この素晴らしい世界に諸刃の剣を!   作:shch

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2.クーリングオフ

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はい…あのほんとに多方面にお金借りてて…ほぼ返せてません…」

 

観念したベネクトが俺にそう説明を始めた。

 

「それじゃあ、ギルドに入っていきなり大勢に取り囲まれたのは…」

 

「はい、皆借金返済の催促をしに来ただけです」

 

………人気者な訳じゃなくてただの金を返さないクズだった。

 

出会った時から右肩下がりにコイツへの印象がダダ下がりしていく。

 

見た目と話した感じはムカつくくらい良い奴っぽいのに…それに今でも素直ではあるし……なんだコイツの真面目系クズという新しいジャンルは…??

 

そんなことを考え、目の前のベネクトに再び目を移す。

 

「…あ、あの!」

 

「なんだ借金魔法剣士?」

 

もうコイツに遠慮することはないだろう。

 

金を貸す側と借りる側、立場はこっちの方が上だ。

 

ベネクトは恐る恐る口を開く。

 

「うぐっ…借金魔法剣士って……あ、あのそれで…お金は貸していただけるのでしょうか?」

 

「うーん…どうしよっかなあ??そんなだらしのないヤツに金を貸すってのもなあ」

 

もったいぶったような口調で俺はそう言った。

 

「そ、そこをなんとか!王都に行けば5000万エリス貰えるから!すぐお金返しますから!」

 

ああ忘れてた、確かにそうだな、コイツもうお金持ちになるんじゃん。

 

まあそれなら別に貸しても大丈夫か?

 

「……わかった、じゃあ貸すよ」

 

「ほんとか!?俺が言うのもなんだけどあんな話聞いた後なのに??」

 

「まあな…その代わり俺含めて皆にすぐに借金を返すんだぞ?それからシュワシュワも奢ること!……それでいいよな皆!?」

 

俺はベネクトに金を貸している周囲の冒険者たちにそう声をかけた。

 

「まあ酒奢ってくれるなら…」「楽しみにしてるぜ!ベネクト!!」「宴だあ!!!」

 

口々にそんな声が辺りに飛び交う。

 

「あ、ありがとうカズマ!お金はすぐに返すし、シュワシュワでもなんでも全員に奢らせてもらうよ」

 

俺はそんなベネクトの言葉を確認すると、懐から財布を取り出し、ベネクトに差し出す。

 

「あ…でもその前に…」

 

ベネクトが俺の財布に手を伸ばしたその時、俺は声を上げて財布をひっこめる。

 

「なんだよカズマ?いまさら貸さないとか無しだからな?」

 

カスベネクトがカスみたいなことを言ったような気もするが、それに構わず俺は口を開く。

 

「…貸すのは貸すけど一つだけ条件があるんだ」

 

「なんだよ?お金貸してくれるなら、俺はそこそこなんでも聞くぞ?」

 

ベネクトはきょとんとした表情でそう言って首を傾げる。

 

そんなベネクトに向け、俺は条件を言う。

 

「条件ってのは………俺の…『緊急!緊急!』

 

だが、俺が条件をベネクトに言おうとしたその時、俺の言葉を遮るようにギルド内に緊迫したアナウンスが響いた。

 

『全冒険者は装備を整え、正門前に集合してください!!』

 

そんなアナウンスが終わると、なにごとだとギルド内がざわつき始める。

 

「…カズマ、どうやらこの話は後みたいだな」

 

目の前のベネクトが急に真面目な顔でそう言った。

 

「だな、とりあえず正門前に行ってみるか」

 

俺はそんなベネクトにそう返すと、アクアやめぐみん、ダクネスにも声をかけて、他の冒険者たちと一緒に正門前へと足を進めた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「毎日毎日毎日毎日!!…お、俺の城に毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでくる……あ、頭のおかしい大バカは誰だぁー!!!!!!!!」

 

 

正門前に集まった俺たちの前に現れたのは、黒く禍々しいオーラを纏った首なしのモンスターだった。

 

ダクネス曰くそのモンスターは『デュラハン』というらしく、なんと魔王軍の幹部らしい…確かに見た目は滅茶苦茶強そうだ、それに相当お怒りの様子だ。

 

……って…今、爆裂魔法って言ったか?…しかも城って…

 

俺はチラリと隣に立っているめぐみんに視線を送る。

 

「……」ダラ

 

めぐみんは無言で冷や汗を流していた。

 

……まぁ…あの魔王軍の幹部を怒らせた張本人だもんな、俺も関与してるんだけど…

 

最近はあの『デュラハン』ってやつがこの辺りに住み着いたせいで弱いモンスターがどこかに行ってしまってクエストが少なかったんだ、だから暇つぶしに俺とめぐみんで『爆裂散歩』と称して近くの廃城に爆裂魔法を撃ち込みに行っていたのだが…まさかあれが魔王軍の幹部の城だったとは…

 

「爆裂魔法?」「爆裂魔法って言ったら…」「この街で爆裂魔法を使えるのは…」

 

周囲の冒険者たちも誰の仕業か薄々気が付いているようだ。

 

「……はあ」

 

冒険者たちの声を聞いためぐみんは小さくため息をつくと、観念したかのように、その場から歩き始めた。

 

「おい…めぐみん?」

 

「……」

 

魔王軍の幹部の方に歩き始めるめぐみんに俺は声をかけるが、めぐみんは何も言わずに歩き続ける。

 

そしてやがて、めぐみんはデュラハンの目の前までたどり着いた。

 

デュラハンは目の前に現れためぐみんに向けて口を開く。

 

「……お、お前が毎日毎日俺の城にバカみたいに爆裂魔法を撃ち込んでくる大バカ者か!?俺が魔王軍の幹部だと知って喧嘩を売っているのなら堂々と城に攻め込んで来い!!その気がないなら街で震えているがいい!!……ねえどうして?どうしてそんな陰湿なことするの?こちとら毎日毎日毎日ポンポンポンポン!!ノイローゼになるわァ!!!」

 

溜まりに溜まっていた鬱憤をぶちまけるようにそう言ったデュラハン、それに対してめぐみんは……

 

「……ッ!……我が名はめぐみん!!アークウィザードにして爆裂魔法を操る者!」

 

といつもの自己紹介をぶっこんだ。

 

それに対してデュラハンは言う。

 

「…『めぐみん』ってなんだ?バカにしているのか?」

 

「ち、違わい!」

 

…めぐみんのヤツ大丈夫か…??

 

俺がめぐみんと魔王軍の幹部とのやり取りを見て冷や汗を流していると、隣に立っていたベネクトが話しかけてきた。

 

「おいカズマ、あの子お前の仲間なんだろ?大丈夫なのか?」

 

「……わからん」

 

だが俺はそう答えるしかなかった、今はめぐみんを見守ることしかできない。

 

俺たちがそんなやり取りをしていると、めぐみんが再びデュラハンに向けて口を開く。

 

「我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、こうして魔王軍の幹部の貴方をおびき出す作戦……そしてまんまとこの街に一人で出てきたのが運の尽きです」

 

「…へえ、全部作戦どおりってか…すごいじゃないかカズマのとこの魔法使い」

 

めぐみんのでたらめに感嘆の声を漏らすベネクト。

 

んなわけないだろうが、なんでお前が騙されてんだ。

 

俺はバカなベネクトを横目で見ながら、再びめぐみんの方に視線を向ける。

 

「フンッ…まあいい…」

 

デュラハンが喋り出した。

 

「俺はお前ら雑魚にちょっかいをかけにここに来たわけでは無い…おい小娘、俺はしばらくあの城に滞在するが、もう爆裂魔法を撃つんじゃないぞ…いいな??」

 

「無理です」

 

即答でそう答えるめぐみん、やっぱバカだアイツ、大人しく従って帰ってもらえばいいものの…

 

「……ほう?…どうあっても爆裂魔法を撃つのをやめる気はないのか?」

 

そんなデュラハンの問いに対して、めぐみんはコクリと無言で頷く。

 

「…そうか、俺は魔に身を落とした身ではあるが元は騎士だ…弱者を刈り取る趣味は無いのだがな…」

 

そんな脅し文句に対して、めぐみんはうろたえることなく、高らかに声を上げる。

 

「余裕ぶってるのも今の内です!……先生!!お願いします!!」

 

そう言って、めぐみんが指さしたのは…

 

「…ふふ…しょうがないわね」

 

「はあ!?」

 

俺の横に立っていたアクアを指さしていた、そして先生と指名されて満更でもない様子のアクアに俺は驚く。

 

いやでも確かにコイツは一応女神だからアンデットのデュラハンには強いのか??でも相手は魔王軍の幹部だぞ??

 

俺がそんなことを考えているのも束の間、アクアはもうすでにデュラハンめがけて走り出してしまっていた。

 

「この私がいるときにこの街に来るとは運が悪かったわね!!あんたのせいでまともなクエストが請けられないのよ!さあ覚悟はいいかしら!!」

 

そう言いながら杖を振り回し、デュラハンの目の前に立ちはだかったアクア。

 

「お、おいカズマ!あの自称女神様、大丈夫なのかよ??」

 

隣のベネクトが焦った様子でそう言う、一応自分の傷を治してもらった相手だから心配しているのだろう。

 

大丈夫なのかは知らないが…

 

「たわけ!この街の駆け出しのアークプリーストごときに浄化される俺ではないぞ!」

 

「はあ!?アンタみたいなアンデット女神たる私に掛かればちょちょいのちょいなんですけど!…なんなら宴会芸の花鳥風月だけでも倒せちゃうんですけど??プークスクス!」

 

アクアはそう言うと、デュラハンを煽るように取り出した扇子から水を出すいつもの宴会芸を披露する。

 

アイツはなにやってんだこんな時に…

 

「お!おい!水はやめろ!!……ふ、ふむ…そうだな…どうやらお前たちは俺のことを舐め腐ってるようだな……ここはひとつ…紅魔の娘を苦しませてやろうか」

 

デュラハンがそう言うと、その右腕が黒く染まり始めた。

 

「私の祈りで浄化してやるわ!」

 

そう言って杖を構えるアクア。

 

だが…

 

「間に合わんよ」

 

デュラハンの攻撃態勢はもう整ってしまったようだ、デュラハンはゆっくりとそのオーラを纏った右腕をめぐみんの方に向け、詠唱のようなものを唱える。

 

ダッ…!!

 

その時、俺の隣で地面を蹴りつけるような音が聞こえた。

 

 

 

 

「『汝に死の宣告…「待て!!」

 

ギィィン!!!

 

「何!?」

 

だが、デュラハンが詠唱をとなえ終わるその直前、衝突音と共にデュラハンの体が大きく揺れ、詠唱が中断される。

 

…なんだ?何が起こった?何かがデュラハンに突っ込んだように見えたが速すぎて見えなかった。

 

俺は再びデュラハンの方に目を向ける。

 

そこには…

 

「危な…お前今なんかヤバい呪いこの子に掛けようとしてただろ!?」

 

「な!?」

 

さっきまで横にいたハズのベネクトが2本の剣を抜いた状態でデュラハンの目の前に立っていた。

 

そしてさらに良く見れば、めぐみんを守るようにダクネスがめぐみんの前に立っているのも見える。

 

「お、おいなにやってんだお前ら!?」

 

俺は思わず、そう言いながら前線に駆け寄った。

 

俺、ダクネス、めぐみん、アクアそしてベネクトの5人がデュラハンの目の前に集まったその時、デュラハンが再び口を開く。

 

「…おい、そこの二刀流の男、中々良いスピードをしているな…名は何という?…」

 

「……いや…知らない人に名前教えちゃいけないって言われてるんで…」

 

デュラハンに名前を聞かれたベネクトは冷たくそう返した。

 

…わかる、魔王軍の幹部になんて名前教えたくないよな…もしかしたら俺とベネクトの思考は思ったよりも似ているのかもしれない。

 

その時、おもむろにダクネスが口を開いた。

 

「お、おいベネクト!余計なことをするんじゃない!せっかく魔王軍の幹部の攻撃をこの身に受けられそうだったのに!」

 

「はあ!?せっかくカズマの仲間だって言うから助けてやったのにその言いぐさはないだろ!」

 

バカなことを言い出したダクネスにベネクトは呆れたような顔でそう返す。

 

ベネクト…ウチのバカがすまん。

 

「…まあでもとにかく今はコイツ(デュラハン)を何とかしないとな」

 

ダクネスと言い合っていたベネクトはそう言うと、デュラハンに目を向ける。

 

「お、おいベネクト!大丈夫なのか??」

 

「カズマ…俺を舐めてもらっちゃ困る、俺はドラゴンスレイヤーのベネクトさんだぞ?」

 

ベネクトは俺のそう言うと、俺たちから一歩前に出て、妙に禍々しいデザインの2本の剣を構えてデュラハンと向かい合う。

 

「…駆け出しの街の剣士にしては良い構えだ」

 

デュラハンはそう言うと、ベネクトに応えるように自分も背負っていたその大きな大剣を抜いて、構えを取った。

 

「…………」

 

「…………」

 

沈黙が両者の間に流れる…これが達人の間合いというやつなのだろうか…

 

ゴクリ…と俺は喉を鳴らして、それを見守る。

 

…先に動いたのはベネクトだった。

 

属性付与(エンチャント)……『サンダカ』…」

 

ベネクトがそう呟き、2本の剣が禍々しくもキラリと光る。

 

剣身にはバチバチと眩く輝く稲妻が纏う。

 

って、何あれかっけえ!後で教えてもらおう。

 

「こい…名もなき魔法剣士よ!」

 

デュラハンがそう声を上げた、その時…

 

「『雷光斬』!!」

 

ベネクトはそう叫び。

 

ダッ…と勢い良く、地面を蹴りつけた。

 

 

…が

 

 

 

 

 

ツルッ…

 

 

 

「…わわっ…!!」

 

 

 

ベネクトが……足を滑らせた。

 

 

ズザザザザッッ……!!!!

 

 

物凄い勢いで顔面から地面にヘッドスライディングをかますベネクト。

 

 

「…………」

 

 

そして、ベネクトは地面に顔を突っ込んだまま沈黙した。

 

 

……

 

 

何とも言えない無の時間が周囲に流れた。

 

 

「…………え、えーと…」

 

 

 

剣を構えていたデュラハンが気まずそうな声を上げる。

 

 

「……あ!あそこ私がさっき花鳥風月で出した水で水溜りができちゃってる…そのせいで滑りやすくなってたのね!全くベネクトったらドジなんだから…」

 

 

やれやれと言った感じで肩をすくめるアクア。

 

 

…いや、お前のせいだぞ駄女神?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい速く立てべネクト!!」

 

「……」

 

俺はヘッドスライディングしたまま立ち上がりそうに無いべネクトにそう声をかけるが、べネクトは立ち上がる素振りを見せない。

 

「おい!結構カッコつけてた場面でこけちゃって恥ずかしいのはわかるけど…早く立て!ちょっとこけただけだろ!?」

 

「いや、ベネクトはもう立てない」

 

俺の声にそう答えたのはダクネスだった。

 

ベネクトが立てない?なんでだ?だってコイツは上級職の魔法剣士でドラゴンも倒せるはずの実力者だったはずじゃ…

 

「カズマ…ベネクトはな…「『汝に死の宣告を』」

 

ダクネスが俺に説明を始めようとしたその瞬間、デュラハンが詠唱を唱え、黒く禍々しいオーラがベネクト目掛けて撃ち出されてしまった。

 

「「あ」」

 

俺たちの間抜けな声が響く。

 

そして、その黒いオーラはゆっくりとだが確実にベネクト一直線に飛んでいき…

 

「…ぐへッ」

 

結局、その呪いは倒れているべネクトに命中してしまった。

 

禍々しい骸骨柄のオーラがベネクトを包む。

 

「ハハハ!!これでそのドジっ子魔法剣士のその男の命はあと一週間だ!」

 

「何だと!?」

 

なんて呪いを掛けやがったんだこの野郎!!

 

「ベネクト!!」

 

俺はそう叫びながらベネクトに駆け寄った。

 

そして、うつ伏せで倒れているベネクトをひっくり返してその肩を抱えて声をかける。

 

「おい!ベネクト!しっかりしろ!」

 

「……うへえ…」

 

仰向けにしたベネクトは間抜けな声を出しながら意識を失っていた。

 

某ポケットなんちゃらのアニメで戦闘不能になった時みたいに目をぐるぐるさせている。

 

「おい!紅魔の娘よ!貴様を助けに来たその魔法剣士は一週間後に死ぬ!仲間同士の結束が固い貴様ら冒険者にはこたえるだろう!」

 

「ぐっ…」

 

デュラハンのその言葉にめぐみんの表情が曇る。

 

 

 

 

「その魔法剣士はお前を助けようとしたばかりに一週間死の恐怖におびえて苦しむことになるのだ……正真正銘、貴様のせいでな」

 

「呪いを解いて欲しくば、俺の城に爆裂魔法を撃つのはやめて正々堂々と城に来るがいい!そこで配下のアンデット達を蹴散らし俺の元に来られたら解いてやろう!!」

 

 

 

デュラハンがそんな言葉をめぐみんに残すと、踵を返して、高笑いしながらこの場を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「…………うへら…」

 

デュラハンはアクセルの街から去っていき、俺たちの元には目をぐるぐると回しているベネクトだけが残っていた。

 

タッ……

 

その時、おもむろにめぐみんが歩き始めた。

 

「お、おい、どこ行くんだよめぐみん!」

 

俺がめぐみんの背中にそう言うと、めぐみんは足を止めて、口を開く。

 

「……今回は私の責任です、ちょっと城まで行ってそのベネクトって人の呪いを解かせてきます」

 

……多分、自分の爆裂魔法のせいでこんなことになった責任を感じているのだろう…でも、それなら…

 

「待てよめぐみん!俺も行くよ」

 

そう言って俺は立ち上がる。

 

「お前ひとりじゃ雑魚に一発撃って終わりだろ?…そもそも俺も毎回一緒に爆裂魔法撃ちに行ってたのに幹部の城だって気が付かなかったマヌケだしな」

 

俺はそう言ってめぐみんに笑いかけた。

 

…正直、魔王軍の幹部の城に行くのは滅茶苦茶怖いが…このめぐみんを放ってはおけないだろう。

 

俺がそんなことを考えていると…

 

「私も行こう…仲間が戦いに行くのだ、ここで着いて行かなければクルセイダーの名折れだろう」

 

「ダクネス…」

 

ダクネスもそう言って俺たちの隣に並び立った。

 

「めぐみん!皆で力を合わせりゃきっと大丈夫さ!ベネクトの呪い…絶対解いてやろうぜ!」

 

「カズマ…そうですね!やってやりましょう!」

 

さっきまで曇っていためぐみんの表情がやっと晴れた。

 

……なんか今すごい良い感じの雰囲気じゃないか?

 

ベネクトの危機に一致団結って感じで…この調子なら魔王軍の幹部にだって…

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!!!」

 

アクアが急にそう叫び、謎の光がベネクトを包む。

 

「「…え?」」

 

「この私に掛かればデュラハンの呪いの解除なんて楽勝よ!」

 

「「「……」」」

 

一致団結していた俺たちの間に流れる何とも言えない空気。

 

「どおどお?私もたまにはプリーストっぽいことするでしょ?」

 

そう言いながら笑ってピースサインを掲げるアクア…

 

いや確かに呪いを解いてくれたのは良いことなんだけど…空気ってものが読めないのかこの駄女神は。

 

「「…」」

 

俺たちの間の変な空気はしばらく払拭されなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ほへえ…」

 

「なあアクア、ほんとにベネクトの呪いはもう解いたんだよな??」

 

「ええ!ばっちりよ!」

 

自信満々にそう言ってグッドポーズをするアクア。

 

…コイツは駄女神だが、プリーストとしての腕は確かだ…そんなアクアが言うなら呪いは解除できているのだろう…でも…

 

「なんでコイツは気を失ったままなんだ?」

 

俺はそう言いながら地面に転がって目をぐるぐるさせているベネクトに目を向ける。

 

気を失ってたのは呪いを受けたからじゃないのか?

 

「…ん?…なんかベネクトの体、よく見てみると…滅茶苦茶いっぱい傷が付いてないか?頭から結構な量の血が出てるし…」

 

……あれ?…でもコイツ…デュラハンからは呪いを受けただけで、攻撃なんかは受けてないよな?なんでこんなに重傷なんだ?

 

俺がそんなことを考えていると、ダクネスが口を開く。

 

「…当たり前だろカズマ、ベネクトは結構な勢いで転んでたじゃないか」

 

「…いやそうだけど…転んだだけでこんな怪我するか?耐久値の低い俺でもこうはならないぞ」

 

俺がダクネスにそう言うと、ダクネスはハッとしたような表情をしてから、再び俺に口を開く。

 

「…そうか、カズマはベネクトのことを知らないんだったな」

 

…ダクネスが真剣な表情で語り始める。

 

「カズマ…ベネクトの剣を見てみろ」

 

ダクネスにそう言われ、ベネクトが転んだ拍子に少し離れた所に飛ばされていた2本のベネクトの剣に目をやった。

 

「…なにか思わないか?」

 

…ダクネスにそう聞かれたため、率直に思っていたことを口に出す。

 

「…まあベネクトに会った時から、アイツの雰囲気にしてはやけに禍々しくて、厳ついデザインの剣だなあとは思ってたよ…なんか骸骨の装飾とかついてるし」

 

…正直、中学生が着ている服みたいでダサいなとも思っていた…本人には言わないけど。

 

俺の言葉にダクネスはうんうんと頷くと、俺にとって衝撃の言葉を告げた。

 

「カズマ…実はベネクトのその剣…両方とも呪われてるんだ」

 

「…ええ!?呪われてる!?」

 

「…ああ…そして右手に装備しているのは『硝子の剣』…装備者の耐久に関するステータスを全て0にするという呪いがかかってある…だからベネクトはただ転んだだけでも大ダメージを受けてしまうんだ」

 

「…!!」

 

……俺はダクネスの説明に驚いたが…妙に納得がいっていた。

 

なぜベネクトがソロの時に『一撃でも攻撃を受けたら転送される』なんて使いにくい魔道具を持ち歩いているのか…そして馬小屋にいた時も一撃しか喰らってないハズなのに大怪我だったのか…

 

確かに呪いのせいで耐久が0になっていたのなら頷ける。

 

…と俺が考えていたその時。

 

「『ヒール』!!『ヒール』!!『ヒール』!!」

 

アクアのヒールをかける声が俺の耳に届く。

 

「カズマー!!ベネクト起きたわよ!!」

 

……今日のコイツは中々使える女神だな…

 

俺はそんなことを考えながらベネクトの元に駆け寄った。

 

「…あれ…か、カズマか?…デュラハンは…どうなったんだ?」

 

「おはようベネクト…まあなんやかんやで今日は帰って行ったよ、心配するな怪我人はお前以外0だ」

 

俺は目を覚ましたベネクトにそう言った。

 

「…よかった…はは…治してくれたのはアクア様か?またお礼言わないとな…」

 

そう言ってにこやかに笑うベネクト…でもさっきの呪いの話を聞いた後だと、俺にはその笑顔の後ろに僅かな陰りが見えるような気がした。

 

そんなベネクトの顔を見て、俺は口を開く。

 

「聞いたよ…ベネクトの剣の呪いの話…色々納得がいったよ」

 

「…はあ…聞いちゃったか……でもまあそういうことだ…呪いの装備は一度装備してしまうと外せない………そして…」

 

 

 

 

 

 

「呪われてる俺をパーティーに入れたがるヤツなんかいない」

 

ベネクトは寂し気な表情でそう語った。

 

そうか…だから…コイツはずっとソロだったのか…

 

よし…決めた…

 

俺はベネクトの話を聞いて、一つ決心をすると、改めて口を開く。

 

「なあベネクト…緊急のアナウンスが流れる前…俺が何かを言いかけたこと覚えてるか?」

 

「…あああれだろ?金を貸す条件みたいなヤツ」

 

「そうそれだ…ベネクト…その条件なんだが、今言ってもいいか?」

 

「いや、いいけど…そんなに畏まって言うことなのか?」

 

……少し困惑したような表情のベネクト。

 

 

「ベネクト…」

 

 

 

だが俺はそれに構わずに口を開く。

 

 

 

「俺たちのパーティーに入ってくれ」

 

 

「は?」

 

俺の条件を聞いたベネクトはポカンとした表情で間抜けな声を上げる。

 

「お、おい!俺の呪いの話は聞いてんだろ?なんで…」

 

「はあ…呪われてるから何だってんだよベネクト?ウチのパーティーには最弱職の俺、どこまで行っても駄女神のアクア、ドMで攻撃の当たらないダクネス、一日一発の爆裂魔法しか撃てないめぐみん…こんな錚々たるメンツが並んでるんだ、今更ちょっと呪われてるヤツが入ったくらいで変わらんねえよ、むしろ攻撃が当たる前衛が欲しかったんだ」

 

俺はあっけにとられた顔をしているベネクトに向けてさらに言葉を続ける。

 

「大丈夫さ、ウチのパーティーには一応女神のアクアがいるから、お前が一撃で倒れてもすぐに回復できるしな!」

 

「…本当に良いのか?」

 

「ああ、皆も!別にいいよなー!?」

 

俺はまだ不安そうな表情をしているベネクトのために、後ろにいるアクアたちに声をかける。

 

「ベネクトって上級職なんでしょ??それなら私は大歓迎よ!」

 

「私も、カズマがそう言うなら従おう…ああ…ベネクトが入るならより刺激の強い毎日が送れるだろうしな」

 

「まあ私も…色々思うところはありますが、さっきは助けていただきましたから、不満はありませんよ」

 

アクアたちの賛同の声…よかった、ここで嫌とか言われたら、俺ダサすぎるからな。

 

「…だってさ、だからほら俺たちと行こうぜ」

 

俺はそう言うとベネクトに右手を突き出す。

 

「…ふっ…まあ…そこまで言われちゃ…引き受けるしかないよな」

 

ベネクトはそう言うと、突き出された俺の右手をがっちりと握った。

 

そして口を開く。

 

 

 

「まあ金を貸してもらわないといけないしな!」

 

「…だな!この借金魔法剣士め!」

 

 

俺がそう言うと、ベネクトは笑った。

 

 

 

 

その笑顔は一点の陰りもない満点の笑顔だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

…ちょっとイケメンなのはムカつくけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喝采……

 

魔王軍の幹部を追い返し、さらにはベネクトという新戦力を仲間にした俺たちの元に喝采を上げた他の冒険者たちが駆け寄ってくる。

 

そんな中、俺はベネクトを仲間にしたことを内心で滅茶苦茶喜んでいた。

 

……ベネクトは確かに呪われてるのかもしれないが、それでもあのスピードと攻撃力は本物だ、ドラゴンを討伐したという実績が物語っている、それに問題の耐久に関しても、ウチにはアクアがいるから多分大丈夫だ。

 

…借金癖に関しては…まあ5000万エリスがあるし、何とかなるだろう。

 

まあとどのつまりだ…俺は…このポンコツパーティーにやっと超有能な人材を加入させることに成功したのだ!!

 

俺たちの主な攻撃手段がめぐみんの爆裂魔法だっただけに、これでクエスト攻略の幅が大きく広がるだろう。

 

そんなことを考えていた俺にベネクトがまた声をかけてきた。

 

「…ありがとうな、カズマ…こんな俺を仲間にしてくれるなんて…今までそんな酔狂なヤツはいなかった」

 

「ハハッ…それはこれまでの奴らの見る目がなかっただけさ、俺は最初から気付いてたぜ、お前の有能さに(イケボ)」

 

…この街の奴らも勿体ないぜ、パーティーにプリーストさえいれば、ベネクトの一級品の攻撃力を使えるのにな。

 

俺がそう考えているとベネクトが満点の笑顔で俺に話す。

 

「そこまで俺を評価してくれてたのか……じゃあ改めてよろしくなカズマ!」

 

「おう!!」

 

これで俺の理想の胸躍る異世界生活にまた一歩近づい…

 

「…じゃあこれから俺と一緒に頑張ろうな借金生活!!」

 

ニコニコ笑顔のべネクトが急にそんなことを口走った。

 

「…え?」

 

あれ?聞き間違えか?借金生活?

 

「いやいや何言ってんだベネクト…お前には5000万エリスがあるじゃないか??…それにお前の個人的な借金とパーティーの金事情は全く関係ないからな!」

 

俺がそう言うと、ベネクトがきょとんとした顔で口を開く。

 

「…ん?カズマは俺の呪いのこと聞いたんだろ?じゃあきっとあの5000万エリスの懸賞金も変な理由でどっかに消えるし、俺の所属するパーティーの金もなんやかんやで無くなるに決まってるじゃないか??」

 

「は?」

 

は、え?意味が分からん、コイツの呪いは『耐久に関するステータスが0になる』じゃなかったのか??

 

何でそれがパーティーの金がなくなる話になるんだ??

 

…あ。

 

『カズマ…実はベネクトのその剣…()()とも呪われてるんだ』

 

その時、不意に俺の脳内に先ほどのダクネスの発言がリフレインした。

 

…まさか…呪いって……

 

その時、俺の右肩に何者かの手がガシッと置かれる。

 

ギギギとゆっくり首を回すと、そこにいたのは今朝「ベネクトに借金したら中々返ってこない」と俺に教えてくれたおっちゃんがいた。

 

そしてそのおっちゃんが口を開く。

 

「流石だな兄ちゃん!!ベネクトの左手の剣『銭喰いの剣』装備者または装備者の周辺の人物の金運をゼロにするって呪いがあると知ったうえでベネクトを仲間にするとはな!!」

 

…え?

 

「流石カズマだせ!」「よかったなベネクトー!!」「俺もうれしいぜベネクト!!」

 

そんな声が周囲に響く。

 

「……」

 

ああーなるほどねー…その借金癖って呪いのせいだったんだー…しかもパーティーに影響するくらいの……だから強い筈のベネディクトくんを誰も誘わなかったんだあー…へぇー…ふーん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あの、すいません、返品いいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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