ハリー・ポッターとマンキュニアンの少年   作:キラキラ武士

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Stay Young!

その日は休日だった。

グリフィンドールの談話室には、冬の気配を運ぶ冷たく心地いい風が、開け放した窓から静かに流れ込んでいる。

 

デイヴは一年生のくせに、誰もが狙う一番上等なソファを占拠していた。肘掛けに長い脚を引っかけ、右足だけをだらしなく揺らす。

机の上には羊皮紙が散乱し、書きかけの文がインクの染みで途切れては、気に入らなかったのか豪快な斜線で塗りつぶされている。

 

耳にはイヤホンをねじ込み、右腕を枕代わりにして天井の木目をぼんやりと眺める。彼は今、母エルサに手紙を書こうとしていた。

もっとも、健康優良不良少年の彼に、まともな手紙の経験などない。書こうと思ったことすら、ない。

 

きっかけは、今朝の朝食時にシェーマスへ届いた一通の手紙だった。――そういえば自分も、もう一か月は経った。そろそろ母に何か送ってやるか。そう思っただけの話だ。

 

とはいえ、何を書けばいい。

自分が元気かどうかなんて、あっちは気にするのだろうか。少なくともここには、地元の連中みたいなクソガキはいない。だから、わざわざ手を出す必要もない。……今のところは。

 

こっちでできた新しい友だちのことでも書くべきか。

――それはそれで、むずがゆい。

 

どうしたものか。

 

そんなことを考えながら、彼はこの一時間ほど、机に向かってはソファへ戻り、また机へ、を堂々巡りで繰り返していた。

 

「よぉ、デイヴ」

「執筆活動か?」

 

ソファの背から、ひょっこりと同じ顔が二つ並んで覗いた。

 

「さあな」

 

フレッドとジョージだ。二人は勝手知ったる様子で向かいの椅子に腰を下ろすと、机上の羊皮紙をガサガサと漁りはじめる。

時おり字が汚すぎて判読できず、「これなんて書いてある?」と互いに見せ合ったり、デイヴが無意識に書きつけた妙に詩的な言い回しを見つけては、面白そうに顔を見合わせてクスクス笑ったり。

 

デイヴはそれを、心底めんどくさそうな顔で眺めていた。

地元の赤い髪の“アイツ”をふと思い出し、さらに顔をしかめる。

 

「返せ、フレッジョ」

 

彼は上体を起こすと、羊皮紙をひったくり、まとめてソファの上に置いた。フレッジョと呼ばれた二人は、フレッドが(ひと)まとめにするな!と笑いながらデイヴを小突き、ジョージは、俺の取り分少なくなーい?と不満そうに口を尖らせていた。

デイヴはそれから足を組み直し、ふんぞり返るように座り直して言う。

 

「それで? 今回はどんな悪戯思いついたんだよ」

 

双子は顔を見合わせ、まったく同じ角度でニヤリと笑うと、やたら仰々しく口を開いた。

 

「今回の標的にと思ってんのは、クィレル教授様なんだ」

「あのターバンの中身、何が入ってるか気になるだろ?」

 

まあ、確かに――とデイヴは思った。

それを感じ取ったのか、双子は同時に身を乗り出し、いつもの調子で段取りを語り始める。

 

「仕掛けるのは、授業が終わった直後」

「人通りが多くなる時間帯に決行する」

 

フレッドは人差し指で机の角を叩き、ジョージは羊皮紙の端にざっと概要を書く。

 

「まずはピーブズを使う。あいつの前で何本か爆竹を落としてやれば、あいつは勝手に動く」

「そうすりゃ一番の障害であるフィルチが釣れるってわけだ。一気に選択の幅が広がって動きやすくなる」

 

デイヴは腕を組んで、鼻で笑って続ける。

 

「あのポルターガイストがそう簡単に動くかよ」

 

ツインズはわかってないな、と言わんばかりに笑った。

 

「いいか、ピーブズは自分が面白いと思ったならなんでもやる」

「それが例え、スネイプの薬品棚を滅茶苦茶にすることでもな」

 

デイヴはあの真っ黒い陰気な鉤鼻コウモリ男が、激怒しながらピーブズを追い回す姿を容易に想像できた。そしてピーブズが逃げつつもスネイプをからかいながら大笑いして飛び去る姿も。

彼はニヤリと笑うと、前かがみになって二人に投げかけた。

 

「で、俺ぁ何したらいんだよ、囮か? それとも実行部隊? なんでもいいぜ、面白けりゃな」

「半々だ。お前は教室の出口でクィレルを足止め」

「真面目そうに、“ターバンの結び方に文化的意味は?”って一問だけ」

 

「俺に真面目やらせるの好きだな」デイヴは口角を上げる。

 

フレッドが小さな紙包みを二つ取り出し、掌で転がした。薄桃色と淡い黄色。

ジョージが低い声で続ける。

 

「痒み粉とくしゃみ粉。ゾンコで手に入れたやつを少し薄めた。強すぎない」

「窓から入る風に乗せて、ターバンの縁にほんのりかけるだけでいい」

 

「外させる必要はない」とフレッド。

「反射で触れば十分。首が反ればなお良し。どっちにしても“中身の反応”は出る」

 

「合図は?」とデイヴ。

 

「咳払い一回で準備」

「二回目で散布」

 

ジョージは羊皮紙に大雑把な見取り図を描き、×印をいくつかつけた。

 

「場所は二階の廊下。防衛術の教室前。鐘が鳴って流れが乱れる瞬間が狙い目」

「撤退は階段の裏と鎧の列の影。俺たちは左右に分かれて散る」

 

デイヴは短く鼻を鳴らす。「俺が逃げる線は?」

 

「質問を“ありがとうございました”で切れ。ノートでも落として拾ってろ。自然に離れられる」

「もし追われても、ピーブズが二発目の爆竹をやる。視線はそっちへ飛ぶ」

 

デイヴは紙包みを指先で弾いて重さを確かめ、片方をソファの背に放った。

 

「いいじゃん。けど粉はほんの少しだ。マクゴナガルにバレたら、俺まで説教の飛び火だろ」

 

「任せろ。教授の鼻が三回鳴ったら撤退だ」

「ピーブズが“ターバンいじり!”って叫んだら笑わずに歩け。絶対に乗るな」

 

窓の隙間から、冬の手前の風が一筋、羊皮紙の端をめくった。

デイヴは立ち上がり、腰の重さを払うみたいに肩を回す。

 

「質問の台詞は任せろ。文化的背景、素材、手入れ方法――適当にそれっぽく繋げる」

「粉は俺が右から、兄貴が左から。風向きはさっきの感じならこっちに流れる」

 

「もう一個。」デイヴが指を立てる。「フィルチが廊下に上がってきたら詰む。猫はどうする」

 

「ノリスはピーブズの鐘へ一直線だ。念のため、魚臭い紙切れを階段の踊り場に置いておく」

「フィルチ本人は鐘の音と爆竹で固まる。こっちはすれ違いざまに背中側を抜ける」

 

細かい歯車がひとつずつ噛み合っていく手応え。

デイヴは顎をちょいと上げ、いつものふてぶてしい笑みを浮かべた。

 

「じゃ、決行は今度の水曜。お前の授業終わりに、俺らはスタンバっておく」

「うまくやれよ! 俺ら、“若ハゲ隠し”に四シックル賭けてんだ。リーも乗ってる」

 

双子は同時に「じゃ、よろしくぅ!」と声をそろえ、右と左からデイヴの肩を軽く叩くと、そのまま談話室の外へ消えていった。

 

デイヴは、ぐしゃぐしゃになった書きかけの手紙をひとまとめにして机の上へ放り、新しい羊皮紙を引き寄せる。しばし悩む。

 

「……『拝啓、母上』はさすがに狙いすぎか。『マムへ』……は子どもっぽいな。やっぱ書き出しが一番むずい……」

 

ペン尻で頭をかきながら、うんうん唸って書き進める。

 

「『学校はそちらと違って、朝晩は冷え込みます』――ちょっと固い。飯の話にするか。『ホグワーツの飯は旨いけど、母さんのカレーが恋しいです』……」

 

ペン先が羊皮紙に引っかかるたび、小さく舌打ち。書いては悩んで止まり、また書いては止まり――を繰り返す。

 

「ちょっと」

 

行き詰まって、羽ペンを鼻と上唇で挟んだまま腕を組んでいると、背後から声。羽毛が鼻の穴をくすぐって、むずむずする。

 

「ん?」

「“ん?”じゃないわ」

 

振り向くと、腰に両手を当てて、全身で「怒ってます」を主張するハーマイオニーが立っていた。

 

「聞くつもりはなかったのだけれど、聞こえちゃったの。あなた、先生にイタズラするなんて正気?どれくらい減点されるかわかってるの?もしかしたら退学にされるかも知れないのよ?」

 

ハーマイオニーは彼へ早口でそう囃し立てる。

デイヴはどこ吹く風と言わんばかりに薄く笑い、自分の書いた手紙を読み返しながら言った。

 

「俺が昔から好きな言葉があんだ。『この世にはやっていいことと、やって面白いことの二つしかない』ってやつ。細かい部分は違うかも知れねぇけど、要するにこれが俺の座右の銘だ。

 

ハーマイオニーは露骨に眉をひそめ、きっぱりと言い返した。

 

「“面白い”は免罪符じゃないわ。規則は人を守るためにあるの。先生相手の悪ふざけは、規則以前に“礼儀”の問題よ」

 

デイヴは肩をすくめる。「礼儀は知ってる。たまに忘れるだけだ」

 

「忘れないで」

ハーマイオニーは一歩近づき、声を落とした。「ピーブズを使うって言ってたわよね? 爆竹まで。廊下に火薬は最悪。誰かが転んだらどうするの」

 

ハーマイオニーに一通り説教されても、デイヴはどこ吹く風だ。

肩をすくめ、話題を平然とすり替える。

 

「はいはい規則委員長。――で、これ。ちょいと見てくれない?」

 

彼は書きかけの羊皮紙を指先で弾き、彼女の前へ滑らせた。

ハーマイオニーは目を細める。

 

「……私、あなたの秘書じゃないの」

 

口では突っぱねつつ、もう手は羊皮紙を取っている。

椅子を引き寄せ、ぴしっと背筋を立てて読み始めた。

 

「まずここ。『けど』は話し言葉。手紙なら『けれど』にしなさい」

「句読点が飛んでる。文が走りっぱなしよ」

「あと、同じ語尾が三連続。“ですですです”って行進でもする気?」

 

ぶつぶつ言いながらも、細字の羽ペンで余白に小さく印を付けていく。

デイヴは頬杖をつき、にやにや眺めた。

 

「助かる。礼に食堂で一番うまいスコーンを進呈しよう」

「賄賂は結構。……紅茶はもらうわ。ミルク多めで」

「承知した、監査官」

「それからここ。“ホグワーツの飯は旨いけど”――“けど”は直すとして、内容はいい。読む人が安心するわ」

「“母さんのカレーが恋しいです”――これは残しておきなさい。あなた、たまに素直でいいこと書くのよ」

 

デイヴは照れ隠しに鼻を鳴らす。

ハーマイオニーは次の行へ視線を滑らせた。

 

「“返事はゆっくりで大丈夫です”を最後に。追伸で“風邪ひくな”って添えたら完璧」

「ここは主語が迷子。“俺は”“私は”のどちらかに統一。体裁も“です・ます”で通して」

「はいはい。直します」

「はいはい、じゃないの」

 

ぶつぶつ言いつつも、彼女の手は止まらない。

数分して、羊皮紙は控えめな赤(インク)の印で点々と飾られた。

 

「――ひとまずここまで。写し直しなさい。読みやすくなってるはずよ」

 

デイヴは受け取り、軽くひらひら振ってから笑った。

 

「助かった、グレンジャー。お前がいないと俺の母は誤字と脱字に殺されるところだった」

 

「大げさね。……約束は忘れないで。危なそうならあなたが止めるの」

 

「任せろ。俺が笛を吹く」

 

ハーマイオニーはまだ小さくぶつぶつ言いながらも、満足げに頷いて席を立った。

デイヴは新しい羊皮紙を広げ、彼女の印をなぞるように、丁寧に書き直し始めた。

 

ハーマイオニーが階段を上っていく背中が見えなくなると、談話室はまたざわめきに戻った。

デイヴが羊皮紙を整え、インク壺のふたを閉めたところで、ソファの脇から顔が二つのぞく。

 

「ジョンソン君って、グレンジャーさんと仲良いんだねー」

 

ラベンダーが、悪戯っぽく目を細めて言った。

パーバティは視線を泳がせながら、小さくうなずく。「……うん。さっきも、並んでお話、してたし」

 

デイヴは肩をすくめ、薄く笑う。

 

「校正係を買って出てくれただけだよ。彼女、句読点が軍隊みたいに整列してないと許さないからな」

 

ラベンダーはソファの肘掛けに腰を乗せ、羊皮紙をちらりと見る。

「へぇ、手紙? ねぇねぇ、誰宛て? ラブレター?」

パーバティは慌てて手を振った。「ラ、ラベンダー、覗いちゃだめ……」

 

「母さん宛て」

デイヴは苦笑して、紙の角を指でトントンと揃えた。「期待はずれで悪いな」

 

「いいじゃない。お母さん喜ぶよ、きっと」

パーバティが、少し照れたように微笑む。耳元のピアスが小さく揺れた。

 

「だといいけど」

デイヴは視線を二人に移し、わざとらしく咳払いをひとつ。「ところで、レディたちの意見も聞いていいか? “締めの一文”が決まらなくてさ」

 

ラベンダーは即答する。

「“体に気をつけて。返事はゆっくりで大丈夫です。”とか? 安心するやつ」

パーバティは少し考えてから、おずおずと付け足した。

「“こっちは元気にやってます”をもう一回。最初と最後に同じ言葉があると、読みやすいと思う……」

 

「なるほど。最初と最後で挟む、か」

デイヴは頷き、羽ペンを取って余白に小さくメモする。指先の動きはさっきより丁寧だ。

 

ラベンダーが、からかうように肘でデイヴの肩をつついた。

「それにしてもさ、ハーマイオニーって怒ると怖――」

「真面目なだけだ」

デイヴは穏やかな声で遮り、すぐ口角を上げる。「でもまあ、助かってる。俺の文、野放しにすると死ぬほど暴れるから」

 

ラベンダーは「ふーん」と唇を尖らせ、やがてニヤリ。

「じゃ、提出前にまた見てもらいなよ。採点も上がるかも」

パーバティは控えめに手を挙げる。

「もし、私でも役に立つなら……その、丁寧語の言い回しとか……」

 

デイヴは片手をひらりと上げた。

「ありがたい申し出。じゃあ完成したら、紅茶付きでレビューを依頼しよう。報酬は――食堂のスコーンで手を打ってくれ」

 

ラベンダーが笑い、パーバティはさらに頬を赤くする。

「約束ね。ミルク多めで」

「了解」

 

二人が席に戻っていくのを見送ると、デイヴは新しい羊皮紙を引き寄せ、インクを落とした。

――こちらは朝晩が少し冷え込み始めました。こっちは元気にやってます。

最初と同じ言葉を、最後にも置く場所を心の中で決めながら、彼は静かに書き進めた。

 

石段を上るたび、塔の内側を抜ける冷たい風がマントの裾を鳴らした。

デイヴは胸ポケットにしまった封筒を指で確かめ、もう片方の手で手すりの冷たさを払う。フクロウ小屋まで、あと二階ぶん――そう数えたところで、踊り場の角を曲がった誰かと正面衝突しそうになった。

 

「……っと、失礼」

「気をつけなさい、ミスター・ジョンソン」

 

硬質で涼しい声。マクゴナガルだった。きちんと束ねられた髪、薄い口紅、眼鏡の奥で揺れない視線。彼女は視線を封筒に落とし、僅かに顎を傾けた。

 

「郵便ですか?」

「ええ、母さんに一通。ついでに図書室で本も借りたんで、返却期限の確認も」

「何を借りました?」

 

デイヴは肩をすくめる。「『ヴァンパイアとバッチリ船旅』と、変身術の入門の増刷版を」

 

その題名を口にした瞬間、マクゴナガルの口元に、言葉にしない苦味のような表情がかすかに走った。否定も肯定もせず、眼鏡のブリッジを指先でそっと上げる。

 

「……読書の習慣は結構なことです。入門書の方は、練習問題を必ず手を動かして。文章は“できる気にさせる”だけのときがありますから」

「心得ます、教授」

 

彼女は踊り場の窓に目をやる。校庭には薄く霜が残り、遠くの森の縁が淡く白む。

 

「学校生活はどうです? 寮には慣れましたか」

「寝床は悪くない。朝は寒い。談話室のソファは最高」

デイヴは短く笑ってから続けた。「授業は……変身術は好きです。うまくいくと気持ちいい。魔法薬学は、先生の機嫌に成否が左右される種目ですね」

 

「機嫌に左右されない基礎を身につければ済む話です」

返す言葉は鋭いが、口調は淡々としている。「呪文は発音、杖の振り方、意図。その三つ。どれも省けません」

 

「はいはい。……で、教授」

「はい?」

「過去問とか、ないんですか。こう、先人の知恵の詰まったやつ」

 

マクゴナガルは半拍置いて、目元だけをわずかに和らげた。「“先人の知恵”を、あなたの学年で必要とする場面は当分ありません。まずは目の前の課題を。過去問は、怠ける口実にもなります」

 

「やっぱダメか」

デイヴは片手を上げて降参のジェスチャーをした。「冗談半分です。半分は本気ですが」

 

「半分の本気は、半分だけ成績を動かします」

乾いたユーモアを一滴だけ混ぜると、彼女は視線を封筒へ戻した。「お母上へのお便り、きっと喜ばれます。遠くの人に安心を渡すのは、魔法に負けない仕事ですよ」

 

「……そいつは、いいこと言う」

「職務です」

 

ふたりは石段をゆっくり上に向かって歩き出した。足音が壁に跳ね返り、ふいに話題が変わる。

 

石段の踊り場で足がそろったところで、マクゴナガルがふっと視線を横へ流した。塔の窓から入る薄い光がレンズに当たって、形のいい眉の影が頬に落ちる。少しだけ間を置いてから、彼女は口を開いた。

 

「――ミスター・ジョンソン。ポッターとは……仲良くしないのですか?」

 

問いの最後で、ほんのわずかに声が柔らかくなった。命令でも叱責でもない、“様子を確かめる”調子。デイヴはそれに気づき、手すりにもたせていた肘を下ろした。

 

「嫌ってるわけじゃないっすよ」彼は肩を回す。「ただ……、別に話す必要がないってだけっすね。ダチならディーンとシェーマスで間に合ってるし」

 

彼は「それにあいつにもロンがいるでしょ。だいじょぶっすよ」と続けた。マクゴナガルは頷くでも否定するでもなく、眼鏡のブリッジに指先を添えた。そこで、言葉に出さない何かが、彼女の横顔を一瞬だけかすめた。教員としての硬さに、別の色が薄く差し込む。デイヴは、そういう“揺れ”に敏い。

 

「ポッターは……」彼女は言葉を選ぶように、一段上の石を見た。「注目される立場にあります。望んで、というよりは、そう“置かれている”。そんなとき、必要なのは英雄崇拝ではなく、同輩としての目線です」

 

「同輩としての目線、ね」デイヴは口角だけで笑う。「俺は、誰にでも優しくできるタイプじゃない」

 

「優しさの形は一つではありません」

マクゴナガルの声は静かだった。「必要なときに、必要な言葉を言えること。あるいは、何も言わず、隣に立てること。――それだけでも、救われる子がいます」

 

その「子」という言い方に、デイヴは一瞬だけ視線を上げた。マクゴナガルの表情は変わらない。だが、眼鏡の奥の目が、ほんの少しだけ遠くを見る。校庭でも、教室でもない、もっと昔の、別の居間の明かりを見ているような焦点の外し方だった。

 

名前は出ない。けれど、彼女の横顔は“誰かの若さ”を思い出すときの年長者のそれだった。デイヴは無言で石段を一段上がり、彼女と目線の高さをそろえる。

 

「ポッターは、いい子です」マクゴナガルが続ける。「強く見えるでしょうけれど、強さはいつも孤独と背中合わせです。――あなたは、止まるべきときに止まれる生徒に見える」

 

「買い被りっすよ」デイヴは鼻で笑う。「止まるより、踏む方が先のタイプだ」

 

「踏む前に、一度だけ考える余裕があるかどうか、です」

彼女の目が、わずかに和らぐ。「あなたの“余裕”は、他の誰かの救いになります。たとえば――ポッターのような子に」

 

そこまで言って、言葉が細くほどけた。教務の枠を超えないぎりぎりの場所で、私情がかすめる。彼女はその揺れをすぐに引き出しの奥へ戻し、眼鏡を軽く上げた。

 

「……期待は、重荷になることもあります。ですから、仲良く“しなければならない”とは言いません。けれど、もしあなたが“できる”と思う瞬間があれば、そのときは躊躇わないで」

 

デイヴは手すりを指先でとん、と叩いた。軽い音が石の間に吸い込まれる。

 

「必要なら、肩ぐらい貸します。あいつ、頼み方が下手そうだし」

 

フクロウ小屋にて。

デイヴは書き直した手紙を封に入れ、指で縁を押さえた。書き出しは素っ気なく、締めくくりは少しだけ素直に。

 

――こちらは朝晩が少し冷え込み始めました。授業は難しいけれど、俺は元気にやってます。

――ホグワーツの飯は旨いけど、母さんのカレーが恋しいです。

――心配はいりません。必要なときはちゃんと止まります。

 

封を閉じると、ふいに先ほどの会話がよみがえる。「“はいはい”は二回で十分です」

彼は小さく笑って立ち上がった。階段をのぼり、フクロウ小屋の扉を押す。藁と羽の匂い、夜気の冷たさ。腕に止まった黒色のジャックが、低く一度鳴いた。

 

「マンチェスターまで、寄り道なしで」

 

革ひもを締め、窓辺で放つ。月明かりに銀の翼がひらき、闇へ溶けていった。

 

マクゴナガルは満足も不満も見せず、ただ小さくうなずいた。そのうなずきには、教師としての合図と、もう少し奥に、名の出ない“誰か”への鎮魂のような静けさが宿っていた。

デイヴはそれ以上は踏み込まない。ただ、彼女の靴音に歩を合わせる。彼にできるのは今はその程度――それで十分だと、彼は思っていた。

 

ところで、ウィーズリー・ツインズが練り上げた悪戯計画は、見事に失敗に終わった。

ターバンの周囲には予想以上に厳重な保護呪文が施され、粉は風に乗っても撥ね返されるばかり。廊下の向こうでピーブズが誇らしげに鳴らした爆竹も、たまたま通りかかったマクゴナガルの冷水のような一声で、火花が消えるより早く鎮火した。(果たして本当に“たまたま”だったのかは、将来の魔法大臣だけが知るところである。)

 

双子は肩をすくめ、リーは四シックルを渋々机に置いた。若ハゲ疑惑は霧散し、残ったのは薄桃色の粉の匂いと、廊下に点々と落ちた笑いの欠片だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




フレッジョのセリフの長さを一致させたいけど無理。
そして日常回とか言っときながら大分デイヴと女の子の会話に割いてしまった。
さっさと賢者の石は終わらせるのだ。
おそらく来年の4月以降は更新できないのでね。
なぜって?就活だよバカ野郎!消し飛ばすぞコノヤロー!
あとみんな見事にエマワトソン好きで笑うんだよね。俺も好き。ビジュ強すぎ。カヤ・スコデラリオと仲いいらしいのも良き。

<追記>
感想くれ〜

曲の解説いるけ?

  • いる
  • いらん
  • ニョニョニョwwwwwwwww
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