【完結】俺を好きなやつの魔力を吸い取って奇跡を起こせる件。奴隷少女よ、だからといってそんなに俺にくっつくな   作:羽黒楓

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第1話 あかぎれで傷だらけ

 小林友樹。

 それが俺の名前である。

 今年で35歳になった、冴えないおっさんだ。

 その日も俺は夜勤明けのボーっとした頭でふらふらと帰途についており――。

 そして、信号無視のトラックに轢かれて死んだ。

 

     ★

 

 気がついたら、そこは不思議な空間だった。

 ぼんやりとした光に包まれた、なにもない空間。

 そして目の前には一人の女性。

 白い衣をまとったとんでもない美人だった。

 その美人が、立ったまま一心不乱に一本丸ごと焼いたトウモロコシをかじっていた。

 え、なんで焼きトウモロコシ?

 醤油の焦げたいい匂い、めっちゃうまそう。

 彼女は夢中でトウモロコシにかじりついていたが、俺に気づいたのか、ふと顔を上げた。

 

「あ、もうそんな時間? ちょっと待ってて、歯にとうもろこしがはさまって……」

 

 目を上に向けて、チッ、チッ、と口を鳴らす女性。

 しかしド派手な髪の毛だな、蛍光のドピンクだぜ。

 

「なんだよこれ。これが死後の世界? あなた、閻魔様?」

 

 俺が聞くと彼女は嬉しそうな顔をして言った。

 

「あ、とれた」

「いや、とれたじゃなくてさ。俺はこれからどうなるの? 天国? 地獄?」

 

「コバヤシ・トモキよ。あなたは勘違いしています。私は閻魔ではありません。私の名はテネス。生と死を管理する女神の一人です。

 実は、あなたはまだ死ぬべき運命ではありませんでした。

 私のミスで生きるべき命を絶ってしまいました。あ、まだ……。チッ、チッ、あーもう」

 

「え、あなたのミスで俺死んだの? なのにその俺の前で、歯に挟まったとうもろこしを爪で取り出してるの? どうかしちゃってる?」

 

「いや、好物なのよこれ。あ、とれたとれた。

 コホン。

 えー、なんだっけ。あ、そうそう、世界の理が乱れぬよう、私はもう一度、あなたに命を与えましょう。

 ただし、同じ世界で命を蘇らせるのは時間軸に矛盾が生じるので不可能です。

 ですから、今とはまったく違う別の世界で、新しい身体、新しい能力とともに、あなたは新たな人生を送るのです――」

 

 そして、まばゆい閃光が俺を覆った。

 

     ★

 

 俺がその世界に現れたとき。

 そこは、湖の真上だった。

 上空10メートルくらいだろうか。

 

「は?」

 

 という間もなく、俺の身体は重力にひっぱられて墜落し始める。

 湖がぐんぐんと近づいてきて――。

 

「は? は? は?」

 

 俺はわけもわからぬまま、湖の中へと激しい水音をたてながら落ちたのだった。

 湖はけっこう深かった。

 幸い、俺は泳げたので溺れることはなかった。

 服を着ていたのでちょっと難儀したが、なんとか岸まで泳ぎ着く。

 

「うー、なんだよこれ……あの女神、雑すぎるだろ……」

 

 そう呟きながら、なんとか岸を這い上がる。

 くそ、全身びしょ濡れじゃないか。

 でもよく見てみると、この身体、随分若々しいな。

 35歳の身体とは思えん。

 実際、あの女神も新しい身体、とか言っていたから、若返ったのかもしれない。

 とにかくいろんなことが一気に起きて、頭が混乱している。

 空を見上げると地球とは違う、少し青っぽい色の太陽がまぶしく俺を照らしていた。

 ほんとに異世界に来てしまったのか……。

 と、そこで、俺に声をかけてくる人物がいた。

 

「あのー、大丈夫ですか?」

 

 それは、あちこちがほつれている、古い服を着ている少女だった。

 ぱっと見だと、日本でいうところの中学生か高校生くらいの年齢だろうか。

 

「ああ、なんとかな……」

 

 俺が答えると、少女はほっとした表情を見せる。

 

「よかったですわ……。えーと、水浴び……ではなさそうですが……」

「気にしないでくれ……。寒い季節じゃなくてよかったよ」

「まだ9月ですもの。水浴びにはちょっと遅い気はいたしますが……」

「真冬だったら死んでたぜ……。くそ、あのトウモロコシ女神め……」

 

 俺がそう言うと、目の前の少女は「うそ!」と叫んで俺を凝視した。

 少女の視線が俺の頭の上からつま先までじっとりと這う。

 この子、大きくて綺麗な目をしているなあ。

 瞳は輝いていて、その色は深くて濃い海みたいな青だった。

 そして、彼女は「すーーーっ」と大きく息を吸い、「はーーーっ」と吐いてから、ゴクリと唾を飲み込み、震える声で俺に言った。

 

「あのあのあの! もしや、貴方様は……。あの、ご挨拶させていただいてよろしいでしょうか? 私はリエーニ王国十三貴族のひとつ、ライラネック家の令嬢、ココ・ライラネックと申しますわ」

 

 少女は俺の前でスカートをちょんとつまんで挨拶する。

 その貴族らしいふるまいと彼女が身に着けている衣服があまりに似つかわしくなくて、俺はなんと返事したらよいものかと口ごもった。

 だってさー。

 普通、こんなボロボロの服を着ている貴族なんて、いるわけないと思う。

 

 まあでも、ココと名乗った少女は、美しかった。

 さらりとした金髪、青い目、そして人間とは思えないほどの白く透き通った肌。

 だけど、着ているものはボロボロの雑巾みたいな生地、靴も穴が開いていて、スカートを持ち上げた手は水仕事のせいだろうか、あかぎれで傷だらけだった。

そしてその頭上には、何か文字のようなものが浮いて見えた。

●E

▲D

■E

✿SSSSS

★C

 

 なんだこれ?

 

 

 

 

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