…………どうやら寝てた様だ。
資料を見ながら頭を抱えてたら寝落ちとか滅多に無いんだけどな。
「つーか、今何時だ?」
遅刻したら姉御が色々と言ってきそうなのだ。
とりあえず時間を確認しようとした所で右肩に何かが持たれ掛かってるのに気が付く。
「えーと…………」
ありのまま今の状況を話すぜ。
朝起きたら隣で後輩がやけにツヤツヤした顔で眠ってた。
しかも、ニヤけた顔してる上に血が混ざった涎まで垂らしている。
首筋が多少痛んで、貧血っぽい辺りから大体何をされたかは察しがつく物の訳がわからねぇ。
添い寝だの、夜這いだのそんな物では断じてねぇ。
何故なら俺がそんな事をされても気付いて無いってのが異常過ぎる。
近付かれた気配を感じれ無かったのは千歩譲ってまだいいとして、問題なのは吸血された事だ。
そんな事をされれば普通は気付くはずなのだ。
吸血鬼だろうが、半吸血鬼だろうがそこらへんは関係無い。
以前からおかしいとは思っていた。
こいつの気配や匂いは何故か警戒心が薄れる。
まるで自身と似た様な物を放ってる様に。
「………まぁそこらへんは考えても結論は出ねぇよな」
そこで俺は思考を放棄する。
はっきり言って面倒ではあるが実害はそうない。
何より姉御の身内をあまり疑いたくはない。
「えへへへ…………そんなぁ………………やめてくださいよ……ムニュ………」
隣から寝言が聞こえてくる。
しかし、寝ると多少違って見える物だな。
…………ツヤツヤしてるのがどうにも気になるが。
吸血鬼の吸血は性行に近い面もあるが………さすがにここまで直球な反応が出る奴は稀だぞ?
寝言といい…………こいつ生真面目の裏にとんでもねぇ何かが隠れていたりしねぇよな?
それはともかく折角監視抜きで動けるので立ち上がって散歩にでも行こうかと思うと袖が掴まれた。
「起きたのか、楓?」
そちらを向くと…………起きてはいなかったが姿は一変していた。
何かに怯える様に身を縮め、瞳に涙を見せている。
「嫌だ……嫌だ………私はまだ……………何も……………」
魘される様に怯えた声が聞こえてくる。
離れた途端にこれである。
「悪夢でも見てるのか?」
とはいえ、さすがにこのまま放置するわけにもいかない。
…………しょうがないのでまた椅子に座って落ち着くのを待つのだった。
結局楓が起きるまで俺はそのまま座ってる羽目になった。
冷めてはいたが机の上にコーヒーが置いてあったのが唯一の救いだが。
おそらく楓が持ってきた物だろう。
◆◆◆◆◆
「あー・・・・・・色々と迷惑掛けたみたいですね、先輩」
「いや、何も迷惑なんてしてねぇよ」
それは確かである。
動けないのは多少辛かったが資料を見直すくらいは出来たので別に問題は無い。
どうもどうやらコーヒー入れて俺の所に運んで来てくれた様だが、その時には既に寝てたらしい。
そんで俺の血の匂いに釣られてつい吸ってしまったとか。
そして、そのまま寝てしまったとも。
「まぁ血を吸われてもこんくらいなら特に問題ねぇしな」
「いや、それ以外にも…………私魘されてたでしょ?」
「そうだな」
「一人で眠るとたまに悪夢を見るんですよ。でも、今日は先輩のおかげか大丈夫でした。おわびとしては何ですが私の血でも飲みますか?」
とか言いながら既に指に斬り傷つけてやがる。
此方に拒否権はほぼ無いような物だよな。
まぁ血の匂いからして不味くは無さそうだしいいんだが。
ただ…………指から垂れる血を飲む時に楓が妙にニヤニヤしてた気がするのは気のせいだよな?
「ああ、そうだ。先輩、今日は先に学校行っててくれませんか?」
「監視はいいのか?」
「許可は貰ってますよ。ちょっと用事があるので離れますがサボらないでくださいよ?」
「分かってるよ」
制服に着替えた後に朝食をとりながらそんな事を話すのだった。
そして、俺と楓は住処の前で一旦分かれるのだった。
◆◆◆◆◆
「えぇ………ちゃんと“印”は刻めましたよ。私に掛かればそれくらいは簡単ですよ」
黒白と分かれた楓は誰かと電話していた。
その口調は何処か嬉しそうにしていた。
「そりゃあ嬉しいですよ。これでやっと我が主の役に立つ準備が出来たんですから。返し切れない恩を返す為の準備が…………」
頬を紅めながら呟くのだった。
通話相手の呆れた息も聞こえてくるがそんな物は構わないのだった。
◆◆◆◆◆
吸血鬼は再生能力が高い。
だが、それにも例外はある。
同族による吸血跡は中々再生しないのだ。
なので、黒白は適当に湿布を貼って誤魔化すのだった。
当然色々聞かれはしたが全てスルーしていた。
何はともあれ現在は授業中である。
科目としては魔術の基礎だ。
種族によって適性に差はあるが知識を付けといて損は無い。
今の内容は目的の現象を起こす為の術式を組み立てろという物である。
ただし、黒白とディメアは不参加である。
封印指定クラスが下手に魔術を使えば想定外の事が起こりやすいので不参加という事にはなっている。
実際黒白が暴発させる事などそう無いのだが校則があるので仕方無い。
ディメアに関しては魔女の一族という事で書類を通してこういう類いの授業には不参加でも問題無い様にしてある。
というわけで基本的には見学しているのが筋なのだが二人は別の事で口論していた。
「だからよ!!お前の言う方式より俺のが対応範囲は広いだろうが!!」
「あんたのは安定性に欠けてるのよ。魔術を使うなら先ずは安全性でしょうが」
「お前のは一々回りくどいんだよ。予め設定して置いた複数の小型の陣で増幅させた方が効率はいいだろ」
「それが安定性に欠けると言ってるのよ。一つでもズレが生じたら面倒でしょうが」
「五行の相生による循環増幅だから一定の安定は確保してるんだよ。お前の地脈方式とか場所を選ぶだろうが」
「馬鹿なの?そんな物は陣の微修正でどうにかなるでしょう」
術式に対しては互いに譲れない部分があるようで二人は無駄に熱くなっていた。
ただし、どちらも膨大な魔力とそれを操る知識と技術を持っているのが前提の話なので他の生徒は参考に出来ない所か理解出来る部分も少ない。
「そもそも危険区で使う事を考えたら外部補給式より自己完結式のが安定は
するだろ」
「何の為の陣だと思ってるの?そういう環境を整える為の物でしょうが」
「それでも対応性には問題があるだろう?俺の方式なら循環させてるのを一属性に収束させるなり、で対応出来るが」
「陣そのものを切り換えれば済む話でしょうが」
「ほとんど固定式に近い大規模な陣でよくやれるな」
「魔女をなめないでくれるかしら?」
「だが、その分反動も凄いだろう?陣の形成に妨害を掛ければ負担は重くなるだろう?」
「それはそっちもでしょう?複数連動させる分負荷を大きくすれば崩壊はししやすくなる。それにそこらへんの対策をしないとでも思ってるの?」
「負荷が大きくなれば相克でリセットするからいいんだよ」
そんな二人の口論ではあるが一つの指パッチンで終わる事になる。
その音が聞こえた途端に二人が説明の為に展開していた式が全て崩れ落ちた。
この場でそんな事が出来るのは一人しかいない。
教師の東山 千鶴である。
彼女は笑顔を浮かべている物の目が笑っていない。
「紅崎君、赤池さん。互いの術を高め合うのはいいんですが……………他の生徒に迷惑掛けるのは駄目ですよ?」
二人は何も言えなかった。
否、何かを言える状況では無かった。
熱くなっていた自覚もあるので言い訳の仕様も無い。
「力を持つ者なんですからそこらへんちゃんと自覚してくださいよ?でないと、周りを巻き込んでしまいますよ」
二人が色々と語った結果授業で組み立てていた術式にも影響が出ていたのだ。
それゆえに千鶴はこうして止めに入ったのだった。
その後、二人は罰として備品の後片付けを任されるのだった。
口論回でした。
楓に関しては色々あったりします。
黒白とディメアの口論に関しては戦闘スタイルというより二人の魔術の基本骨子みたいな物です。
それでは、質問があれば聞いてください。
感想待ってます。
次回はディメアとの後片付けです