寄生世界 -PARASITE WORLD- 作:NIGHTMARE⭐︎
「…これは厄介だな」
死地を前にした嘉は呟いた。ナルカラが不安げに嘉を見つめている。ヨナギは妙な気持ちになった。自身が全力で体を預けていた月影嘉という名の壁が崩れかけているかのようだ。
「厄介ってどういう…?」
「そのままの意味だ…狩り尽くすのに時間もかかるだろう」
嘉は揺らがずじっと死地の奥を見つめている。かつて商店街だった廃墟は不気味な巨影を地面に落としている。まだ夜にもなっていないのに異様に暗い。
「よし、さっさと突入しようか」
ギャクラはショットガンを構えて殺戮が待ちきれないとでもいうようにニヤついている。ヨナギはこいつマジか、という表情で助けを求めるように嘉を見た。しかし、嘉はギャクラの言葉に「上等だ」とでも思っていそうな表情で刀に手を添えてゆっくり歩き出した。
「もう行くんですか…?」
「ゆく…」
ヨナギは不安を拭えない気持ちで嘉についていった。ナルカラは文字通りヨナギに張り付いている。
グレイデル死地。かつて人で賑わっていた面影がこれでもかと残っていて、不気味さと共に切なさのようなものを感じる。おそらく突如死地に飲み込まれて、平和な日常を奪われたのだろう…そして居合わせた人間もまた、形を変えて今もここにいるのだろう。天井のガラスが侵食されて黒く染まり、透明感を失って光を遮る屋根となっている。
ギャクラはショットガンをあちこちに向けながら先陣を切っている。あちこちに銃を向けている分他の人の2倍は動いていそうだ。嘉はギャクラの横を静かに歩いている。刀を抜くことすらせず、落ち着き払った姿は誰よりも安心感がある。
ナルカラは相変わらずヨナギのすぐそばを歩いているが、さすがに死地ではくっついてはこない。やはりこの子も戦士なのだと実感させられる。
「ヨナギさん…ここずいぶん暗いですね…」
「そうだね…この死地だけ夜みたい」
ヨナギは極力嘉から離れないように、かつ近づきすぎない程度の距離感を保って歩いていた。嘉さん歩くの早いって…。
瞬間、探索チームの目の前に複数体の人間の寄生体が現れた。人間時代の面影を多く残したMarenoidManの仲間らしい。横向きに裂けて口を構成している顔と立ち姿以外普通の人間と変わらない。
ギャクラと嘉がほぼ同時に動いた。ギャクラは散々構えていたショットガンを発砲し、嘉は刀を抜く。冷却された青白い斬撃と熱で速度を上げた弾丸が同時にMarenoidManの群れを蹴散らした。
「あ…?」
ヨナギはギャクラが本当の実力者であることをすっかり忘れていた。その射撃フォームは無駄な力が一切入っていないらしく、ふらりと流れるようだった。ギャクラはヨナギが自分を見つめていることに気づいてニヤリと笑いかけた。「どうだ?」とでも言いたげで最高に腹が立つ…!
ヨナギは負けじとかろうじて致命傷を避けて立ち上がったMarenoidManに銃口を向け、発砲する。彼女の愛用の送電砲から青い電気が光り、バチィッっという独特な狙撃音とともに弾が打ち出された。MarenoidManは頭部を貫かれて絶命した。ヨナギは得意げにギャクラに笑いかける…ギャクラは全然見ていないが。
ナルカラがずっと「ふわぁぁ」な顔で見ている。今の所はそこまで危険度の高い死地とは思えなかった。
…その考えがのちに大きく覆ることとなるなど、まだ誰も知る由もない。