ハリー・ポッターとマンキュニアンの少年   作:キラキラ武士

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カエルチョコレートってUSJとかのやつはめちゃくちゃ大きいけど、映画で見る限り子どもでもその場で食べきれるくらいの大きさなんですよね。
ちなみに作者はゲロ味のタフィーを食べて本当に吐きました。あれ以来百味ビーンズは食べてません。ダンブルドアと同じですね。ふぉっふぉっふぉ。


ホグワーツ特急の三人組

「それ、ユナイテッドのだろ?」

 

開口一番、ディーンが切り出した。目の前の少し怖そうな少年に、なぜか強い親近感を覚えたからだ。きっとフットボールについては語り合えるに違いない――そんな確信めいた期待があった。

 

「ああ。ニセモンだけどな。俺の一番好きなクラブだ」

「ニセモンって……。公式のは小遣いじゃ買えないよ。僕だって誕生日にもらったんだ」

 

デイヴはふいに窓の外へ視線を逸らした。

小遣いじゃ買えない、ね。――こっちは一生かかっても買えねぇよ。

胸の奥に浮かんだ嫌味を飲み込み、薄く笑って返す。

 

「で、どこ応援してんだ?その喋り方からしてロンドンっ子だろ?アーセナルか?鳥どもだったら悪趣味だぜ。俺、あいつら大嫌いだ」

 

ディーンは声を上げて笑ったあと、少し言いづらそうに告げた。

 

「……ウェストハムだ」

 

「ウェストハム?」デイヴは眉を上げ、先ほどの苛立ちを少しだけ、言葉の端に塗った。

「じゃあコックニーあたりか。都会っ子てわけでもねぇな」

 

ディーンは困ったように笑いながら話す。

 

「まあね、でも僕はまだマシなところさ。君はユナイテッドなの?シティは応援してる?」

「その日の気分だな。まあでも、心情的にはユナイテッドのほうが好きかも。同じ名前のやつがいるし」

 

そのやりとりに完全に置いてけぼりを食っていたシェーマスが口を挟む。

 

「フットボールって……面白いのか?」

 

ディーンとデイヴは顔を見合わせ、同時にシェーマスへ突っ込んだ。

 

「お前、マジで言ってんの? その年で知らねぇとか、大人でおぼこぶってるみたいなもんだぞ」

「いや、デイヴのは言いすぎ。……でも本当に見たことないの?」

 

シェーマスは頬を赤らめて答える。

 

「ママ――お母さんが、危ないからダメだって。それにクィディッチのほうが面白いってさ。魔法使いのスポーツだし」

 

デイヴは「ママ」の一言に過敏に反応して笑う。

 

「おいおい、その年でママはねぇだろ」

「いいじゃないか、ほっとけよ」

 

デイヴは肩を竦め、ディーンは笑いをこらえる。

――この瞬間、三人の関係性はもう決まっていた。

 

「まあいいや。何から知りてぇんだ?クラブか?それとも選手か?成り立ちはしらねぇな。こっちのロンドン坊やに聞いてくれ」

「僕だってそんなの知らないよ。それ以外ならなんだって知ってるけどね」

「言うねぇ。今度クイズ出すわ。答えられなかったら罰金1000ポンドな」

 

二人はケラケラ笑いながら、シェーマスの言葉を待った。

シェーマスはまだ顔が赤いまま、しばらく口をもごもごさせた後、開き直ったように言った。

 

「じゃあ……、ルールから教えて。なんにもわかんない!」

 

デイヴとディーンは同時に目を見合わせ、信じられないものを見るような顔をする。

二人からそんな視線を向けられたシェーマスは、肩をすぼめて申し訳なさそうに下を向いた。

 

「……まあ、いいや。最初は誰だってわかんねぇもんだろ」

「そうそう。最初から詳しいやつなんていないよ」

 

二人はしどろもどろになりながらも彼を励まし、説明を始めた。

途中で――

 

「オフサイドとかクソだろ」デイヴ。

「必要なルールだって!」ディーン。

 

と小競り合いが始まったり、どのポジションが一番大事かで揉めたりしながらも、一通り話し終えた。

 

「ありがとう!すげー面白そうだね!僕もやってみたいな~」

「ボールさえありゃ、バッキンガムだろうが南米のスラムだろうが、どこでもできんのがフットボールのいいとこだ」

「そうそう!僕ボール持ってきてるし、学校着いたら3人でやろうぜ!」

 

「いいの?」なんて言うからか、デイヴはシェーマスの腕を叩きながら、「もちろんだ。もう俺ら友達だろ?」と思い出したら恥ずかしそうなことを言った。ディーンは満面の笑みでうんうん頷いている。

 

「ありがとう。ちょっとだけ不安だったんだ。友達出来るかな?って」

「そんなこと言ったら僕らはどうなるのさ。全然知らない土地に来たんだぞ?」

「俺ぁ心配してなかったけどな。勝手に誰かが寄ってくるから」

 

シェーマスとディーンは、デイヴの自信満々な態度に、一方は呆れたように笑いながら肩を竦め、一方は「なんだそれ!」と笑いながらからかう。

 

「だって俺カッコいいし。不良ってモテんだぜ」

 

調子に乗った一言に、二人はもっと笑った。

 

「じゃあ、今度は僕の番!なんでも聞いてよ。二人ともマグル生まれなんだろ?」

「僕はそう。デイヴは?」

「俺は親父が魔法使いだったらしい。訳アリっぽくてな。誰も教えてくれない」

 

ディーンは一瞬悪いことを聞いたと思ったのか顔を強張らせたが、シェーマスは特に何も思ってないように、「そっか」とだけ呟いた。

 

「おい、反応薄ぃな。俺の悲劇的な過去だぞ?泣いたっていいんだぜ」

「ああ、その、ね」

 

シェーマスは話してもいいのか、と顔をしかめ、後頭部をゆっくりと数回搔きながら、観念したように吐き出した。

 

「片親の子は結構多いんだ。10年前まで戦争中だったから」

「戦争!?」

 

ディーンは心底驚いたようだ。

 

そこからはシェーマスによる歴史講座だった。「例のあの人」と呼ばれる存在(デイヴが詰めたらヴォルデモートと言った。シェーマスはその名を口にした後、髪の毛を逆立てた)が闇の魔法使いを部下にして、善良な魔法使いを殺しまわっていたこと。

ホグワーツの校長であるダンブルドアという魔法使いが、唯一彼に立ち向かえる存在だったこと。それでも遺体は増える一方だったこと。

 

「色んな魔法使いが死んだんだ。悪いやつ、良いやつ。どっちもたくさん」

 

デイヴはふと疑問に思った。じゃあ、残党は?

 

「じゃあ、残った悪いやつらは?」

 

聞こうとして、流石に不謹慎かと口をつぐんだところで、ディーンが聞いた。

デイヴは心の中で舌打ちした。

気になったことを何でもそのまま言葉にしてきたけど――これからは少し、考えてからにしたほうがいいのかもしれねぇな。

 

「大体死んだか、アズカバンってとこに送られたんだ。誰も脱獄できない最強の牢屋」

「アルカトラズみたいなもんか」

「なんだそれ」

「こっちの話だ。マグルの刑務所だよ」

 

シェーマスは首をかしげ、ディーンは小さく吹き出した。

アルカトラズなんて単語が自然に出てくるあたり――やっぱりデイヴは根っからのブリテン人だった。

 

「まあ暗い話はこれくらいにしてさ、ホグワーツのこと聞いてもいい?」

 

ディーンが言った。

 

「もちろん!マ、お母さんから色々聞いてるから、何でも聞いて!」

「マ、お母さん、ね」

 

デイヴがすかさず拾う。

シェーマスは顔を赤くして「しつこいぞ!」と文句を言った。

 

「まあまあ。じゃあさ、寮のこと教えてよ。教わったけどなんか難しくって」

「ああ、俺も教えてもらったよ。二回教わって、全部忘れた」

「何してんだよ」

 

ディーンは呆れたようにデイヴの方を見て、デイヴは目線を窓の外に向けてごまかした。

シェーマスはちょっと拗ねているからか、彼を無視して続ける。

 

「グリフィンドールは、勇気の寮らしい。他とは違う優秀な人が多いって言われてる。ちなみに僕はここに入りたいと思ってる」

「ママっ子がか?」

「黙れ」

 

デイヴは肩を震わせて笑いをこらえながら、「悪い悪い」と心にも思ってないようなことを口にした。ディーンは「そろそろ嫌われるぞ」とおかしそうに笑いながら忠告した。

 

「はぁ、で、続きだけど」

「どうぞ、お続けください?」

「君さては性格悪いな?性格が悪いと言ったらスリザリンだ。闇の魔法使いは大抵この寮だし、プライドの高いやつらが多い。ここに入るくらいなら僕は退学したほうがマシだね」

 

どこかの赤毛そばかす甘ったれ坊やが言いそうなことを口にしながら、シェーマスは話を続ける。

 

「あとはハッフルパフ。グリフィンドールがダメならここがいいな。勤勉で親切。たまにバカが多いとかって言われるけど、優秀な魔法使いももちろん多い。そういうこと言うやつは大体悪い奴だしね」

「あとはレイブンクローかな。ここはよくわかんない。とにかく頭がいい子が行くんだって。でも変人が多いとも言ってた。僕は向いてないかな。勉強嫌いだし」

「勉強は僕だって嫌いだ」

「好きな奴なんているか?そんなやつ存在しねぇだろ」

 

デイヴは――これから先、学校で暮らしながら毎日勉強漬けになる生活を送るのかと想像して、内心で毒づく。

ディーンは――魔法のことなんて何も知らない自分が、果たして授業についていけるのか不安になる。

シェーマスは――そんな二人の顔を見て、少なくとも一年生の間は僕が支えなきゃ、と妙に張り切っていた。

 

「どうせなら、三人とも同じ寮だといいな」ディーンが言った。

「そうだね。そしたら勉強も一緒にできるし」シェーマスがすぐにうなずく。

「じゃあ俺は、二人の宿題を写させてもらう係だな」デイヴがニヤリと冗談を飛ばした。

 

一瞬の沈黙のあと、ディーンとシェーマスは同時に吹き出す。

三人の笑い声が重なり、車内のざわめきに混ざって溶けていった。

 

そろそろ昼時ということで、それぞれが持参したサンドイッチを取り出す。

デイヴも母から渡されたアルミホイルの包みを開けると、中にはチップバーム*1とベーコンバーム*2が入っていた。

 

三人は黙って昼食をパクついていると、彼らのいるコンパートメントのドアが控えめにノックされ、その後開いた。

エプロンを着た人に良さそうなおばさんが、台車を掴みながら聞いてきた。

 

「車内販売はいかが?」

 

シェーマスは口の中のサンドイッチを慌てて飲み込み、青ざめた顔でポケットを探る。銀貨と銅貨を握りしめて駆け寄った。

ディーンは興味津々でトロリーを覗き込み、デイヴは興味なさそうにチップバームへかぶりつく。

 

「君たち、買わないの?」

 

ディーンは首を振った。持っているのはマグルのお金だけらしい。

デイヴは二口目をかじりながら「俺もいらねぇ」という顔をする。

 

シェーマスはカエルチョコレート三つと百味ビーンズを買い、おばさんに礼を言って席に戻った。

ディーンはサンドイッチより、どうやら百味ビーンズが気になって仕方がないようだ。

 

「百味? 百個の味ってこと?」

「そうそう。普通のりんごとかスイカとかシナモンとか……」

 

シェーマスは口をもぐもぐさせながら続ける。

 

「でもね、不味いのもある。石鹸味とかはまだマシで……耳くそとかゲロ味なんてのもあるんだぜ」

 

ディーンは信じられないといった顔でビーンズを睨み、デイヴは思わず「ウエッ」と舌を出した。

 

「ゲロ味って、作ったやつ絶対バカだろ。これってパーティースナックみたいなもんか?」

 

デイヴが箱を指さすと、シェーマスは得意げに笑った。

 

「まあそんなところ! でも今日は二人がいるからな、魔法界のお菓子を味わってもらわないと!」

「優しいじゃん。でも、こっち食い終わってからにしろよ。下手すりゃ昼飯食えなくなるだろ?」

 

デイヴはベーコンバームを掲げて、悪戯っぽく笑った。

 

昼食を食べ終わった3人は早速箱を開けて試食に移った。

 

最初の犠牲者はシェーマスだった。

意気揚々と口に入れたビーンズを噛んだ瞬間、顔が青ざめる。

 

「……石鹸……!」

 

次はディーン。

恐る恐る選んだのは赤いビーンズで、結果は――

 

「おっ、いける!シナモンだ!」

 

そしてデイヴ。

疑いの目でビーンズをつまみ、投げ込む。

 

「……ッ、げほっ!これ、マジでゲロ味じゃねぇか! 誰だよこんなん作ったやつ!」

 

車内に三人の笑い声が響いた。

その後もリンゴ味を当てて歓声を上げたり、鼻くそ味に三人同時にえずいたり。

極めつけにデイヴが「足の裏味」を引き当て、以降はビーンズに一切手を付けなくなった。

 

「で、これは? フィネガン先生」

 

デイヴは青い五角形の箱をつまみ上げた。金色の装飾がきらめき、どこか上品に見える。

 

「それはだね、デイヴ君」

 

シェーマスは芝居がかった口調で箱を受け取り、ディーンに誇らしげに見せる。

 

「カエル……チョコレート?」

「そう! カエルチョコレート! 見たら驚くぞ」

 

慎重に封を開けると、中には精巧に作られたチョコレートのカエルが鎮座していた。

マグル生まれの二人は思わず固まる。次の瞬間、シェーマスが指でつまむと、カエルはジタバタと暴れ出し、前足後足で必死に逃れようとする。

 

「お、おい……動いてるじゃねぇか!」

「本当に……すごい、これぞ魔法のお菓子って感じ」

 

シェーマスは得意げに二人へ見せつけ、ためらいなく頭からかじった。途端に動きは止まり、残りもすっかり彼の胃袋へ。

 

そう言ってシェーマスは残りの箱を二人に押し付けるように渡し、自分は中のカードを取り出した。

そこには有名な魔法使いの肖像と説明が載っていて、彼は楽しげに披露する。

 

「今回は……うわー、いじわるマーウィンだ。これで三枚目だよ。ほら、君たちも開けてみなよ。魔法界の写真って面白いんだぜ」

 

二人はわくわくしながら包みを開けた。

 

ディーンのカエルは飛び出して窓に張り付いた。なんとか捕まえたが、前足が一本欠けてしまう。

デイヴのカエルはしばらく動かなかったのに、指でつまんだ途端、信じられない勢いで暴れ出し――そのまま窓の外へ。

 

「逃げちゃった。おもろ」

 

デイヴは窓の外へ逃げてカエルが流された方を睨み、シェーマスは爆笑する。

 

「目が笑ってないぞデイヴ! でもまあ、よくあることさ。カエルはすぐ逃げるんだ」

 

ディーンは慎重に少しずつ食べ進め、まだ半分ほど残している。

一方デイヴはちょっとしょんぼりしながら、箱の底に残ったカードを取り出した。

 

コーネリウス・アグリッパ――そう書かれた写真の中で、頭頂部の薄い男がにやりと笑っている。

裏面の説明を読み、もう一度見ると姿が消えていた。

 

「消えたぞ!」

「え、なにが?」

 

慌てて見せると、ちょうどその瞬間、アグリッパが写真に戻り、ディーンに向かってウィンクをした。

 

「ウィンクした! 今僕にウィンクしたよ!」

「嘘だろ!?」

 

歓声を上げながらもう一枚取り出すと、そこにはヘルガ・ハッフルパフ。

ふくよかな女性が二人を見つめ、優しげに微笑んでいた。説明欄を読み、「ハッフルパフ寮の創設者」と知ると、二人は「こんな優しい人が作った寮なら悪くないかも」と顔を見合わせる。

次に視線を戻すと、彼女もまた姿を消していた。

 

シェーマスは得意げに言う。

「魔法界の写真はね、中の人が生きてるみたいに動くんだ。鼻を掻いたり、どっかに行ったりね」

 

二人は「へえー」と感嘆の声をあげ、また質問を浴びせる。

組み分けはどうするのか、授業はどんな内容なのか――。

 

そんなふうににぎやかに過ごしていたとき、突然コンパートメントがノックされた。

ドアが開き、丸顔で真っ赤になった少年が、おずおずと顔をのぞかせた。

 

「……ト、トレバーを……見なかった?」

 

ドアを開けた少年は、顔を赤らめておどおどと立っていた。丸顔で、声もどこか弱々しい。

 

「トレバー?」ディーンが首を傾げる。

「僕の……カエルなんだ。さっきまでケースに入ってたのに、いなくなっちゃって……」

 

デイヴは口の端を吊り上げた。

 

「カエルが逃げ出した?そりゃ残念だな。さっき食っちまったぜ」

「食べてないし、お前は食べることすらできなかったろ」

 

ディーンがすぐさま窘める。

 

「……で、どんなカエルなんだ?」

「緑で……ちょっと太ってて……あの、普通のカエル……」

 

説明になっていない。三人は一瞬顔を見合わせた。

 

「ごめん、見てないな」シェーマスは心配そうにそう言う。

「きっとすぐ見つかるよ。この列車の中で失くしたならなおさらね」ディーンは慰めるようにそう言った。

「フクロウの餌になってないといいけどな」デイヴは外を眺めながらそう呟いた。

 

ネビルの顔がみるみる青ざめた。

 

「おい、やめろって!」ディーンが肘でデイヴを小突く。

「冗談だよ」デイヴはにやにやしている。

 

一拍置いて、彼は真面目な声で言った。

 

「一人で探すと、見つかるもんも見つかんなくなるからな」

 

ネビルがきょとんとした顔で「……ありがとう」と小さく呟く。

デイヴはフイっと窓の外に目をやり、包み紙をいじった。

 

「よし!じゃあ僕が見つけてやるよ!」

 

シェーマスが立ち上がって、腕まくりをしながら杖を取り出した。

 

「何する気だ?」

 

デイヴは何か嫌な予感がするのか、ちょっと体を引き気味にしてシェーマスに聞いた。

 

「さっきカエルチョコレートが逃げた時、お母さんが見つけてくれたって言ったろ?そんとき使ってた呪文なら、一発で見つかると思ってさ!」

 

「やめとけ。とんでもなく嫌な予感がする」デイヴが眉をひそめる。

「大丈夫大丈夫。こう見えてもいろんな呪文練習したんだ」シェーマスは胸を張った。

「……フラグってこういうの言うんだよな」ディーンが小声でぼやく。

 

シェーマスは杖先を構え、息を吸い込む。

 

「――アクシオ・トレバー!」

 

――ボンッ!

乾いた破裂音。積み上げていた空き箱が跳ね上がり、薄い煙がふわっと広がった。

 

「うわっ……!」ネビルが思わずしゃがみ込む。

「だから言っただろ」デイヴは口元を手で押さえながら笑いを堪える。

「フィネガン、”繊細”の意味、辞書で引こうか」ディーンも咳き込みながら肩をすくめた。

 

そのとき――通路側から「ゲコッ」。

四人が振り向くと、ドアのガラス越しに、丸々としたカエルがぴょこんと姿を見せた。

 

「トレバー!」

ネビルが勢いよく立ち上がる。だが手を伸ばした瞬間、トレバーは器用に身を翻し、通路の奥――列車の後方へ向かってぴょん、ぴょん、と跳ねていく。

 

「待ってーー!」

ネビルは半泣きで飛び出した。

 

ちょうどそのタイミングで、コンパートメントのドアがコン、コンと叩かれ、くせ毛で長い髪の女の子が入ってくる。

顎を上げて、ツンとした表情でデイヴたち3人を見渡した。

 

「今の音はあなたたち? それと――あっ、ネビル! もう行っちゃった……」

 

彼女は中の煤けた空気と散らばった紙片を一望し、すぐに杖を取り出した。

 

「一年生で『召喚術』は早いわ。教本にも――まあいいわ、テレゴ(集め)……じゃなくて、レパロ」

 

裂けた紙の端がすうっと寄り合い、箱の形が元どおりになる。

 

「おお……」三人の声が揃う。

「応急処置よ。私はハーマイオニー・グレンジャー。ネビルと一緒にトレバーを探してるの。後ろの車両まで見て回るつもり。あなたたちのほうでは――」

 

「さっきここまで来た。けど、今また逃げた」ディーンが真面目に答える。

「走り方はプロ級だな。スプリントで優勝だ」デイヴが窓の外を顎でしゃくった。

 

グレンジャーは小さくため息をつき、しかし決意を宿した目でうなずく。

 

「情報ありがとう。続きは後ろを当たるわ。あなた、爆発はもうナシね?」

「検討しま――」「しねぇよ」デイヴが食い気味に訂正する。

 

グレンジャーは口元だけ和らげると、素早く踵を返した。

 

「じゃ、行くわ。――それと、着いたらほんとに授業で習えるから、無茶はやめて」

「肝に銘じます、先生」デイヴがひらひら手を振る。

 

扉が閉まる。通路の向こうで、グレンジャーが駆け足でネビルの方へ向かっていくのが見えた。

デイヴは肩を落としていたシェーマスの背中を、ぽん、と軽く叩く。

 

「ま、結果オーライだ。進路案内にはなった」

「俺の呪文、間接的に役立ったってことだな」シェーマスがむくれ顔のまま胸を張る。

「“間接的”がミソな」ディーンが笑った。

 

列車はかすかな揺れを刻みながら、北へ。

畑は遠ざかり、黒ずんだ丘と細い川、時おり羊の群れ。窓ガラスが、薄く夕色を拾いはじめていた。

 

――ガラリ。

いきなりドアが開いた。金髪をおっさんみたいに撫でつけた少年が、通路から顎だけ突き出すみたいに顔を差し込む。背後には、でかいのが二人、影法師みたいにへばりついている。

 

「ハリー・ポッターがいるって聞いたんだけど、君たち知ってるかい? 知っていたら教えてほしいんだけどねぇ」

 

鼻で笑うような声音。整髪料の匂いがふわっと漂う。

何もかもがデイヴの癪に障った。アグリッパのカードをひらひらさせながら、彼はあくびみたいな声で言い放つ。

 

「知らねぇな。ノックぐらい覚えろ、金髪のクソガキ」

 

クラッブとゴイルが一歩にじって、通路の床板がミシ、と鳴る。

ディーンが慌てて片手を上げる。「探してるなら、後ろの車両じゃない?」

シェーマスはなぜか直立不動で敬礼して、「通路の通行はご自由に、閣下」と真顔。デイヴは吹き出しかけて唇を噛んだ。

 

金髪の少年――マルフォイは、デイヴを上から下まで値踏みするみたいに眺め、口角をゆっくり歪めた。

 

「ふん。道理で下賤の匂いがすると思った。安いパンと油の匂いだ」

「お前は単純に臭いぜ。腐った肉みてぇな匂いだな。さっさと失せろ、もやし野郎」

 

デイヴはカードの角で自分の爪をコツコツ弾きながら続ける。

 

「その年でそのデコの広さか? 将来安心だな。冬はそこに日光反射させて暖でも取るのかよ」

 

クラッブの肩がピクッと跳ね、ゴイルが「は?」みたいな顔でデイヴを見る。

マルフォイの頬が一瞬だけ赤くなった。すぐに笑いに変えて、肩をすくめる。

 

「礼儀知らずはどこにでもいるらしいな。どうせお前の親も――」

「――親の話すんなら鏡と相談しろよ。ノックと一緒に覚えとけ、坊っちゃん」

 

デイヴが食い気味に叩き切る。視線は涼しいまま、言葉だけが鋭い。

 

ディーンが間に滑り込むように手を伸ばす。「ケンカなら校庭でやれ、ってね。後ろの車両、本当に当たってごらん。『本命』はそっちだと思うよ」

シェーマスはさらに真顔で、「なお当車両は本日、爆発の予定がございます。繊細な髪型の方は速やかにお戻りください」と言い、デイヴが堪え切れずに咳払いに化けた笑いを吐く。

 

マルフォイは鼻で笑った。

 

「滑稽だな。入学早々、身の程を教えてやる機会があるといいが」

「身の程は知ってる。お前は通路でドアを開け閉めする係。俺はノックを教える係」

 

デイヴは椅子の背に片肘をかけ、顎でドアをしゃくる。

 

「ほら、“閉める”からやってみ? できたら飴やるよ、良い子ちゃん?」

 

デイヴは片眉をあげて、嘲るように言った。

クラッブが一歩踏み出した。床がまたミシ、と鳴る。

マルフォイは手の甲をひらりと上げて制し、デイヴのローブの襟元を、冷たく細い目で一瞥する。

 

「そのローブ、安物だね」

「お前の性格よりは持ちが良さそうだ」デイヴは即答した。

「それともママに新しいの買ってもらうか? “ノックできる子供用”のやつ」

 

一瞬、通路の空気がピンと張る。

ディーンが「はい終わり!」と掌を叩いた。「乗り換えはこちら、後方です」

シェーマスも両手でドアの取っ手を指し示し、「出口はあちら」の顔。

 

マルフォイはローブの裾をわずかに翻し、吐き捨てる。

「時間の無駄だ。行くぞ」

 

影法師二人は、去り際にデイヴを睨みつける。デイヴはにやっと笑って、指先で軽く「バイバイ」と振った。

ドアが閉まる。走り去る足音。通路の整髪料の匂いが薄まっていく。

 

短い溜息。三人は目を見合わせ、同時に肩をすくめた。

「なんか調子乗ったガキ、って感じだな」

「同意」

「全面的に同意。あと爆発の予定は本当にないからな」

 

デイヴはアグリッパのカードを二度ほど弾き、鼻で笑う。

「……ノックは、次会う時テストしてやる」

 

しばらくして、車輪の響きが低く重く変わったころ、再びコン、コン。

栗色のくせ毛の少女――グレンジャーが息を弾ませて現れる。

 

「後ろは見終えたわ。……それと、もうすぐ到着よ。着替えたほうがいい」

 

完璧に“係”の口ぶりだ。

 

「先生二人目だな」デイヴがおどけると、ハーマイオニーはきっぱり顎を引いた。

「規則は規則。到着前に制服に着替えて、ローブもね。忘れ物の点検も」

 

「了解、隊長」ディーンが笑い、シェーマスは「今度は爆発ナシで着替える」と胸を張る。

デイヴは舌打ちまじりに立ち上がり、しかし素直にトランクを引き寄せた。

 

カーテンを半ばまで引き、三人はもぞもぞと着替えはじめる。

ぎこちないネクタイに悪戦苦闘するシェーマスの襟を、ディーンが手早く整え、

デイヴはローブの留め具を雑に留めてから、指先で軽く整え直す。鏡代わりの窓に映る自分と一瞬だけ視線を合わせ、ふいっと外へ逸らした。

 

グレンジャーは点検表でも持っているかのように全身を見回し、満足げにうなずく。

「その調子。――じゃ、私、他の車両も見てくるから」

 

「気をつけろよ、隊長。通路に金髪の地雷がいる」

「心配無用」グレンジャーは涼しい顔で言い、すぐに踵を返した。

 

扉が閉まる。窓の外、空は群青へと沈み、遠くに水面のような黒いひかり。

三人はローブの裾を払って腰を下ろし、無言でうなずき合う。

 

列車は闇のなかを滑り、やがて速度を落とした。金属の擦れる悲鳴、白い蒸気、車輪が枕木を踏む鈍いリズム。窓の外には、黒い森の端とオレンジ色の灯りが点々と滲んでいる。

 

最後のブレーキがきしみ、客車が小さく弾んで止まった。ドアが一斉に開いて、冷たい夜気が車内に流れ込む。人いきれとフクロウの甲高い鳴き声、トランクの取っ手がぶつかる音、誰かの「押さないで!」という叫び。

 

「着いたな」デイヴがローブの裾を払って立ち上がる。三人は人波に押されながら通路へ。ホームは白い蒸気で半分霞み、ランタンの光が薄く揺れていた。

 

「さっき着替えるときは気づかなかったけどさ……」ディーンがふと歩みを緩め、横目でデイヴを見上げる。

「お前、背、高くない? というか、人込みの上に頭半分出てるぞ」

シェーマスも後ろから覗き込み、感心したように口笛を鳴らした。

「ほんとだ。迷子防止の旗として採用。『この旗について来い』ってやるだけで一年生の三割は救える」

「便利だろ」デイヴは肩をすくめた。「ただし風に弱ぇ旗な。転ぶと全滅だ」

「じゃあ灯台に格上げだ。嵐でも立ってろよ」ディーンが笑う。

「やかましい。落雷はお前に譲る」デイヴは鼻で笑って、ホームの先を顎でしゃくった。

 

その先で、霧を裂くように大きな影が片手を振っていた。毛むくじゃらのコート、屈強な体つき、腹に響く声。

「イッチ年生はこっち!イッチ年生はこっち!」

 

ハグリッドの号令に合わせ、三人は列の末尾へ滑り込む。駅舎の端から細い道へ下ると、湿った土と苔の匂いが鼻に立つ。靴底が砂利を噛み、落ち葉がしっとりと鳴く。前の誰かが小石につまづいて、さざ波みたいに笑いが伝わった。

 

やがて視界がぱっと開ける。

黒い水面が、夜空を丸ごと敷き詰めたみたいに広がっている。岸にずらりと並ぶ小舟。杭に巻かれた縄が、風のたびにきい、と鳴いた。

 

「四人まで、一艘ずつだ!」

ハグリッドの声に押され、三人は同じ舟の縁に手をかける。デイヴが最初に乗り込むと、舟がぐらりと傾いた。

「おっとっと……!」シェーマスが尻を浮かせ、ディーンが慌ててロープを掴む。

デイヴは片足で器用に舟底を押さえ、長い脚を畳んで静かに腰を落とした。すぐに揺れは落ち着く。

「ごめん、重心が高ぇんだよねこの灯台」ディーンが茶化す。

「落ちたらお前をまず引きずり込む」デイヴは口だけで笑って、水面を覗き込んだ。自分たちの影が、ちぎれた墨みたいに波へほどけていく。

 

全ての舟がほぼ同時に岸を離れる。

櫂はないのに、湖は勝手に舟たちを押し出すように滑らかに動いた。水面が音もなく裂けて、後ろへと縫い合わされていく。風は思ったより冷たい。頬に刺さる冷気に、シェーマスが袖口へ指を引っこめた。

 

最初は闇しかない。湖も空も、ただの黒一色。

けれど、湾曲した岸を回り込むと、視界の上端に灯がひとつ、ふたつ。

さらに進むにつれ、その数は十、二十――やがて数えきれなくなり、城の輪郭が、闇の中からそびえ出した。塔、尖塔、渡り廊。石と石の隙間に灯る火が、巨大な骨格の血流みたいに脈を打つ。

 

「……」

デイヴは珍しく黙り込んだ。

「どうした、避雷針」ディーンが横目でからかう。

「いや」デイヴは短く言い、目線を上げたまま口角だけで笑う。

「本物だな、って」

その言い方があまりにも素直だったので、ディーンもシェーマスも、ちょっとだけ黙って同じほうを見た。

 

水面には、逆さまの城が揺れている。舟がその光の上を滑るたび、金色の破片が足もとに散ったように見えた。何かが水中で大きく身じろぎしたのか、遠くで輪が広がる。周囲の子たちから押し殺した歓声が上がった。

 

やがて舟は崖の裂け目に吸い込まれる。

ひんやりした洞窟の息。頭上からぽとり、ぽとりと落ちる雫。声が石に跳ね返って、少し遅れて耳へ戻ってくる。舟は小さな桟橋に横づけになって、こつんと木を叩いた。

 

「降りるぞ。足元、気ぃつけろ」

ハグリッドの声に続いて、三人は順番に立ち上がる。濡れた板の上で靴がきしみ、ローブの裾がほんの少し水を吸った。

 

桟橋からは、狭い通路が城の内へと続いている。

低いアーチを何度かくぐり、石の階段を上る。灯りが近づくたび、顔が浮かび、また影に沈む。後ろから誰かの笑い声、前から誰かの緊張で浅い呼吸。デイヴは長い歩幅を無理やり他の子に合わせ、時々立ち止まる先頭の波を、肩でやり過ごす。

 

「やっぱ灯台って便利だわ」シェーマスが小声で囁く。「あの頭、目印にしてれば迷わない」

「お前ら、口を閉じて鼻で呼吸しろ。馬みたいに」デイヴは笑わずに言った。「吐く息がうるせぇ」

「厳しい先生だ」ディーンが苦笑した。「でも、ちょっと落ち着いた」

 

最後の曲がり角を抜けると、空気がひらける。

重たい扉の向こうに、広い前庭がちらりとのぞいた。石畳が濡れて、塔の灯りがそこに星座みたいに散っている。風がひと筋、湿った髪をめくった。

 

「行くぞ」デイヴがローブの前を軽く合わせる。

三人は列のまま、同時に小さく頷いた。

 

新しい夜へ。新しい学校へ。

頭半分抜けた灯台を先頭に、彼らは一段目を踏み出した。

 

*1
バターを塗ったバンズにポテトフライをぎっしり挟んだジャンクフード。ビネガーやブラウンソースをかけて食べる。デイヴはビネガーでびしゃびしゃになるくらいが好きだ

*2
BLTのLT抜き。ベーコンだけをパンに挟んだ潔い一品。

曲の解説いるけ?

  • いる
  • いらん
  • ニョニョニョwwwwwwwww
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