脱出不能なホラゲに変貌したVR世界をバグで生き残る   作:ぽんたぬ

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第16話 トマト投げ祭り

 

「じゃあヴォーパルバニーの異常行動は?」

 

「モンスターは攻撃モーションに入ると、その動作が終わるまで次の行動ができないんだ。でも命中は絶対にしないから、エンドレスに同じ行動をし続ける」

 

 ゲームの設定上、一度ターゲティングすると当たるまで同じ行動を続けるようになっている。変異したヴォーパルバニーも例外に漏れず、その制約に縛られてしまっていた。

 

 トオルが自らあの爪に当たりにでもいかない限り、ヴォーパルバニーはいつまでも今のままだということだ。

 

「でもこのままでは、勝つこともできないのでは……?」

 

「それに関しても、ちょっと考えがあるんだ」

 

 そう言うと、トオルは物陰に隠れていたシオンを呼び戻す。

 

「なぁ、魔法でコイツのステータスを見ることってできるか?」

 

「うん、できるけど……」

 

「じゃあ頼む」

 

「わ、わかったわ」

 

 シオンは杖をかざして呪文を唱えた。

 すると空中にウィンドウが現れ、ヴォーパルバニーの情報が露わになった。

 

「うわ、レベルが999だってよ。HPとMPも数万……途方もない数値になってんだけど」

 

「ウチとタクミがだいたい40レベルだけど、精々が千ちょっとだよ?」

 

「……ひえぇ、本物の怪物だぁ」

 

「い、挑まなくて良かったよ俺」

 

 シオンたち三人組は改めて敵の脅威に恐怖する。こんなステータスの化け物に勝てるわけがない。

 

「でもまぁ、なんとかなるんじゃね?」

 

「は?」

 

「俺の秘策はひとつだけじゃないってこと」

 

 トオルは自信満々にそう言った。

 

「イレギュラーにはイレギュラーってね。みんな、ありったけの回復をコイツにぶつけるぞ」

 

「「「えっ?」」」

 

 異なる口から同じ音を出す三人を余所に、トオルは持っていた回復薬を次々とヴォーパルバニーに投げ始めた。せっかく追い詰めたというのに敵に塩を送るどころか薬を与えるなんて、自殺行為にしか思えなかった。

 

「ちょっ、トオルさん! そんなことしたら……」

 

「大丈夫、見てろって」

 

 トオルはポーションをヴォーパルバニーの体に当てながら、さらに別のアイテムを取り出した。

 

「二人とも、トオルさんを信じてみようよ!」

 

「……そうね、ここまできたらウチらも腹を括るわよ! タクミ!」

 

「おう! 残りMP全部使い切るつもりでいくぞ!」

 

 タクミたちはトオルの考えた作戦に乗った。

 

「……よし、これで準備完了っと」

 

 トオルは最後のポーションをヴォーパルバニーの体に振りかけると、ゆっくりと聖剣を振り上げた。

 

「さぁてと、反撃開始といきますか!」

 

 そのセリフと共に、トオルは聖剣を勢いよく敵の脳天に叩きつけた。

 

「ぎゃぴっ!?」

 

 ゴッという鈍い音が部屋に響きわたる。短い悲鳴を上げたヴォーパルバニーは一瞬だけ呆けたような顔をしたあと、そのまま後ろへ倒れた。

 

「え……?」

 

「は……?」

 

「わぁ~、一撃?」

 

 タクミとシオンは突然の出来事に理解が追いつかなかった。ミコトは凄い凄いと拍手をしている。

 

 目の前の男はいったい何をしたのか。なんでヴォーパルバニーは死んだのか。

 

「え、ホントにHPが0になってるんだけど……ねぇタクミ、何が起きたの?」

 

 再度ステータスを確認したシオンが隣にいた彼氏に訊ねた。

 

「考えられるとしたら……オーバーフロー?」

 

「おぉー、さすがタクミ君。これは知ってたんだ」

 

「いや、まさか本当に起こるとは思わなかったです」

 

 オーバーフローとはゲームにおいて、処理能力の限界を超えたデータが入力された時に起きるエラーだ。

 

 今回の場合で言えば、ラスボスもビックリな異常なHPを誇るヴォーパルバニーを敢えて回復させることで、HP上限を無理やり超えさせた。その結果オーバーフローが起こり、一周回って数万から数百、数十のHPへと変わってしまった。そこへトオルが止めを刺したというところだろう。

 

 このオーバーフローは昔のゲームでは度々起こっていたバグで、他にも一時的にレベルを上げるアイテムを敵に使って弱体化をさせるという裏ワザもあった。本来なら低レベルクリアをする際に使うような技術なのだが……。

 

「トオルさん、もしかして最初からコレを狙ってたんですか?」

 

「でも、そんなことできるの? 今のゲームってAIとか使ってるから、そういうバグは起こらなくなっちゃんじゃ……」

 

 いまやeスポーツとしてゲームのプロプレイヤーが世界で活躍している時代だ。過去に人間の技術に頼らないバグ技やチート行為が起こり、社会問題になりかけたことがあったため、現在はAIによるプログラムが組まれている。

 

 そのため、ゲーム内にそういったバグが発生することはほぼなくなったはず。

 シオンがそう指摘すると、トオルも腕を組んで「うーん」と唸った。

 

「自分でいろいろやっておいてなんだけど、たしかにそうなんだよなー。怪異のせいでガバガバになってるのかも?」

 

 どうやら彼にも理由は分からないらしい。だがそのおかげで助かったことは事実なので、タクミは深く考えるのをやめた。

 

「まぁ、いっか。とりあえず今は喜ぶことにしようぜ!」

 

「うん!」

 

「そうですね」

 

「はぁ……ウチはもう帰れればなんでもいいわ」

 

 こうしてトオルの思惑通り、怪異の元凶は倒されたのだった。

 

「ぎゅ、ぎゅぴ……?」

 

 

 しばらくすると、トオルの打撃で気を失っていたヴォーパルバニーが目を覚ました。

 

 今は体毛が黒から白へと変わり、邪悪な雰囲気も無くなっている。どうやらHPが0になったことで、元の守護獣の姿に戻ったようだ。

 

「ぎゅぴぃ……」

 

「他のNPCは戻らなかったようだな……残念だけど」

 

 融合していた国王と王妃のモンスターを始め、王城内にいた兵士や侍女などは戻ってこなかった。

 そして少なくない数のプレイヤーたちの息絶えた亡骸も見つかっていた。

 

「行こう。それにすべての怪異が収まったら、データ修復で元通りになるかもしれないだろ」

 

「ぎゅぴっ……」

 

 トオルの言葉を聞いたヴォーパルバニーは、何かを悟ったように静かに涙を流した。

 

「さっきは思いっきりぶっ叩いて悪かった。……お前はここでみんなが戻ってくるのを待つといい」

 

「ぎゅっ……」

 

 トオルの提案に、ヴォーパルバニーは首を横に振った。

 

「なんだよ、俺についてくるっていうのか?」

 

「ぎゅぴっ!」

 

「そうか、じゃあ一緒に来るか?」

 

「ぎゅぴぴぴっ!」

 

 ヴォーパルバニーは嬉しそうに返事をした。その様子を見ていたタクミたちも自然と笑顔になっていた。

 

 

「……ん?」

 

 一同を引き連れて救助隊の居る避難所へ向かおうとしたとき、トオルは何かに気が付いた。監視塔の窓から、中庭を歩く人影が見えたのだ。

 

「どうしたんです?」

 

「いや、知り合いが居たような気がして……」

 

 ファイナルクエストのマップは広い。王城以外にもプレイヤーは数多くいる。怪異から解放された今、様子を見にやってきた人がチラホラといた。

 

「トオルさん? 会いに行かなくていいんですか?」

 

「……大丈夫だ。きっと見間違いだったと思う」

 

 ポツリとそう呟くと、トオルは一人で監視塔の会談へと向かってしまった。

 珍しく歯切れの悪い反応を見せる彼に首を傾げながらも、一行はその場を後にした。

 

「糸野真由……? いや、まさかな」

 

 かつての友人であり、自身を裏切って消えた人物。その影を思い出しながら、トオルは複雑な気持ちを抱いていた。

 

 

 ――――仮想世界に囚われた人数、残り872名。(210名死亡)

 

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