目の前で人が一人原形を無くすレベルでズタズタにされていた。
蛇は男の体を次々に貫いていく。
内臓と思われる部位すら食い千切っている。
肉が抉られ、骨が見える。
腕を絞め上げていく。
骨が砕ける様な音が響き、手足が千切れる。
もはや傷のついて無い部位など無く、肉塊と表現するのが正しい有り様だった。
「(手を出さなくて正解だったわね。まぁ……手を出してたら気付かれてたし恨まないでよ)」
そんな事を男をズタズタにした者の眷族の目を通して見ていたディメアが呟く。
彼女は黒白の観察も兼ねて魔術で千里眼の様な事をしていたのだが、黒白が相手の眷族に何かしらの魔術を仕掛けたのを見てそちらに干渉して術式をいじり、自分の観察魔術を割り込ませたのだ。
これで黒白にも、相手の女にも気付かれる事無く覗けるのだった。
「それにしても教えてからこんな短時間で辿り着いたのは恐ろしいわね」
どうもどうやらズタズタにして死んだと思った女が眷族を連れて移動を始めたのでディメアは干渉を解除して自ら動き始める。
羽生の事もあるのであまり黒白に干渉する気は無いが、その体は研究サンプルにちょうどよかった。
「どうせあの女がさっさと去った後には再生してるでしょうけど。肉片と血液で此方としては充分なのよね」
ローブを纏い、自室の扉を開き、ディメアはサンプル回収の為に現場へと向かうのだった。
◆◆◆◆◆
幾つか確認の為に姉御の所に向かったのだが、そこで見たのは死骸と山の上に立つ姉御だった。
まぁ………特に珍しい光景と言うわけではない。
それでも、一応は聞いておく。
「姉御…………何してるんですか?」
「あら、意外と早く来たわね。見りゃ分かるでしょ?英雄候補狩りよ」
「またですか…………」
ある意味日常茶飯事である。
後ろの楓が頭を抱えながらも特に何も言わないのがその証拠に近い。
姉御の義妹ってくらいだからよく見てるのだろう。
姉御はとある神格を得る為に英雄候補を狩っている。
英雄候補とは英雄系の神格を得る可能性がある者達の事である。
神格は当代の者が死ねば、最も適した要素を持つ者へと移る。
姉御の場合は稀有な事に二つの神格の候補者である。
血筋的には当然と言えば当然だ。
姉御は戦乙女と死者の王の娘なのだから。
姉御は片方の神格は候補者序列ダントツ一位なのだが、そちらは毛嫌いしている。
だが、もう片方は下位に近い。
神格は一人一つしか宿せない。
ゆえに姉御はもう片方の神格候補序列を上げる為に英雄候補を狩り、その魂を“主神”に捧げているのだ。
「それで?私に何の用?例の件に進展でもあった?」
「はい、その件について幾つか聞きたい事がありましてね」
「私に?面倒ごとじゃないでしょうね?」
「そこは大丈夫ですよ。目頭 愛木という名前に聞き覚えがありませんか?」
「ん~?その名前………どっかで……………あぁ!!」
何かを思い出したかの様に姉御は死骸の山に手を突っ込む。
そこから取り出したのは手帳だった。
それを何ページが開き、此方に投げ付けてきた。
「そこに答えが書いてあるわよ。他の英雄候補も狙ってた様だし、聞き覚えがあったわ」
「えぇ……これでこいつの神格に確信が持てましたよ。とりあえず明日にでも終わらせます」
「そう………代わりと言っては何だけど楓を置いて行ってくれるかしら?」
「私ですか?」
「えぇ。この英雄候補とその連れは結構金になりそうな物を持っていてね。仕分けを手伝ってくれる?」
姉御がそう言うと楓は俺の方を見てきた。
「えーと、先輩。青葉さんの手伝いする事になりますがいいですよね?」
「俺としては構わねぇよ。これから調べる事もあるしな」
「そうですか…………また置いていったら帰ってきた時に刺しますよ?」
「…………分かったよ」
何やら恐ろしい事を聞いたがとりあえずスルーしておく。
こういうのは触れないのが吉である。
◆◆◆◆◆
黒白と別れ、楓は青葉と死骸の山から金目になりそうな物を取り出していた。
武器や鎧は損傷具合で判断していく。
とはいえ、青葉が正確に急所を抉っているのでそう傷は付いてないのだが。
「それにしても青葉さん…」
「だから、私を呼ぶ時は姉として呼びなさいと言ってるでしょ?」
「……………この人達はどういう経緯で殺る事にしたんですか?」
無視して続けていた。
青葉は英雄候補を狩るとは言っても無差別にではない。
ある程度、基準はある。
「こいつは自分が英雄候補ってのを使って取り巻きと共に暴れてたらしいわよ。ようするに典型的な勘違い野郎ってこと」
「そうですか」
「自分が特別だって思い込んで優越感に浸って暴れるほど馬鹿は無いわね。英雄というのは行動が評価されたが故に英雄なのに。まぁそんな事はどうでもいいけど。私が望む物を手に入れる為の糧になれたんだからそれだけは誇れるわね」
「相変わらずですね」
青葉は神だろうが、仏だろうが敬意を払わない、恐れないどころではなく下に見る。
評価はすれど同列と見る物は何も無い。
何処までも上から目線なのだ。
“最終目標”からして仕方ない事ではあるが、青葉の前では全てが下なのだ。
楓だけはある意味例外だが。
「何はともあれ、姉として貴女に聞いて起きたいのだけれども」
「ちょ、ヒャア!?」
青葉はいつの間にか楓の背後に回り、その耳に息を吹き掛ける。
それによって楓は身をよじらせる。
「下僕はどうなの?」
「ちょ!?何処触って……べ、別に報告してる通りですよ」
「そう、詰まらないわね。………というか、これ私より大きくなってない?」
「そ、そんな事は無いですよ!!」
胸を揉んでくる青葉から何とか逃れる。
残念そうにする青葉から反射的に距離を取る。
たまに過剰に触ってくるので楓としては警戒してる。
「枷付けたんですから変化が無い方が自然なのでは?」
「まぁ………そうなんだけどね。“気付いた”様子も無いのが鈍い証拠よね」
「一方的な物だから仕方無いですよ」
「そういうもんかな?」
「そういう物です」
距離を取り、警戒しながら楓は作業を進めるのだった。
「下僕はどうなの?」には別の意味もあるが、それに気付きつつ、それを察する事が無いように進めていくのだった。
◆◆◆◆◆
某所のとある部屋。
そこで女の悲鳴が響き渡る。
悲鳴が止まると血走った目をした目頭 愛木が部屋から出てくる。
「あと少し………あと少しで私は解放される!!」
その様子を眺める男の存在は目頭 愛木の眼中には無かった。
男は何も言わずに部屋へと入り、そこに転がってる物を見てニヤけるのだった。
久々の投稿でした。
この時期は色々あるが故に遅くなりました。
それでは、質問などがあれば聞いてください。
感想待ってます。