ハリー・ポッターとマンキュニアンの少年   作:キラキラ武士

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お待たせしました。いやね、マジで。今回本当はハロウィンの話を書くつもりでいたんですよ。
しかしね、なんでかね、進まないんですね話が。デイヴ君が勝手に動くもんだから。
まあでもハロウィン終わったらあとはまあさっさと終わらせるつもりですねはい。


Learning to Fly

放課後。

いつもの三人は、初めて会った日に交わした約束を果たしに校庭へ出た。

 

ディーンはネットに入ったフットボールを腿で軽くリフティングしながら、シェーマスに蹴り方の勘所を示していく。シェーマスは目を輝かせ、言われた動きをすぐ身体でなぞる。ぎこちなさはあるが、筋はいい――マグル生まれの二人はそう見た。

 

デイヴはシェーマスの隣で、足首の角度や体の向きを手早く直し、さらりと手本を見せる。

「最初は誰だって下手だ。そうキンチョーすんな」

 

ディーンはついにボールを取り出し、デイヴへ放った。

デイヴは胸で吸い込むようにトラップ。右左と交互にリフティングを刻み、ボールが宙にある一拍で脚を通す。大きく弾ませ、うなじにふわりと乗せる。再び浮かせると、今度は左足の甲に音ひとつ立てず収め、もう一度蹴り上げて左脇に抱えた。

 

二人は思わず拍手する。デイヴは気恥ずかしげに親指で鼻先を掻き、右手で左耳の銀のフープをなぞった。

 

合図のように、今度はディーンの足もとへボールが転がる。

ディーンはつま先で浮かせ、足→腿→足と堅実に繋ぐ。華やかな見せ技はないが、ブレないリズムだ。高く蹴り上げ、落ち際を右足裏でぴたりと止める。音がしない。

再び拍手。

 

「僕もできるようになるかな!?」とシェーマス。

「練習すりゃな」

「あるいは才能があったら」

二人は現実も添えて笑う。

 

「じゃあ練習する!」

シェーマスはボールを受け取ると、無心でリフティングに向き合った。ディーンとデイヴは顔を見合わせ、同時に肩をすくめて口を開く。

 

「足の甲、もっとまっすぐ。そうしないとボールが暴れるぞ」

「足は振り上げすぎんな。最初は派手より堅実だ」

 

素直に直すたび、最初は一回も続かなかったボールが、あちこち跳ねながらも、少しずつ、確かに繋がり始めた。

 

三十分ほど経っただろうか。

シェーマスは汗で前髪を貼りつかせ、大の字で芝に沈んでいた。胸が上下し、白い吐息が揺れる。

一方でデイヴとディーンは、間合いを詰めたり離したりしながら一対一を続けていた。ボールは低く速く、足首だけで方向を変える。土の匂いとスパイクの擦れる音。合図はいらない。二人のリズムはもう合っていた。

 

「ほら、抜けんのかよ、ハマーズ」

「抜くに決まってんだろ、Manc」

 

ディーンがほんの一瞬だけ体を右に傾けた。デイヴは読み切って左へ足を出す――が、次の瞬間、ディーンは右外へボールをスッと滑らせて背中で遮る。小さな歓声がデイヴの口笛に変わり、彼は肩をすくめて笑った。

 

「今度は俺の番だな」

 

ボールを受けたデイヴは、挑発するように左足の裏でボールをわずかに後ろへ引き、右足の後ろを通して運ぶ。正面へ行くと見せかけ――股を抜いて、悠々と抜ける。ディーンは悔しげに足元の土を蹴り、「もう一回だ!」と背中に投げた。

 

二回目は睨み合い。デイヴが左へ重心を流せば、ディーンも食い下がる。少し距離を置いたまま、まるで西部劇の決闘のように時が止まった。

 

いつの間にか起き上がったシェーマスが胡坐をかき、足首に両手を置いて固唾を飲む中、デイヴが先に仕掛ける。

右へ一瞬だけ体を傾ける――ディーンの重心が釣られて右へ。デイヴは肩を半歩だけ左へ流し、そのまま抜きにかかるが、ディーンも粘り強く並走する。そこでデイヴは右足でヒールトリック。背中側へボールを逃がし、ディーンの死角をすり抜けて置き去りにした。

 

「これで二勝一敗だな」

「くっそー、ちょっと上手すぎ!」

 

デイヴは勝ち誇った笑みで、汗に張りついた前髪をかき上げる。――やっぱり体を動かすのは楽しい。特にフットボールは。そんな顔だ。

一方のディーンは両膝に手を突き、大きく息を吐いた。口元は悔しげに歪むが、目の奥にはもう次を狙う炎が灯っている。

 

「二人ともすごいな! 僕もあれやりたい、後ろにボールやるやつ!」

 

シェーマスは足元にボールがあるようにしてデイヴの真似をするが、体幹が甘くて少しよろける。

デイヴは笑い、動作を分解して見せたあとで肩をすくめる。

 

「コツは教えた。――で、残りは走り込みと筋トレな」

「うっ……現実……」

 

シェーマスは顔をしかめ、ディーンは吹き出した。

 

そのまま三人は三角形に散り、パス回しに移った。ハロウィン数日前の冷たい風が、校庭の草をさらりとなでる。遠く、ハグリッドの畑では巨大カボチャが夕陽に鈍く光っていた。

 

デイヴが綺麗なフォームで、シェーマスにインサイドを使ってパスを送る。

 

「ほい、シェーマス」

 

シェーマスはトラップで弾き、ボールが流れる。すぐ逆足の裏で押さえ直し、さっきのデイヴをなぞるように、インサイドでディーンへ送った。

コロコロと転がるボールは、真っすぐではあるが勢いが足りず、ディーンの少し手前で止まる。彼は笑って歩み寄り、回収しながら「足の振り、もう少し速くしてみな」と助言。見本のようなフォームで、再びシェーマスへ返す。

 

「足の振り……」

 

言葉を反芻しながら放った次の一球は、今度は大きくそれてデイヴのほうへ。

デイヴは「あいよ」と小さく笑い、軽やかに追って回収する。

 

パスが三人の間で滑らかに巡り始めたころ、シェーマスがにこにこと切り出した。

 

「デイヴはさ、なんかいつも女子に優しいよね」

 

デイヴは受けたボールを足裏で止め、首を傾げる。

「そうかぁ? 俺ぁ誰にだって優しいぞ」

 

言いながら、視線だけで合図してディーンの足もとへインサイドで通す。

 

「君が“誰にでも優しい”やつなら、今ごろ僕は聖人の列に加わってるさ」

ディーンは苦笑しつつ、やわらかくシェーマスへ戻した。

 

デイヴは肩をすくめ、ずれ気味のパスを長い足で絡め取る。

「そりゃ結構なことだ」

 

「でも女子には、明らかに甘いよな?」

 

シェーマスが食い下がる。ディーンも続ける。

 

「それと、グレンジャーとよく仲良くできるよね。あの子、厳しいじゃん」

「わかる。僕あの子苦手だな。なんか気取っちゃってさ」

 

デイヴは鼻で笑い、左耳の銀のフープを無意識になぞった。

 

「甘いっていうか――礼儀だろ。うちの母ちゃんが厳しかったんだ。女の人に荒くすんな、ってな。あと……」

 

一拍置いて、ディーンへボールを預ける。

「一人ってのは、存外きつい。俺はそれを知ってっからな」

 

「ポリシーってやつ?」

「ポリシーってほど大層なもんじゃねぇ。ケンカ売る相手ぐらい選べ、ってだけだ」

 

デイヴは口角を上げ、軽くステップして受け直す。

「それに、女子は荷物が多い。教科書も、用事も、我慢も――ぜんぶ鞄に詰めて歩いてる。肩代わりできんのが挨拶とドア押さえることくらいなら、安い投資だろ」

 

ディーンが吹き出した。

「格好つけるねえ、ジョンソン。で、グレンジャーは?」

「うん、どうしてあんなにうまくやれるのさ?」とシェーマス。

 

デイヴはほんの少しだけ目を細める。

「別に上手くない。慣れてるだけだ」

 

くい、と足首で返してディーンへ通す。

「それに、寝てたときにノート見せてくれるかもしれねぇだろ」

「強かっていうか、ずる賢いねぇ」

「まあな。それで俺はギリギリ生きてる」

 

即答に二人が笑う。ディーンが畳みかける。

「でもさ、君、グレンジャーにだけ妙に言い方が柔らかい時あるよね」

「相手が理屈で来るときは理屈で返すだけ。声を荒げてもボールは回らねぇ。三角形作って、角度で剥がすほうが早い」

「言い方が完全にフットボール」

シェーマスが、感心とも呆れともつかない顔で相槌を打った。

 

デイヴは少し笑って続ける。

「俺がこういう喋りなのは、地元のやつらがどうしようもないバカばっかだったからってのもある。俺も含めてな」

「それは説得力ある」

 

ディーンが肩を揺らす。

「けど結局、グレンジャーとは“気が合う”んだ?」

「合うときは合う。合わねぇときは、俺が黙る」

 

短い返答に、笑いがもう一度ひと回り。

「黙れるデイヴ、珍しい」

「珍種だぞ。保護してくれ」

シェーマスが目を丸くすると、デイヴが軽く手を振って笑わせた。

 

軽口が落ち着くと、またボールに集中する。

デイヴがワンタッチで角度を作り、ディーンがテンポを上げ、シェーマスは“止めてから出す”を丁寧に繰り返す。数値では測れない呼吸が、少しずつ合っていく。

 

やがて話題は授業へ。

「一か月たったけど、授業ついていけてる?」とディーン。

「なんとかね」とシェーマス。

デイヴは肩を回しながら「知らねぇ」と素っ気ない。

 

実際、彼は変身術と魔法薬学以外の板書をほとんど取っていない。実技以外は大抵寝ているのだ。だからこその「知らねぇ」。自分の手持ちの知識がテストで通用するのか、そもそもテストがどんな形式なのか――その両方が、まだ本当に「知らねぇ」のである。

 

やがて日は傾き始め、汗を冷やす冷たい風が三人の体を抱き込むように吹き付けるようになった。

「腹減った」というデイヴの落とした声とともに、彼らはさっさと校舎の中へと撤収した。

 

食堂に着くころには、空は茜にほどけていた。三人はグリフィンドールの長卓に腰を落ち着けると、躊躇なく皿を満たした。ローストとマッシュ、シチュー、焼き立てのパン。

デイヴは湯気を吸い込みながら一気に頬張り、肩で息を整えるディーンの皿にもベーコンを一枚、勝手にのせた。

 

「タンパク質、足んねぇだろ」

「ありがと、コーチ」

 

シェーマスはスプーンをくるくる回しながら、さっきの股抜きの再現を手でやってみせる。

 

「明日は僕もやる。……その前に筋トレ?」

「まずは寝ろ。で、走れ。以上」

 

ぶっきらぼうなデイヴの返事に、二人は笑ってパンプキンジュースのカップを軽く当てた。

 

食後、談話室。暖炉の火がぱちぱちと赤を吐き、天井近くで影が揺れている。

三人はソファに沈み、テーブルに転がしたトランプでスナップを始めた。デイヴはカードの角で指をとんとん叩き、出目の悪さを舌打ちでごまかす。ディーンは靴紐を結び直しながら、「リフティングの回数、明日数えようぜ」と気楽に提案。シェーマスは「十回までは行く」と胸を張り、次の瞬間カードを爆ぜさせて小さく悲鳴を上げた。

 

「ジョンソン」

 

背後から落ちた声に、三人は振り向く。入口の手前、教科書の束を抱えたハーマイオニーが立っていた。額に張りついた細い髪の下で、目だけがはっきり冴えている。

 

「変身術の課題、終わってる?」

 

デイヴは片眉を上げ、左耳の銀のフープに触れた。

「……これから“始める”とこだ」

「なら、今。五分でいいわ。説明するから」

 

空いている机を顎で示され、暖炉が小さくはぜる。三人の視線が自然とデイヴへ集まった。彼は肩をすくめ、カードを手の甲でざっとまとめて立ち上がる。シェーマスが肘でディーンをつつき、ディーンは片眉を上げただけで「よくやるよ」と呟いた。

 

デイヴは小さくため息を落とし、ハーマイオニーの向かいに腰を下ろす。

せっかくの休みだというのに、なぜ夕食後に勉強なのか――頬杖をついたまま、彼は広げられるノートと教科書を「視界に入れてはいる」程度で眺めた。

 

「ちょっと、ジョンソン?」

 

気づけば準備は終わっていた。うとうとしていたらしい。彼女の肩越しには、ディーンとシェーマスがポッターとロンを巻き込み、スナップで盛り上がっている。デイヴは気取られないよう、もう一度だけ短く息を吐いた。

 

「復習なんて柄じゃねンだけどな」

 

彼は勝手にまとめの羊皮紙を一枚つまみ、首を少し右に傾けたまま机に肘を置き、左手でフープをいじる。ハーマイオニーは何か言いかけて口をつぐみ、向かいに腰を戻すと、教科書を開いて淡々と要点を書き起こし始めた。

 

しばらくして、デイヴは無言で立ち上がる。寝室から変身術の教科書とインク、羊皮紙一式を持って戻ってくると、机にどさりと置いた。

 

「これさ、他にもある? 写させてくんねーかな」

 

少し上目づかいで、彼は尋ねた。

ハーマイオニーは、差し出された手を見てから、わずかに顎を上げた。

 

「……特別よ」

 

ちょっとだけうれしそうに、けれどやっぱり気取った口ぶりで、彼女はまとめの羊皮紙をデイヴの手元へ滑らせた。見出しには色分け、要点は矢印と小さな見本呪文、余白には注意書き。几帳面さが一目で分かる。

 

デイヴは面白そうに目を細め、斜めから紙面を覗き込む。

 

「やるじゃん、秘伝の書かよ。……あんがと」

 

さらりと礼を言うと、ペン先をインク壺に突っ込み、写し始めた。

 

しばらく二人は黙々と作業に没頭した。

ハーマイオニーの羽根ペンは均一なリズムで走り、文字はどれも高さが揃い、章立てもまっすぐ。行頭に必ず小さな印を打ち、あとで見返す自分のための道標を置いていく。

一方のデイヴは、要点だけをぐっと掴むぶん筆圧が強い。書き出しは勢いがいいが、単語の尾がふっと薄くなる。ところどころスペルの自信がないのか空白を空け、あとでハーマイオニーの紙を覗いて埋める。彼の利き手の節には、黒いインクの点が増えていく。

 

暖炉が時折、乾いた音で薪を割る。向こう側では、スナップの歓声と「おい、今の反則だ!」というロンの声、ポッターの笑い、ディーンのからかい、シェーマスの小さな抗議が混ざって、夜の談話室らしいざわめきになっていた。

 

やがて、二人はほとんど同時に手を止めた。

 

「ふう」

 

小さな息が重なる。ハーマイオニーはキャップを閉め、羽根ペンの先を丁寧に拭う。その指が一瞬だけ宙に迷い、彼の顔を見て、何か言いかけて――目を伏せた。

 

デイヴは彼女の肩越しの喧噪から視線を外し、まっすぐハーマイオニーを見る。

 

「……なに」

 

促すように、短く。

 

彼女は少し慌てて視線を逸らし、囁くように言った。

 

「ごめんなさい」

「何が?」

「あなたのお友だちとの時間、取っちゃって……」

 

デイヴは口元だけで笑った。

 

「へえ、そんな殊勝なこと言えたんだな」

 

わざと棘をひとつ混ぜる。

 

ハーマイオニーはむっとして彼を見返し、からかわれていると分かると、肩を落として「もう……」と小さく笑った。

「……でも、ありがとう。写しやすいように並べたの、気づいた?」

「気づいてる。お前の道標はわかりやすい」

「それ、“お前”じゃなくて」

「ハーマイオニー」

 

形だけの訂正に、彼女は仕方ないわね、と鼻を鳴らした。

 

再びペンの音が戻る。ハーマイオニーは図示を一枚増やし、デイヴは空けていた空白を埋める。二人の手元だけ、世界から一歩切り離されたみたいに静かだった。

 

やがて時計が就寝時間を告げる鈍い鐘を鳴らし、談話室のざわめきが一段落する。生徒たちがそれぞれの階段へ散り始め、暖炉の火も少し落ち着いた赤に沈んだ。

 

「終わりにしましょ」

 

ハーマイオニーが小さく手を叩き、紙と本をきれいに揃える。角を合わせ、インク壺の蓋をきっちり閉め、羽根ペンを布で拭く。

デイヴは自分の書付けを乱暴に二回折ってから、彼女の視線に気づいて、無言で折り目をほどき、きちんと積み直した。

 

「先生が見たら、心臓に悪いわ」

「生きてるから平気」

「そういう問題じゃないの」

 

片づけの最後、デイヴは借りていたまとめの羊皮紙を両手で差し出す。

 

「助かった」

 

ハーマイオニーが受け取り、胸のファイルに収めようとしたとき、彼がぽん、と軽い調子で付け加えた。

 

「そうだ、呼び方。デイヴでいい。ジョンソンだと、もう一人いるからな」

片目をつぶって、いたずらっぽくウィンク。

 

ハーマイオニーは一拍おいて、目を細める。

 

「……検討しておくわ、デイヴ」

 

その言い方が妙に真面目で、彼は鼻で笑うと左耳のフープを一度だけ指で弾いた。

 

「じゃ、またな。五分の講義、悪くなかった」

「明日までに“復習”ね」

「聞こえなーい」

 

軽口を背に、デイヴは手の中の教科書と紙束を抱えて、男子寮の階段を上っていった。

ハーマイオニーは整えた資料の束を胸に抱き直し、彼の背中が闇に溶けるまで見送ってから、静かに息を吐いて自分の机をもう一度見回した。整った角、揃った行。

そして、階段の上のほうから、彼の足音が二段だけ踏み外すみたいにリズムを崩し、すぐにまた元の調子に戻るのが聞こえた。彼女はほんのわずかに笑い、暖炉の火に背を向けて、女子寮へと歩き出した。

 


 

寝室に入るなり、デイヴは背面飛びの要領でベッドにぽすんと倒れ込んだ。手にしていた小物を棚へひょいと放り、胡坐をかいてパジャマを探す。きれいに整えられた布団の上には、丁寧に畳まれた花の香りのする一式。鼻先を押し当てて胸いっぱいに吸い込むと、備え付けのカーテンをシャッと引いて更衣の影をつくった。

 

着替えの最中、隣のベッドで眠気と格闘していたシェーマスが声を投げる。

「それで、今日は何してたんだよ」

 

デイヴはワイシャツとセーターをまとめて脱ぎながら、カーテン越しに短く返した。

「変身学。――グレンジャーのまとめ、写させてもらってた」

 

「ほら来た、グレンジャー」

ディーンが枕に顎を乗せてにやり。

「“五分だけ”で何分延長?」

「ちょっとだ。ちょっと」

デイヴがカーテンを開けると、シェーマスまで枕を抱え直して面白がる。

「女子には“礼儀”だっけ?」

「うるせぇ。勉強は効率だ」

 

ちょうどそのとき、ドアがきいと開き、ロンとハリーが入ってくる。二人とも談話室帰りの浮いた空気をまとっている。

 

「なんの話?」とハリー。

「ジョンソンが変身学でグレンジャーに補講だとさ」とディーン。

「へぇ」とロンがニヤつく。

 

デイヴは肩をすくめ、思い出したように立ち上がった。

「そういや、ちゃんと挨拶してなかったな。デイヴィッド・ジョンソン。デイヴでいい。マンチェスター出身。フットボールと、できれば爆発しない魔法が好きだ」

 

「ハリー・ポッター。えっと、ハリーで」

「ロン・ウィーズリー。ロンでいいぜ」

 

ひと呼吸おいて、デイヴはハリーへ身を乗り出す。

「で、ポッター。フットボールは? どこ応援してんだ」

 

ハリーは一瞬きょとんとし、気まずそうに笑った。

「ぼ、僕、あの……家ではあんまりテレビ、ついてなくて。詳しくないんだ」

「マジか。じゃ、音楽は? オアシスとかさ」

「それも――あんまり。たまにニュースで名前を聞くくらいで」

「……ああ」

デイヴは虚を突かれたように瞬きをし、少しだけ左耳のフープへ触れた。

「悪ぃ、変なこと聞いた」

 

空気を入れ替えるみたいに、デイヴはロンへ顔を向ける。

「お前はまあ、別にいいか。クィディッチだもんな」

「そりゃモチのロンさ!」

「応援してるチームとかあんのか?」

「チャドリー・キャノンズさ!」

言った瞬間、シェーマスが吹き出した。

「あの万年ドベの!? 物好きだなー!」

「おい、言い過ぎだぞ!」ロンは耳まで赤くなる。「歴史があるんだ。今年こそ――」

「その台詞、毎年聞く」ディーンが枕に顔を埋めて笑う。

デイヴは手をひらひらさせて場を収めた。

「好きに理由はいらねぇ。――俺だって“あっちとこっち”、両方応援してるしな」

「“両方”って何だよ」とシェーマス。

「大人の事情だ」

悪びれないウィンクに、部屋の空気が少し柔らぐ。

 

やがて灯りが一段落ち、消灯の時刻が近い。ロンはキャノンズの“今年の注目選手”をなおも力説し、シェーマスが「だから万年――」と二度目の突っ込み、ディーンは笑い疲れて枕に沈む。ハリーはベッド脇で靴下を整えながら、デイヴにだけ小さく言った。

「さっきの、気にしないで」

デイヴは短く親指を立てて返す。

 

それぞれがカーテンを引き、布団に潜り込む音が重なった。デイヴは寝袋みたいな布団に背を沈め、花の香りをもう一度吸い込む。

「……明日、また校庭な」

暗がりへ落とした声に、シェーマスが「了解……」と眠たげに返し、ディーンが「十回は続けろよ」と薄笑いで念を押す。

 

暖炉の熱が遠くでくゆり、四方のカーテンが小さなテントのように揺れる。デイヴは目を閉じた。明日のパス回しと、未完の課題と、グレンジャーの几帳面な字面――その全部が同じ温度で、まぶたの裏に並んだ。

 

 

 

 




今回はここでおしまい!!!!!!!!
後感想くれ

曲の解説いるけ?

  • いる
  • いらん
  • ニョニョニョwwwwwwwww
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