あべこべ×シンデレラグレイ   作:2Nok_969633

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新時代の扉関連にて、
闇藤本「なかなか似合ってるぜ、相棒!」
藤本「え…そうかな?何か派手じゃない?」
闇藤本「俺からすればまだ地味すぎるぜ!もっと腕にシルバー巻くとかさ!」
藤本「えー!そんなの私には似合わないよ!」
的な都合の良いネタを探していたところ、その際に福嶋さんが野菜が食べられないと判明したので、折角ならばとハルエモンとして昇華し豪華に使おうとしていたのですが、彼は野菜を食べることが出来ているので完全にボツとなりましたことを報告致します。





『笠松に反省を促す男』

 

 

 

昨日が特別な理由なんて何もない。

今日が特別な理由なんて何もない。

明日が特別な理由なんて何もない。

 

白…。純白は、闇に等しい。過ぎたる白は、過ぎたる黒と等価だった。

 

彼が白く染まる…。世界が白く染まる…。白く…。白…。

 

白…。全てに優しく、全てを癒し、全てを隠す…。全てを晒し、全てを暴き、全てを見せる…。

不安感を覆い隠すように襲い掛かってくる圧倒的な…恐怖。

 

奇妙なことに、私は突然、恐怖に駆られた。あの無垢な存在、無垢な魂の前では、私の存在が不安定になる。私の『汚れ』が無残に露呈してしまう…。そんな思いに囚われたのだ。

 

嫌いだ。光が嫌いだ。光は全てを暴き立て、白日の下に晒す。美しいものはより美しく、醜いものはより醜く。恥部の隅々まで残酷に暴き出す。私を照らさないでくれ。光が強ければ強いほど、私の影はその濃さを増していく…。

 

見ない、見えない。眼球はなにも映さず、ホワイトアウトする視界。聞かない、聞こえない。途切れることのないホワイトノイズ。感じない、感じられない。私は誰なのか、なんなのか。認識の地平が遠ざかり、すべてが白く染まっていく。私は、私が消えた時、何を思うのだろう…。

 

白い。いや、違う…黒くて白い。

 

あの気高い白を貪る、あの醜悪な黒。

 

好きだ。闇が好きだ。闇は全てを黒く染め、覆い隠してくれる。汚れきったものも、眩いほどに美しいものも。全て均等に、真っ黒く染め上げられる。闇に飲み込まれたい。漆黒の闇に抱かれた時、初めて私は安心できるだろう。

 

『彼を知り、己を知れば百戦危うからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず敗れる』

 

戦う場合には、敵と味方の両方の情勢をよく知った上で戦ったならば、何度戦っても敗れることはない。

 

無論、それは私自身も含めてのことだ。

 

だからこそ、今日私はここに居る。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガララ…ドンッ!(迫真)

 

 

 

 

 

 

 

 

午前8時8分(88世代)、ウィーン…と永世の時代に新時代の扉が無限大()に開かれる。

 

「いらっしゃいませ〜ってちょっと待って!!思いっきりガララって音を立てて入室して来たよね?バンって音鳴ったよね?そもそもその扉自体、自動ドアじゃないよね!?」

 

早よ開けんかいゴラァ!!という義務感に身を任せたからか、それとも勢いが余りにも強すぎた影響からか、或いは私の夢か、豊の意地か、果たしてどちらが作用したのかは不明ではあるが、予想通りには開かなかったのだろう…力づくでこじ開けられた扉が横たわるようにしてそこにはあった。

 

「いや、あったじゃないよ。亡くなってないからね。まだ扉生きているからね。横にすらなってないからね。ってか、今認めたよね?自力で開けたこと、普通に今認めたよね?」

 

勢い良く、かつスムーズに開けたが故にウマ娘特有の力が働いた分だけ発生してしまった深い衝撃に耐え切れる筈もなく、思いっきり扉が外れている。こうなった時は必殺技を繰り出すに限るのだ。…よいしょっと。秘儀、忍法どんでん返しの術!

 

「あれ?さっきの子どこに行ったんだろう?探せ探せっておぉい!時代劇で忍者が使っているやつじゃないんだよ!それと、そのネタをやるためだけにわざわざ正常だった扉を外させる必要はないでしょうが!?」

 

忍…それは、現代で言えばスパイと呼ばれるに相応しい者達。謂わば、情報に対しての秘密戦及び認知戦、はたまたハイブリッド戦といったインテリジェンス対策におけるプロを指す言葉である。こと、日本においては陸軍中野学校が参謀本部直轄学校として置かれた上で、教育並びに研究体制が整備された。

より細かく述べれば、我が国日本は地理的に米中ロという大国に囲まれていることに加えて多くの資源を諸外国に依存している。地政学的に見れば、日本ほど世界情勢を的確に見通す情報力が必要とされる国は他にはないといった不安定な地理にある以上、一度摩擦が生じればそれだけ揺らぐことに繋がりやすい国である。更に、現代は不確実で先が見通せない時代にあり、ことインテリジェンス絡みにおいての重要性が高まることは必然だった。当初、陸軍中野学校が創設された事柄に関しても、支那事変の泥沼化や欧州情勢の緊迫化、更には大陸にて活発化していた共産主義の浸透並びに国内テロの増加などの混沌が蔓延っていた極めて危険な状況だっまことからも不透明な時代であったことが伺えることだろう。それに対抗するべく、将来を見据えて海外情報要員の育成を決意し実行に移したのではないのか?…という推察が、今日において確認されている。

この時、秘密戦士の精神綱領は次のように示されている。

曰く、秘密戦士の精神とは『尽忠報国の至誠に発する軍人精神にして、居常積極敢闘、細心剛胆、克く責任を重んじ、苦難に堪え、環境に眤まず、名利を忘れ、只管天業恢弘の礎石たるに安んじ、以て悠久の大義に生くるに在り』だそうだ。

つまるところ、秘密戦士の精神とは尽くす相手…即ち、国と国の狭間を超えた人々及び民族に対し、私心を消した上で命を捧げ、かつ名利を求めることなくただひたすらに任務を果たす尊い軍人精神を指すのである。

故に『謀略は誠なり、諜者は死なず、石炭殻の如くに』や『Need To Know』の原則、それらを踏まえた上で情報や情勢の大切さを教わるのだ。

そうして生き続ける。

生きて…生き抜いた上で、例えどんなに惨めになろうとも、例えどんな姿形になろうとも、命が尽きるその時まで誠を尽くし任務を果たせ、と。

神出鬼没、孤独に飢えながらも影に潜む孤高の戦士。心の臓が動いている限り耐え忍び尽くし続ける、正に臣下の鏡である。

 

「忍者、かっこいいな…!」

「うんうん、わかる。忍者ってかっこいいよね…って、おい!!おぉい!!扉以前にどうした急に!!」

「最初は挨拶が肝心だと言われて」

「挨拶ってそっちの挨拶!?なら、それこそ肝心の扉は!?」

「扉は犠牲になったのだ…古くから続く因縁。その犠牲の犠牲にな」

「寧ろ囮に近い分、より性質が卑劣だよね〜」

「なんだコイツら…。………ってか、何でそんなに服がボロボロなんだよ。しかもジャージだし」

「…?走って来たからだが?」

「そんな『チャリで来た』みたいな感じで言われても…」

「いや、この際犠牲もジャージももういいや…だけど、何でここまで扉ネタを狙うの?」

「言うなら…ガララであり…ガララでもあり…ガララのためでもあり…ガララのためでもある」

「ただの気まぐれかよ!!」

「イーッヒッヒッヒッ。おもしれー女」

「おっと、気付かれてしまったようだ。ならば、それこそ退散するとしよう…これにてドロン」

「いや、来て早々早退ってそりゃあお前…それはないだろ、それは」

「それはそうだな」

「素直か」

「素直だ」

「いや素直すぎない?」

「素直だからな」

「普通自分から素直って言う?」

「素直だから言うぞ」

「…何故かどうしようもなく貴様をビンタしたくなって来た」

「それは未来でするやつだから取っておいてはくれないか?」

「ひときわ癖強いの来た(ひときわ癖強いの来た)」

 

 

一際癖強いのが居た。豊、やっぱり教えるの上手なんだな。

 

 

『良いか、いつも通りの俺達のやり取りを颯爽とやるんだ。それに食いついて来た子達がキャップにとって唯一無二の友達になる』

 

 

思ったよりも早く友達が出来そうだな。さて、本題へと移ろう。

 

 

「ほっ、間に合った」

「うん、遅刻だね」

 

 

ファッ!?ウーン…(心停止)

 

 

「君だね。1ヶ月以上も遅れてやってきたのは」

「すみません。日本ダービーが終わった後に入学式があると思っていたので」

「急に漫画を含めた原作や史実との矛盾を指摘するの、やめてもらっても良いかなオグリちゃん?」

「とぼけちゃってぇ… 」

「なんのこったよ(すっとぼけ)」

「そんなんじゃ甘いよ」

「何か足んねぇよなぁ?」 

「誰だよ、お前の彼か?」

「おいヤメルルォ!」

「あっ…(察し)フーン…(納得)」

「わかった。じゃあプランBで行こう…プランBは何だ?」

「えっ、それは…(困惑)」

「あ?ねぇよそんなもん」

「バナナ!粉バナナ!」

「おっ、大丈夫か大丈夫か?」

「暴れんなよ…暴れんなよ…」

「大体オグリちゃんの家族構成が大元の原因なんだから、こればかりは仕方がないと思う」

「えっ、そんなん関係無いでしょ(正論)」

「ウッソだろお前ww」

「なんてことを…(憤怒)」

「痛いですねこれは痛い」

「もう許さねぇからな?(豹変)」

「ふざけんな!(声だけ迫真)」

「あのさぁ…」

「頭に来ますよ〜」

「ふざけんじゃねぇよお前、これどうしてくれんだよ!」

「調子こいてんじゃねーぞコノヤロー(棒読み)」

「やっちゃうよ?やっちゃうよ!?」

「お前一番態度悪いって言われてるぞ」

「こっちの事情も考えてよ(棒読み)」

「(試験)すっげえキツかったゾ~」

「私もやったんだからさ(嫌々)」

「私も彼に会わせてくれよ~(マジキチスマイル)」

「やだよ(即答)」

「えぇ…(困惑)」

「ダメみたいですね(諦観)」

「やっぱ好きなんすねぇ(呆)」

「悲しいなぁ(諸行無常)」

「なんだお前根性なしだな(棒読み)」

「お前もう生きて帰れねぇな?」

「殺されてぇかお前オォン!?」

「オォン!アォン!」

「あーもうめちゃくちゃだよ」

「じゃあ今までのちかえしをたっぷりとさせて貰おうじゃないか」

「すいません許してください!何でもしますから!」

「ん?」

「今」

「何でもするって」

「しょうがねえなぁ(悟空)」

「何だお前(素)」

「おいゴルァ!」

「…」

「すっげえ(顔が青)白くなってる、はっきりわかんだね」

「おっ、大丈夫か大丈夫か?」

「やめちくり~」

「…まあ、何とかなるでしょ。それこそ、オグリちゃんのようにヒーローは遅れてやって来るって良く言うし」

「それはそれでH+EROになるじゃん」

「あっそっかぁ(池沼)」

「これもうわかんねぇな」

「草不可避」

「やめてくれよ…(絶望)」

「こんな時こそウマソルジャーVの出番ってこと、はっきりわかんだね」

「嘘でしょ…」

「おう、考えてやるよ(出るとは言ってない)」

「出そうと思えば(王者の風格)」

「何やってんだこいつら…」

 

 

これもうわかんねぇな。

 

 

「…一先ず先に扉を片したら?家政婦はミタ!みたいになってるよ」

「抜かりはない。他にも落書き壁バージョン、心の壁ATフィールドバージョンもあるからな」

「なら戻してくれるかな?さっきからガタガタ五月蝿いし鬱陶しいし」

「あっ…そうか。こういう時は制服バージョンの方が良かったか」

「先生ー!あーしの前に怪しい人が居ます」

「何処が怪しいって言うんだ!」

「全身。ってか、アンタが持っている扉のせいで前が見えないんですけど。前が壁状態なんですけど」

「おのれウマ娘を愚弄するかぁ!ボンボンがそんなに良いのか気取りおって!どうせ入学式と謳いながら乱交パーティーでもして卒業するつもりなんだろ!」

「何とんでもないこと言ってんのよ!」

「そうだよ!寧ろヤレるものならヤりたいくらいだよ!」

「ちょっとアンタ、それフォローになってないから」

「どうせこんな変態仮面を付けて色々なモノを棒でつつき合い、トロットロの垂れたチーズと共に楽しいひと時を過ごす。そんないやらしいパーティーを開催しているんだろ!」

「それただチーズフォンデュ食ってるだけじゃん!」

「…良いなぁ」

「ただ食べたいだけかい!!」

「貴様…こんなところで大声で恥ずかしげもなくチーズフォ…恥を知れっ!!」

「マーチそこ反応するの!?」

「は、ははは恥を知れっ!!」

「いや、チーズフォンデュでいやらしいことを考えているアンタ達が破廉恥!!」

「…えっと、確か現地だと女性が男性を誘う時にパンを落としてキスをしていいかの確認が文化として根付いているそうだよ?あと、そもそものチーズって単語には『セクシーな若い男』や『陰茎の包皮にたまるチーズ状の垢』、言い換えれば『恥垢』って意味があった筈だからあながち間違いじゃないと思う」

「具体的すぎるw」

「エグいど下ネタぶっ込んで来やがった」

「ヤケに詳しいわね…アンタ、耳も身体も小さい癖して意外とむっつりなの?」

「失礼な。これくらい一般教養の範疇だよ」

「どんな一般教養だ」

「一体全体どういう教育を受けたんだ?」

「アンタ達がそれを言うか?アンタ達が」

「ぐうの音は食事の前にしか出さない主義なんだが?」

「全くだ。失礼にも程がある」

「お前らが言うと説得力がないんだが…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「生徒の皆さんが静かになるまで5分かかりました」

「うわぁ!!先生が急に喋った!!」

「そのセリフ、現実で聞けることあったんだ」

「フィリピンで8人喰ってない時点でマシだと思う」

「それどこの校長?」

「あ、あたしは今まで100人くらい喰ったけどな!」

「…おまえ、うそつき。本当は0人」

「ミニーゴラァ!!」

「君、ところで制服は?」

「…?セーフクって何ですか?イスカンダル?」

「そこからなのかね」

「ってか、さっき制服バージョンって言ってたじゃん…」

「今更すぎるんだけど、本当にジャージ汚っ…」

「裕福なのか貧乏なのかよくわからないんだけど…」

 

 

失礼だな。金がないのは事実だが(・・・・・・・・・・)、単純に腰布が嫌いなだけだ。

 

 

「…まあ良いや。席はベルノライト君の隣ね」

 

 

おお、記念すべき友達1人目の子が隣とは恵まれている。やはり、私は運が良い(・・・・)んだな。

 

 

「よ、よろしくね…?(ウソデショ…)」

「じーっ…(ウソデショ…。おず…って効果音が似合う子、初めて見た。こんな低確率なオッズを当てても良いのだろうか?それに…)」

「じーって言っちゃうんだ(どうしよう…すっごい見てくる。それに──)」

 

 

ふむ…爆弾並だ。私より胸がメロン並にデカい。くっ…721票負けた。

ひょっとして、かもしれないという意味を持つ『ともすれば』…開けてみるまではわからないというフリーダム、要するに成り行きに任せた上で、かつ、私もこれぐらいあったなら、もっと豊をメロメロにすることが出来たのだろうか?メロンだけにメロメロメロン(甘風)ってか?あっはっは。

 

 

『俺の勝ち!何で負けたか、明日まで考えといてください。そしたら何かが見えてくるはずです。ほな、いただきます(オグリキャップのマイルール『いただきます』はどんな時でも忘れないを添えて)」

 

 

ああ、結局は何や彼やで喰われるのがオチか。なら、総合的に見て私の勝ちだな。…いや、これは勝ちなのか?何なら色々と負けているのでは?

 

 

「はい、皆さん注目」

「…(とりあえず助かった。それに、豊の匂いも汗の匂いもバレていなさそうだ…良かった良かった。一先ず一安心することは出来るな)」

「…ホッ(助かった)」

 

 

あっ…なんだかホッとしていたら眠気に襲われてしまった。先生が色々と言っているが、とりあえず午後の練習も『良い』具合に『馴』染んできた分だけ『楽し』め『そうだ』な。

 

 

 

 

 

 

 

 

──ウマ娘移動中…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「前菜〜変な味〜大好き〜大好きでした〜、でお馴染みのフレーズなど浴びることもなく、お昼の時間は最早とっくのとうに過ぎ去ってしまった。1時限目よりも前に早弁した私には無用…いや。やっぱりお腹は空くものだな。(ぐぎゅるるごごごごろごろぐぅ…)ああ、またお腹がなってしまった。こんな時にこそ頭空っぽ脳汁ドクドクニンニクヤサイマシマシアブラカラメカロリー爆弾のフルコースが必要なのだが、いかんせんトレーニングをすっぽかしてまで無駄な時間を過ごしてはならないのが豊との約束である以上、しかも管理中なら尚のこと食べてはならない。塩と油と糖の最強フルコースを我慢しなければならないだなんて…そんな、あんまりだ。ひどい仕打ちだ。神は死んだ。こういう時の時間ほど全てが中途半端に感じる。さすが私。回想や地の文さえも飲み込んでしまう。(ごぎゅるぐおおおおおおおおおっ…) う゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛…ああ、もう瞬間最高時速約75㎞/hを出して食べに行きたい気分だ(意味深)…くっ、遅い遅い遅すぎる!!理解も──そしてスピードも!!これではアメリカヤマシギのほうがまだマシだ!!」

 

いつも以上にお腹が空いてしまう。決して油断をしていたわけではない。だがしかし、現に私は今、死ぬほどお腹が空いて空いて仕方がないのだ。事実、恐らくではあるが『中央』とだけ聞こえて来た、場所か何かは知らないがそこから送られてきたであろう備蓄米他含めた食材を全て平らげてしまった私は、学園の食堂を何故か無言の圧で退場させられてしまった。オマケに、そのことで泣き崩れていた私に対して隣の席の人からコロッケを貰った直後、無意識の内にお腹が鳴り響く始末である。その際、『これが伝説のスーパウマ娘!!』だとか『…誇れ、お前は強い』といったセリフ、中には『がんばれカカロット…おまえがナンバー1だ!!』や『私自身がワーク・ライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて働きます』といった声まであった。ほほほ… ㅎvㅎ 貴様ら全員チョコにしてやろうかチョコになっちゃえうびびびびび!!タマ!!無事か!!まともなのは私だけか!!

 

「疾風迅雷やね」

「ツッコミをしないタマだなんて、そんなのタコの入ってないたこ焼きだ!!おまけに『最高速度でツッコミしたる!!』とも言わないタマモ苦労スなんて、そんなのパチパチパンチすらしないただのパンチだ!!」

「そんな『今のはメラゾーマではない…メラや』なんてバカみたいなこと…わざわざネタでも言いとうないわドアホ!!」

「バ゛カ゛言゛う゛方゛が゛ア゛ホ゛や゛っ゛ち゛ゅ゛う゛ね゛ん゛!!ベ゛ロ゛ベ゛ロ゛バ゛ァ゛ア゛ッ゛!!」

「この畜生ども、人の心とかないんか?」

「ああ、豊が全部持っていってしまったからな」

「畜。─どうしても手が出せない心が豊かで身体も色々な意味で高い男の畜生発言について─ 」

 

断じて豊が居ないことによるストレスだとか、豊が作ってくれたご飯じゃないから不満だとか、そのせいでやけ食いをしたとか、そういうものではない。…ない。ないったらない。天地がランバダを踊ってもない。

 

そもそもこうした反応自体起こることは必然であると、私は再三確認してきた筈だ。物心が付いた時から数少ない男性と触れ合っていれば、そしてその触れ合いがなくなってしまえばどうなることかは想定することは些か難しくはない。

 

そう、謂わばこれらは常識の範疇による出来事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクッと濁流のような重みのある音と共に血湧き肉躍るようにして、肉体から魂に至る身体の全てが活性化していく。

 

 

「…駄目だ。常識に囚われていては駄目なんだ」

 

 

………スゥ。息を呑む。吐く。呼吸を整える。

 

 

「躍り出ろ。お前を知らない者達の、隙を突いて躍り出ろ」

 

 

そうして、私は私に終わりを告げる。かくして、内に潜んでいた怪物が密かに眠りから覚めていった。私は私を手放して身を委ねる。人並外れた本能の目覚め…それは、彼に出会った時には既にウマ娘化していた。

 

 

∴さて…どこへ行こうか?

私は恐らく、河川敷に立っている。赤い空がぐるぐると回っているようで、空気が私を中心に渦巻いている。なにもない空間を私は掴む。

黄昏時…真っ赤な空だ。

「(あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)」

私は大声で叫ぶことを我慢する。

正体のわからない衝動に駆られて。

「があああああああぁぁぁぁぉあぁっ!!」

私は我慢出来ずにさらに大声で叫ぶ。

とても冷静だ。使命感と、至って論理的な焦燥感だ。

人間は、ふとしたことで簡単に死んでしまう。死んだら、それで終わり。どんなに立派な人物も、死んだらそれまで。どんな努力も、豊富な経験も、立派な主義主張も、死の前では無力。そう悟った時に、どんな生き方を選んだらいいのだろう?

 

∴どうする?

『許さない』

『許さない』

『許さない』

 

何もないように見える空間には、さまざまなものが雑多に存在している。想像すると恐ろしいほどだ。 

私は河川敷に立っている。どうやら、河川敷に立っている。

不安は…ない。まったく、完全に、ニュートラルな精神状態。微かな幸福感さえ感じている。

 

『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』『怪物』『天使』

 

白い世界。色はある。渦を巻く極彩色の色が見える。けれど、世界は真っ白だ。

私には私のなすべきことがある。カタを付けねばならないことがある。

「私のなすべきこと…」

私は小声で呟き、それから、空気の渦に合わせて身体を回転させる。

私はいっぱい食べてきた。私はいっぱい走ってきた。

私はぐるぐると回る。平穏だ。怒りがない。哀しみがない。喜びがない。

もう終わりにしよう。私はぐるぐると回る。終わりに‥‥しよう。

レースレースレースレースレースレース!練習しないと、練習しないと、 練習!練習?練習!練習、練習練習!

そう、今ここに、今この場に、あの男は居ないのだ。

私は高らかに笑い、さめざめと泣く。

 

「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」「‥‥!」

 

沈みかけた太陽の断末魔とも言うべき強烈な光が、私の目を直接射抜く。

私は真っ赤に染まる空の下をお腹を鳴らしながら走っている。

さて。豊だ豊に行こう。豊豊。

順番だ。守るべき順序だ。順序が大切。

言葉、男、狂気、少女、さよなら。

私は、繰り返される消失された日々に飽いていた。修練の場。自分が他者に試される場。不安に晒されるこの時間。いつから私はこうしていて、いつまでこうしていなければならないのか。たかだか数時間…のはずが、私には永遠にも感じられる。

私は真っ赤に染まる空の下を涎を垂らしながら走っている。

私は、今河川敷にいて、走っている。確かなことはそれだけだった。

故に、彼は天使なのだ。

いつものこと。いつもの夕暮れ。いつもの風景。いつもの自分。

いつもの自分が食べているものは全て食べてしまったので、いつも通りの練習をすることにした。

そうして私はいつものルートに入り、いつものように辛い時こそ腕を振り足を上げるのだ。

私は真っ赤に染まる太陽を見つめている。

私は真っ白に染まる太陽を見つめている。

私は真っ赤に染まる豊を見つめている。

私は真っ白になった豊を十分に見つめたので、真面目に走って走って走って走って走ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

──ウマ娘移動中…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぷっ…はぁ…はぁ…っ」

 

私は、制御することすらままならない名前のない怪物から普通のウマ娘へと戻って行く。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…違う。まだ…だ。まだ、この程度では、足りない」

 

今のままではいけないと思う。だからこそ、私は今のままではいけないと思っている。

 

約束をした。揺るぎようのない彼と、真の契りを交わした。

 

『オグリキャップ、君と僕は同じ夢を見ている。行きましょう…頂点へと。ゴールまでオグリキャップ、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか』

 

約束は守るためにある。故に、約束を守るために全力を尽く。…それが私の、ウマ娘の使命なのだ。

 

私は──私を、取り戻す。

 

「ぜぇ…はぁ………ホッ………ホッ…ヒッ………フッー………………………足に、足が…重い。やはり、今のままではどうすること…も…」

 

私は、未だ彼等の領域(・・・・・)に辿り着けていない。

 

『俺にとってレースとは"受精"!!全身全霊の末脚は"種"でゴールは"卵"だ!!俺の細胞は全て、重賞競走での勝利を奪うために分裂する!!』

 

夢で見た4本の脚を持つ生物…その軌跡を。

 

それを支えていた誰かを。

 

『何度言えば分かる?競馬ってのはスポーツじゃなく生命活動だと』

 

不完全な状態。故に、幾分かイメージとのズレが生じている。もっと、もっと速く…もっと強くならねばならない。

 

『絶対は僕だ。僕に逆らう奴は、親でも殺す』

『キマるぜ脳汁!あーイクイク♡シュワシュワドピュー♪』

 

その姿は正に『完璧』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それなりの負荷をかけたが為に、暫し軽めのランニングをする。私に眠る本当の化け物は眠りに着いた。だからだろうか…目に入って来る情景がいつにも増して輝いて見える。

 

「あの感覚ともまた違う。何なんだろうな、アレは。…偽りのない闘争心か、はたまたエゴか、或いはその両方か。どちらでも構わないが、未だ実態すら掴めないとは…厳しいものだな」

 

ある種、これは紛れもない自分だけに秘められた力の一部だ。故に、反動もそれなりに存在する。だからこそ、使用制限は限られたものとして心を律した上で解放していた。無論、ここまでは何とかなるのだ。問題はこの先にある。

 

「駄目だ。…いつもこれだ。あの力は最後の切り札(・・・・・・)を使ってもどうこう出来る代物ではない。しかも、こうなる時はいつだって私の周りを含めて人が全くいない1人の時だけだ。………何故なんだ?」

 

答えは、未だ見つからない。加えて、このことは豊さえも知ることは出来ない代物だ。故に、私だけの秘密なのだ。

 

「………まあ、特にそれ以外に問題は起きていないから良いか。………………………いや、普通に考えたら良くはないんだが、良いと済ませる以外に取るべき手段がないのだから仕方がない」

 

そうして考え事をしながら鉄橋を超えたその先を走っていると、ふとした瞬間に電車の音が聞こえて来た。

 

完璧な計画とは全てが想定内にいくものではない。トラブルが起きても柔軟に対応出来る。そんな可塑性があってこそ、完璧な計画となる。それは練習も含めての話だ。いつも通りのいつものメニューを踏まえた上で、当然のことである。

 

時間通り、時計の針は17時40分より少し前を指していた。

 

感触を確かめるようにして、足を止める。

 

「…悪くない」

 

具合は上々、悪影響は以前なし。不気味なまでに異常は現れなかった。自分で言うのも何だが、ここまで来ると問題ないことが問題であるかのように思えてくる。

 

私はその事実を受け止めると共に汗を拭った。

 

 

「もうすぐ暗くなるから帰るよー!!」

「はーい!!」

「もう…また服汚して」

「いっぱい草付いてるー!!…ねえ、お母さん!!1回だけ滑り台やっても良い?」

「1回だけね」

 

 

子供の頃、漸く歩けるようになったあの日から、人目を盗んでは一緒に遊び、そうしていつの間にか私達は走っていた。

 

 

『もうすぐ暗くなるから帰るぞー!!』

『…ん、わかった』

『ったく、ありゃまこりゃま…また盛大に汚れたな。このまま続けていたらいつしか草でも生えるんじゃないか?』

『自給自足が出来て良いじゃないか。これなら走りながら、いや、もしかしたら寝ながらでもエネルギーを補給出来るかもしれないぞ。正しく一石二鳥だな』

『幾ら胃が強いからっておま、そこまで食い意地を張るかね。流石に寝室で食事をするのは勘弁してクレメンス』

『芝生えるwww』

『笑えないんだけどな(2つ(史実)の意味で)』

『…なあ、豊。もう一本、走って来ても良いか?』

『1回だけだぞ』

 

 

思えば、あの頃から既にトレーニングは始まっていたんだな、と記憶が蘇える。その懐かしき光景と微かな匂いが、私を奮い立たせるのだ。

 

 

「あっ、おんぶのおねーちゃんだ」

「どんな呼び名だ」

「コラッ!すみませんウチの子が!」

 

 

心外すぎる。

 

 

「…んんっ、今日も精が出るわね」

「…どうも(初めまして…だよな?)」

「初めましてでもそうでなくても、あれだけ目立って居れば特定の人は知っていると思うよ」

それを言ったらダメよ…。ああ、ごめんなさいね。偶にだけれど、昔から貴女達が走っているところを見ていた(・・・・)から、つい…ね」

「あっ…えっと、その…ありがとうございます」

「いいのよ、気にしないで頂戴。応援してるわ。頑張ってね」

「そういえばおにいちゃ…っ、トレーナーっぽい人は何処に行ったの?」

トレーナーにすら見えるのか…(…ん?今、お兄ちゃんって言いかけてなかったか?)アイツは今日は用事で出かけているぞ。あと、アイツは姉でもなければ妹でもなく、ましてや兄でもなければ弟でもない。何で今おにいちゃ…って言おうとしたんだ?」

「いや、あれだけパパとか叫んでいれば誰がどう見ても勘付いてると思うよ」

「ファッ!?うーん…」

「ふーん…トレーナーであることは否定しないんだね」

「あー…えっと、アイツはそもそもトレーナーじゃなくて…腐れ縁というか…何というか…」

「嘘だっ!!」

「ひぐらしネタは今日日流行らないと思うのだが?」

「幼馴染カップルとかアツアツだねー!」

「いやいやいやカップルとかそんな…はっ!…そうだな。アイツはな、私の家族だ」

「いやいやいや…その誤魔化し方はないと思う」

「いやいやいやいや…」

「いやいやいやいやいや…」

「……真面目な回答をすると、まず第一にアイツとはカップルでもトレーナーでも何でもなくてだな。…そもそもアイツはただ単に変質者なだけだ。あと、間違っても彼女は男じゃないぞ?髪も長いし、声もそう。何なら仮面だって付けているだろ?」

「男ではないと否定したがるところが怪しいんだよ」

「逆に聞くが彼女が男だという証拠でもあるのか?」

「女の勘よ」

「なんたるアバウト」

「それに、あそこまで匂いを徹底的に誤魔化しているのが何よりの証拠だわ」

「大した推理だ、君は小説家にでもなった方がいいんじゃないか」

「それもう図星だよお姉ちゃん…」

「コラッ!お姉ちゃんが困っているでしょ!それこそ、ここで言い争いをしていたら他の人達にも迷惑がかかるでしょうが!」

「それもうお母さんも答えを出しているようなものだと思うの」

「君のような勘の良い子供は嫌いだよ」

 

 

後日、改めて話をする機会があったので失礼のない形で聞いてみたら、普通にお母さんと同じ職種の人だった。道理で勘が鋭い訳だ。無論、子供も含めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

──翌日。

 

 

 

 

 

 

 

 

「学校はどうだ?」

「楽しいぞ!友達もいっぱい出来たんだ!」

「大丈夫?友達料支払われていない?」

「私にそんなお金があるわけないだろ。しかも、だ。な、何と…ななな、何と!」

「『Burning!!』」

「個室を賜ってしまったぞ!」

「…一応聞いておくけど、物置じゃないよな?」

「それは流石にイジメというか学校側に問題があるだろ。………まあ、6月からの編入なんて普通はないからな。私だけ1人部屋を用意されるのは無理もないんじゃないか?」

「何だよつまらない。一体全体何の為にコンセントレーション(モズメイメイ)の如く時代を先取りさせたネタをやらせたと思っているんだよ」

「『ちなみにオレは小学校のときから好きな女の子に意地悪ばかりしてた。好きと言えずにイタズラばかりして気を引こうとしてた。今回の参る悪戯(マイル+malicious mischief)もそんな感じ。あえてキミを本命から外す。ただ心の中ではキミに幸せが来ることを祈ってる。キミは『心の本命』…◎よりも♡の印のほうが重いことを知ってほしい』を地で行うバカが何処にいるんだ」

「ここに居るだろ、俺が」

「“But it's not who you are underneath, it's what you do that defines you.”」

「“Why do we fall? So we can learn to pick ourselves up.”」

 

 

私は思わずやれやれ、とため息を吐いた。

彼は謂わば無敵の人より性質が悪いバカだ。

もう迷うな、目を逸らすな、自分自身に嘘を吐くな。息をするかのようにそう宣言をかまして平気でドスケベ条約を素で構築し染めていく。

正しく、世界ごとぶっ壊す力も熱も持ち合わせている危険人物だ。

仮に油断をすることなく構えていたとしても、彼の扱い方を一度でも間違えれば瞬く間に地球は『恥球』となるだろう。

それこそ盟友(名優)の生命を守るためにニアサードインパクトを起こして14年も経ってしまった【ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q】や【宇宙戦艦ヤマト】のような赤い世界か、はたまた世界を一瞬にして荒廃させていくチェンソーマンに登場した【銃の悪魔】以上の本物の悪魔へと変貌を遂げてしまうかもしれない。

いや、もしかしたら【神はいる。そう思った】と思われるのかもしれない。

そうでなくとも、狂気じみたヤンデレに染め上げられた上で永久に抜け出すことが出来ず一生一緒エンゲージリングをしたままさよならを教えてもらえない紅い世界になるやもしれない。

或いは、その危機に対抗すべく男性側が管理されまくったディストピアへと変わるのかもしれない。

様々な要因が重なったが最後、そこには更新がゆっくりな癖してやけに急進的な姿形が見て取れる、伝家の宝刀とも呼ぶべきイデオロギーの反復横跳びをしている、正に革命的な世界が広がってしまうのだ。

そんなプリティーという文字が悉く滅んでいくのはもうゴメンだった。

故に、迷った瞬間に狩られるのはフェアではない。

だからこそ、私は彼の先を征く。

かのゴジラとビオランテのように、偏に怪物に対抗出来るのは怪物だけなのだ。

 

 

「仮にわざとだったとしても、具体的かつ実りのある提案だったぞ?その証拠に友達が沢山出来たんだからな」

「…やっぱり他の相方を見つけた方が良かったかなぁ」

「豊…それ本気で言っているのか?」

「本気で言っていたらこんな朝っぱらからトレーニングに付き合っていないんですけどねぇ」

「「えへへへへへへ」」

 

 

かれこれ10年以上…私は、否、私達(・・)は、この怪物に勝てたことは一度もない。だが、それと同時に私が負けたと言う事実もまた存在しないのである。これは最早サンフランシスコ平和条約無効記念が開催したも同然だった。

そう…我らが日本は、まだこの男に負けてはいない。

しかし、この男なくして新たなウマ娘プリティーダービーはないも同然である。

信仰という名の退廃は真実を知るべきではないという警告的な側面を持つ意味があり、信念は嘘よりも危険な真実の敵である。人々がただ罰を恐れ報酬を望むというだけで善良なら、我々はその実偏に哀れむべき存在だ。

我々の知らないことは神であり、知れることは科学である。

もし神がイメージ通りに我々を創造したのであれば、私達は神にそのお返しをしているだけに過ぎない。

これらが重なり合うと知識の限界が訪れ、一瞬にして宗教が始まるのだ。

そうして、神は死んでいった。

故に、人類の一番の悲劇は、道徳が宗教にハイジャックされたことだ。

宗教は抑圧された生き物のため息であり、心なき世界の心であり、また、それが魂なき状態の心情であり、それらは等しく阿片である。

私達は知ることを恐れ、知らぬことを恐れるように、我達の日常には等しく希望などといった世迷言は存在していないし、それらが許されることなども到底あり得ないのだ。

極論、全ての学問、全ての教義の概念も現実からの単なる逃避である。

全ての現象は事実を重要視せねばならない。

様々な知識のアップデート、それらに伴うバイアスを含め、表面的な変化は戦争、革命、改革、法律、そしてイデオロギーによってもたらされ、そのどれもが基本的な人間の、そして社会の本質を変えることに失敗している。

また、それらに対抗する手段として変えようとした目論見もまた、同時に失敗している。

これらの連鎖は感染爆発のように一定の期間を跨いだのち、一気に拡散され、終息し、また再びそれらが繰り返されるのだ。

だからこそ、今、今この瞬間にこそ、行動を起こすべきなのだ。

この男の奴隷になりたくない人達よ!集い、そして立ち上がれ!今こそ、世界を赤く染めていく憎き悪魔を倒そうじゃないか!

日本は敗れていないのである。

日本は敗れていないのである。

真である。日本は──。

 

 

「あっ、そうだ(唐突)。昨日のトレーニングはどうだった?」

「まずまず、かな?…そういえば」

「ん?どしたん?」

「豊の性別、ウマ娘の子供にバレていたぞ?」

「何!?幼女にか!!何処だ!!ちょっと探して来るゴハァッ!!」

 

 

間髪入れずに思いっきり殴る。やはり暴力…!!暴力は全てを解決する!!これぞ真の革命だ!!

 

 

「いきなり何をするんだ!俺はただ、未来のある幼いウマ娘をこの目でじっくりと観察した上で、常識の名の下に覚悟を持って愛でる所存でブベラッ!!」

 

 

能力のネタが分かってる分、注意してれば反撃できる…。

 

 

「さらにもう一発」 ズン

「ぶったね!!3度もぶった!!親父にもブライトさんにもぶたれたことないのに!!」

「親父にぶん殴る方が有難いと思え!!」

「ちょうだいちょうだい!そういうのちょうだい!もっと!!」

「…」

「何か言わんのかーい!!」

「神よ、願わくばどうかこの男を何とかしてください…」

「神に障壁は無い。来る物を全て受け入れるだけだ」

「望んで人を捨てたのか…賢しい選択だ」

「かくして、少年は神話となった」

「…気持ち悪い」

「そこは『おめでとう』にしてくれよ。ここ1番のタイミングで『ありがとう』が言えないじゃあないか」

 

 

ここに神は居ない…あるのは、全てを滅茶苦茶にする無神論者をも超えた、ただの1人の男の戯言だ。それこそ、チェンソーマンに登場するデンジのように『おまえがパーでオレがチョキだからテメエの負けだよ】理論を平気で使用してくるのである。そも、現実世界でチェンソーマンのようなことをしでかす時点でろくでなしである。この暴走を少しでも抑える為には、白ける以外の方法がないのだ。反応をしてしまってはそれこそ思う壺なのだ…という意味を込めて、私は徹底してジト目をする。その顔を止めろと言われても仕方がないような無の表情だ。それこそが彼に対する必勝法なのである。

 

 

「どうせ『ウマ娘に大きいも小さいもないんだよ!』とか言う気満々だったの、知っているんだからな」

「それ以外に何があるってんだすっとこどっこい…俺は俺なりに正しいことをしているだけだ。どんな姿形になろうとも、正しいことを信じていれば正しいことは出来るんだよ。大切なのは…あきらめねェど根性だ!!…なんてな」

「わくさんのセリフだけに枠だな。…なんてな。なんて言うと思ったか、このエロ仙人の出来損ないが!」

「出来損ないでもねえ…命張っているんでぃ!!」

「これは一本取られやしたな。てやんでぃ…とーんと来ちまうぜ旦那ァ!!…で、誤魔化せるわけないだろ!!何が正しいことを信じていれば正しいことは出来るだ!!結局正しいこともしていなければ偉くもないじゃないか!!」

「生きていれば偉いんだよって母ちゃまが言ってた」

「その母ちゃまが産んだ息子、世界を滅ぼす悪魔の子になったんだが?」

「正しさとは、自分の心を信じることだって母ちゃまが言ってた」

「結果、そのせいで人類の8割が死んだんだが?」

「正義は議論の種になるが、力は非常にはっきりしている。その為、人は正義に力を与えることが出来なかった」

「悪いが、私は誰かがパスカルを引用したら用心すべきだとかなり前に学んでいる。とりわけ、その論調はそれこそ下らない正義とやらの為に死ぬまで戦い続けて勝利をもぎ取ればそれで良いということになる。まず初めに、愚民以前に人間がウマ娘に勝てるとでも本気で思っているのか?」

「おいおい…ここは法治国家だそ?この国の法律が俺のことを全力でハグしてくれているというのに、どうやって勝利をもぎ取る気だ?不正をするならカサマツレース場だけに留めておいてくれや」

「脱ぐぞ」

「であれば、こちらもやらねば無作法というもの…」

「見ていてくれ…!これが…!私の!全力だっ!」

「美しい…本気の土下座だ。私がこの域に達したのは20代の後半…」

「余計なお世Wi-Fi」

 

 

『夫れ未だ戦わずして廟算して勝つ者は、算を得ること多ければなり。未だ戦わずして廟算して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況んや算なきに於いてをや。吾れ此れを以てこれを観るに、勝負見わる』

 

 

勝負事の鉄則を、彼が破ったことは一度もない。無論、今も。

それは、私に流れる血の中にも受け継がれている。

いや、正確には私達なのだろう。

我々に受け継がれた力とは、つまるところそういうものだ。

『重要なのは鍛錬ではなく意思そのものだ。本当の恐怖とは、常に己の中にある』

そうしてこの言葉が頭に過った時、私は直様に立ち上がり周囲を見渡した。普段ならばあり得ない、イレギュラーの予感が唐突に虫の知らせが如く走ったのだ。

『野生』…元々は誰もが生まれつき持っているもの。かつ、成長と共に失われていく力。所謂『野生の勘』とも呼ぶべきそれは、研ぎ澄まされた五感によって相手の行動に対して直感的に反応する。これらの現象は、予測よりさらに速い反応となって行動することが可能となる。訓練や激しい試合の中で、或いはそれらと同等の場にて開花することが常であり、またそれらが開花した際の反射的な反応並びに思考は常人を軽く凌駕する。

その野生的反射と直感が、今正に働いているのだ。こんなことが唐突に訪れるのは実に3度目だった。

 

 

「豊、誰か来る。こっちに来てる」

「は?こんな朝っぱらから?流石にないって」

「断じて、断じてこれはフェイクニュースではない」

「…ええ?いやいや、流石にキャップの勘を疑うわけではない(・・・・・・・・)けどさぁ…。そも、今月は6月。強いて言えば、何にもない日の6月だぞ?そんな日に何があるって言うんだ?本当に何にもない日なのに」

「いや、本当に冗談とか言ってる場合じゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「オジョウキタハラ!!1着でゴ━━━━━━━━━──

 

 

 

 

 

 

 

 

ル………」

「…」

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホーホッホッホーホー」

「豊、唐突に田舎によく居る鳩のモノマネをしても無駄だぞ。というか、さっきの私の忠告を無視したの、アレ絶対わざとだろ」

「(いや、わざとじゃ)ないです」

「嘘つけ絶対わざとだゾ」

「なんでそうする必要なんかあるんですか(正論)」

「(見られた)」

「あお前さKTHRさ、さっきハッ、走り終わった時にさ、なかなかこっち見なかったよな?」

「そうだよ(便乗)」

「見たけりゃ見せてやるよ(震え声)、ホラ」

「見とけよ見とけよ~」

「ホラ、見ろよ見ろよ、ホラ」

「嬉しいダルルォ!?」

「ホラホラホラホラ〜」

「やめてくれよ…(絶望)」

「いいゾ~これ」

「さぁ、残り1000m!一体、誰が東海ダービーを制するのか!あぁっと、ここで!大外からオジョウキタハラ!一気に仕掛けてきた!オジョウキタハラ速い!オジョウキタハラ!1着でゴール!勝ったのはオジョウキタハラです!ここで、何とタイムをご注目ください!6分4!何と、6分4秒!レコードタイムです!」

「復唱止めて!ちょっとアレンジするのも止めて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

これが私達と北原の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、逃げるぞ豊」

「さて、じゃないが?」

「もうここまで接近されている、もとい近付いてしまったんだぞ!?どうするんだ、このままだとバレるぞ!?第一に、このままの状態で居て良いと本気で考えているのか!?」

「いや全然別に全くもってそんなことはないだろ。寧ろマズイ寄りにマズイだろ。…まあ、だだだだだだだだだ大丈夫だろ。多分、きっと、maybe…」

「豊のバカ!!ボケナス!!ホープフル未勝利!!」

「それ悪口に入るの?」

「灰色…芦毛。………んで、何で君は仮面被っているんだ?」

「違う…僕の名は………ライダー。仮面ライダーと名乗らせてもらう…!」

「いや、カボチャ頭だし。色々と見ていて痛いし。しかも肝心のサイクロン号がないし」

「居る、私だ」

「お前だったのか」

「暇を持て余した」

「ウマ娘同士の」

「「遊び」」

「いや、筋肉から身体付きまでウマ娘のそれじゃないだろ。どちらかと言えば人…………げ………………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

侮っていた。決して油断していたわけではない。だがしかし、まさかこんな田舎の片隅にて、しかもたったの僅か数分以内で、かつ初見で豊に施されていた拘束具すら見破れる人間が居るとは思いもしなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、もしかしなくてもその子男の子か?」

「いやいやいやいや、女の子から女の子の声が発せられているんだぞ?それこそ赤ん坊から見ても普通にわかることだろう。…なっ、豊」

「おっ、そうだな(迫真の女装+カボチャの仮面の裏に某小さくても頭脳は同じでお馴染みの名探偵が活用している蝶ネクタイ型変声機レベルの代物あり)」

「いや、普通に立ち姿から骨格に至るまで完全に男の子だよね!?」

「そこに気づくとは…大した奴だ。…やはり天才か?」

「皆さん、声優界の山寺宏一こと豊ですよ」

「あ、セリフ間違えているぞ豊。ウマ娘世界での山寺宏一さんだろ、そこは…。声優界の山寺宏一さんは最初っから山寺宏一さんだ。豊、頼むから落ち着いてくれ」

 

 

《スキンシップは手のひらでする。右手で、時には左手で、豊の首すじ、腰から尻にかけたあたりを優しくさする。このタッチングのねらいは、豊自身の気を落ちつけること、その一点にしかない。必要とあらば私はそれを何度もくり返す。豊の心に大きな落ち着きがあらわれるまで、やめない》

 

 

「へっ!!」

「いやいや、へっ!!では済まないんだが?(私は豊の身体を撫でた。最高級ベルベットに触れたかのように素晴らしい手触りだった」

「朝っぱらから何てアオハル爆発をかましているんだ…。その内、本当に爆破予告が届いてもおかしくないレベルのイチャつきようだぞ。あと、後半ダダ漏れなのどうにかしろ」

「そりゃあ、バズーカ山寺一丁をコマンドーの如く担いでいるから当たり前だよなぁ!?」

「豊、バズーカ山寺こと山ちゃんはレアモンだからな?あまり使い過ぎるなよ?」

「使い過ぎるくらいが丁度良いだろ?何より経費節約にもなる…正に理想的で良いじゃないか、山寺システム。バズーカ山寺ならおはスタもやってたくらいだ。あべこべ世界だろうと、まずクリーンだよ。それに再々婚したてだ。少なくとも再々再婚までは下半身のバズーカも静かにしてるだろ」

「それ最終的にくっさいヨギボーで休むことになるんだが?」

「お前らが1番山ちゃんを酷使しているんだけど!?そこは野生の杉田にでもしとけよ!!」

「あ、僕もう山寺宏一しているんで山寺宏一無理です」

「山寺宏一を山寺宏一で断るな!!」

「ともすれば、ここはオジョウ繋がりで…そうだな、礒部さんに任せた方が良いんじゃないだろうか?」

「名案だな。それこそ『普段の礒部さん』を捕まえるべきだろう」

「礒部さんをモンスター扱いするな。そんなこと言ってると『あはーん、大ちゅきなんだなーん。ちゅちゅちゅ、ちゅちゅちゅのちゅー』を言わせられるぞ。あと、あの人毎回歌う前にルーティンで腕ブンブン振り回しているんだからな!?」

「勿論俺らは抵抗するで。『パーリーピーポー!ダイタクヘリオス役、山根ェッ!!』で」

「立木文彦さんのトイレエピソードも追加で」

「喋るでない!喋るでない!夏吉ゆうこさん同様『誠に失礼致しました』ってなるだけだろ!バカだろ、こいつらマジモンのバカだろっ!」

 

 

くっ…中々に引き下がることが出来ない。息を呑むとはまさにこのことだろう。互いに譲ることのない攻防戦は更なる延長戦へと突入してしまった。

 

 

「はい平常心平常心、トレーニングは続ける。これから走るって時に集中力が途切れたら元も子もないでしょ」

「し、しかし…」

「いいか、心を乱さないことが重要なんだぞ。とりわけ、この出来事は何れ何処かの場所で役に立つ筈だからな」

「いくら何でも大雑把すぎるだろ。豊だって動揺を隠し切れていないじゃないか」

「大丈夫だ、問題ない」

「なら大丈夫か」

「いや、それ普通に大丈夫じゃないやつ!何で当事者でない私の方が心配しているんだよ!」

「それに十中八九ね、彼女の正体は割れているんだよ。だから焦ることはないんだ」

「な、なんだってー!?」

「いや焦れよ!もう少しどころか普通に焦りなさいよ!」

「このIQ53万の脳内CPUが導き出した結論からして、多分トレーナーだ。間違いない」

「確かにトレーナーは着ているが…」

「違う違う。そうじゃ、そうじゃない」

「付け加えると、どうせ人間はウマ娘に勝てない。だからこそ、このように平然と振る舞っていても平気なのだ」

「だが…」

「平然とするな!ボケにボケを重ねるな!」

「なら今度のレース、直で観に行くから」

「わかった」

「チョロかわ。従順になるとめっちゃ可愛いな…余情残心」

「豊、頼むからそこは心の声だけにしといてくれないか?あと、私はいつでも可愛いぞっ☆」

「知ってる」

「おい誰か!!誰かこの天然バカコンビをどうにか出来るやつは居ないのか!?私か!?私しかいないのか!?嘘だ、嘘だと言ってよバーニィ!!」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…ん」

「………………………」

「…ああ、それは違う。こう」

「こうか…?」

「もう少し…そうそう、良い感じ」

「あ、なるほど。完全に理解した」

「…」

「………………フッ!」

「そうそうそれそれ」

「いや、何だかんだでトレーニングに戻るんかい!!ちょっと待って、君もしかしなくても本格的に男の子だよね!?何でそんな平然と物事を進められるの!!第一今何時だよ!!法治国家とはいえこんな時間…いや、時間とか関係なしに外に出歩いていたら危ないでしょうが!!」

 

 

ごもっともである。ともすれば…や、やはりここは私が何とかするべきなのだろうか…。な、ならば精一杯がんばるぞっ!えい、えい、むんっ!!

 

 

「ゆ、豊は髪が長い女性であって決して男性ではないぞ?面を見ろ、面を」

「オグリさんや、それはちと無理があるんじゃない?普通にバラすよりも前にバレたんだからさ。あと、これはツラじゃない…カツラだ」

「豊。頼むから仮面以上に大事なものを取り外さないでくれ」

「これで心スッキリだ」

「ぐあぁっ!!ま、眩しい…!こ、これが本物の男なのか!?」

「いや、禿げてないから」

「また髪の話をしてる…」

「因みに武豊町ってところに『かつら』って店があって…」

「流石豊、物知りだな」

「そりゃキャップの力になれるなら光栄だろ?」

「豊」

「うーん。今日のハグ、80点」

「いや、リアクションするところ…そこ?ってか、ハグ平気なの?え?どゆこと?一体全体、何が起きてるの?わかんないよ…。(ドンッ!)わっかんないよ!私の目の前で起きていることがひとつもわかんないよ!オジョウの脳内で何が起こっているのか、何が正しいのかわかんないよ!わかんない!私にはわかんないの!わかんないわかんないわかんないわかんない!わかんなーい!!」

 

 

完全に今までのやりとりが無駄じゃないか!こんなの無効だ無効!仕切り直しだ!

 

 

「ほ、ほら、男性が女性と手を繋げる訳ないからな!!」

「オグリ?さっきもそうだし、それこそ走る時に毎回おんぶで何回も肌と肌を重ね合わせているじゃないか。何を今更…」

「豊。頼むからこちらの気持ちも考えてくれ」

「ウホ…!エロすぎるでしょ。軽犯罪だよ」

「因みに一昨日も一緒の布団で寝たよね」

「あ、あああアレは睡眠だからな睡眠!」

「…いや、普通に睡眠以外にナニがあるのよ。変なの」

「お下劣サキュバスめ…厚顔無恥とはこのことだな」

「…そっちの方が断然エッチなのでは?オジョウは訝しんだ」

 

 

今更ながら思う。この畜生なことばかりを述べてしまう豊の口を、今この瞬間だけはどうにかして閉じることは出来ないのだろうか?…いや、それは否だ。それらが出来ないことを踏まえた上で私もまた行動しなければならない。

私はこんなところで諦めてはいけない。

諦めねぇ…それこそが私の、取るべき本当の選択だった!

豊よ、今度こそ私が諦めるのを諦めろ!

 

 

「それに、仮にウマ娘が男性に手を出したらそれこそ人生が終わるようなものだ!!よって、豊は男ではない!Q.E.D. 証明終了」

「キャップさんや、若い女の子が手を出すなんてことを言うもんじゃありません。お父さんは許しませんよ!」

「豊。君はどっちの味方なんだ」

「その意識の高さ、アンナプルナ」

「無理を通せば道理が引っ込むというもの…エキセントリック!ここはひとつ生のハグで手を打たない?父として、そして一人の男として。ハピネス。どうした?ハキハキと喋れ、ホウレンソウは社会人において非常に大事」

「変態もいい加減にしろといったところ。エロ衣装で徘徊して身体鍛えてるやつがセックスが嫌いなわけないよな、民間伝承」

「あまり大人を舐めるなよ…甘ちゃん三葉虫」

「お、なんだ、いっちょまえに焦らすのか?その意気やよし。マゾの癖に小生意気だぞ…いや、大生意気といったところか?」

「まったく節操のない肉痴〇パパだな。良識というものが豊にはないのか?」

「怖…っ!交尾の催促かよ。精気を全て吸い尽くされる懸念があるわ」

「オーラ!サッサと抱け!よそ見すんなバカ野郎!可愛すぎるね♡いいんですよ?世界がまーるく平和な限り…♡ほっほっほ♡」

「アダルト向け妖怪めが…ウマ娘にドエロく歯向かおうというのか。頸動脈からアイラブユー」

「ぐぅ…このケツと乳…天界では犯罪ではないんですか?ケツがデカすぎる…モラルを弁えろよ。ザラメが溶けてゲロになりそうだ」

「よく言えたね2人とも♡クソ淫売がよ!…おいおい、やはりただのメスなのか?それとも栄光を掴むのか、どっちなのだ!?」

「私の前でよくもこんな猥褻言語をダプダプ漏らして…。思わず、存在しないチ○ポが勃〇してしまうところだったのを鎮めるのに幾星霜を要してしまったぞ…」

「悪法もまた法なり。まず初めに、普通に抱けるわけがないだろ!!捕まるわっ!!」

 

 

第一同い年なんだが!?

 

 

「寧ろ、私が手を出されたいまであるんだぞ!!」

「焦るな!このマゾメスが!急いては事を仕損じる、イチャイチャしようね♥それにキャップ、これに関しては本当に色々な意味でブラックジョークやからやめい。真面目に手を出しかねないから」

「豊。頼むからまだ人間で居てくれ。とうとう堪忍袋の緒が切れ果てたぞ。急いては事を我慢汁になるぞ。良いのか?良いんだな?」

「本当にサキュバスなのかもしれねぇ…不安になってきた」

「まだ人間やってますけどね」

「まだってことは、サキュバスなのは否定しないんだ」

「ほんとはドスケベなんじゃないの?正体見たり!って感じだな」

「そうなると食事がエロってことになるけど良いの?」

「豊はホモだってこと、はっきりわかんだね」

「とんでもないモラルハザードだよ。そこは族とか付けなさいよ」

 

 

あーもう滅茶苦茶だよ!…ええい、まどろっこしい!

 

 

「ってな訳で、これから私たちはデートなんだ」

「朝5時からデートなんかするか?早すぎるだろ」

「男なら普通断るのが常識なんだけど…」

「豊とね、手を繋いだりなんかして一緒の時を過ごすんだ」

「キスをしろよ!」

「まだ早いだろ!」

「まだ…まだ!?」

「でね、レストランなんかに入るとウィーン会議が開かれていて」

「何の音だよ!」

「自動ドアだろ!」

「オーストリアかよ!っていうツッコミをしろよ!」

「で、2人で食事をするんだ」

「キスをしろよ!」

「まだ早いだろ!」

「まだって何だよ!!私なんて未だにしてもらったことも、ましてやキスをしにいったこともないんだぞ!!」

「…え?」

「…あ、やっべ」

「あっ、ふーん…(察し)」

「で、レストランを出たら夜景を見て、ここでキスを」

「まだ早いだろ!」

「ベストタイミングだろ!ってか、何で私がツッコミになっているんだよ!」

「やっぱり相棒が豊なのは間違っていたのかもしれないな」

「キャップそれ本気で言っているのか?」

「本気で言っていたらここまで長い付き合いになっていないだろ」

「「へへへへへへへへ…」」

「そんな訳で私達はこれで失礼する。行くぞ豊」

「おっそうだな」

「失礼するな!いやしろ!…どっちだ!!私はどっちを言えば良いんだっ!?」

 

 

かくして私は豊を投げ飛ばし、恥を捨て、そのまま彼を背負った。これぞ青春である。

 

 

「…いやいやいやいやいや、ちょっと待てい!!おま、何だかんだ言ってただ彼を乗せて走りたいだけだろ!!」

「自分を信じない奴なんかに努力する価値はない」

「いやそれ背負わされている側が歯を見せびらかして言う格言ではないからな!!ちょっと、あー…えぇ…。豊…君で良いのかわからないけど、君からも何かガツンと言ってやってくれ!!」

「今こそ、自分の忍道を貫き守り通す時!」

「お前ら揃いも揃ってカッコつけて威勢を張るのは良いけど、断じておんぶして言う台詞ではないからな!…ったく、近頃の若いモンはまるでなっちゃいない…。性の喜びを知りやがって!お前許さんぞ!性の喜びを知りやがって自分たちばっかし、私にもさせろよ!グギィィィ!教えはどうなっているんだ、教えは!」

「あ、私の名前はネイティヴダンサーだ。よろしく頼む」

「おい、お前オグリキャップやからな」

「普通にアレだけ呼び合っていたら流石にわかるわ!早く帰れ!いや、帰るな!豊だけ置いて帰れ、このバカちんがっ!!」

 

 

去り際に聞こえた最後の台詞は「あ、膝柔らかスギィ!!純粋に凄スギィ!!」だった。何だその感想は…北原はそれで良いのか?このままだと、ただのどうしようもないだらしないトレーナーになってしまうぞ?

 

 

「(だらしないトレーナーですまない…)」

「(北原、脳内に直接…!)」

「ファミチキください」

「普通に直接言うな直接!!第一、そういう台詞を言うのは私の十八番なんだが!?」

「分かっちゃうよ、俺はエスパーだから。キャップエスパー?」

「そういうことか…そうだったのか…点と点が線で繋がった、許さんぞ…!巧妙で畜生な豊♡頭脳明晰でタイプだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

かなり危ない橋を渡った6月2日、私は学園という名の監獄で授業を受けていた。

あぁ、ここに豊は居ない。本当に辛い。

だが、これくらいの苦行はお茶の子さいさいだ。何より、朝から存分に豊ニウムを取り入れた分だけ体力は満タン、正に元気ハツラツである。

 

 

「ふぁあ〜…」

「おはよ〜…」

「おはよ〜…。………あー…眠たい」

「あっ、そっちも寝不足?」

「そりゃあそうでしょ」

「当たり前だよなぁ…」

「だって、あれだけ匂いを撒き散らしていたら、そら幾らなんでも限度ってものがある訳で…」

「そうだよね…無理があるよね…」

「試験受けたの入学する数ヶ月前の入試のみだし、何より地方だし…」

「ブルーアーカイブ以上に過酷過ぎるわ…」

「ってか、何で1番に浴びている泥ウサギが平気な顔をしているんだよ…」

「…慣れ?」

「慣れだろ」

「慣れだな…」

「受け入れ早すぎでしょ…」

 

 

…で、私はどこで待っていれば良いのだろうか?ポツンと1人、私のみのこの状況はある意味でイジメられているのではないか?………え、ウソでしょ?

 

 

あっ!おはよ!…昨日は大丈夫だった?」

ホッ…ああ、とても快適だった!(正真正銘本当のハツラツ!)」

「あっ、そ、そうなんだ…良かったね(えぇ…普通は男性と離れ離れになっただけで心が壊れるか、とんでもない気性難になるのか、或いはその両方が当たり前なんだけど…。にしても、今日はまた一段と濃いなぁ。周りの子達、フジマサマーチさんとその親衛隊以外の様子から見るに、アレ多分酔ってるんだろうなぁ…)」

 

 

──ウマ娘、暫し待機…。

 

 

「はい、注目。えー、今日は皆さんにゲートの練習を再びしてもらいます。コースはダートの800m、この前と一緒で手を抜かないように。今日も4人ずつね。あー…流石にもう居ないと思うけど、ゲートの中に入って、扉が開いてからスタートだから」

「この時期にもなって失敗する奴なんてもう居ないだろ」

「そう言って思いっきり失敗したの、どこの誰だったかな〜?」

「ミニーゴラァ!!」

 

 

失敗か…。初めてだし、注意する分に越したことはない。うん、気を付けよう。

 

 

「ねぇねぇ、見て見て!トレーナーさんだよ!新入生の、スカウト…かな……」

「トレーナー…?」

「ウ、ウソでしょ…。トレーナーさんっていうのは、私達ウマ娘を監督してくれる人で、スカウトされてチームに所属するとレースに出走出来るんだよ」

「へー…(まあ豊が教えてくれたけど、豊自身がよく知らないって言っていたし。…何より、私も豊の顔を見ていてよく覚えてなかった。助かった。やはり、私は運が良いんだな)」

「…まあ、私はスカウトされたことないけど(興味なさそう…)」

「お互い頑張ろう、ベルノ」

「…!うん、頑張ろう!オグリちゃん!」

 

 

そうだ…豊も受かってからが本番だと言っていた。

 

 

『逆に知っていれば知っているほど不利というか、ある意味では俺自身の頭脳(前世の記憶)が役に立たないんだよね。とりわけ、ウマ娘以外に時速を超す動物なんて野生動物くらいだし、構造他含めてよくわからないのよ。まあ、それでもキャップの癖や仕草、走り方から傾向や対策は素人でも一緒に練ることは出来ると思う』

『流石豊!私達に出来ない事を平然とやってのけるッそこにシビれる!あこがれるゥ!』

『スタートが苦手なのは仕方がない。だから、そこは諦めて後々カバーすれば良い。1番に走り抜ければ良いだけだから、そこに全ての力を注げばどうにでもなる。不安要素としてはカサマツレース場の大半のレースがキャップに対して距離が短すぎるってことと、不正があるかどうかだけど…そこも多分大丈夫。小回りも上手いし、余程の前残りやそれこそ包囲網が発生する…みたいな、超絶厳しい展開でも繰り広げられなければ、今のところ問題はない筈』

『わかった』

 

 

それと、こういう試験、とりわけカサマツレース場では56秒以内に走り切ることと、まだ身体が完成していないことに加えて実際に初めてレース場で走るわけだから、ビュン(・・・)はまだ使うな…だった筈。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………スッー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいっ!位置について、よーい…スタートッ!」

 

 

ゲートが開かれた後。同じ芦毛のウマ娘が走っている。確か、名前は…フジマサマーチだったか。他の3人もフォームが綺麗になってはいるが、やはりこの中でずば抜けた素質があるのはマーチ1人だろう。…事前情報から見ても、間違いはない。足の回転も速く、かつあのスタートの上手さから言って短距離向きの先行型か…。

 

 

「タイム、50秒2!」

 

 

「よし、前回よりも良くなってる!どうですか、ジョーさん!」

「すっげ…流石は特待生、相変わらず良い脚を持っている。だがしかし、どうしてもなぁ…。クソゥ…私のとこよりも柴崎のところに行っちまったし…」

 

 

あっ、オジョウキタハラと…何処かで見たな。………あぁ、この前走った時に見覚えがあるな。いや、見覚えというよりは聞き覚えの方が近いか。『仕方ないですよ。設備も人員もウマ娘も、中央とはそもそものレベルが違うんですから』等々言っていたような気がする。

…地方と中央でそんなに違いがあるものなのか?確かに学費は違かったが、そこまで大差があるようには思えなかった。中央で走っていた子が地方にやってきて、そのまま負けていく姿もあるだろうに…。

 

 

「よーし、頑張ろうね!(今日こそは…!)」

「おっそうだな!(そういえば、51秒を切れればお見事だって言ってたな)」

「泥ウサギに負けんなよ〜」

「負けるわけねえだろ!」

「ねえだろ!」

 

 

そういえば…泥ウサギってなんだ?

 

 

「位置について!よーい…」

 

 

まあ、良いか。ただ走る…ああ、ようやっと、レース場で走れるんだ…!念願の初レース…胸が高鳴る!

 

 

「…ヒヒヒッ!」

 

 

「…ん?」

「スタートッ!」

「ちょっ、ちょっと!何してるの!?」

「いや、靴紐が…しかも両脚も解けてる」

「クツヒモォ!!?」

「ハハッ!靴紐くらいゲート入る前に確認しとけよな!」

「一着は私のもんだ!」

「あーもうヤバいよ!早く早く!あんなのもう…」

「………(この靴の耐久性から言って、全力を出すのは危険だ。万が一、いや億が一…それこそ『クツシタヌゲタ』なんてことにまで至ってはリスクが高過ぎる。そんなことになっては靴などを捨てて裸足で走らなくてはならない。そうなれば、怪我のリスクも増えるだろう。なら、序盤ってこともあるし70%…いや、50%くらいでいいか)」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、脳内に再生された、豊の台詞が浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ。けど、俺のオグリは負けないよ。待たせたな…これが、俺からのプレゼントだ…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「追いつけない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

私は赴くままに加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドンッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何が起こったの…?」

「…」

「嘘だろ…速い…!!」

「なっ!!」

「ヒェッ…」

「もう、あんな遠く…ウソでしょ…こんなの…勝てるワケない…すげぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「タイム!50秒6!」

 

 

 

 

 

 

 

 

…ふぅ。これがカサマツレース場か、テンション上がるな!………………………あ、あれ…?私、何かやっちゃいました?

 

 

 




 


冬は素晴らしい。
雲一つなく快晴が続く貴女の笑顔に、私の熱は耐えきれず放出されていく。
夏が待ち遠しい。
私の名前を呼ぶ貴女の声に、蝉時雨も蚊帳の外へと消える。
秋が待ちきれない。
茜色の空を眺める貴女は灯火のように儚く、また私を祝う姿は実に美しい。
春は
「侑里ちゃあん、何書いてるの?」
晴菜!?
え、どうして?いつの間に?
「いや、ここ楽屋じゃん。台本でも読んでいるのかと思ったら冬とか夏とか色々書いてるしどうしたんだろうって」
そ、それは…。
「ひょっとして…好きな人でも出来た?私が言うのも何だけど、あんまりはしゃぎすぎるのもダメだよ?宣戦布告なんて、それこそフィクションで成立することなんだからね?」
上映会の時と同じく、私は頭が真っ白になる。
「ほら、リハーサル行くよ?」
楽屋から去る背中に言葉は出ず、私は溜め息と共に紙を丸めて思わず窓から投げ捨てた。
紙屑は冬晴るる風に桜と共に舞い散り、青空へと向かう。
2人の恋の行方は、捨てられた紙屑はどこに向かうのか。
私の本当の気持ちを唯一知る紙屑にもその行方は分からない。
春は忘れない。晴菜、貴女が産まれた季節だ。


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