脱出不能なホラゲに変貌したVR世界をバグで生き残る   作:ぽんたぬ

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第9話 Re-Birth(リ・バース)

 

 ファイナルクエスト。

 それはエニウェアソフトが開発した伝説的な王道ロールプレイングゲームであり、なんと初代ファイナルクエストが発売されたのは百年以上前のこと。数々のハードを経た今、プラットフォームを2nd.ユニバースへと移した。

 

 最新のVR技術を使用することで、新作のファイナルクエストXXXはよりリアルな舞台を冒険できるようになったのだ。その人気ぶりは、もはや社会現象にまで発展していた。

 老いも若いも、性別も関係ない。誰もが勇者となって、魔王討伐の旅に出発するのである。

 

 ――だが、それも数時間前までの話。

 雄大で美しいファンタジーの世界も、謎の怪異発生によって一変してしまっていた。

 

「ううぅ……みんなぁ~? どこ行っちゃったのよぉ」

 

 ヴェルガディア国、王都。

 強大な守護獣と堅牢な城壁によって守られた、平和の象徴たる大都市。その中心に位置するのは、煌びやかな外観をした白亜の城。

 だが現在は異界化による浸食により、モンスター溢れるダンジョンへと変貌していた。

 

「ねぇ、どこにいるのよ。……返事してよ」

 

 深夜のヴェルガディア城内では、ある少女が孤独に震えていた。

 

「お願い……一人にしないで」

 

 外見は高校生ぐらいで、小柄ながらも均整の取れたスタイルの持ち主。

 その瞳は澄み切った空のように青く、腰まで伸びた長い髪は毛先に近づくほど鮮やかな緑色に染まっている。まるで自然の息吹を体現しているかのような、神秘的な美少女エルフであった。

 

 ゲーム開始時に与えられる簡素な初期装備の弓を手に、薄暗い王城の廊下を恐る恐る歩き回る。不安に押し潰されそうな心を必死に奮い立たせ、希望の光を探し求めているようだ。

 

「ミコト!? ミコトだよね!?」

 

「……だれっ!?」

 

 突然、床に置かれている甲冑の影から声をかけられる。

 慌てて振り向くと、そこには魔法使いのローブを着た黒髪の少女がいた。

 

「ああ、良かった! 生きてたのね! ウチだよ、親友のシオンだってば!」

 

「シオンちゃん!? 私を置いてどこ行ってたの!」

 

 シオンは見知った顔の少女に駆け寄ると、涙を流しながら抱きついた。互いに心からホッとした表情を浮かべている。

 

「えへへ、ゴメンね。タクミったら化け物を見るなり、『彼女のシオンを優先させる』ってウチの手を引っ張って走り出しちゃってさ。ウチもウチで、逃げるのに必死になっちゃって……」

 

 感動の再会を果たしたシオンはさっそく気が緩んだのか、テヘヘと舌を出して笑う。

 

 なんと、シオンたちはミコトを置き去りにして逃げたようだった。

 それを聞いたミコトの顔がみるみると曇っていく。目に涙を溜めると、今にも泣き出しそうな声で訴えた。

 

「私、仲間はずれにされて、ずっとひとりぼっちで……寂しかったよぉ」

 

「ちょ、泣かないでよ。分かった、分かったって。ごめん、ウチらが悪かったよ。とりあえず、どこか安全な場所へ移動しよう。そこで作戦会議ね。ね? いいでしょ?」

 

「うっ、ぐすっ……うん、わかった」

 

 涙を拭いながらコクリと小さく首肯する。

 シオンは覚悟を決めると、ミコトを連れて行動を開始した。

 

「ほら、行くよ」

 

「待ってよシオンちゃん。置いていかないで」

 

 二人で手を繋ぎながら廊下を歩いていく。王城は広大であり、探索するには時間がかかりそうだ。

 

 そうしてしばらくすると、二人は中庭に面した回廊へと辿り着いた。周囲には花壇や噴水が設置されていた。二人は物陰に身を潜めると、こっそりと覗き込むようにして辺りの様子を窺う。

 

 幸いにも、中庭は王城の中でも比較的安全な区画だった。ここはモンスターの気配もなく、遮蔽物が多い。彼女たちが隠れているガーゴイル像も身を隠すには丁度良かった。

 

 

「ねぇ、どうやってここから脱出するの?」

 

「そこなのよね~。いくら探しても全然出口が見つからないの」

 

 中庭ひとつとっても広大で、脱出ルートを探すのは容易ではない。二人が再会してからすでに数十分が経過しており、焦りばかりが募っていた。

 

「(ここは安全そうだけど、いつまでも隠れてはいられないわね)」

 

 いつ何時、敵に襲われるとも限らない。ミコトは勇気を出して隣にいるシオンに移動を提案することにした。

 

 そんなとき、ふいに何かの音が聞こえてくる。

 

 ――ピコンッ。

 

「あっ、タクミだ!」

 

「え? なに? 今の音は……」

 

「ステータス画面の通知! ほら、見て」

 

 シオンに言われるまま覗いてみると、そこには『新着メッセージがあります』と表示されていた。どうやら彼は、シオンのことが心配で連絡を入れてきたようだ。

 

「そういえば、タクミ君は今どこにいるの?」

 

 先ほどの話の通りなら、シオンは彼氏と共に行動していたはずである。だが彼の姿はどこにもない。

 

 不思議に思って居場所を訊ねると、返信をしていたシオンは目をキッと逆三角に尖らせた。

 

「途中で居合わせた他のプレイヤーさんたちと一緒に、王城の中を偵察しているみたい。危ないからシオンは隠れてろって言われてさ~、彼女を放置って酷くない!?」

 

 そう言って頬を膨らませるシオン。つい先ほど、自分も友人を置いていったことはすっかり忘れている。そんな彼女の態度がなんだか可笑しくなり、クスクスと笑うミコト。

 

「だから甲冑の影に隠れていたんだね」

 

「も~、笑いごとじゃないんだからね!? 隠れたってちっとも安全じゃないしさ。NPCの兵士さんとかメイドさん、みーんなモンスターになって城を徘徊してるの! アレ、めっちゃ怖いんだから!」

 

 シオンの言う通り、王城は今や危険な化け物の住処となっていた。

 ガーゴイル像の陰からこっそりと城の中を覗く。あちこちに異形の怪物たちが闊歩しており、中には人型だった者の姿もある。

 

 彼らはいずれも、本来ならばゲーム内に登場するはずの存在だ。

 話しかけても日常会話しか返さない完全なモブもいるが、中には冒険する上でのヒントをくれるようなお役立ちキャラも存在している。

 

 しかし今は、彼らの姿は見るも無残なものになっていた。

 全身は腐り落ち、肌は爛れ、眼球は溶け、肉片が飛び散って骨が見え隠れしている。さらには頭部だけが残った者や、身体の一部が欠損したまま動き回っている者もいた。

 それはまさに地獄絵図と呼ぶに相応しい光景だった。

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