あと前までポッター呼びだったのを今回からハリーにしています。以前の話は気が向いた時に変えます。
題名はなんとなくで決めたので深い理由はないです。スマッシング・パンプキンズは1979がありきたりですけど一番好きっすね。
その日は学校中がオレンジ色に染め上げられ、コウモリやジャック・オ・ランタンがそこかしこに飾り付けられていた。
目覚めたときから漂う甘すぎるカボチャの匂いに鼻をやられながらも、デイヴは上機嫌で授業へ向かった。ツインズやリーの話では、今夜はカボチャ尽くしのスイーツが食堂に並ぶという。
「カボチャパイは絶品だぜ」
「それにプリンも最高だな」
「俺はカボチャのチーズケーキが好き。どうして毎日出ないのか疑問だ」
一時間目の闇の魔術に対する防衛術。教室にはニンニクとカボチャの、妙に“いい具合”に混ざった匂いがたちこめ、デイヴの腹は早くも鳴り出しそうだった。隣のロンは完全に机に突っ伏し、口の端からよだれを垂らして「ぐへへ」と寝言。どうやら夢の中でも何かを食べているらしく、ときどき口がもごもご動く。
「こ、ここ、これらの通り、き、吸血鬼はア、ルバニアでは、と、特に、マ、グルの中で絶大な、え、影響力をもっ、持っており――」
相変わらずクィレルのどもりはひどい。今日はよりにもよって吸血鬼の話が出てくる回だからか、言葉はいつにも増して詰まりがちだった。
「――い、おい! デイヴ!」
「んだよ」
退屈したシェーマスが小声で話しかけてくる。珍しくディーンは腕を枕に眠っていた。甘い匂いがアロマみたいな効能を発揮しているのかもしれない、とデイヴは思う。
「今日の放課後さ、また中庭でフットボールやろうよ! 今回こそは二十回いける気がすんだ!」
「俺ぁ別にいいけど、ディーンにも言っとけよ。あんボール、あいつんだから」
「わかった!」と言うが早いか、シェーマスはディーンを叩き起こさんばかりの勢いで肩を揺さぶった。デイヴは鼻で笑い、ズボンのポケットに手を突っ込むと、天井から吊られたコウモリとニンニクが同じ縄に並んでぶら下がる“前衛的”な飾りをぼんやりと眺める。
やがて、生徒たちの私語がさざ波のように広がり始めた。もちろんデイヴたちも例外ではない。ハリーは彼らの話が聞こえたのか、こっそり笑いを漏らし、いつの間にか起きていたロンも会話に加わって話し始めた。天井のコウモリが羽をぱさりと鳴らし、ニンニクの房がきらりと揺れるたび、甘ったるいカボチャの匂いにうっすら塩味が混じる。
その小さなざわめきの輪に、きっぱりとした声が差し込んだ。
「――静かにしてくれないかしら? 授業中よ」
振り向けば、ハーマイオニーが背筋を伸ばして立っていた。語尾は丁寧なのに調子は高く、まるで風紀そのものが歩いてきたみたいな顔。視線はデイヴ、ハリー、ロン、ディーン、シェーマスの五人をきっちり順番に掃き清める。
ロンは露骨にうんざりした顔で、机の上の羽根ペンをいじりながら小さく「やれやれだぜ」と舌打ちめいた息を漏らす。シェーマスは肩をすくめ、椅子の背にもたれかかって大げさに目を天井へ転がした。デイヴはその二人の反応を楽しむみたいに口の端をゆがめ、ロンの横顔をちらりと見てから、わざと音を立ててポケットに手を突っ込む。対照的に、ハリーとディーンは「悪かった」とでも言うように、同時にうなずいて口をつぐみ、視線を前へ戻した。
教室の空気が一段落ち着いたところで、壇上のクィレルが胸に手を当て、ほっとしたように頷く。
「え、ええっと、あ、ありがとう、グ、グレンジャー、さ、さん。ええ、よ、よくできました。グリフィンドールに……五点」
「ありがとうございます、先生」
ハーマイオニーは満足げに微笑み、椅子へ腰を下ろす。その顎の角度はほんの少しだけ上がっていて、得意げな輝きが髪の間を走った。デイヴは鼻で笑い、(点数までもらいやがった)と心の中でぼそりとつぶやく。
静けさが戻ると同時に、シェーマスが身を屈めてディーンの肘を小突き、唇だけを動かしてささやく。
「なんだよ、あいつ……生まれつき委員長か?」
「やめとけ、聞こえるぞ」とディーンは目だけで制した――が、どうやら一歩遅かったらしい。
ハーマイオニーの肩がぴくりと止まり、ゆっくりと振り返る。黒目がちの視線が一直線にシェーマスを射抜いた。彼女は何も言わない。ただ、眉をわずかに吊り上げたまま、整った口元をきゅっと結ぶ。その沈黙の圧に、シェーマスは椅子の背からずり落ちるように縮こまり、首だけカメのように引っ込めた。
「……わ、悪かったって」
「ほらな」とディーンは肩を震わせ、笑いを飲み込みきれずに喉でくくっと鳴らす。
前列でハリーが咳払いを一つ。クィレルは咳払いを二つ。
「で、では――き、吸血鬼の、ええ、と、ふ、服従させるこ、ここで重要な――」
授業が再び動き出す。
デイヴは足先で机の脚を小さく鳴らしながら、横目で三人を順に眺める。ロンはまだ不満げに頬をふくらませ、机の端にほっぺたをぐにっと押しつけている。ハリーは真面目に板書を取り始め、ディーンは笑いを引っ込めてペン先を走らせる。少し離れた席で、ハーマイオニーは背筋をただしく保ち、ページの端に手を置いて教科書の余白へ几帳面に書き込みをしていた。
天井のコウモリがもう一度、ぱさり。ニンニクの房が風鈴みたいにかすかに揺れる。再びロンは夢の世界へと旅立ち、シェーマスは教科書の隅に落書きを始め、描き上げるたびにディーンへ見せては鼻で笑われ、むきになって線を濃くする。デイヴはそんな様子を横目に、まぶたを重く下ろし、甘い匂いに引っ張られるようにして静かに眠りへと沈んだ。
――カン、カン。
ベルの音と同時に椅子が床を引っかく音が重なり、クィレルが肩を跳ねさせる。
「き、きき今日は、こ、ここまで。つ、つづづづづきは、つぎの回に……」
教室の空気がほどけ、紙と羽根ペンの擦れる音が一斉に立ち上がる。ハーマイオニーが手早く本をまとめると、デイヴの机を指の関節で小さく二度叩いた。
「起きて。次は呪文学よ」
デイヴは片目だけ開け、口の端をわずかに上げてあくびを飲み込みながら立ち上がる。ハリーとロン、ディーン、シェーマスもそれぞれ荷物をつかみ、かぼちゃ色の帯がかかった廊下へ流れ出た。
廊下には魔法で光る切り絵のコウモリが天井を渡り、甲冑はいたずら心でミニかぼちゃの兜を被せられている。ほとんど首なしニックが宙を滑っていき、帽子の代わりに小さなジャック・オ・ランタンを掲げて「良い夜を」と片手を振った。階段が気まぐれに軌道を変える前に、五人は足早にフリットウィックの教室へ。
呪文学の教室は、いつもより明るかった。窓辺にはオレンジの房飾り、各机には手のひら大のジャック・オ・ランタンが一つずつ置かれ、中で安全な魔法の灯りがほのかに揺れている。フリットウィックは背丈を補うために教科書を三冊積み、その上にちょこんと立った。
「さてさて、みなさん! 今日はこれまで練習してきた浮遊の呪文を“実地”でやってみましょう。羽は――はい、机の上に見えますね?」
デイヴはさっそく、羽根の軸でディーンの二の腕をつつく。
「やめろよ」とディーンは笑いながら、同じ要領でデイヴの手の甲をつん、と突き返した。
「やったな?」
「先に始めたのはお前だろ?」
一方シェーマスは杖の先で羽をつつきまくり、ペアのハリーに止められている。
「シェーマス、やめなって」
「なんにも起きないって、ハリー。棒でつついてるのと一緒さ」
フリットウィックは三段重ねの教科書の上で、さらに背伸びをして身振り手振りを添える。
「いいですか、“ビューン、ヒョイ”です。“ビューン、ヒョイ”。そして発音を正確に。これがとても大事! かつてバルッフィオは――」
デイヴはぶっつけ本番で呪文をかけようとしたが、ディーンが手首を押さえて止めた。
「まず振りの復習だって。そう、肘からじゃなく“手首”。」
「うるせぇな。要は浮きゃいいんだろ?」
「そうだけど、隣に本当にバッファロー出たらごめんだぞ」
やがて教室のあちこちで、思い思いの発音と振りが始まる。
「ウィンガ“ディ”アム……」「ガーディアム、だってば」
腕の軌道も“ビューン、ヒョイ”どころか“ぐいん、ぶんぶん”まで多種多様だ。後ろの席ではネビルが杖をすっぽ抜かせ、ペアを巻き込みながら机の下へ潜り込んでいる。
ディーンは何度目かで羽がふわりと数センチ浮いた。
「見たか?」
「今のは隙間風だな」とデイヴは一蹴する。自分は“ビューン、ヒョイ”が結局何なのか飲み込めず、早々に飽きてシェーマスとハリーの攻防を面白がって眺め始めた。
「ウィンガディアム・レービオーサー!!」
「違うよ、シェーマス。『ウィンガーディアム・レヴィオーサー』だって」
「え、そう言ってなかった?」
二人は腕の振りを丁寧に、発音も直して懸命に挑むが、なぜか羽は微動だにしない。
「なんで浮かないんだろ……」とハリーが眉を曇らせ、
「わかんない! おい、浮けって!」とシェーマスが癇癪を起こして、適当な言葉をぶつぶつ足しながら腕をぶんぶん振り回した――
――ボンッ。
乾いた音とともに白い煙が上がり、シェーマスの羽は一瞬光ってから黒い煤をまとってはらはら崩れた。彼の顔は見事に真っ黒。ついでにハリーの羽の先端にも火花が移り、先っちょがこんがり焦げる。
「ギャハハハ!!シェーマス!だっせぇなお前!!」
デイヴは腹を抱えて机に突っ伏し、ディーンは大音響に目を剥いて、せっかくふわりと浮いていた自分の羽を見落とす。ネビルは驚いて椅子から転げ落ち、机の下から「だ、だいじょうぶ……」と情けない声がした。
「おっと、発火の呪文は再来年の単元ですよ、ミスター・フィネガン」
フリットウィックは慣れた手つきで煙を払い、教室を一望してにっこりと目尻を下げた。
そんな騒ぎの最中、ロンもまたシェーマスに負けず劣らずの体たらくである。
「ウィンガーディアム・レビオサー!」
長い腕をぶんぶん振り回すたび、羽は机の上で情けなく転がるばかり。ついに斜め前から、とがった声が飛んだ。
「ちょっと待って。ストップ、ストップ!」
「なんだよ! うるさい奴だなぁ」と、ロンはあからさまに嫌そうな顔でにらみ返す。だがハーマイオニーはひるまない。
「そんなに振り回したら危ないでしょ? それに発音がぜんっぜん違う。“レヴィオーサ”よ。あなたのは“レビオサー”」
ロンの眉間にしわが寄る。
「そんなに言うんなら、君がやって見せろよ!ほら、どうぞ??」
ハーマイオニーは顎をすっと上げ、杖を持つ手首を柔らかく捌いた。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
羽は空気を一匙すくうようにふわりと浮き、一、二メートルの高さで静止する。灯りに透けたふちがきらりと光った。
「おお、見事!皆さん、グレンジャーさんがやり遂げましたよ。グリフィンドールに五点!」
フリットウィックの高い声に、教室のあちこちから小さなどよめきが上がる。ハリーは思わず口笛を飲み込み、ディーンは「こりゃ完敗だ」と肩をすくめ、シェーマスは黒こげの頬を指でこすりながら渋い顔。デイヴは口の端をわずかにゆがめ、横目でロンの反応をうかがった。
ロンの機嫌は、授業が終わってからも最悪だった。廊下に出るやいなや、長い脚で床をずるずると引きずり、羽根ペンの軸を噛みながら吐き捨てる。
「悪夢みたいなやつだよ、ほんとにさ。なにが“レヴィオーサ”だ! そんなんだから友達がいないんだ」
シェーマスは大げさに頷き、肩を広げて同調した。
「うるさいんだよな、ほんと。黙っとけって感じ」
「そうそう」とロンは勢いづく。靴先で石畳をつつき、真っ直ぐ前を見ようともしない。
困ったことに、ハリーもディーンも苛立ちを完全には隠せていなかった。ハリーは視線を泳がせ、唇を引き結ぶ。(箒やクィディッチの選手になれた件で色々言いがかりをつけられた)という小骨が喉に引っかかったままらしい。ディーンは「まあ、正しいんだけどさ」と曖昧に笑って肩をすくめるが、眉間のしわは薄くならない。
その空気の悪さに、デイヴは肩をひとつ回してから短く言った。
「……便所」
それだけ告げて列から外れる。西の塔の踊り場は風が抜け、石壁の割れ目から冷たい空気が入り込んでいた。
デイヴは席を取ってくれたディーンに顎で礼を返し、サンドイッチを五つさらっては吸い込まれるみたいに頬張った。喉を鳴らしながら二つ目を片付けたところで、何気ない調子で尋ねる。
「……ハーマイオニーは?」
「知らない。大広間では見てないな」ディーンが首をひねる。
「さっき聞こえてたみたいでさ。泣きながらどっか行っちゃった」とシェーマス。向かいのロンはパンプキン・ジュースのストローを乱暴に噛み、むすっと目を逸らした。ハリーは言葉を選ぶみたいに黙りこくったまま、皿の縁を指でなぞっている。
パンプキンの甘い匂いと食器の触れ合う音が渦を巻く中、デイヴの胸に小さな棘がひっかかった。五つ目のサンドイッチを呑み込むと、舌打ちをして彼は立ち上がる。
「……次、変身術だっけ?」
「そう。マクゴナガル」ディーンが答える。
「まあ一時間くらい、いなくてもバレねえだろ」デイヴは肩をすくめる。「先に行ってろ。すぐ戻る」
大広間を出ると、廊下は昼の喧噪の余韻をかすかに残し、ハロウィンの飾りがゆっくり揺れていた。甲冑には悪戯でミニ・ランタンが被せられ、ほとんど首なしニックが軽く会釈して滑っていく。デイヴはまず図書館へ向かった。マダム・ピンスに「一年生のグレンジャー、来てたか」と訊くと、すぐに鋭い眉が返ってくる。
「今は授業の時間です。生徒は教室にいるべきでしょう?」
「質問に“はい/いいえ”で答えるのは簡単だぜ、マダム」
「……見ていません」ピンスは視線だけで追い払った。
次にグリフィンドール塔。太った婦人の肖像は腕を組み、うんざりしたようにため息をつく。
「この時間に出入り? 規律違反を増やさないでちょうだい。見ていませんよ」
「助かったよ、貴族のおばさま」
中庭、廊下の踊り場、医務室の前。どこにもいない。ポルターガイストのピーブズは天井からぶら下がるコウモリと一緒に逆さまになり、「レヴィオーサぁ〜♪」と調子っぱずれに歌いながら茶化した。
「泣き声なら西棟〜、いやいや東棟〜♪」
「役に立たねえ道案内は要らねえよ」
「おっと、ぼうやは“レヴィオサ”言えるかなぁ? べ・ん・きょ・う〜♪」
デイヴが軽く杖を上げる仕草をすると、ピーブズは舌を鳴らして柱の陰に消えた。
階段が気まぐれに軌道を変える前に、デイヴは一段飛ばしで下りの通路へ入る。石壁の継ぎ目を冷たい風が抜ける。ふと、曲がり角の先からざらついた笑い声が聞こえた。二つ、三つ。年上の噛みつくような調子。続いて、潰れた鼻声の抗議。
「それ、返してくれないかな。大事な物なんだ」
「へえ?“お願いできますか”じゃないのか?ご両親に習わないでここまで?」
「ハッフルパフは礼儀がなってるって? じゃあ拝ませてみろよ」
デイヴは足を止め、角の縁に身を沿わせて覗いた。石の壁に囲まれた半端な踊り場。スリザリンの上級生が二人、緑のネクタイを緩く巻き、革靴で床を小突いている。片方は背が高く細い指で綺麗な刺繍の入ったハンカチを摘み、もう片方は肩幅が広く、少し腹の出ている方がつま先で床をとん、と突いて笑っている。その前に、ハッフルパフの一年生が立っていた。黄色いネクタイが胸元でしっかり結ばれ、きちんとした髪がわずかに乱れている。手はぎゅっと握られているが、顎は引かず、まっすぐ二人を見ていた。
(見覚えがある名前だ)とデイヴは思う。
さっき図書館前で耳に入った呼び声が脳裏でつながる。「ジャスティン」。組み分けのとき、列でシェーマスのすぐ前――ハイフン付きの長い姓が読み上げられ、ハッフルに送られた少年。そうだ、あのときの。
細身の四年生が、少年のハンカチをひらりと持ち上げた。刺繍で繊細な金文字。
「お高そうなハンカチだな。お母さまが買ってくれたか?」
「貸してくれてるだけだ。だから返してくれ」
「“だから返してくれ”?」肩幅の広いほうが鼻で笑う。「お願いの仕方を習いに来たのか?この穢れた血め」
ジャスティンは深く息を吸い、言い直す。
「返してください。お願いします」
言葉は丁寧だが、声の芯は折れていない。四年生の笑いが、わずかに苛立ちを混ぜて濁った。
デイヴは片手をポケットに突っ込み、もう片方で制服の袖を捲った。ハロウィンの飾りの影が床に揺れる。甘いカボチャの残り香はここまで届かず、かわりに石と革の匂いが強い。角から一歩、靴先で石を鳴らして踏み出す。
(いいね~)
視線が三つ、同時にデイヴへ向く。彼は薄く笑った。
「面白そうなことしてんじゃん、俺も混ぜろよ」
ジャスティンの目が一瞬だけ見開かれる。上級生の片方が口の端を吊り上げた。
デイヴは歩調を崩さず、二人と一人の間合いをゆっくり詰めていく。ハンカチをつまんでいるほうのスリザリンが、露骨に顔を歪めた。
「しゃしゃり出るなよ、グリフィンドールの劣等生が」
まだ背丈では負けている。それでもデイヴは眉ひとつ動かさず、さらに半歩踏み込む。左耳のフープを無意識に人差し指で弾き、静かに顎を上げた。
「Ya look like some older lot, but wot the hell're ya doin'?」
(見たところ上級生っぽいけど、あんたら何してんの?)
細身のスリザリンが鼻で笑う。
「礼儀を教えてやってるだけだよ、このマグル生まれに。ここは“お願いできますか”って言うところだろ?」
「言ったよ」ジャスティンが低く返す。指の関節が白くなるほど握りしめられているのに、声だけは真っ直ぐだった。
肩幅の広いほうがつま先で床をとん、と叩く。
二人の視線がジャスティンへ流れた刹那、デイヴはつま先で床を蹴って跳ね上がり、指先でハンカチをさらう。
ぱっと視線が彼に集まる。
「おい、今なにした? それ返せよ、グリフィンドール」
デイヴはハンカチをひらひらと煽って見せ、次の瞬間にはジャスティンの胸にぐっと押し付けて返した。
「礼はいい。――先生呼んでこい。俺がこいつらぶっ殺しちまう前にな」
犬歯をむき、獰猛に笑うと、ジャスティンの肩を後ろへ強く押しやる。少年はその笑顔に危険の匂いを嗅ぎ取り、小走りから全力へ切り替えて角の向こうへ消えた。
「余計なことするな、グリフィンドール。英雄気取りか?」
デイヴは鼻で笑い、親指で指の関節をぽきりと鳴らす。
「どいつもこいつも、スリザリンは物掠めるしか能がねぇのな」
「テメェらの親の面が見てみてぇぜ。きっと腐ったトマトみてぇな顔で、ガキに盗み教えてるんだろ?」
肩幅の広いほうが唇を歪め、細身のほうは目だけで笑った。
「口が回るな、劣等生」
「口だけじゃねえさ」デイヴは半歩踏み込み、二人の間合いを潰す。「ほら、“上級生”の威光で震え上がらせてみろよ。血統のご利益ってやつで」
細身の眉がぴくりと跳ねる。デイヴはさらに煽る。
「さっきの『首輪』のたとえ、気に入ったぜ。――で、首輪つけられてるのはどっちだ?親の名前と寮章なきゃ吠えられねぇ、proper*1knob’ed*2」
その一言で空気が切り替わった。
細身のスリザリンがすっと腕を上げ、平手が閃く。
ぱちん――。
乾いた音が踊り場に跳ね、デイヴの頬がわずかに横へ弾かれた。彼は首だけをゆっくり戻し、笑みは崩さない。
「やったな? 今」
大義名分が手に入った、と彼は思う。先に手を出した奴が悪い――路地裏でも学校でも同じ理屈だ。だからデイヴは“先にもらう”。そうすれば、あとは遠慮はいらない。左耳のフープを人差し指で弾き、カチ、と小さく鳴らす。
「なんだよ、だいたいお前、下級生だろ? 口の利き方がなってないな」
「そうだな、これは“躾”が必要だ」
細身のほうが外套の内へ手を入れ、杖の柄にかけた指が――届く前に、デイヴが動いた。右手で胸倉をつかみ、ぐい、と一気に引き寄せる。相手の体が浮いた瞬間、みぞおちへ左の拳をアッパー気味に突き上げた。空気が潰れる音。肺が抜ける音。口の端から透明な唾液が床へ散る。
「お前! 何してんだ!」
肩幅の広いほうが動揺してローブをまさぐるが、杖を取り出す手つきがモタつく。その隙に、デイヴはもう一度同じ場所へ重ね打ちを入れ、細身の身体を肩幅の広いほうへ思い切り押しつけた。二人の足が絡まり、そのまま石床へ倒れ込む。細身はえずきながら咳を繰り返し、太いほう――はっきり言えば脂肪で固めた腹――の上で、必死に身をずらして逃れようともがく。
「Oi, pig. Get this down yer fookin’ throat.」
(おい、豚野郎。これでも喰っとけ)
デイヴは助走もつけず、ボールを蹴る要領で腹の中心を正確に踏み抜くように連打した。爪先は鳩尾と臍の間――顔は狙わない。顔をやればすぐバレる。バレれば面倒――十歳のときに学んだ算盤だ。鈍い息が漏れるたび、太いほうの手が空を掻く。
視線を細身へ戻す。杖が床を転がっている。細身は腹を押さえながら、震える指先を伸ばしてそれに触れようとしていた。
デイヴは二歩で間合いを潰し、先に杖をつま先で遠くへはじき飛ばす。ついで、伸びた手首めがけて踵を振り下ろした。
パキッ、と軽く乾いた音。
「あぁぁぁぁぁ!!!!」
細身は仰向けのまま、折れたほうの手首を反対の手で抱え込み、目に涙を浮かべて喘ぐ。
デイヴは腰を落とし、相手の髪を鷲づかみにして顔をこちらへ向けさせる。
「盗むしかできねぇ手はいらねぇよな。そう思うだろ?おい」
俯いた目線を無理やり合わせる。
「おい、聞いてんのかよ。貴族気取りのクソッタレが」
細身は痛みに震えながら、「手が、僕の手が……」と呟いた。その響きが、デイヴの癇に障る。
「おい!聞いてんのか!」
怒声にびくりと肩が跳ね、涙に濡れた眼がデイヴをにらむ。
「こ、こんなことして……どうなるかわかってるのか?ぼ、僕の父は偉いんだぞ」
デイヴは鼻で笑った。
「んなの知ったこっちゃねぇよ。下級生いじめて、そいつと同学年にギタギタにされてちゃ世話ねぇな」
「だいたい“偉い”ってなんだ? 山賊の頭か? ああ?――こっちはプッシャー半殺しにしてんだ。テメェの親父もぶち殺してやるよ」
吐き捨てるように言い、顔へ唾を一つ落とす。手を放り、後頭部が石に当たる鈍い音を確かめてから、膝のあたりを爪先で思い切り蹴り抜いた。細身が丸く折れ、悲鳴がまた一つ増える。
デイヴは無言で太っているほうへ向き直る。(どう料理してやるか)――その算段をつけかけた時だった。
「――ジョンソン!」
石壁に反響して、彼の苗字が鋭く飛んだ。
叫び声の主はミネルバ・マクゴナガルだった。タータンのローブの裾を翻し、硬い踵で石床を鳴らして踊り場へ踏み入る。後ろには息を切らしたジャスティン――フィンチ=フレッチリーが半歩遅れて続く。
「その足を止めなさい、ジョンソン!」
一言で空気が凍る。デイヴのつま先が寸前で止まり、太ったほうのスリザリンは腹を抱えたまま、細身のほうは折れた手首を抱えてうめいた。マクゴナガルは杖を抜き、細身の手首へ一瞥を落とすと短く呪文を唱える。
「フェルーラ」
白い包帯と副木がその場で編まれ、手首から前腕までぴたりと固定された。ついでに太ったほうの上腹部へ杖先を向ける。
「ゆっくり息を吸って……吐いて。そう、慌てない。」
声は冷徹だが、処置は素早い。彼女は二人の足元に視線を落とし、散らばった杖を呼び寄せてひとまとめに宙へ浮かせた。
「状況説明を。――フィンチ=フレッチリー君」
ジャスティンは背筋を伸ばし、震え気味の声で答える。「ぼ、ぼくのハンカチを取られて……返してくれってお願いしたら、からかわれて。そしたら、彼……、えっと、ジョンソンが来て……助けてくれました」
マクゴナガルの視線がデイヴへ移る。眼鏡の奥の瞳が、氷のように澄んでいる。
「ジョンソン、あなたは?」
「見りゃわかるだろ。ガキが絡まれてた。俺は取り返しただけだ」
「“だけ”の範囲をはるかに超えています。」マクゴナガルは切り返す。「本校は暴力での報復を認めません。挑発されても、手を上げてよい理由にはならない」
細身が痛みに滲む声で割って入る。「せ、先生、こいつが――ぼ、僕を蹴って、手を――」
「あなた方二人にも後で詳しく聞きます。」マクゴナガルは即座に遮ると、ジャスティンへ振り向いた。「医務室へ行きなさい。マダム・ポンフリーに処置を受ける。授業には私から連絡します」
「は、はい!」
ジャスティンはハンカチを握り締め、デイヴへ一瞬会釈してから駆け去った。
マクゴナガルは残った三人を鋭く見渡し、さらに続ける。
「まずは処分です。――スリザリンのあなた方、四年生にもなって一年生をいじめるとは。スリザリンからそれぞれ十点ずつ減点。今夜から一週間、フィルチと罰則作業です。内容は石床磨きと倉庫の棚卸し。」
太ったほうが顔をしかめる。「せ、先生、でもそいつが先に――」
「黙りなさい。あなた方の“先”は、この場に居合わせた者たちが見ています。」
そしてデイヴへ、淡々と刃を向ける声で。「グリフィンドールからは三十点減点。あなたも罰則作業です、ジョンソン。理由は過剰な暴力、ならびに極めて不適切な発言。」
デイヴは鼻で笑い、肩をすくめた。「上出来だな」
「上出来かどうかは私が決めます。」マクゴナガルは一歩詰める。「そして、もう一度だけ言います。挑発に乗らないこと。次は停学処分を検討しますよ」
石壁に言葉が吸い込まれる。デイヴは視線をそらさず、左耳のフープを指で弾いて、乾いた音だけを返した。
マクゴナガルは杖先を軽く振り、散らばった二人の荷物をまとめて宙に並べると、短く指示を飛ばす。
「あなた方二人は医務室へ。歩けますね? 付き添いは不要です――ゆっくり歩きなさい。転べばさらに点を失います」
「……はい」
二人は肩を寄せ合うようにして、青ざめた顔で踊り場を離れた。細身は包帯の腕を抱え、太ったほうは腹を押さえながら、デイヴへ怨嗟半分、恐怖半分の視線を投げたが、何も言えない。
マクゴナガルは最後に残ったデイヴへ向き直る。
「あなたは私と来なさい。詳細を聞きます。それと――グレンジャーを知りませんか? 先ほどの変身術に出席しませんでした」
デイヴの眉がわずかに動く。「昼から見てない。探してたとこだ」
「そうでしょうね。」マクゴナガルの声に、一瞬だけ柔らかい温度が混じる。「彼女の件はこちらで確認します。あなたはこれ以上“探し物”を増やさないこと。――ジョンソン、わかりましたね?」
「……了解、教授」
「よろしい。歩きなさい」
タータンの裾が翻り、教師と生徒は踊り場を後にした。遠くの窓から差し込む橙の光が、ハロウィンの切り絵を壁に揺らす。甘いカボチャの匂いはいつも通りだが、空気はさっきまでよりずっと冷たい。
デイヴは無言のまま歩調を合わせ、奥歯の裏に残った鉄の味を舌で拭った。久しぶりの喧嘩で上っていた血が下がっていくと、デイヴは本来の目的を思い出したが、どうやらそれは果たされそうになかった。
マクゴナガルはデイヴを職員室へ連れていくと、扉を閉める音さえも規律の一部であるかのように冷ややかに響かせた。石壁には過去の表彰状と賞杯の写真、炉には小さな炎が揺れ、壁時計が分単位で刻む音がやけに耳につく。
「――説明は結構。見れば十分です」
机の前に立たせたまま、彼女は低い声で切り出した。「まず一点。あなたが“正しい側”に立っていたとしても、暴力で秩序を置き換えることは許されません。二点目。あなたの言葉遣い――殺すだの何だの、ホグワーツでは口にしてはならない語です。ここは路地裏ではない」
デイヴは肩をすくめ、視線だけで反論の刃を磨く。
「先に手ェ出したのは向こうだろ。俺は止めただけだ」
「止める、には手段があります」マクゴナガルは眼鏡を指で押し上げる。「教師を呼ぶ。周囲の生徒に助けを求める。あなたが選んだのは、報復です。三点目――挑発に乗らないこと。あなたの短気は、あなた自身と寮を傷つける」
左耳のフープが、彼の指で小さく鳴った。
「……じゃあ、見てろってのか。上級生が一年を犬呼ばわりしてるのを」
「見て、しかるべき者を呼びなさい。あなたは“しかるべき者”ではない。少なくとも、いまは」
言葉は冷たいが、胸元のブローチがわずかに震えるほど真っ直ぐだった。
それからは、懇々と続いた。勇敢と無謀の違い、正義感と自己陶酔の境目、グリフィンドールの名の重さ。時計の針が一周して戻ってくる頃、窓の外は橙から群青へ変わり、遠くで食堂のざわめきが膨らみ始める。
「処置は先ほど通りです。グリフィンドールから二十五点減点。罰則作業は今夜から一週間、管理人フィルチの指示に従いなさい。加えて――」
彼女は羽根ペンをとり、さらさらとメモを走らせた。「本日限り、夕食から就寝まであなたは監督下に置きます。パーシー・ウィーズリーに連絡を入れますので、勝手な行動は一切禁止。大広間から寮まで直行、寄り道不可。理解しましたね?」
「……了解」
「いいでしょう。歩きなさい」
扉を出ると、塔の廊下は晩鐘の余韻でほの明るく、切り絵のコウモリが壁に影を落としていた。大広間へ入る手前、マクゴナガルは赤金のバッジを胸に光らせる長身の少年を呼び止める。
「ウィーズリー」
「はい、教授」
「ジョンソンを見張りなさい。今夜は彼を単独行動させません。食後は直ちに寮へ。途中で誰かと離れることのないように」
「お任せください、教授」パーシーは眼鏡を押し上げ、模範生らしい硬い笑みを浮かべた。「ジョンソン、こちらへ。席はあっちだ」
大広間は橙の海だった。ジャック・オ・ランタンが天井下に浮かび、カボチャのパイ、プリン、チーズケーキが帯のように延びる。フレッドとジョージが遠くから「おやおや護衛付き!」と茶々を入れかけたが、パーシーの咳払い一つでぴたりと口をつぐむ。デイヴは腰を下ろし、皿を引き寄せながら、隣の監督官を横目でにらむ。
「君は座る。立つな。わかったね」
(立つな、ね)デイヴは鼻で笑い、フォークをくるりと回す。食欲はある。胃袋は騒ぐ。
「今は規則に従うんだ」
「はいはい、立派なバッジの言うことは絶対だ」
「正確には――寮監の指示は寮生の安全のためにある」
やりとりの間にも、皿は次々と満たされる。デイヴは機械のようにナイフとフォークを動かし、味を感じるより先に嚙みくだいて飲み込んだ。向こうの卓でリーが笑い、ツインズが小さく爆竹(合法品だ)の芯を見せ合う。パーシーの目が稲妻のように走り、それはすぐ霧散する。
やがてデザートの列が押し寄せ、ジャック・オ・ランタンの灯りが一段と強くなる。デイヴは手を止め、天井のオレンジの群れを眇める。パーシーの視線が釘のように刺さっているのがわかる。首を右に傾けて、天井の橙色に輝くシャンデリアを、顔にかかった前髪の隙間から覗き込むように眺めた。
マクゴナガルは上座で背筋を伸ばし、時折こちらを一瞥する。それは“見張り”というより、縄の末端を確かめる手つきだった。デイヴはその目を真正面から受け止め、ふっと口の端だけで笑って皿へ戻る。
そして――晩餐のざわめきが最高潮に達したちょうどそのとき。
遠い扉の向こうから、誰かの走る足音が石を叩く音が、かすかに、確かに、近づいてきた。
大広間の扉がはね、クィレルが頼りない足取りで駆け込むや、「トロールがぁ!地下室にぃ!」と叫んで、広間の真ん中でばたりと倒れ込んだ。
一瞬の静止ののち、悲鳴が波のように膨らむ。椅子が鳴り、皿が跳ね、ランタンの灯りが乱れて揺れた。
高卓でダンブルドアが立ち上がる。杖先の白銀の火花が天井まで裂け、「静まれぃ!!」の一声が大広間の隅々に染み渡る。
「監督生よ、各寮を率いて直ちに寮室へ戻りなさい」
パーシーは電撃に打たれたかのように立ち上がると、目をらんらんと輝かせて指揮を執り始めた。
「グリフィンドール、整列! 一列、押さない、走らない!」
パーシーが立ち上がり、デイヴの肘を軽くつついて合図する。デイヴは立ち上がり、人波の中でディーンとシェーマスと合流した。
「ハリーとロンが見当たらないぞ?」とシェーマス。
「上も下もごっちゃだ。他の寮に間違えてついてってんじゃね」とデイヴは平板に返す。歩調は落とさない。
廊下はざわめきと革靴の連打で満ち、甲冑がきぃと首を軋ませる。ピーブズが逆さに歌いながら現れては、パーシーの一喝で霧のように消えた。階段が気まぐれに軌道を変える前に、列は塔へ滑り込む。肖像のご婦人が目を丸くし、合言葉も問わずに扉を開けた。
「名簿順に返事!」
赤い談話室でパーシーが点呼を取る。名が進み、返事が続く。
「――ハリー・ポッター?」沈黙。
「ロン・ウィーズリー?」また沈黙。
シェーマスが「やっぱ居ないな」と唇だけ動かし、ディーンがデイヴの脇腹を肘で小突く。「ところで君、さっきマクゴナガルにしょっ引かれてたよな。何やったんだよ」
「ちょっとした揉め事の後始末」とデイヴ。上の空気味の声音に、ディーンは「だよな」と肩をすくめた。
間もなく肖像の扉が開き、マクゴナガルが素早い足取りで入ってくる。
「ウィーズリー、状況は」
「教授、点呼の結果、ポッターとロン・ウィーズリーが不在です」
デイヴは急激にタバコが吸いたくなり始めた。
マクゴナガルの瞳が鋭く光り、「確認しました。ここで待機。外出は厳禁。扉は施錠します」とだけ告げる。杖先が弧を描き、肖像枠が内側から固く閉じた。
暖炉がぱちりと鳴る。ざわめきは低くうねり、部屋全体に重たい蓋が降りる。
談話室のざわめきが少し落ち着いたころ、シェーマスとディーンが左右から肘でつついてきた。
「で? さっき何やったんだよ、ジョンソン。面白いとこだけ三倍速で」
「順番抜かしなしで頼む。血とか飛んだ?」
デイヴは「気にしてもしゃあねぇ」と肩をすくめ、椅子の背にもたれて顎を上げる。
「んでよ――まず“ぱちん”って煽りビンタもらってな。『先に手ぇ出したな?』で大義名分ゲット。あとは礼儀講座。“物は借りたら返しましょう”を、身体で教えて差し上げたワケ」
「身体で、ね」ディーンが吹き出す。
「お前、上級生だぞ?怖くなかったのかよ」シェーマスが尋ねる。
デイヴは少し思案した後、視線を下に向けて、あきらめたように笑った。
「三つ上のガキくらい、あっちじゃ何人ものしてっからさ。大した事ねぇよ」
シェーマスは「うわぁ」と目を輝かせ、ディーンは「武勇伝語りにはまだ若すぎないか?」と揶揄いデイヴに二の腕を軽く殴られている。
身振りに合わせて、デイヴは腹のあたりを軽く蹴る真似、杖を遠くへ払う真似、髪をつかんで目線を合わせる真似――と、面白おかしく編集した“実況”を続けた。聞き手はいつの間にか増えていて、近くにいた上級生も半笑いで耳をそばだてる。パーシーは遠くから鋭い視線を投げるが、ここぞとばかりに双子が視線の壁になって見えにくくする。
「で、トドメは?」
「トドメは出してねぇよ。教授のホイッスルで終了。判定勝ち――減点付きな」
「減点! お前やっぱりやってることは負けてるじゃないか!」
笑いが一段上がったとき、肖像の穴が内側から開いた。
三人組が入ってきた。髪はぐしゃぐしゃ、ローブは肩からずり落ち、靴には灰の汚れ。歩幅も視線もぎこちないのに、三人の間にだけ空気が通っているのが一目でわかった。談話室の熱が、瞬間だけ音を潜める。
デイヴはほんの一拍だけ目を細め、それを表に出さずに息を整える。視線が合った。彼は気取った笑みを片端だけ上げ、顎をちょんと上に動かす。
(―見たぜ、元気ならいい)
その仕草のまま、背後から混ざってきたフレッド、ジョージ、リーに向き直る。
「おいスナップス、面白そうな話してんじゃねえか」「“編集版”じゃなく“完全版”いこうぜ」
「完全版は有料だ、兄弟。まずは導入から――“ぱちん”だ」
デイヴが話を再開すると、輪はまた笑いでふくらんだ。向こう側で、三人は小声で言葉を交わし、ローブの裾を整えてそれぞれの席へ。ちらりとこちらを見た目の端に、わずかな笑みがのぞき、それからまた談話室のざわめきへ紛れていった。
オアシスのライブ行きたすぎた。しかし現在バイトセーブ中の俺には高すぎた。
なんとも難産でしたね~。もとから賢者の石編はこんな感じで、あくまでモブの一人としてデイヴは動かすつもりです。
しかぁし!!安心してください。秘密の部屋編からはしっかりゴールデントリオとの絡みが出てきますし、アズカバンの囚人編ではがっつり仲良くなる予定なのです!!!!
あとやっぱり不良ということなので、不良らしく暴力シーン入れてみました。まあまず初めて書いてる小説なので、殴ったり蹴ったりのシーン書くのが難しくて、ここも難産になった理由の一つですね~。
賢者の石編はここが最大の山場、というか明確な立ち位置を決めるところなので、以降は駆け足で終わらせるつもりです。
ではまた一週間後かい十日後か一か月後にお会いしましょう。
あと感想くれ感想。感想乞食なんだワ。