ウィッチャーの世界にゲラルトとイエネファーの娘としてTS転生   作:ユキリス

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ウィッチャーの世界にゲラルトとイエネファーの娘としてTS転生

「クラリス、あなたはもう少し外に出たら如何(いかが)かしら?」

 

そう漆黒の魔女は高飛車な素振りで腕を組み、唐突に話し掛けてきた。

 

彼女の大きなまるで宝石の如き紫紺の瞳が輝き、上から此方を射抜く。

 

「ママはわたしにシリラみたく剣を振れって言うのかしら?とんだジョークね」

 

「けれどずっと同じ本ばかり読んでいては学びにならないわ。ちゃんとした魔術の本じゃないと」

 

すると私の反論を受けて、更に大きく両手を広げて訴えてくる。

 

「そういうのは好きじゃないもの。わたしは物語の方が好きなの」

 

勿論それに従う必要性も感じられなかったので、いつも通りに一蹴した。

 

「そう‥」

 

そう言葉を交わし、わたしはイエネファーとのやり取りを終えて再び本へと視線を落とす。

 

「でもクラリス、私は貴方の為を思って言っているのよ。だって剣が駄目ならせめて魔法だけは使える様にならないと苦労するわ」

 

ただ相変わらずママは納得していないみたいで、焦れているのか卓上を指先でトントンと叩きながら、言葉を続ける。

 

「一体何が不満なのかしら?強請っていたお望みの紅茶もクッキーも、しっかりゲラルトから買ってきてもらったのに稽古の約束を破るなんて、ああ誰に似たのかしらね本当に」

 

そしてその語る通り、この世界において紅茶や菓子などの嗜好品は贅沢と称して差し支え無く、市民には手が出ない代物である事に違いはない。

 

とはいえそれとこれとは話しが別で、ゲラルトお父様みたいな甘やかしてくれる人の元に生まれたわたしがどうして稽古なんていう面倒事をしなくてはいけないのか、その不満を伝える。

 

「だってわたしは気高き白狼であるゲラルトお父様とイエネファーお母様の娘だもの。不本意な命令に従うわけにはいかないわ」

 

際しては出来る限りか弱い口調を装い上目遣いをした。

 

「あら、随分と減らず口が絶えないものね。それも御伽話で学んだお陰かしら?でもおあいにく様ね、私は少し厳しい母親なのよ?」

 

けれどイエネファーお母様はどこ吹く風といった風に平気でそれを受け流して、どうやらわたしの魂胆も見抜かれているみたい。

 

「そう‥。ああ、でもそれだとわたしはとても困ってしまって思わずトリスお姉様に相談をしたくなってしまいそうだわ。お母様がわたしをいじめるの、って」

 

だから少しだけ意地悪をする事にした。

 

それも特別お母様には効く、とっておきの言葉で。

 

「‥どうしてそこでトリスの名前が出てくるのかしら?」

 

するとさっきまで意気揚々と皮肉を言っていたお母様はそれも束の間、その長い睫毛を震わせて、卓を叩く指を、途端に静止させた。

 

「だってトリスお姉様はお母様と違って一緒に絵本を読んでくれるもの。無理やり習い事をさせようとしつこくしないわ」

 

「それは誤解よクラリス。私はさっきも言ったけれど、貴方の将来を考えて言っているの」

 

どうやらその身に余る苛立ちを必死に抑えている様で、取り繕いのせいかお母様の声のトーンが少しばかり落ちたのが分かる。

 

そう、魔女としての実力は確かであり、女魔術師会における地位も高位にある彼女だけれど、不器用であるのはゲラルトとお父様ともまた似通った所がある。

 

要するに似たもの同士は惹かれ合い、または類は友を呼ぶとでも称するべきか、言葉でのやり取りにおいてイエネファーお母様はあまり気は長くない。

 

否、その点においては寧ろゲラルトお父様の方がよっぽど忍耐強くわたしの言葉遊びに付き合ってくれるまであるから、それを鑑みてもイエネファーお母様とでは雲泥の差だった。

 

無論の事、時としてイエネファーお母様はゲラルトお父様を尻に敷いているのか独壇場を見せる場合もあるけれど、往々にしてそれは男女関係においての話であり、特段実の血の繋がりのある娘のわたしの話であるとなればやはり元来あるその一流の魔女としての姿も途端になりをひそめ、平静さを欠いてしまうというのが傍目から見た彼女の評価だと思う。

 

それは何故かと問われればおそらくだけれど、どうして自分の娘であるにも関わらずこれだけの些事がこなせないのだと疑問に思っており、それが理解出来ないと同時に悔しさも一入であるに違いない。

 

つまりはこれらのイエネファーお母様の焦燥じみた苛立ちは全てわたしの才能が至らない所が端を発しており、剣術や魔法においてこの二つ両方共にシリラに及ばない事実が彼女の悲しみに拍車をかけているのではなかろうか。

 

そして当然ながらわたし自身の実力不足はお母様からしたら不満以外の何物でもなく、日々を重ねるにつれてその気持ちも大きくなっているといった具合なんだろう。

 

しかしながら、依然として弁明の機会は与えられていないものの、古き血脈に連なる者と張り合おうと言うのが土台無理な話でありそれはわたし自身諦めている事で、努力などという精神論を語って剣術や魔術の才能が芽生えるのであればとうの昔にきっとこの世界はもっと優しくなれているに違いなかった。

 

ただ確かにイエネファーお母様の語る所には一理あり、この残酷な世界において力無き者はいずれ淘汰されゆく運命にあるというのはわたしとて理解している。

 

とはいえ未だ幼いわたしはあくまで子供としての身分の為、その点を考慮すれば物事を強制されるのを嫌っていても傍目から見てなんら不自然な所はない筈なのだけれど、どうやらお母様にとってはシリラの性格の方が好ましいみたいだった。

 

「お母様、たぶんこれって見解の相違というものだわ。きっとそう。だから紅茶でも飲んで落ち着いて欲しいの」

 

「クラリス、私は貴方と言葉遊びをしている暇は無いの。忙しいのは知っているでしょう?」

 

その様に互いに会話の行き着く先は平素みたく平行線を辿るばかりだというのは理解している筈なのだけれどお母様は尚も説得をやめないから否応にも鬱陶しくなるのは必然だった。

 

だから卓にあるソーサーの上にあるカップへとティーポットから良い匂いのする紅茶を注いでお母様の前に置いた。

 

「あら、お話をしてくれるならお母様はそれをちゃんと飲むべきだわ」

 

「これに口を付けたら言う事を聞いてくれるというのかしら?」

 

「ええ、イエネファーお母様とご一緒するのって、とても楽しいもの」

 

「いいわ。全く本当に貴方のそういう所、誰に似たのかしらね‥」

 

あくまで言葉遊びはわたしなりのコミュニケーションの仕方で、剣術や魔術がてんで駄目なわたしの唯一の取り柄だ。

 

というのも実用書ばかり読まされているシリラとは異なり、わたしは逃避の為にそれはそれは沢山の物語を読んできた。

 

もちろんだからという訳ではないけれど、御伽話や紅茶やお菓子の事ならお母様よりもわたしに一日の長がある。

 

とはいえそんな話などどうやらお母様としては到底するつもりも鼻から無く、早々に紅茶へと口を付けて先ほどにもした魔術について語ろうという本心が鮮明にその表情とおざなりな振る舞いから見て取れる。

 

ならば一体どうやって話を逸らし続けようと此方のペースに持ち込むべくして考えていた所、それも束の間の事、この場へと新たな訪問者が現れる。

 

「二人して茶会の真似事?おままごとも大概にしてよね。それとクラリス。もう稽古は終わっちゃったから」

 

顔を見せるなり早々にそう嫌味を言ってきたのは、泥と汗に塗れた装いで品性のかけらもなくやってきたシリラだった。

 

「相変わらずだなクラリス。またティータイムと洒落込んでいるのか?」

 

そして傍らには精悍な顔立ちで長身の男、ゲラルトお父様が何処か揶揄する様にして腕を組み、いつも通りの毅然とした立ち振る舞いでその場へと佇んでいた。

 

「ひどいわシリラったら。そんな風に言うなんて。ねぇ、ゲラルトお父様もそう思うでしょう?」

 

「ああ。だが化け物と対峙した時もそうしているつもりか?」

 

「ええ。だってそんな機会、ぜったいに訪れないもの」

 

「果たして本当にそうかな」

 

そんな風に何処か皮肉屋な所があるお父様は、いつもの物々しい鎧姿のまま、此方へと歩みを運ばせてくる。

 

けれど饒舌に語るお父様とは対称的な様子でシリラは退屈そうにそっぽを向いて外の景色を眺めていた。

 

やはり身体を動かすのが好きなシリラからしてみれば、彼女の言う通りお茶会なんて興じるには値しないのやもしれない。

 

「お父様、此方にお座りになって」

 

「ああ、だがいいのか?他に席は無いように見えるが」

 

「ええ、けれどこうしてしまえばいいでしょう?」

 

次いでそう促したわたしは、ゲラルトお父様が席に腰を下ろしたその上に自分もお尻を落とした。

 

するとお父様の大きな腕の中にわたしの身体がすっかり納まってしまって、これは普段通りの出来事だった。

 

でもこれに相変わらず過剰に反応するのがシリラであり、彼女は一度顰めっ面とそう称するに相応しい表情で此方を見た。

 

ただそれに対してにこやかな笑みで返すと彼女は何処か拗ねた様子で鼻を鳴らすと顎を背けてそっぽを向いた。

 

「クラリス、貴方のその振る舞いは淑女としてどうなのかしら?」

 

これに一連のその様子を傍目に見ていたイエネファーお母様からまるで苦言のような言葉がすぐさま飛んできた。

 

「いいえお母様、これはとても自然な事だわ。だってわたしはお父様の娘だもの」

 

「全く‥、そうやっていつまでもゲラルトに甘えていてはダメよ。ちゃんと魔術の勉強もしなくちゃ」

 

間髪入れずに反論すると大袈裟に肩をすくめたお母様はわざとらしくため息を吐いて、スラリと長い脚を組む。

 

「でもお母様、それなら決めてもらいましょう。ねぇゲラルトお父様、クラリスは悪い子かしら?」

 

「そんな事はないさ。クラリスには自由に生きて欲しいと思ってる。俺は無理強いには反対だ」

 

「はぁ‥、ゲラルト‥。貴方って本当に自分の娘にはあまあまね。でも私はクラリスの為を思って言っているの。それでもまだ反対だというのかしら?それともなに?私達の娘にこのまま御伽話を読むだけのくだらない暮らしをさせておくつもりなの?」

 

ゲラルトお父様はいつも通りの威厳のある声色でわたしを庇ってくれたけれど、でもお母様も一筋縄ではいかない相手で、口の回り方には彼女に一日の長があるみたいだ。

 

「ああ、クラリスはまだ子供だし好きにさせてやればいい。それに何より俺たちが守ってやればいいだけの話だ」

 

とはいえゲラルトお父様も他人の言葉などを意に介する程意志薄弱ではなく、彼は自分がこうと決めたら一歩も主張を譲らない主義であり、無論柔軟な価値観も持ち合わせてはいるが、基本的に軸を持った人格をしている。

 

その様な塩梅に本日はお茶会と興じながら、平素通りケィアモルヘンでの景色を横目に、このウィッチャーという残酷な世界に転生した事実を今日も今日とてわたしはティータイムの最中、暗澹たる心地で憂いたのでした。

 

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