脱出不能なホラゲに変貌したVR世界をバグで生き残る   作:ぽんたぬ

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第14話 シロの主

「おぉ、それは俺も願ったり叶ったりだよ。ナギさんにもいい報告ができそうだ」

 

 トオルはここへ来た経緯を、あらためてタクミにも説明した。

『アゲハプロダクション』や政府から依頼を受けてプレイヤーたちを救出にきたということは、彼らにとっても朗報だった。

 

「良かった! それじゃあ俺たちは助かるってことですね?」

 

「現状はまだ現世へ帰る手段は見つかってないけど、取り敢えずその救助隊のいるセーフティポイントまで行けば、ある程度は安全だと思うぜ」

 

 不安と恐怖で疲弊していたのだろう。三人は安堵の表情を浮かべその場に座り込んだ――が、そこへタクミが連れてきていた細身の男が割って入ってきた。

 

「おい貴様ら! さっきから僕の居城で、何を訳の分からないことを言っているんだ。さっさとあの怪物を倒さないか!」

 

 男は怒りの形相で、三人を睨み付ける。

 

「なに、この人?」

 

「もしかしてタクミ君が言ってた、無事だったNPCか」

 

「はい、そうなんですが……」

 

 タクミは気まずそうに顔を逸らした。

 彼は城がダンジョン化する前に別のエリアに避難していたため、難を逃れていたらしい。しかもこの男、先程からやたらと偉そうな態度を取っている。どうやら他のNPCとは一線を画す存在のようだ。

 

「栄えある王国のジェイク王子に向かって、何なんだその態度は! 貴様たちがちんたらしている間に、僕の父上たちは次々とモンスターに襲われているというのに……まったく、使えぬ連中め」

 

「ねぇ、この人って元からこんなに性格悪いの? 本当は精神を汚染されてたりしない?」

 

「どうやらこの人、この国の王子らしいんですよ。国王様たちが守護獣のところにいるから、早く助けに行けって……」

 

「はぁ!? こいつ、王子様なの!?」

 

 隣で聞いていたシオンが素っ頓狂な声を上げる。

 それも無理はない。シオンが知る限り、王族という高貴な身分の人間は、こんな粗野で乱暴な性格の持ち主ではないからだ。

 

「この度の災厄で、我が国の守り神であるアルミラージ様が暴走してしまった。だから誰かが一刻も早く鎮める必要があるのだ。さあ、さっさと行くぞ!」

 

「えぇ……」

 

 あまりの傍若無人っぷりに、さすがのトオルもドン引きする。だがタクミは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「すみません、トオルさん。俺はこの人を放っとけないです」

 

「……仕方ねぇな。話の流れからすると、その守護獣ってヤツを元に戻せば脱出できるんだろ? なら俺も一緒に行ってやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 トオルは溜息を吐きながら同行することを告げる。するとタクミは嬉しそうに礼を述べた。

 

「ふんっ、せいぜい僕の足を引っ張らないようにしろよ」

 

「はいはい、分かりましたよっと」

 

 こうしてトオルは新たな仲間とともに、ダンジョン化した王城を進むこととなった。

 

「ところで、そのアルミラージってどんな魔物なんだよ? それが分からなきゃ、俺も対策しようがないぜ」

 

「それは俺が知ってます。確か大きな角が生えた白い兎のような姿で、異様な素早さを持っていると聞いていますが……」

 

「ふーん。まぁ見た目で大体想像つくけど……。まぁ俺がどうにかするから、お前らは後ろで見ててくれ」

 

 トオルはそう言うと、さっそく安全地帯から守護獣のいる王城の監視塔へと向かうこととなった。

 

 

 

「で? あれだけ大口を叩いておきながら、どうしてアンタはウチの彼氏に担いでもらっているわけ?」

 

 一同が監視塔の階段を上る中、シオンのジト目がトオルを射抜く。

 現在トオルは、タクミによって肩車されていた。理由は単純。トオルが動けないと我が儘を言い出したからだった。

 

「だってよ~、勇者は決戦のために余力を残しておかないとだろ~?」

 

「いい年した大人が情け無い……」

 

「なにおう!?」

 

「まぁまぁ。トオルさんは俺たちと違って生身なんだしさ、今後のためだと思ってシオンも我慢してくれよ」

 

「むぅ~、タクミは優しすぎるのよ! ……普通なら彼女のウチがおんぶしてもらうべきなのに」

 

 恨めしい目で見つめてくる彼女の頭に、タクミは慰めるように優しく手を置いて撫でてた。男として格の違いを見せつけられたトオルは悔しそうに歯噛みするが、それ以上の反論はしなかった。

 

 そんなやり取りを交わしつつ長い長い階段を上り終えると、やがて広々とした空間に出た。

 

「やっと着いた……」

 

「いや、アンタはずっとタクミに背負ってもらってたでしょ?」

 

 タクミの背中から降りたトオルは、シオンのセリフを無視して「うーん」と背伸びをしていた。

 

「ここに守護獣がいるのかな?」

 

「僕が助けに来ましたよ父上! どこにいらっしゃるのですか!?」

 

 この先に討伐対象がいるはずだと意気込む一同だったが、そこで問題が発生する。

 

「そ、そんな……父上、母上!」

 

 王子の視線の先には、たしかに国王と王妃らしき人物がいた。しかし二人は半身ずつ融合した、恐ろしい怪物の姿へと変えられてしまっていた。

 

「「じぇ、イク……おねが……たす、ケテ……」」

 

「お、おいおい……マジかよ」

 

「ひ、酷い……」

 

 一つの体に二つの頭があり、それぞれが同時に男女の声を上げる。それがかなりの不協和音となっていて、トオルたちの恐怖をより煽っていた。さらに恐ろしいことに、合体した怪物はまだ人間だった時の意識があるのか、涙を流しながら助けを求めていた。

 

「なんなのよこいつら……」

 

「トオルさん、まさかこれも怪異の影響なんですか?」

 

「おそらくな……こうなってしまってはもう元には戻せない」

 

 タクミは辛そうに目を背けた。

 たとえ彼らがNPCであっても、このような悲惨な光景は見たくないのだろう。

 

 だが、トオルは違った。覚悟を決めた表情でモンスターとなってしまった国王たちを見つめる。自分がやらねばなるまい。それがたとえ残酷な選択であったとしても。

 

「くっ、崇高な父上たちがこんな醜悪な生き物に……! 絶対に許せないっ、僕は認めないぞ!」

 

「おい待て、迂闊に近づくな!」

 

 怒りの感情に呑まれた王子はトオルの制止の声をまるで聞こうとしない。腰元の剣を抜き、守護獣を探してキョロキョロを辺りを探し始めた。だがフロアのどこにもそれらしき姿はない。

 

「危ないっ、上よ!」

 

「なに? ――ぐあっ!」

 

 最初に気付いたミコトが声を発した。だが警告もむなしく、天井から降ってきた何者かの餌食となってしまった。

 

「ジェイク!」

 

「ジェイク王子!」

 

 王子は首から血を流し、その場に倒れ伏す。生首がゴロゴロと床を転がっていき、国王&王妃の化け物にぶつかって止まった。あまりに一瞬の出来事で、斬られた本人も何が起きたのか分からないといった顔をしていた。

 

「あれが……この国の守護獣……!」

 

 トオルの視界の先で、王子を惨殺した巨大な黒い兎は、血に濡れた鋭い爪を嬉しそうにペロリと舐めた。

 

 

 

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