そのうちお嫁さんになってくれそうな虹夏ちゃん 作:time passage
「もー、おじさん何時まで寝てるの?」
可愛らしい声が耳元で聞こえる。
俺がうっすらと目を開けると、声にたがわない可愛らしい女の子がいた。
「虹夏?」
「そーだよ、ほら、はやく起きてー。もう夕方だよ」
「あれ? 俺たちって同棲してたっけ」
「うりゃっ!」
「うぎゃっ」
布団越しにお腹にひじ鉄された。
こいつ、俺への扱いがときどき荒くなるんだよなぁ。
「いたた……冗談だって」
「もぉ。変な冗談言わないで。布団たたむからね」
「へーい」
もそもそと、布団からはい出した。
「コーヒー淹れてるから座ってて」
「おぅ」
いい匂いがする。
こぽこぽと、コーヒーを立てる音。
お揃いのマグカップに注いで、持ってきてくれた。
「机の準備しといてよー」
「まだ寝起きでぼんやりしててさ」
言われて、壁に立てかけていた折り畳み机を立てる。
「はい、こっちはおじさんのぶん」
「ありがと」
俺はブラック、虹夏はほんの少しだけ砂糖とミルクを入れるのが好きだ。
「昨日も遅くまでお仕事だったの?」
虹夏は、制服姿。
学校帰りに俺のアパートに立ち寄ってくれたらしい。
制服美少女が部屋に……良いねぇ。
「あぁ、まぁね」
「お仕事、頑張るのもいいけどさ、身体に気をつけなよー」
「お、おぉ」
「それに……」
猫っぽいジト目になる虹夏。
な、なんだよ。
「帰った後、お酒飲んでたでしょ。すぐに寝ないから、起きれないんだよ」
床に置いたっきりのハイボール缶を見とがめられていたか。
正論だ。
ぐうの音も出ない。
「………………」
と、まだ虹夏が俺を見つめている。
「どうかしたか?」
「あ、うぅん。その、無精ひげ伸びてるなぁって」
「そういうと、そうか」
自分の顎を触る。
ここ数日髭剃ってなかったなぁ。
「触ってみるか?」
「触らない」
つーんと断れた。
「ま、コーヒー飲んだら剃ってくるわ」
「うん。あたしその間にお掃除しとくね」
「サンキュー」
※
がーっと掃除機の音が聞こえる中、俺は洗面台で髭を剃る。
シフト制の夜勤の仕事で、そんなに人と会う業務でもないので、つい放置しがちだが、剃ってしまえばすっきりとするもんだ。
※
「お待たせ」
「おっ、えらいえらい、きれいに剃ったね」
背伸びした虹夏になでなでされた。
俺は子供か。
「これなら、昔みたく〝お兄ちゃん〟って呼んであげてもいいかな-」
「え、マジで!?」
「うわっ、すっごい食いついてきた」
虹夏が若干引いた表情になる。
「そ、そんなに呼んでほしいの?」
「めっちゃ呼んでほしい」
俺は高速でうなづく。
小学生の頃の虹夏は、俺のことをお兄ちゃんって呼んでいた。
あの頃の虹夏、本当に天使だったなぁ。
いや、今でも天使だけど。
むしろ大天使だけど。
「もぉ、しょうがないなぁ」
虹夏が、ちょっと照れたようなしぐさをする。
「一回だけだよ。……お、お兄ちゃん」
「ぐはぁっ!!」
あまりの破壊力に、血を吐きそうになる俺。
「ちょっ、反応大げさすぎ!」
「そ、そんなことはない! もっと。もっと呼んで!」
「えぇー、キモいからヤダ」
ぷいとそっぽを向かれた。
「なんでだよー」
「……だってさぁ、再会してからのお兄ちゃんってさ、本当におじさんみたいなんだもん」
うぐっ、心に刺さる。
「髭は剃らないし、昼過ぎとか夕方まで寝てるし、部屋は汚いし、いつもよれよれの部屋着だし」
「うぅぅぅ」
「…………おじさんって呼ばれるの、そんなにイヤ?」
「うん」
「はぁー、しょうがないなぁ」
虹夏がやれやれと肩をすくめる。
「それじゃ、ちゃんと髭剃ってたら、その時はお兄ちゃんって呼んであげる」
「やった-!」
結構ちょろい条件に俺、大喜びだ。
明日から毎日ちゃんと剃ろう。
「それはそうとさ、朝ご飯……っていうか、もう夕飯だけど、なにか食べる? 食べるなら作ろっか?」
「マジで? 食べる食べる」
「じゃ、食材は……あるわけないよね」
冷蔵庫を開けて、苦笑いする虹夏。
「しょうがないな、買いにいこっか」
「おぅ」
「ちゃんとした服着てね」
「わかってるよ」
女の子の基準でちゃんとした服ってのがどういう服かよくわからないが……まぁ、襟のあるシャツ着とくか。
と、ついその場で部屋着を脱いでしまったら。
「うぎゃぁぁ、お兄ちゃん、なにやってんの!」
虹夏が真っ赤になってる。
「あ、ごめん」
つい、こいつが小学生の時のような気分になってしまっていた。
「も、もぉ/// 向こうの部屋で着替えてよね」
「わかったよ」
押し出されるようにして、隣の部屋に移動させられる。
思春期ってやつかねぇ。
それなりに悩んでチョイスした薄いグリーンのカジュアルシャツを着て戻ると。
「け、けっこうカッコいいと思うよ///」
なんか、顔を赤くして褒めてくれたのだった。
続く
二人の関係とかも、少しづつ書いていきたいです。