東方二次創作劇場 「巫女とバク」 - 東方紺珠伝 より -   作:俄かさん。

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夢の奈落で霊夢が過去の影と向き合い、仲間の絆に導かれ光を掴む。涙と希望が織りなす、心の詩。


東方二次創作劇場 「巫女とバク」 (後編)

たとえ見えなくても。たとえ聞こえなくても。

感じることはできる。

 

二人が闘っている。誰のために。それは自分のために。

「相変わらずバカね」、と霊夢は悪態をつきつつも目尻の涙を拭う。

 

ここは夢の世界の最深部、「奈落の底」。

未だ忘我の沼に嵌まりつつも霊夢はそれでもしっかりと「過去の自分」との和解を進めていた。

 

「さあ、行こう。あいつらだけじゃ無理よ。行かなくちゃ」

「そう、なら、わたしを受け入れてよっ」

「ええ、もちろん。あなたはわたし。わたしはあなたよ。もう迷わないわ。わたしはあなたのすべてを受け入れる」

「……ありがとう。もう、見捨てないで。わたしを否定しないでね?」

「ええ。もうそんなことしないよ。だからひとつになろう」

「……うんっ」

 

そう優しげに過去の自分に手を差し伸べ、手を繋ごうとする。

裸一貫の娘も嬉しそうにそれに応じるように手を差し伸べゆく。

だが。

 

 ば っ く ん っ 。

 

二人の手が繋がろうと瞬間、沼より出でた闇の咢(あぎと)に過去の自分は丸呑みにされてしまう。

それはあまりに突然の出来事だった。

呆然とする霊夢の目の前に、「それ」は現れた。

 

(……っ、こんなところで!)

 

咄嗟に幣を呼び寄せ、霊夢は身構え、それを見据える。

この忘我の沼の主であり、越えるべき壁である「巨大な九尾の狐」を。

 

 

「くっそ、もう手札がねえぞ」

「わたしもです。……万事休す、ですか。でも、だけど」

「無理すんなよ、早苗。おまえはもう十分すぎるくらい闘ってんよ」

 

あまりにも激しい弾幕合戦の果てに、とうとう手札を使い果たす魔理沙と早苗。

二人そろって仲良く満身創痍。それでもこの強敵三人を前に、よくやったというべきか。

だがそれでも。

 

弾切れになった頃合いで世紀末トリオが二人を取り囲む。

 

「さあ、そろそろお祈りの時間かしらね?」

「おまえらどんな命乞いすんだ?聞かせてくれよ?」

 

未だウサミミ娘をキープしてスリスリしてる月の仙霊はさておいて、地獄の女神と道化はここぞとばかりに嗜虐の笑みをありありと浮かべる。

 

(これで詰みか。いや、まだ諦めねえ、なあ、そうだろ、霊夢?)

 

自分よりも被ダメの大きい早苗を庇うように立ちつつ、魔理沙は最後の得物である箒を振りかざすのだった。

 

 

「返せっ、わたしを返せっ!!!!」

 

黒一色の世界で過去の自分を取り戻すための孤独な闘いがいつ果てることなく続いていた。

霊夢の叫びも虚しく、この九尾の狐、ただただ硬く、得意の「夢想封印」すらあっさりと弾かれる。

派生形の「夢想封印・瞬」も全く通用しなかった。

 

(どうする、……どうすればいい?)

 

霊夢の焦燥を反映したかのように、沼そのものを取り込んで「それ」はますます増長し、巨大化していく。

 

「どうした、その程度か。所詮おまえは拾い子。だがそれでも容赦はせんぞ」

 

金色の九重の尾をなびかせながら、九尾の狐は冷酷な眼差しを投げかける。

その声には覚えがあった。絶対に忘れもしない、あの「九尾の式」の声とまるで同じ。

そして霊夢は悟る。この九尾の狐の背後にいる、真の黒幕の気配を。

その気配を感じ取るなり、ぎりっと霊夢は強く歯ぎしりをする。

 

「おまえは正統な血筋ではない。故におまえなど先代巫女に到底及ぶものか」

「は、なに言ってるの?ふざけないでっ!」

 

九尾の狐の挑発に怯みもせずに霊夢ははんっと啖呵を切る。

ここで手札は残り一枚。この一枚で決めなければすべて終わりだ。

言い知れぬプレッシャーが双肩に圧し掛かるのを感じるも、霊夢はそれを跳ねのける。

 

「知りもしない女が何だというの?わたしはわたし。それがすべてよ。だからケリをつけるわ。この最後の一枚で」

 

無手の右手に召喚するその一枚。それはもはや切り札に他ならない。

しかしそれは過去に使ったのも一度きりで、制御しきれるか分からないくらいの極めて不安定な代物だ。

こんなことならもっとまじめに修行に専念すればよかったわね、と嘆息するも後の祭り。

けれど、これを使わなければ越えられない。この聳える巨大な壁を。

 

一か八か。そんなのはどうでもいい。もう、迷いはなかった。

手に取る最後の一枚を天高く翳し、霊夢は声高らかに宣言する。

 

「 終 言 『 夢 想 天 生 』 」 

 

その切り札が発動した途端、霊夢自身を起点として夢の世界一帯はまばゆいばかりの光に包まれていくのだった。

 

 

その眩き光は夢の世界の穢れのことごとくを打ち払っていく。

そのあまりの眩しさに夢の世界で戯れていた誰もが目を眩ませ、瞬く間にその光の奔流に呑み込まれゆく。

そして。

 

「「「うぎゃあああああああっ!!!!!!」」」

 

ハモリ気味の断末魔の叫びを上げる世紀末トリオ。

 

道化が消える。

つづいて地獄の女神。

そして最後に執着気味に抱いていたウサ耳娘を手放し、月の仙霊までもが夢の世界から追い払わられていく。

 

「ま、魔理沙さん、これは?」

「ああ、あいつしかいねえよ、あいつ、やりやがったぜ」

「……センパイ。やっぱり、すごいですね。よかった。信じてよかった。迷わないでよかった」

 

傷つき手札をすべて失った早苗と魔理沙は突然の奇跡を前に、ただ感嘆と感謝の声を上げるのだった。

 

 

数多の闇の欠片がこぼれ落ち、九尾の狐が消えていく。

そしてそれは本来の姿へと変わっていった。

 

「……藍。やっぱりあなただったのね」

「ふん、わたしは認めんぞ。認めたらおまえはすぐ調子に乗って怠けるからな」

「いつものことじゃない。いちいちうるさいわよ、パシリのくせに?」

「相変わらず口だけは達者のようだ。呆れて開いた口も塞がらんわ。……まあいい、それより」

「なによ?」

 

白一色の世界の只中、九尾の式、八雲藍は詰め寄る霊夢の問いかけに不遜に居直り、とある方向を顎先で指し示す。

悪態もそこそこにその方向に導かれるまま、霊夢は歩みを刻む。

 

「いた。ここにいたのね。よかった」

 

膝を抱え蹲りながら泣きじゃくる過去の自分。もう一人の自分。

その仕草はかつて人里でいじめられていたころを彷彿とさせる。

 

「もう泣かないでいいよ。もう誰も否定しないよ。……わたしもね」

 

 散々無視してきてごめんね。辛い思いをさせてごめんね。

 もう独りぼっちにしないよ。

 

その声かけとともに霊夢は過去の自分を優しく包み込むように抱きしめる。

そして二人はようやく一つになる。

断絶した過去と現在が繋がる。

途端、この上ない悲しみが溢れ出る。

その悲しみの果て、いまのいままで堪えていた激情が口先から迸る。

 

「頼みもしないのになぜ拾った?なぜ育てた?どうせわたしはただの道具なんでしょ!?」

 

それは夢と現の狭間にいる誰かしらに対して。

その絶叫はただ虚しく夢の世界に木霊していく。

その叫びが轟く中、九尾の式もまた陽炎のように揺らめきその姿を消していくのだった。

 

 

夢と現の狭間。その境界にて佇む二人。

ひとりは夢の世界の支配人、ドレミー・スイート。

そしてもう一人は。

 

「……落着、ですか。一時はどうなることかと。それにそろそろ刻限。夢の終わりが迫りつつあります」

「そう、ご苦労さま。あなたには迷惑をかけたわね。あの三人組にも改めてわたしから礼を言っておくわ」

 

金色の長髪なびかせ、道士服姿の女は閉じた扇子を口元に添えながら静かに告げやる。

その淡々とした物言いとは裏腹、その女の胸中に抱える感情の機微を支配人はつぶさに悟る。

 

「傍に行って抱きしめでもして慰めてやったらどうです?まだほんの少しばかりの猶予はありますし」

「……いいのよ、このままで。言わぬが花よ」

 

支配人の提案を余計なお世話とばかり、金髪の女はあっさりと切り捨てる。

そして瞑目する。

 

(可哀想な子。あなたとは血の繋がりはないけれど、わたしのことをお母さんと呼んでくれていいのよ)

 

それはかつて、かの山で親と死に別れた哀れな娘を拾った折に紡いだ言葉と同じ。

けれど、その言葉は発さない。届けない。その想いも、その愛もまた。

これでいい、これでいいと、八雲紫は双眸を瞬かせながら己に言い聞かせるのだった。

 

 

 取 り 戻 し た 翼 。

 

光消え、元の極彩色の空を飛び、自分を信じ、自分のために闘っていてくれた仲間の元へと急ぐ。

 

二人に会ったらなんて言おう?

素直に「ありがとう」か。それともまたいつものように「なに余計なことしてくれんのよ」と悪態をつこうか。

この胸の内、決して穏やかではないけれど。

それでも、彼らには伝えたい。あるがままの素直な感謝の言葉を。

 

しかしここで無情にも夢は終わる。

急に周囲がぼやけだしたと思った途端、またあのときのように霊夢は真っ逆さまに落ちていく。

その二人、早苗と魔理沙の元に辿り着けずに。

 

(……なんで、こんなところで。だから夢なんていやなのよ)

 

その悪態つく間もなく、意識は夢から現へと引き戻されるのだった。

 

 

空は白み、やがて陽は昇りゆく。

それとともにこの郷に住まう者すべては夢から現へと帰っていく。

眠りの中で見た夢など目覚めとともに忘れるのが常だろう。

それを覚えているのだとしたら、それはよっぽどの例外であろうか。

では、この巫女の場合はどうなのであろう?

 

 

雀囀りて朝を告げ、目覚めをもたらす。

博麗神社の本殿脇の社務所、その寝室。

寝間着姿の霊夢は静かに目を開け、初めて見た夢の余韻に浸りながら、頬伝う涙そのままにただ呆けたように天井を見上げた。

 

あの叫びは届かなかった。

そして辿り着けなかった。

自分のために闘ってくれたあの二人の元に。

 

緩く首を動かし、見渡せばいつもの孤独の世界が広がる。

それはもう見慣れた光景だ。慣れている、はずなのに。何故かたまらなく切なく、心細い。

よろめくように起き上がった頃合いで、それまで頭に敷いていた「安眠枕」が消えてなくなっているのに気付く。

 

それですべてを察した。最初から最後まで、自分はあの女に試されていたことに。

それももう慣れきったことだ。あの女の真意や意図など分かりもしない。むしろもう、どうでもいい。

どうせまたこれからもこの先、この関係は続くのだろう。

時に試され、時に利用される。博麗の巫女として生き続ける限り。

それはもはや抗えぬ運命といったところか。

 

(ああ、もうっ。ばからしい。っとに、どうでもいいわ)

 

吐き捨てるように悪態をついた後で締め切った雨戸を開けて表に出る。

顔を洗うために赴いた手水場。そこで水面に映る泣き腫らした自分の顔をしげりと眺めやる。

 

(…………っ)

 

額覆い隠す前髪の隙間、確かに水面に映るはあの「畜生の烙印」。

それは一生消えやしない、「非人の証」。

いつもはすぐに目を背けていたそれを、ただいまは静かに見つめる。

そしてまたとめどなく涙が溢れ出るのを感じるのだ。

 

不意に一陣の風が吹き流れた。

その風はまるで、深く傷ついた心を癒すかのように心地よかった。

ふと空を見上げると、こちらに向かって飛んで来る「ふたつの影」に気付く。

 

ひとつは「魔法の森」から。

もうひとつは「妖怪の山」から。

 

(まったく、あいつらは。もう、しょうがないわね?)

 

懲りもせずに「また」やって来た二人の姿を、いつになく穏やかな笑みを浮かべて霊夢はそっと、どこか嬉しそうに見上げるのだった。

 

 

 

 東方二次創作劇場 「巫女とバク」 ~ 東方紺珠伝より ~

 

 コンセプトイメージテーマ:THE HIGH-LOWS / 日曜日よりの使者

 

 執筆:俄かさん。(2025~)

 

 

 

 

おまけ。

 

「迷いの竹林」、そのさいはてに構える「永遠亭」、その病室のベッドで寝込むウサ耳娘。

 

「鈴仙、あなたにお見舞いだって?」

「え、永琳さま、それってもしや?」

「鈴仙、会いたかったわー♪(むぎゅ)」

「っ、じゅ、純狐!?いや、もうやめてえええええええっ!!!!!」

 

 

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