ハリー・ポッターとマンキュニアンの少年   作:キラキラ武士

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デイヴの母の名前を変更しました!あとちょっとこれから先書いていくうえで邪魔になるところが2話にあったので、そこも書き直しました。
読み返したら名前がちょこちょこ違ってたりしたんで、もし変更し忘れてるところがあったら教えてください。


父の残したもの

デイヴはすぐにでも走り出して、この奇妙で魅力的な場所を、ひとつ残らず味わい尽くしてやりたかった。

 

「競技用箒」と書かれた、どう見ても掃除には不向きそうな細長い道具を売る店。天井まで本がうず高く積まれた、まるで本の迷宮のような書店。ショーウィンドーには、角ナメクジの干物やカエルの膵臓、ヒルの汁が樽いっぱいに並んでいて、思わず目を背けたくなるような店もある。

 

時間や目的も忘れて、彼はすべての店に入ってやりたかった。どんな本が売られているのか、魔法使いの本だし、勝手に喋ったり文字が浮かんだりするだろうか。あの樽に詰まってる、大量のキモいのはいったい何のために売られているのか。競技用箒ってなんだ?まさか…、箒でチャンバラ?そんなわけないか。

 

とにかく目に入った一番近くの店に入ってみよう。黒くて丸々とした巨大な鍋がずらりと並ぶ、妙に目立つショーウィンドーの店――たぶん魔法の鍋屋だろう。デイヴが勢いよく店に向かおうとしたそのとき――

 

「ジョンソン、新しいものに興味があるのは喜ばしいことですが、私たちはまずお金をおろさないことには何もできませんよ」

 

デイヴは急に現実に引き戻された。

 

「そんな急にぶっこんで来ないでくださいよ。こっちはまだ魔法界に来て十分も経ってないってのに、気分ダダ下がりっすよマジで」

 

マクゴナガルは一瞬戸惑ったように目を瞬かせたが、すぐに口元を引き締めて言った。

 

「では行きますよ。グリンゴッツ銀行へ」

「グリンゴッツ?」

「ええそうです。ゴブリンが運営している銀行で、ホグワーツ以外でものを保管するなら、あそこが一番なんですよ」

 

彼女が指をさした先には、横丁にあるどの店とも違う、白い煉瓦でできた建物だった。Y字路を作り出すために建てられたかのようなそれは、銀行というよりかは役所のような雰囲気をまとっている気がデイヴにはした。

 

「ゴブリンってさっき言ってましたけど……それって、まさか“あの”やつっすか? “指輪物語”とかに出てくる、剣持って襲ってくる、アレ……」

 

二人は既に歩き出していたが、デイヴの質問を聞いて、マクゴナガルは足を止め、デイヴはそれに一歩遅れて立ち止った。

 

「あー、どうかしたっすか?」

「ジョンソン、あなたあの本を読んだのですか?」

 

驚いたようにそう言う彼女に、デイヴは少しだけがっかりした目線をマクゴナガルに向けた。

 

「あれっすか? もしかして、『まさかマンチェスターのクソガキが、あんな長いの読めるわけない』ってやつっすか? ひっでぇな……」

「いえ、まさかその年で、あの長編を読み切る子がいるとは思わなかったので、少し驚いただけですよ。まあ――あなたが本を読むタイプの子だとは、正直思っていませんでしたけれど」

「そりゃ雨の日はサッカーもできないし、毎日ダチと遊んでるのもさすがに飽きるっすよ。で、家にあったシャーロック・ホームズ拾い読みしてたら、なんか止まらなくなってて……気づいたら、っすね」

 

マクゴナガルの口元が、かすかに笑ったように見えた。

 

「それで、いろんな本を読むうちに、指輪物語も読んだ、と。……しかし、その割には、発言の節々に“読むのを途中でやめた者”らしい浅さが滲んでますけどね」

 

かなり強烈な皮肉だったが、デイヴは笑って返した。

 

「イギリス人らしい褒め方っすね。そういうのもあっちじゃ教えるんすか?」

「ホグワーツでは、“皮肉と謙遜は英国紳士のたしなみ”という授業はまだ開講されていませんが……検討しておきましょうか」

 

二人はニヤリと笑った。

 

「いや~、先公って今まで頑固な奴としか会ってこなかったんで、アンタみたいなのと会ってびっくりしたっすよ」

マクゴナガルは少し眉を上げたが、すぐにほんの小さく、しかし確かに微笑んだ。

 

「それは……褒め言葉として受け取っておきます。もっとも、私はあなたにとって“最初の魔法界の教師”ですから、比較対象があまりに少ないのでは?」

「へいへい、仰る通りで。記念すべき一人目っすよ。期待してますからね、“柔軟な指導”ってやつ」

「期待に応えられるかは……あなたの行い次第ですよ、ジョンソン」

 

二人の口元に、ふたたび似たような皮肉っぽい笑みが浮かんだ。

 

「それで、あなたはこれまでどんな本をお読みになって?」

「え、俺っすか? まあ……推理モノとか、SFとか? あと、ちょっとだけホラー。現実よりヤベえ世界の話読むと、なんか落ち着くっつーか……」

「……あら、それは面白いわね」

 

マクゴナガルは、まるで孫の趣味に興味を持った祖母のような口調で微笑んだ。

 

「ホグワーツの図書館にも、そういう“ヤバそうな”本はたくさんありますよ。ただし……あまり奥の棚の本には、手を出さないようにね」

「え、マジっすか? めっちゃ気になるな。てか、魔法界ってどんな本あるんすか? 授業の教科書以外で、なんか面白いやつ」

「そうですね……“呪われし者の夜行録”とか、“魔法史に消えた十三人”なんて本は、あなたに合うかもしれませんね」

「タイトルだけでもう最高じゃないすかそれ」

 

二人はそんなふうに歩きながら、ゆるやかに言葉を交わしていった。

まるで祖母と孫の休日の散歩のように、穏やかで、どこか不思議な空気をまといながら。

やがてふと足を止めたとき、彼らはいつの間にか――グリンゴッツ銀行の白い威容を前にしていた。

 

銀行とは書いてあるけど、これじゃあ質屋って言ったほうがまだ納得できるな、とデイヴは心の中でつぶやいた。

 

ゴブリンたちは通路に沿って設置された、少し高くなっている台の上で、宝石やら金銀銅をモノクルで覗いたり、光にかざしたりして何かを紙に書き込んでいる。

作業は無言で、けれど手元の動きは異様なほど機敏だ。

デイヴのこぶしよりも大きいエメラルドや、何かしらの魔法でも持っているのか、光を当てると屈折した光が虹色に輝く巨大な三角のダイヤモンド、本当に燃えてる髑髏の形をしたルビーなどが見える。

 

(本当に指輪物語のゴブリンみてぇだな。いや、どちらかと言うとドラゴンか?)

 

デイヴは気づけば一人のゴブリンが行っている業務をつったってぼーっと見ていた。それに気づいたゴブリンの一人はぎょっとした様子だったが、口をへの字に曲げると、手元の宝石をそっと隠すように振り向いた。

 

「ジョンソン!」

 

不意に後ろから飛んできたマクゴナガルの声に、デイヴは軽く肩を跳ねさせた。振り返れば、すでに彼女は受付台に立って、どうやら何かの手続きを済ませている最中だったようだ。デイヴは小走りで彼女に駆け寄った。

 

「ジョンソン。美しいものに目を奪われることは仕方のないことではありますが、あのような行いは彼らにとって侮辱と捉えられかねません。以後気を付けるように」

 

彼女は声を潜めて、いつになく切羽詰まった口調で続けて。

 

「彼らは誇り高く、そして……非常に敏感です。魔法界で彼らと事を構えるのは、得策ではありませんよ」

 

デイヴはそれを聞いて一瞬キョトンとしたが、マクゴナガルの顔が冗談でないと悟ると、肩をすくめて言った。

 

「了解しましたよ、先生。まあ……、悪気があったわけじゃないんですけどね」

「グリンゴッツは盗人をとかく嫌います。あなたはまだ幼く、先ほどのように堂々と見ていたから特に何も言われませんでしたが、逆に言えば大人の魔法使いであのような行いをするようなら、すぐにここからたたき出されます」

「マジかよ」

「マジですよ、それに強盗なんかに入るものなら、死よりも恐ろしいものが待っていると言われています」

 

……どうやら魔法使いの銀行はとんでもないところらしい。

デイヴは一人心の中でそう呟いた。

 

「それで、ミス・マクゴナガル。鍵はお持ちなのですかな?」

 

受付台のほうを見れば、これまた気難しそうな(とはいえほとんどがそうだが)ゴブリンが、受付台の上から覗き込むようにこちらを見ていた。マクゴナガルはエメラルド色のローブから、小さな金色の鍵を取り出した。

一瞬しかデイヴには見えなかったが、ところどころ欠けている、いかにも古そうで、金庫のカギを名乗るにしてももう少しまともだろ、と思ってしまうほど小さなものだった。

ゴブリンはそれを受け取り、しばらく眺めた後、ゆっくりと頷いた。

 

「係りの者を呼びます。グラニッグ!」

 

そう言うが早いか、どこからともなく現れたのは、鼻が低く、牙が少しだけ下から飛び出ているゴブリンだった。後ろで手を組んで、コツコツと革靴を鳴らして近づいてくる姿は、まるで空想から飛び出してきた悪役のようだった。デイヴは思わずマクゴナガルのローブの端を握ってしまったが、すぐに放した。

 

「こちらです。お二方」

 

グラニッグが手で指し示した方へ、二人は歩き出した。

先ほどの明るいホールとは打って変わって、そこは暗く、まるで炭鉱か洞窟の中に迷い込んでしまったかのようだった。

中にはレールに、安全バーも囲いもないトロッコがちょこんと置いてあった。魔法界はどれも改修とか修復とかしないのか?とデイヴは思った。

 

「それでは金庫へと参ります。どうぞお乗りください」

 

マクゴナガルはトロッコへと優雅な所作で乗り込み、デイヴのほうを見た。デイヴはちょっとだけ顔色を悪くしていた。

 

(乗るって、これに?脱線しそうで、途中でバラバラになりそうなこれに?)

 

彼女はちょっとだけ揶揄うような笑みを浮かべた後、デイヴに挑戦的に言った。

 

「早くなさい、ジョンソン。それとも、怖いのですか?」

 

デイヴはその言葉を聞き、意地になって答えた。

 

「はぁ?ビビッてねぇし!!!」

 

デイヴはズンズンとトロッコに近づき、ドサッと腰を下ろした後、腕を組んで前の暗くてよく見えない空間をにらんだ。

そのあと、グラニッグは慣れた動作でトロッコに乗り込むと、一言だけ呟いた。

 

「それでは、お気をつけて。……運命は常に下り坂です」

 

ゴブリンがレバーを引くと、トロッコは最初から猛スピードで走り出した。デイヴはちょびっとだけ後悔した。

 

デイヴは今まで体験したことのない速度で、地下をどんどん進んでいた。右、右、左、右、左、右。デイヴは途中で考えるのをやめて、スピードに身を任せた。時折トロッコが跳ねて、彼の体に独特の浮遊感を感じさせるが、それすらも彼には心地よかった。

 

ちらりと横目でマクゴナガルを見ると、彼女は口を真一文字に結んで、前方を見ている。着ているローブは波一つ立てず、被っている帽子も風の影響は一切受けていない。何かしらの魔法を使っているのだろう、とあたりをつけて、デイヴは猛スピードで流れる景色に視線を戻した。

 

何分間か経った後、トロッコは金属をこすり合わせる悲鳴のようなブレーキ音を立てて急停止した。

デイヴは勢いで前のめりになり、首をひねったらしく、降りてからもずっと首筋をさすっている。

目の前には、岩壁をえぐるようにして嵌め込まれた重々しい黒鉄の扉がそびえていた――どうやら、ここが目的の金庫らしい。

 

「ほえー……」

 

金庫の扉はデイヴの身長を優に超え、巨大で分厚く、真っ黒だった。扉の表面にはおそらく芸術的なのであろう(デイヴにとって芸術は音楽だけである)レリーフが、それはそれは細かく彫られていた。

マクゴナガルは、先ほど受付で取り出した鍵をグラニッグに渡した。彼がそれを扉に挿すと、「カチャン」という音と共に、扉に刻まれた模様が蛇のように動き出した。

 

「うわ、なにこれ……」

思わずデイヴが呟いた。

 

紋様はまるで生きているかのように蠢き、絡まり合いながらゆっくりとほどけていく。そして数秒後、金庫の扉が、まるで地響きを上げるような音とともにゆっくりと開き始めた。

 

中からは冷たい空気が流れ出し、薄暗い室内には、いくつかの小さな宝箱と、革袋に入ったコインの束、巻物のようなものが見えた。――だが、派手な財宝の山とは程遠い。装飾品もなければ、煌びやかな宝石の輝きもない。

 

「……地味ですね」

デイヴが肩をすくめて言った。

ここまで大掛かりなもので、しかもゴブリンが管理していると聞いていたからか、彼の中ではもっとたくさんの宝物があると勝手に思い込んでいたようだった。

 

「一人の魔法使いが残せるものといえばこれくらいです」

 

マクゴナガルは淡々と答え、革袋をいくつか手に取って中身を確認する。

そのうちの五つを選ぶと、そっと抱えるようにデイヴの前に立った。

 

「あなたのお父様は……」

 

彼女は、そこまで言いかけて言葉を止めた。

長い間を置いてから、静かに言う。

 

「……いずれ、ミス・エルサがきっと話してくれるでしょう。

あなたに教えることに怯える私を、どうか許して欲しいと思っています」

 

その声には、明らかな後悔と、深い迷いが滲んでいた。

 

デイヴは少し不満そうな顔をしたが、黙ってマクゴナガルを見返す。

そして、わずかに肩をすくめた。

 

「……まあ。嫁とガキ置いて消えるやつなんて、どうせろくでなしでしょうし。

今さら何聞かされても、別にどうってことないっすよ」

 

本心ではなかった。

でも、それ以上は聞くべきじゃない気がした。

 

デイヴは革袋を一つ受け取ると、再びトロッコの方へと向かい、勢いよく腰を下ろした。

 

「……早く出ましょう。こんなとこ、いるだけで気分まで沈む」

 

その言葉に、マクゴナガルはほんのわずかに口元を緩めて頷き、隣に腰を下ろした。

グラニッグが最後に乗り込むと、トロッコは再び轟音を立てて、来た道を駆け上がっていった。

 

地上に戻ってきた頃には、さっきまでの重苦しい空気もすこしだけ和らいでいた。

 

デイヴは、手に持った革袋の重さをもう一度確かめた。

中にはきんかがずっしりと入っていて、確かに“価値”のある重みだった。

 

だけど、それ以上に――

 

「……なんか、やけに重い気がすんな」

 

誰に言うでもなく、そう呟いた。

それは、父が残した“唯一の重み”だったのかもしれない。

 

地上に戻ってきた瞬間、陽光が眩しくて、デイヴは思わず目を細めた。

 

「おかえりなさい。現実の明るさへ」

 

マクゴナガルがそう言うと、少しだけ、デイヴの肩からも緊張が抜けていった。

さっきまでの暗くて重たい空気が、少しずつ肌から剥がれ落ちていくような感覚があった。

 

「さて……ここからが本番です、ジョンソン。お金の扱い方を覚えてもらわなければなりません」

 

マクゴナガルは革袋のひとつを開き、中から金貨を一枚取り出して見せた。

 

「まず、これは“ガリオン”。金の貨幣で、魔法界で最も高価な単位です」

「そしてこれが“シックル”。銀でできていて、ガリオンの下に位置します」

「最後に“クヌート”。銅の貨幣で、最も小さな単位です」

 

彼女は、掌の上で三種類のコインを見せながら、静かに説明を続けた。

 

「1ガリオンは17シックル。

1シックルは29クヌート――つまり、1ガリオンは493クヌートに相当します」

「……は?」

 

デイヴは目を瞬かせた。

 

「なんで十進法じゃねえんすか」

「魔法界では、数字に“魔術的意味”を込めることが多いのです。十七や二十九は、魔術的に特別な数とされていますから」

「意味わかんねえ……」

「覚えるしかありません。さあ、これが十ガリオン、これが五シックル、これは……そう、二十五クヌートです」

 

デイヴはしぶしぶそれらを受け取り、指でつまみながら重さや色の違いを確認していった。

 

「うーん……このでかいやつがガリオン。で、銀のが……シックル。んで、ちっこいやつがクヌート……クヌートは二十九でシックル、シックルは十七でガリオン、ってことは――」

 

彼はしばらくゴニョゴニョと口の中で数を唱えたあと、革袋の中身をのぞき込んで一言。

 

「……わりとシビアな資産かもしれねえな」

「よくお気づきになりました。魔法界も資本主義の論理からは逃れられませんからね」

 

マクゴナガルの淡々とした口調に、デイヴは思わず笑いをこぼした。

 

「先生、今のちょっとウケます」

「皮肉ではありません。事実を述べただけです」

「余計ウケるっすね」

 

そう言ってデイヴは、革袋をしっかりと握りしめた。

 

「……でもまあ、悪くねぇ。こんだけあれば、とりあえず“魔法界で生きる”準備は整いそうっす」

「その心構えがあれば大丈夫でしょう。さあ、次は買い物です。まずは杖……の前に、制服と教科書をそろえましょうか」

「服かー……サイズあるといいけど」

「安心なさい、マダム・マルキンの店は、クレームが一切つかないことで有名なお店なのです」

「それ客脅してるだけじゃねぇの……?」

 

デイヴは肩をすくめながらも、その目は再びダイアゴン横丁の喧騒へと向けられていた。

最初に気になった鍋屋、異様に背の高い本屋、キモい樽が並ぶ薬屋……。

 

(どこから攻めるか……)

 

目の前には、まだまだ知らない世界が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一週間とか言っておきながらもう二週間経とうとしてるの笑えないですよね。
本当はこのまま買い物まで書きたかったんですけど、そのまま続けると1万文字行きそうだったのでやめました。
次回こそ1週間以内に出したい!!!!
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