ハリー・ポッターとマンキュニアンの少年   作:キラキラ武士

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「Ah’m David “Fookin’” Johnson, from Manchesta. Spell it reet, say it loud, an’ stop starin’ at me earrin’, ya wanka」


Up In The Sky

寝室を共にするグリフィンドールの一年男子六名には、それぞれ“いつもの面子”というものがあった。

ポッターとロンは、朝から晩までほとんど連結している列車のようで、どこへ行くにも二人一緒――デイヴは内心、あれはもう“できてる”のでは、と半分本気で疑っていた。

 

デイヴはディーン、シェーマスと組むのが常だ。デイヴがふらりと一人で姿を消す時や、ツインズ(フレッドとジョージをデイヴが一緒くたに呼ぶときの総称)とリーに誘われた時を除けば、大抵その三人で動いている。ネビルはたいてい一人でいるが、授業や食事どきにはディーンやシェーマスが必ず声を掛け、輪へ引き入れる。デイヴはあからさまに渋い顔をするのだが、「可哀想だから」という一点で黙認していた。

 

そんな折、火種は小さな一言から落ちた。

ロンが、デイヴとディーンが寝室に貼っていたフットボールのポスター――汗に濡れた選手がスパイクで芝をえぐり、白球が夕焼けのピッチを切り裂く瞬間――を指差して言ったのだ。

 

「サッカーって面白いの? あんなの、ただボール一個追い回して疲れるだけじゃん」

 

フットボール小僧である二人には、絶対に飲み込めない禁句が二つある。

ひとつ、フットボールを「つまらない」と言うこと。

もうひとつ、フットボールを「サッカー」と呼ぶこと。

 

空気が、ぱきん、と鳴った。

 

「よう、Ginger*1。まず“サッカー”じゃねえ、“フットボール”って言え。それはYankee*2どものおかしな言い方だ。二度と口にすんな」デイヴが吐き捨てる。

「それに、フットボールはそんな単純なもんじゃない。奥が深くて、熱い。そんな“たかがボール一個追い回すだけ”の競技に、ブリテン中が熱狂すると思うか、Lad*3?」ディーンが真顔で切り返した。

 

ロンはまだ食い下がる。「でも、クィディッチは空だぞ? 空!」

「――速い、偉い、すごい。はいはい。」デイヴが肩をすくめる。「じゃ、地面で九十分戦う“フットボール”の話に戻ろうか」

 

「“マン・ユナイテッド”は聞いたことあるか?」とディーン。

「えっと……マン・ユー?」

その一言で、デイヴの眉がぴくりと吊り上がる。

「“マン・ユー”って呼ぶな。敵が使う呼び方だ。ユナイテッド――レッド・デビルズ、だ」

 

ディーンはニヤリとした。「でも僕は“Man U”って呼ぶ。ファーギー・タイム持ち、お上品な観客、世界の中心みたいな顔のスクールボーイたち、ね」

「言うじゃねえか、ウェストハム。」デイヴはえんじと水色のスカーフを二本指で持ち上げる。「泡吹いて歌ってるだけの“バブルズ”。リオは売る、ランパードはチェルシー行き*4。アカデミー・オブ・フットボール? “他所の優勝請負所”だろ」

「持ってかれるってことは、まず作ってるってことだ、Lad。うちは育てる。ファーディナンド、ランパード、ジョー・コール、キャリック。スパインを作る工房がどこか、教えてあげようか?」

「棚はスカスカだな。ユナイテッドは三連覇済み*5。トレブルだって、まだ温もりが残ってる」

「過去の栄光は腹の足しにならない。で――現実の話を。FA杯、ディ・カニオがバルテズの前で歩いて押し込んだあのゴール。覚えてる?」

 

二人の肩が、ごつんと当たった。

ロンが「キャノンズは――」と言いかけ、「黙ってろ、ウィーズリー!」がハモる。

シェーマスは枕を抱え、酒場の端席みたいな顔で見守っていた。

 

「やんのかよ、Cockney boy(コックニーボーイ)」デイヴが胸先を人差し指で小突く。「ここじゃママは助けに来ねえ」

「お里が知れるな、Manc(マンク)」ディーンは指を払いのけ、肩で押し返す。「学校だ。マンチェスター名物の“暴力”でも披露するか?」

「暴力じゃねえ、ボディチェックだ――プレミア基準な」

「口だけだろ、mate。どうした、Man U。その程度か?」

 

薄い音がして、目に見えないスイッチが入った。

 

デイヴがディーンの襟をわしづかみにする。「言い直せ。ユナイテッド、だ」

「やだね。Man U」

「……四回目だな」

 

ディーンも襟を掴み返し、二人はぐっと引き寄せ合う。前腕と前腕が軋む。足がラグの縁で絡み、腰で弾き、肩で受け、胸で押す。

押し合いは、するりと崩れた。ディーンが手首を払ってスペースを作り、左肩で押し込みながら右のボディを短く突く。

鈍い息が漏れる。「っ……」

デイヴは下がらない。肘で距離を作り、至近距離のジャブを一発返す。頬がわずかに跳ね、二人の呼吸が荒くなる。

 

「ケ、ケンカはだめだよ……」ネビルが小声で怯えながら言う

だが、もう止まらない。

 

ディーンの踏み込み。デイヴの肩入れ。襟が引かれて、床へ。

ラグの上で転がり、先に立ち上がったデイヴが、振りほどいた反動で右を振る。

乾いた音。ディーンの頬が揺れ、目が細くなる。

間髪入れず、ディーンが真っ直ぐ返した。デイヴの口角が切れ、鉄の味が広がる。

 

ロンが青ざめて立ち上がる。「パ、パーシー呼んでくる!」

二人はもう誰の声も聞こえていない。

シェーマスはため息をひとつ。「まずいな……」

 

もう一発。今度は肩と肩がぶつかる音が大きい。

二人は低く構え、狭い寮部屋をピッチに見立てたみたいに間合いを探る。九十分の体さばきが、四畳半でぎりぎりまで圧縮される。

デイヴが斜めに踏み込み、ディーンの軸足を外から払う――つもりが、ラグの段差に自分の踵が引っかかり、体勢が潰れる。

そこへディーンのショート。頬骨に当たり、視界が白く弾けた。

 

ちょうどその時、扉が強く開いて、パーシーが真っ赤な顔で飛び込んできた。「ここで何をしている――!」

 

空気が割れ、二人の拳がぶら下がったまま止まる。

肩で息をする音だけが部屋に残る。

デイヴの口元から赤い筋が落ち、ディーンの頬はうっすら腫れ始めている。ロンは床で目を白黒させ、シェーマスは枕をゆっくり下ろした。ハリーは眉を寄せて、何も言わない。

 

その夜、マダム・ポンフリーに連れられて浅い消毒と冷却。

パーシー経由でマクゴナガルの叱責。「グリフィンドールは勇敢である前に理性的でありなさい」

二人並べて、反省文。

「フットボールの話題を持ち込んだこと」「暴力を先に振るったのはどちらか」――どの欄にも決定的な主語は書かれず、インクが乾くまでの間だけ、沈黙が同意の形を取った。

 

翌日。

朝食の大広間で、デイヴは窓際、ディーンは通路側。間にシェーマスとネビルと、ハリーとロン。

誰もその話題を出さない。スクランブルエッグが冷えていく。パンプキンジュースが薄く汗をかく。

シェーマスが気圧を読んで、「……天気、晴れだな」とだけ言い、ネビルはパンをちぎる手を落とす。ロンは「キャノンズがさ」と言いかけて、ハリーに肘で止められた。

 

授業の移動でも、図書館でも、すれ違えば視線はほんの少し下を向く。

声を掛ければ終わるのはわかっている。けれどその一言が、一番難しい。

マンチェスターとウェストハム。赤い悪魔と泡。栄冠と工房。

それでも――今日だけは、それぞれの側に座ることにした。

 

夕方、寮の階段。

上がってきたディーンと、下りてきたデイヴが、踊り場で出くわす。

一瞬、止まる。

目が合い、どちらともなく視線がずれて、手すりに触れる指先が同じリズムで二度、三度と鳴った。

言葉は出ない。代わりに、ほとんど不可視の頷き。

“明日なら、言える”。

 

二人は逆方向へ歩き出した。

廊下の角でハリーと目が合い、彼は小さく肩をすくめる。

気まずさは、まだそこにある。

けれど――その気まずさごと明日に回せるくらいには、二人とも若かった。

 

さて、そんなこともあったが、彼らはまだ十一歳だ。

いつの間にか、シェーマスの知らぬところで二人はさっさと仲直りしていて、事情を最後まで見届けられなかったシェーマスは思わず地団駄を踏む羽目になった。

しかも以前よりいくらか打ち解けた風で、肩が触れれば、ひょいと譲る。笑い声も軽い。

――なら、僕も一回くらい喧嘩を売ってみようか。

そんな気の迷いを、シェーマスはこっそり胸の内で転がしてみるのだった。

 

そうして休日が来た。

いつもより早く目が覚めてしまったデイヴは、今から寝直せば昼まで眠ってしまうだろうと考え、そっとベッドを抜け出した。

 

談話室の掲示板には「飛行訓練」の紙が貼り出され、グリフィンドールの一年生たちがその下で口々に騒いでいる。ポッターは最初こそ目を輝かせていたが、相手がスリザリンとの合同授業だと知った途端、顔を曇らせ、ぶつぶつと泣き言を並べていた。デイヴはそれを、頬杖をつきながら面白そうに眺めていた。

 

やがて大広間に下りて朝食をとると、スリザリンのテーブルではマルフォイが相変わらず得意げに声を張り上げていた。山と積んだ菓子箱の陰から、箒で飛んでいたときに“ヘリコプターにぶつかりかけただの”、一年生をクィディッチの選手にしないのは「機会の損失」だのと宣っている。

デイヴは一瞥もくれず、椅子を乱暴に引きずり出して腰を下ろした。ディーンとシェーマスはまだ寝ている。昨夜、プレミアリーグの今期の展望について夜更けまで語り合っていたからに違いない。

 

前の席では、グレンジャーが箒に関する本を塔のように積み上げ、その一冊を熱心に読みふけっていた。『箒の歴史』の分厚い背表紙、『クィディッチ今昔』、さらに『賢い箒の選び方』と題された雑誌のバックナンバーが何冊も重ねられている。

 

デイヴはカップに紅茶を注ぎ、一口すすってから、その山の一番上にあった雑誌を取り上げた。ページをぱらぱらとめくる。

――コメット260の新作批評。「扱いやすいがそれだけ。安定以外に特色がなく、退屈な箒」

――クリーンスイープの最新作考察。

――ニンバス社の最新機種、ニンバス2000をひたすら絶賛する記事。

――幻の名品とされるシルバーアローを求める恒例の企画。

 

エトセトラ、エトセトラ。

箒の世界も、結局は“プレミア”と同じく評価と噂の渦なのだと、デイヴは口元だけで笑った。

 

「――ちょっと」

 

顔を上げると、グレンジャーが分厚い本の山から目だけを覗かせてこちらを見ていた。

 

「それ、私が借りたやつよ」

 

デイヴは唇の端を上げる。

 

「なんだよ、いいじゃん。減るもんじゃないし」

 

グレンジャーはしおりを丁寧に差し込み、本を閉じると、顎をわずかに上げてはきはきと言った。

 

「“いいじゃん”じゃないの。失くしたり汚したりしたらどうするの? あなたも私も怒られるわよ。減点になったら、責任取れるの?」

 

デイヴはわざと考える間を置き、薄く笑って肩をすくめ、素直に雑誌を山の上へ戻した。

 

「悪かった。君の言うとおりだ」

 

彼はカップを取り、ちょうど飲み頃に冷めた紅茶を飲み干すと、金色の皿を引き寄せた。ベーコンをどっさり、目玉焼きを二枚、さらにトーストを三枚――手際よく載せていく。トーストはきつね色で、表面が軽く鳴った。

デイヴは分厚いベーコンをナイフで端から丁寧に切って口へ運び、銀のポットからバターをたっぷりと塗ったトーストに、ためらいなく齧りつく。

 

「……チッ、今日は半熟かよ。ついてねぇな」

 

グレンジャーが視線を寄越しているのに気づき、デイヴは嚥下してから、片眉をわずかに跳ね上げた。目玉焼きの焼き加減を確かめる仕草のまま、無言で「何か?」と問う。

 

「いえ、なんでもないわ」

「そ」

 

デイヴはすぐに食事へ戻った。さっき舌打ちしておきながら、目玉焼きとトーストを一枚ぺろりと平らげる。二枚目は薄く切ったベーコンを敷き、その上に目玉焼きを載せて即席のサンドに。黄身が指先に少し垂れ、皿へと零れても気にしない。そのまま、これもぺろりと片づけてしまった。

 

「食べないの?」

 

デイヴは手についた黄身をナプキンで拭いながら、何気なく声をかけた。

ハッとしたように、彼女は控えめな量の朝食をよそい、口を小さく動かして食べ始める。

 

しばらく無言のまま。やがて、彼の視線に気づいたグレンジャーが咳払いをして言う。

 

「……何か?」

 

目が合った。

同じ寮で同じ学年なのに、こうして真正面から彼の顔を見ることはほとんどなかった――と彼女は気づく。彼らの一団は、席に余裕があるかぎり後ろに陣取る。彼女はたいてい一番前だ。だから授業中に彼の横顔すら見ない。図書館では皆が本へ視線を落とすし、談話室へ戻るときは、背の高い彼を少し見上げる位置になる。

 

正面から見ると、整った顔立ちがはっきりする。

髪は少し長めで、わずかにウェーブのある漆黒。前髪は無造作に真ん中で分け、額がのぞくぶん、どこか少年めいて見える。

まつ毛は嫉妬するほど長い。切れ長の目。瞳は少し暗いブルーで、光の加減で明るく瞬いたかと思えば、深い海底のように沈む。

輪郭はほっそりとシャープで、わずかに張った頬骨が逆に大人びた印象を添える。鼻筋はすっと通り、口元は少しだけ揶揄うように歪む――けれど、その笑みの温度はやわらかい。

肌はうっすらと日焼けし、よく見ると、ところどころに細い傷の線が残っている。

 

グレンジャーはそこで我に返り、視線を皿へ落とした。

デイヴの皿の上で、ナイフが静かに皿を鳴らした。

 

「いや、別に」

 

彼は左耳のフープを無意識に撫でながら続ける。そして一度弾いた。キンとした音ともに、太陽の光を反射してキラリと光る。

 

「悪い意味じゃないんだけどさ、いつも一人だと思って」

 

グレンジャーはきっと彼を睨み、はっきりと言い返した。

 

「一人でいるのが悪いわけ? 勉強してるだけよ。余計なおしゃべりをしてる暇はないの」

 

デイヴは口の端をわずかに下げ、上目づかいで彼女を見る。

 

「別にそういうわけじゃない。だけど、まあ……」

 

次の言葉をひとつ転がし、間を置いてから続けた。

 

「――一人だと、つまんねえだろ? それに、隣に誰かいるってだけで、案外楽になる」

 

グレンジャーは返す言葉を探し、フォークの先で皿をちいさく一度、鳴らした。

 

「……それは、まあ……理屈としては、わかるけど」

 

「じゃあさ」デイヴは空のカップを指先でくるりと回し、天気でも話すみたいな調子で言った。

「俺ら、もう友達?」

 

間が落ちた。

“もう”――その軽さに、グレンジャーは一瞬だけ瞬く。からかい半分の顔つきに、逃げ道を残すやさしさがまじる。断っても傷にならないように、という配慮が先に伝わった。

 

「友達って……そんな、簡単に決めるものじゃないと思うわ」

 

言いながら、声は思ったより尖っていない。自覚して、頬がわずかに熱くなる。

 

「難しくしてもいいけど?」デイヴが笑う。「試験とか、ある感じ?」

「試験は――ない、けど」

 

グレンジャーは視線をテーブルに落とし、もう一度だけ彼を見上げた。

 

「そうね……よくわからないけど、あなたがそう思うなら――多分、友達でいいんじゃないかしら」

 

彼はうれしそうに目を細め、いたずらっぽい光を宿して片眉を上げた。

 

「じゃあ、よろしくな。……ハーマイオニー」

 

デイヴはローブの内ポケットに右手を差し入れながら席を立つ。

 

「今度、好きな本とか教えてくれ」

 

そう言って、左手をひらひら振り、大股で大広間の出口へ歩き去った。

 

ハーマイオニーは自分の名前が呼ばれた響きに一拍遅れて戸惑い、すぐ小さく微笑んだ。すぐに首を振って表情を整えると、いつもどおり手早く朝食を片づけて席を立つ。――が、スプーンの柄に映る自分の口元が、ほんの少しだけ上がっているのに気づいて、また慌てて引き結んだ。

 

それからの数日、二人は一日のあいだに時々言葉を交わす程度だったが、確かに距離は縮まった。

授業中や放課後、デイヴは相変わらずディーンとシェーマスとつるみ、ときどきツインズとリーの悪戯計画に口を出しては忙しなく動き回る。一方のハーマイオニーは、基本ひとり。けれど教室で目が合えば軽く会釈し、デイヴのほうから話しかけに行くこともある。図書館へ二人で行く夜もあれば、宿題の助言をもらいにデイヴが彼女を探すこともあった。

 

やがて木曜日――飛行訓練の当日。

デイヴとディーンは、シェーマスの何度目かになる箒自慢にすっかり辟易していた。マルフォイほどではないにせよ、魔法使いの家庭の子の多くは、空を飛いだ経験を得意げに語る。最初は皆わくわくして聞いていたが、三度目ともなれば相槌も雑になり、今では各自が課題を片づけたり、黙々と食べたりしている。

 

やがてフクロウ便の時間。手紙や小包が次々と降りてくる。

デイヴのフクロウ――ジャックは、この時間になると用もないのにやってきて、食べ物をねだったり、裾を引っ張って構ってほしがったり、彼の頭にとまって寝癖を撫でつけたり、耳を甘噛みしたりするのが常だ。今日は珍しく机にとまり、目を細めて首をぐるりと回した。デイヴは顎の下をかいてやり、手の甲で毛並みに沿ってそっと撫で回す。

 

ひとしきり甘噛みして満足したのか、ジャックが飛び去る。

デイヴは席を立った。ディーンが驚いた顔で見上げ、シェーマスは喋るのに夢中で気づかない。デイヴは“ご愁傷様”とでも言いたげに目だけで合図し、わざとらしくニヤリとする。直後、脛をしたたか蹴られ、「いてぇ!」と大げさに声を上げたのち、するりと人だかりの方へ歩を向けた。

 

どうやらネビルのもとに祖母から、思い出し玉と呼ばれる魔法の道具が届き、それをマルフォイがかすめ取っているらしい。

デイヴはわざと、マルフォイの金魚の糞であるクラッブとゴイル――右と左のどちらがどちらかなど、彼は知らないし興味もへったくれもなかったが――のどちらかに思い切り肩をぶつけて吹っ飛ばした。

 

「ゴイル!」

 

マルフォイが叫んだ。どうやら吹っ飛ばした方はゴイルだったらしい。デイヴにとってはどちらもバカ面でデブのノロマなアホなので大差はない。

 

「わりぃわりぃ。テメェがチビのせいで見えなかったわ」

 

マルフォイの指先から思い出し玉をすっと奪い返す。手のひらで一度、軽く握る。赤くは光らない。

「はいよ」視線を向けぬまま、ネビルへ放る。

「……あ、ありがとう」消え入りそうな声が返った。入学してから初めてネビルが彼に感謝を伝えたわけだが、デイヴは気にも留めない。

 

「スリザリンってのは、“人のモン勝手に盗っていい”って教わってるらしいなぁ?」

 

デイヴはマルフォイの目前に立ち、思いきり見下ろす。押し殺した声音が、むしろ迫力を増す。マルフォイはいつもの小憎たらしい笑みを浮かべようとしたが、目だけが怯えて揺れた。

 

「それと――飼い主なら飼い主らしく、家畜の面倒くらい見ろよ。豚は人の邪魔にならないよう、ちゃんと小屋に入れとけ、knobhead*6

 

肩で強くぶつかり、デイヴは吐き捨てた。

 

「失せろ、このタコ」

 

マルフォイは慌ててゴイルを引き起こし、悔しげに顔を歪めると、「覚えてろ!」だけを残して、クラッブを引き連れ足早に退散した。

 

デイヴは立ちあがっていたポッターとロンを一瞥すると、ウィンクを一つした。

やがてマクゴナガルがツカツカと近寄ってきたが、デイヴは彼女と二言三言話すと、さっさとディーンとシェーマスのもとに帰ってしまった。

 

やがてその日の三時半、グリフィンドールの面々は初めての飛行訓練を受けるために、正面階段から校庭へと向かった。ほどよく晴れた少し風のある日で、ハイランド地方特有の少し冷たい風が吹くたびに、遠くに見える禁じられた森の木々がザワザワと揺れているのが見える。

スリザリン寮生はすでに到着しており、箒が綺麗に生徒数分並べられている。

デイヴはツインズとリーから、学校の箒についての愚痴を散々聞かされていた。曰く高い所に行けば行くほど振動が凄くなるものや、どうしても左にそれてしまう箒など。他にもまったく言うことを聞かずに好きなところへ行ってしまう箒や、一分に一回がくんと下がる箒などもあるらしい。

 

マダム・フーチが来た。

白い髪を短く刈り込んでいて、鷹のような黄色い目をしている。なかなかにカッコいい先生だ、とデイヴは思った。キビキビと歩きながら、グリフィンドール生とスリザリン生のちょうど真ん中に立つと、「ぼーっとしてないで箒のそばに立ちなさい」とがみがみおっしゃった。

 

デイヴは自分の箒を見下ろした。ところどころ節くれだった箒は、乗る前から気難しそうなものだとまるわかりだった。

 

「右腕を箒の上に突き出して」マダム・フーチが掛け声をかけた。

「そして『上がれ!』と言いなさい。さあ、早く!」

 

皆が一斉に「上がれ!」と叫んだ。

デイヴの箒は一回目はピクリともせず、二回目は少しだけコロリと転がる程度だった。

(テメェのモンでもねぇのに、一丁前に個性なんか出してんじゃあねぇよ)

と思ったデイヴは、フーチがスリザリンの方を向いている間に、穂先を思い切り蹴飛ばした。

そしてもう一回「上がれ!」と言うと、今度は素直に彼の手の中に納まった。なんだかプルプル震えているような気がしたが、ミシリと音が鳴るくらい強く握りしめると、やがて震えも止まった。

 

隣にいるディーンは呆れたようにデイヴを見た後、「乱暴者め」と少し皮肉気に笑った。

デイヴは「マンキュニアンだからな」とこれまら皮肉気に返し、二人はクスクス笑っていた。シェーマスの箒はどうやら彼をなめ腐っているのか、上がったと思ったら急に下がって、慌てて彼が掴もうとしたところ思い切り額を柄で小突かれていた。

 

やがて全員が箒を掴んだことを確認したマダム・フーチは、正しい箒の持ち方を実演して見せて、それから生徒たちの箒の持ち方を一人ひとり確かめ、直していった。

デイヴもディーンも、しっかりとフーチに指導された。デイヴは右手と左手の位置が逆と言われ、ディーンは手と手の間隔が離れすぎていると注意を受けた。シェーマスはよくできていますと褒められ、誇らしげに二人に胸を張った。チョーシ乗んなと二人から脇腹を両方からツンツンされて、しばらく笑っていた。

 

やがて全員の指導が終わると、マダム・フーチは飛び方の説明を始めた。

 

「いいですか? 私の合図まで、絶対に離陸しないこと。合図のあと、少しだけ浮いて、すぐ着地。蹴るのはかかとじゃない――土踏まずで軽く。肘は畳んで」

 

やがて説明が終わり、マダム・フーチが笛を吹こうとした瞬間、ネビルがフライングで飛び出してしまった。どうやら絶対に置いてかれないように、と力んでいたところ、早めに飛び出してしまったらしい。

箒は意地の悪い魚みたいに彼を引っ張り上げ、ふわりと、しかし勢いよく浮き上がる。

 

「こら!戻ってきなさい!」

 

フーチの怒鳴り声もむなしく、ネビルはどんどん上昇していく。箒は言うことを聞かない。幹の間へ向かってふらふらと流れ、風に煽られて更に高く。

ネビルの靴裏が空を掻く。片手が柄から外れ、背中が反り、悲鳴が漏れた。

 

やがて十メートルほど上がっただろうか。そこでネビルはついに箒を手から放してしまい、真っ逆さまに転落してしまった。

ディーンは思わず目をそらし、シェーマスは息をのんで青い顔で目をそらせずにいた。やがてドーンと言う音共にネビルが地面に不時着すると同時に、ぽきりという音が鳴った。デイヴは骨を折ったときのことを思い出し思わず顔を顰めた。

マダム・フーチは、ネビルと同じくらい真っ青になって、ネビルの上に屈みこんだ。

 

「まあまあ、手首が折れてしまっているわ」

 

デイヴも他の生徒も、先生がそう言うのが聞こえた。

 

「ネビル、大丈夫ですよ。ポンフリーなら骨折もすぐに直してしまいますからね」

 

先生は他の生徒の方に向き直った。

 

「私はこの子を医務室に連れていきますが、いいですね?その間誰も動いてはなりません。箒も動かさないように。空を飛ぼうものなら、言い訳を述べる前に即刻ホグワーツから叩き出します」

「さあ、行きましょう」

 

ネビルは痛みと恥ずかしさから、顔を涙でぐちゃぐちゃにして、先生に抱きかかえられるように、よれよれになって歩いて行った。

 

二人がもう声の届かない所へ行くと、マルフォイが大声で笑いだした。

 

「あいつの顔見たか?あの大マヌケの」

 

他のスリザリン生たちが、男女問わず囃し立てた。

 

「やめてよ、マルフォイ」パーバティ・パチルが咎める。

 

デイヴはそれに便乗して言った。

 

「そうだ、黙っとけマルフォイ。俺がテメェの顔を凹ませないうちにな」

 

途端にマルフォイが黙ったが、隣にいた気の強そうな女子が反論した。

 

「へー、ロングボトムの肩を持つの?」

「そっちの男子はともかく、パーバティ。まさかあなた、あのチビデブのなっさけない男子に気があるわけ?」

 

やがて二つの寮生たちは言い合いながら、少しずつにじり寄いはじめた。

 

二つの列がじりじりと近づき、箒の穂先が芝をかすめたとき――デイヴが、ひょいっと二人のあいだに滑り込んだ。

片手を軽く上げ、いつもの気の抜けた笑み。

 

「待った、女王様二人がここで取っ組み合いは、芝が泣く。観客もいないし、音楽もない。どうせなら舞台、選ぼうぜ」

 

「どきなさいよ、グリフィンドール」パンジーが鼻で笑う。「あんたに仕切られる筋合いは――」

 

「仕切らないよ。止めるだけ」デイヴは肩をすくめ、パーバティとパンジーを順に見た。「減点で負けるのはつまらない。負けるなら、空で派手にしよう」

 

パーバティは一瞬むっとして、けれど肩の力を抜いた。「……先生が戻ったら、あなたのせいにするわよ」

 

「光栄」デイヴはにやりと受け、パンジーへ視線を戻す。「それと、パーキンソン――そのネクタイの翡翠、似合ってる。怒ると色が映えるな。眉、綺麗に整えてる」

 

「は?」パンジーの言葉が半歩遅れた。「お世辞なんか――」

 

強気な顎が、ほんのわずかに揺れる。耳の先まで熱がのぼり、緑のネクタイの結び目に視線を落とした。

 

「……別に、整えてなんか……」

 

「うん、自然に見えるのが上手い」デイヴは軽くウインクした。「その顔に、乱闘は皺がつく。もったいない」

 

パンジーは憎まれ口を探して唇を開きかけ――やめた。

「……覚えてなさいよ、ジョンソン」小さく吐き捨てて、視線はまだネクタイの結び目。

 

パーバティが小声でため息をつき、箒を下げる。

デイヴは一歩退いて、空を見上げた。「さ、続きは空で。地上戦はここまで」

 

風が並木を渡り、双方の列がわずかにほぐれた。パンジーはまだ俯いたまま、結び目をいじっている。頬は、緑より少し赤かった。

デイヴはパーバティの方へ振り返り、悪戯っぽい笑みを浮かべると、得意げに片眉をあげた。パーバティもさっと横を向いて頬を赤く染めてしまう。デイヴは困ったように笑い、ディーン達の方へ大股で歩いて戻っていった。

 

そちらでは、どうやらネビルが墜落した時に彼のポケットから落ちた思い出し玉を、またもマルフォイが拾ってバカにしているらしい。

 

デイヴはうんざりして舌打ちしかけたが、先に別の声がした。

「返して、マルフォイ」ハリーだ。声は低い。

マルフォイは思い出し玉を指先で弄びながら、にやりと笑った。「なら取りに来いよ、ポッター」

 

「ハリー、だめ!」ハーマイオニーが袖を掴む。

「フーチ先生が戻るまで、絶対に――」

 

その手を、ハリーはそっと外した。横顔だけが一瞬こちらをかすめ、次の瞬間には地面から軽く跳ねる。

蹴りは浅い。箒は嘘みたいに素直に手の中へ収まり、体はぶれない。肩が開かないから、進む線が真っ直ぐに伸びる。

風がひとつ鳴って、ハリーの影が芝から離れた。

 

「おいおい……」ディーンが息をのむ。

デイヴは言葉を飲み込む。目で追うのがやっとだ。上げ足が雑じゃない。腰の位置がずれない。手のひらで柄を“押さえ過ぎない”。――全部、初めての顔に似合わない。

 

マルフォイが慌てて高度を取る。「ほら、ここまで来いよ!」

思い出し玉をわざと指から放り、陽を受けて赤い芯が瞬く。

ハーマイオニーが「やめて!」と短く声を上げた。掴んでいた自分の手を、胸の前でぎゅっと握り直す。

 

ハリーは弧を大きく描かない。わずかに体を傾け、膝で軸を寄せる。

思い出し玉が空で一度、きらりと跳ね――右手が伸びた。

風の音が一拍だけ止まり、指がそれを掴む。

そのまま体を起こし、速度を落とし、滑るように芝へ降りてくる。着地は柔らかい。足裏がちゃんと“戻ってくる場所”を知っているみたいだ。

 

ハーマイオニーが肩で大きく息を吐いた。

緊張で固まっていた指先がほどけ、スカートの皺を無意味に直す。

「……よかった」

その小さな声は、風に紛れていたが、デイヴの耳にははっきり届いた。

 

「たまたまだ!」マルフォイが叫ぶ。「簡単だし! 誰でもできる!」

言葉の端に焦りが混じる。取り巻きの笑いも、どこか薄い。

 

「誰でも、ね」デイヴは鼻で笑い、ディーンと視線を交わした。

ディーンが肩をすくめる。「“誰でも”なら、今やって見せろよ、坊ちゃん?」

 

マルフォイは顔を引きつらせ、言い返しかけたその時――

城側の回廊から、ひゅっとローブが風を裂く気配が走った。

灰色がかった緑の裾が、真っ直ぐこちらへ。

歩幅は速い。杖の先が硬い石を鳴らすたび、ざわめきが一段下がる。

 

「……マクゴナガルだ」誰かが小声で言った。

デイヴは無意識に背筋を伸ばす。ハーマイオニーも姿勢を正し、唇を結ぶ。

教授は声を張らず、しかし一直線にハリーの前へ来て、短く言い渡す。何を言ったかはここまでは聞こえない。けれど、その目は叱る色をしているのに、歩みはどこか迷いがない。

 

「やばいかな」ディーンが囁く。

「さてね」デイヴは口の端をほんの少し上げた。「怒ってる時ほど、用事は早い」

 

ハーマイオニーは不安そうに二人を見たが、ハリーが思い出し玉を懐にしまい、素直に教授の後を歩き出すのを見て、ほんのわずか、胸の位置が下がった。

手のひらに残っていた爪の跡をこすりながら、息を整える。

 

去っていく背中に、マルフォイがまだ負け惜しみを投げる。

「せいぜい医務室で泣いとけ! 退学だ、ポッター!」

声は大きいのに、誰も笑わない。芝の上を通り過ぎるローブの端が、返事の代わりみたいにひらりと揺れただけだ。

 

風が再び、禁じられた森のほうから吹き抜けた。

デイヴは自分の箒の柄を二度、軽く叩き、目を細める。

――今のは運じゃない。

言葉に出さず、胸の内でだけ結論を置いた。

列のはしで、ハーマイオニーが小さく頷いたのが見えた。彼女も同じ答えに辿り着いたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ジンジャー。赤毛のこと。愛称にも差別的な意味にも使われる

*2
ここでのヤンキーは日本語の“不良”ではなく、アメリカ人を指す呼称。文脈次第で揶揄~軽い侮蔑を含む

*3
ラッド。イギリスで若い男への砕けた呼びかけ。mate/palに近い

*4
当時:リオは2000年リーズへ、ランパードは2001年チェルシーへ

*5
1999–2001

*6
ノブヘッド。イギリスのスラング。チ○コ頭、間抜けの意




書きたいところはいっぱいあるけど、さっさと賢者の石はおわらせたいから詰め込んでたら1万字超えてんだわ。びつくりですよほんたうに。
おかげで大分内容が薄い気がするんだわ!まあそこんとこは大目に見てね♡良くできてるよって思った人は面白かったって書いてね♡作者が勃〇します。

あと音楽聞いてるシーンを書く暇がない!さっさと終わらせないといけないから小咄的なモンが書けん!!これではロックミュージックってタグが詐欺になる!!!!!

ところで、マジでミスったのは、映画のエマワトソンに引っ張られて、前話でハーマイオニーの顔を整った顔とかいたことっすね。だけど俺ん中だとハーマイオニーって言ったら理知的聡明美人なんでどうしてもエマワトソン寄りにして書いちゃうわけですね。原作だと歯治すまであまり可愛くないように書かれていて、ローリングもインタビューで彼女のことをかなりひどい表現の仕方してたから直すか迷ってます。まあでも正直映画寄りのほうがいいんすよね。そっちの方が書きやすいし。映えるし。ということでアンケ↓


容姿について

  • 原作寄り
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