「あっちぃなぁ〜.......」
「マジで暑いっすね最近....」
先輩の独り言に勝手に返事をする。
ここ最近はとにかく暑い。6月も半ばなのに連日気温は35度超え。おかげで現場仕事の俺たちは熱中症患者が続出している。
「そういや社長がアキさん熱中症で倒れたって言ってましたよ」
「えっマジ?それ俺らも対策しないとマズいんじゃないの」
そら俺たちも対策しないマズい。しかしながらそうもいかない事情があった。
「まぁそうなんすけど、休憩多めに取ると現場おわんないですしねぇ.......冷えるジャンバーあれば良いんすけどアレ禁止されてましたもんね確か」
「あーあれな......社長がなんか文句言ってウチの会社禁止になったらしいぜ。昔1人だけ自分で買って着てきた奴がいて周りから不満が出たんだと」
「なんでそこで全員分買ってくれないんすかね」
「そりゃ社長がケチだからだろ?自分は豪遊してるくせにな」
ここまで聞けば分かる通りウチの会社の社長はクズだ。社員が倒れようとも気にせず納期だけは守れと言い、そのくせ自分はクーラーの効いた部屋で社長仲間と麻雀三昧。
その麻雀で賭けられている金で現場の人間が倒れないようにできるはずなんだけどな。.......最悪な状況だな。辞めなきゃこっちが持たないな。辞めよう。
「先輩、俺辞めようと思うっす。流石にちょっと酷いっす」
「おー、お前もか。俺もちょうど同じこと考えてたわ」
「じゃあ帰り言いに行きますか」
「いくか。まぁまずは現場だけ片付けないとな!」
「そうっすね!」
休憩が終わり、工具を持ち、さぁいざ行かんという時になって気が付いた。この後の段取りを全く聞いていない。
「先輩、そういえばこの後って.....__________」
後ろに先輩はいなかった。それどころか全く見覚えのない平原にいる。
「.........は?」
思考が停止した。ちょっと待てよ何が起きているんだこれは。
キョロキョロと迷子の子供のようにあたりを見渡すが、見渡す限りの平原が広がっているだけであった。さっきまで街中にいたはずなのに人工物の一つも見当たらない。
なんなんだよこれ。
一旦落ち着こう。状況を整理しよう。俺の記憶が飛んだだけか?なんでこんな場所に?てかここ何処だよ。現場どうするんだこれ?そうだ連絡!
「........」
急いでスマホを取り出し、先輩に電話をかける。しかし繋がない。それどころかスマホは圏外ときた。この時点で俺は一つの仮説を立てていた。
「これってまさか異世界転生ってやつか?」
__________________________
異世界転生。現実で死んだ人間が異世界に転生するというもの。
その異世界は大抵の場合剣と魔法のファンタジー世界で神様とやらにもらったチート能力で無双する。
何十回と見た小説の設定に過ぎないそれが今現実として俺の目の前に現れていた。
「俺の頭がおかしくなったのか?」
記憶の確認をしよう。
俺は斎藤 玲。23歳。誕生日は2月22日。現在時刻は2025年6月17日。
持ち物は右手にスパナ、両手に作業手袋をしている。ポケットにはカッターとマイナスドライバーと車の鍵。それからタバコと飲み物とスマホ。
今日もいつも通り現場で作業をして昼休憩をしていた。そして必要そうな工具を持ち現場を再開しようとしていた。そしていつの間にか異世界?にいた。
「いやマジで落ち着け俺.......そもそも異世界とは限らんだろうし。現実的に考えるなら突発的に記憶がぶっ飛んだと考える方がマシ_____」
そこで気が付いた。
持ち物、服装が記憶にある通りだ。作業着を着て工具を持ち、胸ポケットにはタバコ。尻ポケットにスマホと水。
つまり俺の記憶の連続性は持ち物達が証明している。
あれこれってマジで異世界なんじゃ
「....................」
おいおいおいおい冗談じゃねぇぞマジで!!
これがもし異世界だとしたら生きていける自信ねぇぞ俺!!
ドッキリか?ドッキリであってくれ頼むから!!!
頭を抱えてうずくまる。
人間1人を1秒に満たない間に見覚えのない場所に連れて行く手段などないことにはとっくに気が付いていた。
しかしどうしても認めたくなかった。
仕事はキツイし未来は推定真っ暗だが、それでも命の危険はないし明日食う飯には困らない。酒もタバコも楽しめる。
そんな環境にいたのに突然未開の地域にぶち込まれたようなものだ。
パニックになるなという方が無理だ。
「いや待て、もしほんとの本当に異世界ならチートあるはずあってくれ頼む.....!」
てかどうやってチートとか調べんだよ呪文でも唱えんのか?
大の大人が大真面目に魔法使おうとしてみるのか?
そんなふうにパニックになっていると不意にガサリと物音がした。
「!!!!!!」
音のした方に体を向ける。
“それ”を見て何かしようと考えている訳ではないが目が離せない。
魔物とか出てこないだろうな.....まだ死にたくねぇ......
「......」
「......」
草むらから出てきたのはタヌキだった。
「.......ハァ〜なんだよマジでビビらせやがって」
緊張と不安が一気に解けた。ドカリと座り込みタバコに火をつける。
そうだ落ち着け。まだ死ぬと決まったわけではない。
多分夢を見てんだなこれは。明晰夢って初めて見たわ。いきなり場面めっちゃ変わるもんな夢って。
どっから夢だ?今日の仕事無駄かよもったいねぇ〜.......てかしんどかっただけじゃん!どうせならもっと良い夢の時に明晰夢であってほしかったわ
そう考えているとまた物音がした。
あーはいはい今度はなんだ?夢って記憶の整理だよな。こんだけリアルに再現されてんなら出てくんのは多分見たことある動物だな。キツネかな?
出てきたのは見たこともない動物だった。小学生低学年レベルのサイズ。緑色の肌で二足歩行。手には棍棒。
ってかこれ
「ゴブリンじゃねーか!」
全然見たことないの出てきたわ!くっせ!
あっタヌキ逃げた!まぁ逃げるよなそりゃ....
てかこれ本当に夢だよね?超リアルなんですけども。
「ゲギャギャ!」
大声に反応したのかゴブリンはこちらに向かって走ってくる。5mほどの距離を詰めてくるゴブリンがやけにスローに見えた。呆然とそれを眺めているとゴブリンが棍棒を振り上げた。
「うおあああああああ!!」
咄嗟に地面に置いていたスパナを拾い上げゴブリンの頭を思いっきり殴りつける。
スパナはゴブリンの頭蓋骨を砕き、そのまま脳漿を弾けさせた。
「えっ」
下顎から上を失ったゴブリンがグラリと崩れ落ちる。
血が溢れ出し地面に染み込んでいた。
「うわぁ....グロ....」
どーなってんだよ色々と