脱出不能なホラゲに変貌したVR世界をバグで生き残る 作:ぽんたぬ
現実世界の怪異対策室。
アゲハプロダクションの代表、逆左凪は部下の報告を聞いて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
「……つまり、あの鳥居はプレイヤーを仮想世界へ閉じ込めるために用意されたものだということ?」
「はい。その可能性が高いです」
ドン、と机を叩きつける音が響く。机の上にあったコーヒーのカップが倒れて書類を汚した。
「ふざけた真似をしてくれるじゃない。誰が黒幕か知らないけど、絶対に許さないわよ」
「現在、2nd.ユニバースに取り残された人命は1082名であると確認がとれています。そのうちゲームオーバーとなったのは既に200名を突破。今後も増加するとみて間違いありません」
「救助隊のメンバーは無事なの?」
「はい。しかし何度かの怪異と遭遇により、数名の犠牲者が出たようです」
その言葉を聞いた瞬間、ナギの顔が青ざめた。多少の覚悟はしていたが、改めて犠牲者の数を聞くとショックが大きかった。
「政府により、正式な発表はまだ控えてくれとの要請がありました」
「それはどうして?」
「恐らく混乱の防止と、遺族への配慮でしょう」
「……でしょうね」
プレイヤーと違って、死んだら終わりである。しかも化け物に家族を殺されたというショッキングな出来事だ。
救助隊の前に出発した調査隊の惨状を見たナギも、同じ気持ちだった。もし自分が関係者の立場だったらと想像すると、とてもではないが公にはできない。
「救助活動や原因の究明は進んでいるのよね?」
「現在、救出作戦は進行中です。原因となっている怪異は依然として見つからず、進展は見られません。鳥居以外からのアクセスは不可能で、内部からしか干渉できない仕組みになっているようです」
「そう……」
元凶が見つからないということは、こちら側からできることは何もないということだ。歯がゆい思いを抱えながらも、ナギは自分にできる最善を模索するしかなかった。
「私に何か手伝えることはあるかしら?」
「いえ、代表には待機して頂くのが一番かと。下手に動くことで二次被害が起きる可能性がありますので、ご理解ください」
「……分かってるわよ」
ナギが指示を出しても、所詮は一般人だ。怪異を相手にして、対抗する術を持たない。今はまだ、大人しく待つことしかできなかった。
「我々ができるのは、一刻も早く被害者を救出し、事態を収束させることです」
自分の無力さが悔しい。歯を食いしばりながら、ナギは拳を握りしめる。
「……引き続き、現場の指揮をよろしくお願いします」
そう言って、部下の男は部屋を出て行った。一人になった室内で、ナギは大きくため息をつく。
「私がもっとしっかりしていれば、みんなを助けられたかもしれないのに……!」
机に突っ伏しながら、自分の非力さを嘆いていた。そしてふと、机の上にある写真へと視線を向ける。
そこには、二人の幼い少女が並んでいた。
「…………こんなとき、マユが居れば……」
小声で呟きながら、ナギは静かに泣き続けたのであった……。