【完結】俺を好きなやつの魔力を吸い取って奇跡を起こせる件。奴隷少女よ、だからといってそんなに俺にくっつくな 作:羽黒楓
王都には王城があり、周りを城壁で囲まれている。
巨大な王城はこの国で最も高さのある建築物であり、まるで王都を睥睨するかのように屹立していた。
だが、女王の普段のすまいはそこにはない。
王城のすぐそばに並んで立っている宮殿。
そこが女王が日常を過ごしている建物となっている。
宮殿は数百人の近衛兵たちが交代制で君主の住居を守っていた。
その宮殿の正門玄関。
五十人ほどの近衛兵が営所に詰めているそこに、一頭のドラゴンが降り立った。
勇者ガルアドであった。
このような来訪の仕方は、もちろん許されてなどいない。
ひらりと竜の背から飛び降りたガルアドは、帯剣したままであった。
帯剣して宮殿に空から降り立つとは。
法に照らしても重罪に値する行動であった。
「いったいなんだ?」
「勇者様だよな……? なにかあったか?」
「おいお前、聞いているか?」
「いやなにも報告は来ていないぞ」
ざわつく衛兵たち。
衛兵の中の小隊長がガルアドに話しかける。
「……? これは、勇者ガルアド様ですか? 真夜中ですぞ? こんな時間に、所定の手続きも踏まずにドラゴンで来られるとは。どうしたのですか?」
「ふふふ。女王陛下にちょいと用があるのでな」
「女王陛下の許可は出ておりませんぞ」
「出ているのだ。お前が知らぬだけでな」
だが、小隊長は引かない。
「私が知らないということは、そんな許可は出ていないということです。ここは王城の城壁の中。勇者ガルアド様といえど、法に触れる行いは慎んでいただきたい。明日にでも、正式に謁見の手続きを踏んでおいでください。今日はお引き取りを」
「ふん、なかなか教育の行き届いた衛兵ではないか。見上げたもんだな。だが――」
ガルアドは腰に下げた鞘から大剣を抜いた。
「なにを……?」
「どうしても、今女王陛下にお会いしたいのだ。邪魔するというならば――殺す」
小隊長は胸にぶら下げていた笛を口にくわえ、そのままさらに言う。
「お引き取りを。そうでなければあなたを捕縛します」
「できるかな? 衛兵ごときが、この勇者ガルアドを、捕縛など!」
ガルアドが大剣を振りかぶったそのとき、小隊長が鳴らしたホイッスルの音が宮殿に鳴り響いた。
★
「んっ、あ、あああ!」
女王、リリアーナが鏡の中の自分を眺めながら、自らの指で絶頂を迎えた瞬間、緊急事態を告げる笛の甲高い音が遠くで聞こえた。
リリアーナは濡れた指をペロリと舐めると、
「来ましたね……本命が」
と言った。
「少しは余韻にひたらせてほしかったのですが……。今日のオナニーは人生最高でした」
などと独り言を言いながら、壁に飾られている絵本をちらりと見た。
女神テネスが雲にのるなど、聞いたこともない。
手作りの絵本。
それを持っているのは、この世で二人だけなはずだった。
シーネ村に預けられた女の子――。
その子は、もしかして、本当に――幼いころ家を追い出されたという、『あの人』の血縁なのかもしれなかった。
だが、リリアーナにとっては、自分のことではなかったので、それ以上考えるのをやめた。
今重要なのはそれではない。
クローゼットに行き、一枚の服をとってそれを身にまとう。
コバルトブルーのワンピース。
そこにはいろとりどりの魔石が縫い込まれている。
「……ガルアドの襲撃でしょうね。そろそろ、来ると思っていました」
リリアーナはクローゼットの奥に隠していた、魔法石が飾られた長い杖を手に取った。
勇者ガルアドは、人間を殺すほどその戦闘力を増す。
奴隷に限らず、人間ならば誰でも良いのだ。
社会の中での摩擦を避けるために、殺してもとがめられない奴隷を殺しているだけなのだ。
目的は女王である自分、リリアーナだろう。
――衛兵を殺してその力を増しながら、私を殺しに来るのだ。
犠牲者を増やさぬようにするため、リリアーナは自らその姿をガルアドの前に見せる決意をしていた。
しかしその前に、この事態を救世主と一緒にいるメールエに知らせなければならない。