力がよく来るのは予想が当たってるということになるので良いことではないかと思います。
敵から来るときも敵が撒くだけなのであまり変わらないんですけど。遠距離からの実体弾はコスパ悪いですからね。ごくたまには飛んでくるらしいですけど。
・・・来ました!2時方向から複数、飛行機!中央から撃ちます!」
「了解、中距離まで来たら6連撃つわ。
3,2,1,いっけー!よし、命中。1機逃げたみたいだけど撃退成功かしらね。」
スプレーガンで隊列を崩した後に、ズゴックの頭部に6基搭載されている発射管から発射される240㎜ロケット弾が飛行機たちをけちらすことに成功した。
「半数は湖の上で落とせましたね。これなら使える部品もあるでしょうしボールさんが回収しに来てくれますね。ボール、ボールは丸い、メロンパン食べたい。
そろそろ交代の時間ですよね!交代準備をしましょう!パンが私たちを待っています!」
「交代の時間は狙われがちだし、最後まで気は抜かないようにね。」
「今敵のおかわりが来てもスプレーガンの残量がほとんどありませんよー。ロケットは出撃時から売り切れでしたし。パンのおかわりならいくらでも歓迎なんですけどねー。」
「敵!モビルスーツ!複数!
そっちの残弾は!?」
「本当にきましたか、残弾スプレーが3!あとは爪だけです!」
「こっちは6連ロケットが1セットだけ。足りない、けん制して援護を待つか接近戦前提で待つかの二択!
テント方面だから放置はできないわ!」
「こっちを狙って来てるので接近ですね!残弾1、0、品切れです!敵残数4!」
「了解、格闘距離に入る寸前に6連撃つわ。
あと5秒、4,3!?
1体落ちた、1体離れた、6連撃った、殴りに行く!
これが、私の、アイアンネイルだー!!」
「今なら!
右もらいます!!
パンチはパンっぽくて素敵だけど当たるとパンを食べられなくなるから喰らいたくはないやつー!!」
・・・・・・
「完勝おめでとう、お疲れさま。でもさっきの技名はさすがにどうかと思うわ。」
「お疲れさまでした。パンチを打とうと思ったらパンを求める心が止められなかった、今は反省している。アイアンネイルだから爪だけど気持ちはパンチ。むしろパン。」
「うん、パンが切れてるからかなと思ったけど平常運転ね。
今考えてみたら敵のほうが多いときに接近戦は無謀だったわね。
援護射撃で2機落としてもらえたから勝てたけど。」
「援護射撃をもらう前の状況からなら逃げても立ち向かっても不利ですから、どっちを選んでも無謀なのではないかと思います!
ところで、仲間とはけっこう距離離れていたはずなんですけど、よく当たりましたねあの援護射撃。
続けて2機は落としてましたし。だれが撃ってくれたんでしょうか?」
「遠距離射撃が得意なモビルスーツでまともに動くの、名無湖にいたっけ?
遠距離用の銃を預けられるくらいだから実力者なんだろうけど、わからないわね。連絡が無く撃ってたということは会話したくない勢かしら。そして射程とモニター範囲はかなり広い、と。」
「実体弾のライフルが使えるモビルスーツはだいたい遠距離が得意というふうになりますねー。
中距離かもしれませんけど。あたしはほとんど接近戦用モビルスーツしか乗ったことがないのでわかりません!
スプレーガンは射程も短めですし当たってもあんまり威力が無いから気軽に撃っていい武器として装備させてもらってますけど。
パンチは名前にパンが入っているから良いものです!なので接近戦用モビルスーツもパンの仲間と言っても過言ではないと思います!」
「いや自信満々に言われても。
名前にパンが入っていればいいなら、銃声はパーンって聞こえることもあるから銃はパンの仲間、とか・・・ごめん、面白くないこと言った。撃たれに行っても困るし忘れてちょうだい。」
「そう言われてみれば銃声のことをパーンって表現することはありますね!
つまり銃はパンだった。なるほど。そう考えるとちょっとだけときめきのようなものを感じるような気もしますね。」
「いや納得しないで?本当に忘れて、ごめんなさい。」
「ジェネレータが不安定、というわりにずいぶん出力高かったですね今日は。
不安定で普通のジムより上……暴走とかしそうで怖いからさっさと降りましょうか。強いけど怖い。援護はいったん終わりましたし。
高性能機が実力を出しただけなのか異常な状態であれなのか、どっちだったんだろう。」