脱出不能なホラゲに変貌したVR世界をバグで生き残る   作:ぽんたぬ

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第11話 経験のない女の子

 

「いや、待て待て! 俺はモンスターじゃない! だからその矢を俺に向けるなって!」

 

 トオルは今にも自分を射殺そうとしているエルフの美少女に、必死で説得を試みた。だが少女は聞く耳を持たずに弓を構えている。

 

 ここは城内にある倉庫の中だった。モンスターなどの敵はいない。しかし目の前の女の子は、間違いなく自分を射殺そうとしていた。問答無用の敵対行為である。これがマルチプレイのゲームならプレイヤーキラーとみなされるだろう。

 

「嘘です! そんなふざけた頭のプレイヤーがいるわけありません! 私は騙されませんからね!?」

 

「うぐっ、否定できねぇ……」

 

 傍目から見たらトマト頭のモンスターだ。少なくともファイナルクエストでこんな装備をしているプレイヤーは他にいない。

 

 しかし念を押して言っておくが、彼も好きでそうしているわけではない。配信に向けたキャラクター作りの側面もあるが、他の通常プレイヤーたちと違ってトオルは生身の人間。顔バレ防止のために苦肉の策としてトマトを被っているのである。

 実際は行動の邪魔だし、蒸れるし、息苦しい。これを用意した白衣の女(ナギ)には文句を言ってやりたいぐらいだ。

 

「し、しかも貴方の手にある女性モノのパンツは何なんですか! 変態!」

 

「ちっ、違うって! なにか自分でも使えそうなモノはないかって、倉庫の棚を漁っていただけで――」

 

「……それを私が信じるとでも?」

 

「いいから落ち着けって。俺が本当に敵なら、わざわざ説得を試みたりはしねーだろ? だからまずは話を聞けって」

 

「じーっ……」

 

 こんなトマト頭を信じろと言われても無理がある。しかし彼の言い分も一理あった。

 それにミコトが彼を攻撃したところで、初心者の彼女がマトモなダメージを与えられるともあまり考えられない。仕方なく、彼女は弓を下ろすことにした。

 

「……分かりました。ひとまず貴方の話を聞きましょう」

 

「そうしてくれると助かるぜ。実はこのダンジョン化した王城で迷っちまってさ。できれば道案内を頼みたいんだけど……ところで君、『トマトちゃんねる』って知ってる? もしかしてリスナーだったりしない?」

 

「トマト……?」

 

 トオルの言葉に、彼女は不思議そうに首を傾げた。

 

 あぁ、うん。それだけでトオルはすべてを察し、ガックリと肩を落とした。

 だがよくよく考えれば、トオルが配信をしていたのは十年も前である。高校生ぐらいの見た目をした彼女が知らなくても、なんらおかしくはない。自分のメンタルを守るためにも、そう思うことにした。

 

 トオルは苦笑すると、ミコトに向けて手を差し出した。彼女は一瞬、きょとんとした表情を浮かべたが、すぐにその意味を理解したようだ。嬉しそうに微笑むと、彼の手を握り返す。

 

「なら初めましてだな。俺はトマトちゃんだ。これからよろしくな」

 

「はい、こちらこそ!」

 

 二人は握手を交わすと、笑顔を浮かべた。

 

「それじゃあ、早速だけど一緒に行動しよう。俺もこのゲームに慣れてるわけじゃないけど、それでも人数が多い方が安全だと思うからさ。ちなみに君のレベルはいくつ? 俺はさっきモンスターを倒して15レベルになったんだけど」

 

 トオルの質問を受けて、ミコトは自分のステータス画面を開いた。

 そこにはレベル1と書かれている。

 

「……」

 

「……」

 

 しばらく沈黙が流れた後、トオルは口元を引きつらせながら言った。

 

「……えっと、何となく予想はできちゃったんだけど。もしかして君、一度も戦闘をしていないの?」

 

「そうですね、モンスターは一度も倒していないです」

 

「マジか……もしかして関わっちゃマズい人だったか……?」

 

 相手の格好をあらためてよく見て、トオルは気付いてしまった。

 このゲームではキャラクターの外見は自由にいじれるが、基本的には装備品が前面に出る。ぱっと見でも、ミコトのそれはお粗末な物ばかりで、ゲームを始めたばかりの者だと分かった。

 

「し、仕方がないですよ! 私はついさっき始めたばかりなんですから!」

 

「マジで!? ってことはこのゲームは……」

 

「まったく分かりません。というより、ゲームをプレイすること自体が初めてです」

 

 エヘン、と自慢げに薄い胸を反らすミコト。その言葉を聞いて、トオルは頭を抱えたくなった。

 ミコトがゲームのシステムをまるで分かっていないということは、つまり自分が彼女をサポートしてあげなければならないということである。

 

 親の教育事情などでゲームをしない子供がいるのは知ってはいたが……いやはや、面倒事に巻き込まれたものだ。そう思いつつも、彼は不思議と嫌な気分にはなっていなかった。むしろ、この状況を楽しんでいるような自分に気付く。

 

「(まぁ、今回はゲームオーバーになる前のプレイヤーに会えたし。ちゃんと救出できるところを見せた方が、視聴者ウケもいいよな。……なにより、この子って可愛いし)」

 

 事実、今もトマトちゃんねるの視聴者数は上がり続けていた。コメント欄がどこぞのトマトよりも、エルフの美少女の話題で持ちきりなのはやや不満だが。

 

「ごめんなさい。私、本当に何も知らなくて……でも友達が危ないんです。どうか手を貸してください! お願いします!」

 

「友達が? 他のプレイヤーがどこに居るのか知っているのか?」

 

「はい! 私の大切な親友が、恐ろしいモンスターに襲われているんです。だから助けないと……!」

 

 必死に懇願してくるミコトの姿に、トオルは腕を組んで思案する。彼女と出逢えたのは思いの外、ラッキーだったかもしれない。なにしろ救出するべき人は多い。探す手間が減るのは大歓迎だ。

 

「よし、分かった! 俺で役に立てるか分からないけど、やれるだけのことはやってみよう!」

 

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