猛者の弟子になりたくて!   作:すかいスライム

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第7話

 

 

 

 マドリー近郊の森――夜の闇をいくつかの松明が照らしていた。

 

「まだこの近くにいるはずだ。

貴様ら絶対に逃すな‼︎」

 

「「「「「ハッ!!!」」」」」

 

 鬱蒼とした木々の間を、鎧のきしむ音が重く響く。

 その音を背に、眼帯で片目を隠したエルフは、血に濡れた足を引きずりながら、黙って身を低くした。

 

 月明かりさえも届かぬ暗がりに身を潜める。

 彼女の吐息は荒く、肩は小刻みに震えていた。だが、その眼差しだけは、憎悪と警戒心に満ちて鋭く光っている。

 

「……くっ。セルゲイめ……」

 

 舌打ちと共に吐き捨てる名。

 腐った足の肉がじわじわ己を蝕んでいく不快感に耐えながら、彼女は奴らの動きに意識を集中させていた。

 

「隊長!こちらに血の跡が!」

 

「よし、追え!絶対に逃がすな!森の外には出させるな!」

 

 刹那、森の奥で火の灯りが増える。

 風が木々を揺らし、音が一瞬かき消されたその間に、エルフは立ち上がる。

 

(皆、すまない。

今は逃げることしかできない私を許してくれ)

 

 ぎり、と奥歯を噛み締める。

 痛む足を踏み出すたびに、焼けるような激痛が脳を突き刺す。だが、立ち止まれば終わりだった。

 

 背後で、怒声とともに松明の光が乱れて揺れる。

 兵たちは、血の跡を辿り、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 日が昇り、時刻は正午に近づいていた。

 オッタルはマラクを倒した、沿岸部に戻ってきていた。

 

「あー。オッタル…おはよう……」

 

「……貴様…その竜を…夜通し観察していたのか?」

 

「そうだよ……。観察は…全ての基本。

観察することから……全ては始まる」

 

「……そうか」

 

 淡々と会話を続けているところにガンマがやってきた。

 

「おはよう、イータ。

……おはようございます、オッタルさん」

 

「おはよう……ガンマ」

 

「と言っても、もうお昼よね?

まさか本当に、一日まるまる観察してたなんて」

 

「……ガンマ、それ……もう聞いた」

 

「えっ、あ、そうだっけ……って、ごほんごほん。それにしても……昨日あれだけ真っ二つにされたマラク、もう傷が塞がってるなんて」

 

 イータが小さく頷く。

 

「まだ…完全に…戻ったわけじゃない……。

脳をはじめとした…主要な臓器から…修復してる。

だから中身は…見た目より…ずっと…ぼろぼろ」

 

「……やはり厄介な存在だな。

”竜“というのは……」

 

「ん……?

オッタル、その言い方、マラク以外の竜とも戦ったこと、ある……?」

 

「………」

 

 短い沈黙。

 オッタルは何も言わず、ゆっくりと背を向けると、帝都の方角へと歩き出した。

 

「これは、旅路も、退屈しなさそう……!」

 

 後ろからイータの声が追いかけてくる。

 だが、オッタルはそれを背中で受け流し、無言のまま歩を進めた。

 

 

 

 

 出発からおよそ一時間――

 オッタルたち一行は、帝都へ向かう途中、とある森の小道を進んでいた。

 

「おっ……誰かいる」

 

 イータが先頭で立ち止まり、茂みの向こうを指差す。

 その瞬間――

 

「ッ! 隠れて!」

 

 イータが素早く声を上げ、すぐさま草むらに身をかがめた。

 

「えっ……隠れるの……?」

 

「いいからこの草むらから様子を……オッタルさんはその大きな木の陰に!」

 

「何故だ」

 

「とにかく、様子を伺いたいので隠れてください!!

オッタルさんもできれば面倒ごとは避けたいでしょう!?」

 

「………」

 

 オッタルは短く息を吐き、無言のまま指示通りに動いた。

 ガンマとイータも、音を立てぬように身を伏せる。

 風が一筋、森を抜けた。

 彼らの視線の先、木々の合間に何者かの影が見え隠れしていた――。

 

「あれはベガルタ兵。

こんな辺境に20人近くも……」

 

「それは……言われてみれば、その通り。

ガンマ、よく気がついて…えらい」

 

「しーっ……静かに。

イータが気にしなさすぎなのよ――」

 

 ガンマが小声で指摘を入れる。

 その視線の先――

 隊の先頭に立つ、威圧感をまとった一人の男の姿が目に入った。

 

 堂々とした体躯、青黒い意匠の重装鎧。

 見覚えのあるその意匠に、ガンマの目が見開かれる。

 

「あの特徴的な鎧は……まさか……!」

 

 息を呑むような声が、草むらの中に落ちた。

 

 

 

 

「今度こそ逃すな! 包囲網を敷け!」

 

 怒号が森に響き渡る。

 大男――セルゲイ・ゴーマンは、重たい大剣を抜いたまま、鋭い視線で周囲を睨め回していた。

 

「あのおじさんのこと……知ってるの? ガンマ」

 

 イータが囁くように尋ねると、ガンマは静かに頷いた。

 

「ええ、あの左腕部分が特徴的な鎧……。

あの男はおそらく、『ベガルタ七武剣』の一人、セルゲイ・ゴーマン」

 

「ベガルタ七武剣……」

 

「七武剣の名を賭けての決闘に勝利して、その座を、相手の命と共に勝ち取った強者。ガンマ

その大剣の腕は、七武剣筆頭をも凌いでいるかもしれない……そんな風に噂されている、大剣の使い手よ」

 

「……ガンマ、くわしい」

 

「帝国に行くのだから、このくらいは調べていて当然でしょう――」

 

 少し呆れ気味に言いながらも、ガンマの表情は硬い。

 そんな中、イータがふと別の方向に視線を向け、静かに呟いた。

 

「あっ、もう一人の方の、右足……」

 

「……あれは……‼︎」

 

「うん……〈悪魔憑き〉の症状」

 

「もしかして、狩られそうになってる……⁉︎

だとしたら、早く助けないと!」

 

「待って、ガンマ」

 

 ガンマが体を起こしかけるが――それをイータが制止する。

 

「どうして……⁉︎」

 

「……こんな辺境に、大勢でいる、理由がある。

ガンマ……自分で、そう言った」

 

「っ……! それはそうだけど……!」

 

「だから、聞き耳を立てて、探る」

 

「話を聞く? この距離でどうやって――」

 

「ほりほり〜……」

 

 イータが地面に小さなスライムを滑り込ませた。

 

「なるほど、地中にスライムを這わせて、音を探るのね。

……って、これで音が聞こえるの⁉︎」

 

「そして……先端を……こう……」

 

〈このような辺境まで落ち延びようとは、卿にあってはご苦労なことだな〉

 

〈くっ……!〉

 

 くぐもった声が、スライムの口から響き渡る。

 

「しっかり聞こえる……⁉︎」

 

「マスターの陰の叡智……『電話』の知識の応用。

本物の電話も、早く、作りたい……ふふっ」

 

 イータがふわりと微笑む。その瞳は、獲物を覗く観察者の光を湛えていた。

 その横顔を見ながら、オッタルは目を細めた。

 

(……“マスター”か)

 

 無感情に見えて、どこか歪んだ執着を感じさせる言葉。

 オッタルは、未だ姿を見せぬ“少女たちの主”に、静かな興味を抱いた。

 

 

 

 

「〈悪魔憑き〉は教団へと引き渡すもの。

そして、卿の家は、その貴族としての義務を怠った――」

 

「だ……だからとて……!」

 

「ヘルツォーク家は、ディアボロス教団に連なる貴族として……帝国の情勢の安定を担う義務を与えられていたのだぞ!」

 

「〈悪魔憑き〉となった私を排除するよりも先に、どうして……どうして我が一族を粛清するなど!

例え私がいなくなっても、ディアボロス教団にとって、ヘルツォーク家の所持している領地と財産はもちろん、貴族としての権力の利用価値に変わりはないはず――それをなぜ……!

何代にも渡ってこの帝国で積み重ねてきた基盤の全てを、おのずから無に帰すような真似を、教団が!」

 

「……フン……。

未だに自身の立場を分かっていないのだな、卿は」

 

 セルゲイの口元が歪む。

 

「情勢の安定、などという安寧に浸っていただけのことはある。

卿が<悪魔憑き> などに成り下がった以上は、その一族郎党を根絶やしにするのは当然のこととして――<悪魔憑き> になったチルドレンの政治基盤など、俺がこの帝国で覇を唱えるにあたって、なんの役に立とうか?」

 

「なっ……⁉︎」

 

 女が絶句する。

 

「それでは……ヘルツォーク家の粛清は、円卓会議の決定ではない、ということなのか!?」

 

「卿はいったい……誰の差金でこんな……!」

 

「ハッ!この期に及んでも、ご立派な忠誠心の表れか。所詮はチルドレンに過ぎん――いかにも、御用聞き女の卿らしいた言よ!」

 

「なんだと……!

卿も私と同じ、チルドレンであろうに!

……許せん……決して許してなゆものか!」

 

「許しを欲しているなどと誰が言ったッ!」

 

 セルゲイが大剣を構え、女の言葉を嘲る。

 

「その女は腐り果てても、七武剣の槍使いだ!

問合いをはかり、動きを鈍らせつつ、視界に乏しい右目の方から仕掛けろ!」

 

 それを受けて、兵たちが囲みを狭めていく。

 

「死にたい者から……前に出てくるがいい……!」

 

 女の声が低く、血のように冷たい。

 

 

 

 

「ちょっとちょっと!

これって、教団幹部の仲間割れ⁉︎」

 

 草むらからガンマが小声で声を漏らす。

 

「しかも、あのエルフの方も、ベガルタ七武剣……!」

 

「『ヘルツォーク家』と言っていたし、槍の使い手だから、たぶん、七武剣のカレン・フォン・ヘルツォーク……つまり、セルゲイもカレンも、ベガルタ七武剣でありながら、どちらもディアボロス教団の幹部――ということなの⁉︎」

 

「『円卓会議」……『チルドレン』……。

……どういう意味、なんだろう……ちょっと、興味出てきた……」

 

「ちょ、イータ。そんな分析してる場合じゃ――」

 

 言いかけたガンマが、ふと気づく。

 

「……って、オッタルさん?」

 

 隣にいたはずの武人の気配が、いつの間にか――ない。

 

「…………」

 

 草むらの影が、一つ消えていた。

 

 

 

 

 セルゲイが号令をかけた直後だった。

 カレンが踏み出した兵のひとりへ、瞬時に槍を突き出す。

 

「ぐあぁ――っ!」

 

 しかし、カレンの槍捌きを前に返り討ちに合う。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 体勢を崩しかけながらも、カレンは辛うじて地を蹴って後退する。肩で息をしながら、槍を杖代わりに支えた。

 その姿を見たセルゲイが、鼻で笑うように口角を歪める。

 

「チルドレン1st『流星』のカレン……その名も地に墜ちたものよ。

卿のご自慢の槍捌き、まるで形無しだな――兵たちを退ける程度には、まだ健在ではあるようだが」

 

「おのれ……!」

 

「これ以上の無様な抵抗は無意味だぞ?」

 

「はあっ!!」

 

「卿ほどの使い手ならば、もうとっくに分かっているのだろう?

卿の槍の腕では、この俺を……『闘剣嵐武』セルゲイを貫けんとな!」

 

 カレンの表情がわずかに強ばる。

 セルゲイはなおも嘲るように言葉を重ねた。

 

「間合いに入られ、その右目を抉られたこと、まだ記憶に新しかろうが!」

 

「ぐッ……!!」

 

「右足を病み、右目を失ってもなお挫けぬ、卿のその闘志に対しては、素直な称賛の意を表そう――だが、無駄なあがきは、文字通りの無駄なあがきだ!

己の運命と無力を悔いて死ね!」

 

「来い……!」

 

 その叫びが木霊する刹那。

 風が止み、森の空気が凍りついた。

 

「……?」

 

 セルゲイの視線が斜め下へと落ちた。

 彼の大剣が、突如として何者かの手によって、静かに止められていた。

 

 ”頂天”――オッタル。

 

 音もなく割って入ったその男が、己の掌で剣の軌道を受け止めていたのだ。

 

(この獣人――俺の剣を軽々と)

 

 セルゲイの瞳に、初めて動揺が走る。

 

「貴様……何者だ。

何故ゆえ、その女を庇う?」

 

 オッタルは、黙して答えない。

 その無言が逆に圧を増す。

 

「まさか……ラウンズの誰かからの差金か!」

 

「………」

 

「黙ってないで、何か申せ!!」

 

 オッタルは、セルゲイの剣をゆっくりと手放す。

 

「『闘剣嵐武』……手合わせ願おう」

 

「!?」

 

その発言に、セルゲイは今度こそ驚愕をあらわにする。

一方のオッタルは突き立った得物の中から大剣を掴み、静かに抜剣した。

 

「……ふざけた真似を。

 この状況で、決闘を申し込むというのか?」

 

「“七武剣”と謳われる剣士と相見えた……殺し合う理由には足りんか?」

 

 淡々と、静かに。しかし抗えぬ力を孕んだその言葉。

 それは、武人だけが持つ“対話”だった。

 

「成程……確かに道理だ。

ならばこの『闘剣嵐武』セルゲイ・ゴードンが応じてやろう。

獣人――名をなのれ!!」

 

「フレイヤファミリア団長――【猛者(おうじゃ)】オッタル」

 

「王者だと?

……面白い。ならば”頂”の力――試してみせよ!!」

 

 セルゲイの声が森に轟いた瞬間、兵たちは一斉に後退し、二人の間に戦場の間が開かれた。

 

 




カレン卿かわええ。
ヒロインとかにしたいけど……オッタルやしな〜無理やな〜

だってオッタルやしな。
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