ダンまちTACTICS   作:Leni

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第一部『剣聖への道』 序章:イヴァリースから来た英雄候補
1.雷神の弟子の帰還


「これが『転送機』ですか。本当に、この装置で次元を渡れるんですか?」

 

 雑多な機械や金属部品が転がる工房に、声変わりしたばかりの少年の声が響く。

 

 ここは、イヴァリースと呼ばれる国の機工都市ゴーグ。失われた古代文明の遺物が地下に埋まっている都市であり、その旧文明の技術を復活させようとする職人達が集まる地だ。

 

 そんなゴーグの職人に、ベスロディオ・ブナンザという名高い技師がいる。

 発掘した様々な機械を復元し、世に送り出す一流の技師、機工師である。その機工師ベスロディオの工房で、工房の主は自分に声を向けた少年へと言葉を返す。

 

「そうだ。これと『聖石』の力で、ベル君、キミを故郷の世界まで送ることができる」

 

 機工師ベスロディオの工房は、不思議な機械であふれている。

 その中でも、特に変わり種と言える品が、ベスロディオと話す白髪の少年、ベル・クラネルの目の前にある装置、『転送機』だ。

 

 半径が人の身長ほどある円い台座の上に、天球儀のようなパーツが載っている、奇妙なオブジェ。

 一見、なんの役に立つかも分からないガラクタに見えるそれは、とんでもない代物であった。

 

 なんと、次元を超えて異世界を旅するための機械なのだ。

 

 そして今、『転送機』に『聖石』と呼ばれる秘宝が()め込まれ、天球儀のパーツがゆっくりと回転し始めた。

 それを見守る者は、機工師ベスロディオと少年ベル以外にもいた。ベスロディオの助手として、彼の息子である機工士ムスタディオが。さらに、ムスタディオが懇意にしている傭兵団の団長であるラムザ・ベオルブという青年と、傭兵団所属の傭兵数人が『転送機』から少し離れて待機していた。

 

 かつて、今回のようにベスロディオが『転送機』を作動させたことがあった。しかしそのときは、訳も分からず、適当に動かすだけだった。

 その結果、意図せず異世界と繋がり、一人の人間を呼び出すことになってしまった。

 だが、今回、ベスロディオは準備をしっかりとしたうえで、『転送機』を別の用途で使う心算である。

 

「よおーし、ちゃんと動いている。時空間も安定しているぞ!」

 

『転送機』に何やら小さな機械を近づけながら、ムスタディオが言う。

 彼が手に持つのは、時空間の歪みを検出する自作の測定器である。

 

「ふうむ、ラムザのところの魔道士は優秀だな……」

 

 一方、ベスロディオは油断なく『転送機』の動作を見守りながら、感心するようにそう言った。

『転送機』の安定動作に至るまで、彼はラムザ率いる傭兵団の協力を得ていた。

 

 彼ら傭兵団は、このイヴァリース国全土を巡りまわって、様々な問題を解決してきた。

 時には個人の依頼を受け事件を解決し、時にはトレジャーハンターとして秘宝を集め、時には冒険者として古代の遺跡を発見した。

 さらには、ここ最近まで起きていた内戦を背後から操っていた教会の野望を阻止し、最終的には次元の狭間にて、伝説に語られる悪魔と大激戦を繰り広げた

 その次元の狭間から脱出する際に『聖石』を使用したのだが、彼ら傭兵団の頭脳派メンバーはその際の力の動きを見て、時空間や次元という概念を深く理解するに至った。

 

 そして今。

 彼ら傭兵団の内、二人のメンバーが『転送機』を使って次元を渡ろうとしていた。

 

 一人は、前回の『転送機』動作実験により、異世界から魂を複製されて生まれた戦士、クラウド・ストライフ。

 もう一人は、数年前に異世界から次元を渡ってイヴァリース国へと迷いこんだ少年、ベル・クラネル。

 二人は『転送機』を使って、それぞれの故郷の世界に帰ろうとしているのだ。

 

 ベスロディオと傭兵団の次元観測実験の結果、異世界というものは無数に存在している様子であった。よって、二人がそれぞれの出身世界に帰還するためには、その身に宿した縁を辿って帰るべき場所を特定する必要があった。それらの処置もすでに終わっており、あとは実際に『転送機』を動かすだけという段階まできている。

 

「じゃあ、さっそく頼む」

 

『転送機』の準備が整ったところで、新たな声が工房に響く。

 ラムザの背後にいた異国風の服を着たツンツン頭の青年、クラウドが前に進み出してきて言ったのだ。

 すると、ムスタディオは測定器から目を離して、クラウドへと目を向ける。

 

「おいおい、今生の別れだってのに、あっさりしてんな」

 

 そんなムスタディオの言い様に、クラウドは興味なさげに無表情で答える。

 

「……馴れ合うつもりはない」

 

「はー、そりゃあ、出会ってまだ短いけどよ。それでも悪魔(ルカヴィ)退治で命を預け合った戦友だろ!」

 

 眉をひそめてムスタディオが言うが、そこへ傭兵団団長のラムザが割って入る。

 

「まあまあ。クラウドも、向こうの世界に早く行きたいんだろう。大人しく見送ってあげようよ」

 

 クラウドは、正確には異世界人ではない。異世界の魂を『聖石』が複製し、新たに肉体を作り出したコピー人間なのである。だが、クラウドはそれでも魂の故郷とも言える世界に帰りたがった。向こうの世界でやるべきことがある、彼はそう主張した。その意志を汲んだのかどうなのか、『聖石』が光り輝き、『転送機』の上部にある天球儀のパーツの回転が速くなり始めた。

 

「頃合いだ。いつでもいける」

 

『転送機』の起動を見守っていたベスロディオがそう言うと、クラウドは『転送機』の前へと近寄る。

 そして、ベスロディオがクラウド以外のメンバーを『転送機』から遠ざけると、『転送機』を操作してクラウドを対象に次元移動の機能を作動させた。

 

「……世話になったな」

 

 最後にそう言い残して、クラウドは雷光と共に、次元の彼方へと旅立っていった。

 それを無言で見送った工房内のメンバー達。

 ムスタディオは手もとの測定器を見て、時空間が安定していることを確認した。どうやら、問題なく『転送機』は作動したようだ。

 

 その結果にホッと一安心といった様子で息を吐いたムスタディオは、工房内にいた傭兵団のメンバーへと目を向ける。

 全体的に若い面子が多い傭兵達だが、その中でも取り分け幼い見た目の少年をムスタディオは見て、言った。

 

「さて、次はベルだな」

 

「はい、皆さん、本当にお世話になりました!」

 

 ムスタディオに呼ばれ、少年ベル・クラネルが前に進み出てくる。

 白髪赤目の、家畜化された白兎を彷彿(ほうふつ)とさせる雰囲気を持つ、十三、四歳ほどの少年。

 

 彼は、胸もとに宝玉が嵌められたミスリル合金製の鎧を身に着け、さらにその鎧の上から大きな背負い鞄を身に着けている。腰には剣を()いており、右手には兜、左手には大きな盾を持っている。

 どうやら、次元を渡る際に、荷物だけでなく愛用の武具も持っていくつもりのようだ。

 

「本当は、皆さんに付いていきたい思いもあるのですが……」

 

 完全武装で『転送機』の横に立ったベルが、ラムザを見ながら名残惜しそうにそんなことを言い出した。

 しかし、ラムザはそんなベルを(さと)すように告げる。

 

「いや、傭兵団は解散するんだ。僕は教会から『異端者』扱いをされたままだから、これから国境まで逃亡生活だよ。そんな逃避行には連れて行けないさ」

 

 ここイヴァリース国では、つい最近まで新国王の摂政の座を巡って、内戦が起きていた。

 

 二人の大物貴族が率いる、北天騎士団と南天騎士団が激しくぶつかり合った内戦。ラムザはその内戦を終わらせるために、陰ながら奮闘した。

 そしてラムザは、その内戦の終結を区切りとして、隣国へと亡命することを決めたのだ。

 

 ラムザと傭兵団の団員数名は、この国の教会から『異端者』として扱われている。

 傀儡(かいらい)の王を作り出して国を陰から支配するために、今回の内戦を仕組んだグレバドス教会。その計画をラムザはことごとく邪魔し続けた。その結果として、彼は教会から完全に敵視されてしまっているのだ。

 

「でも、ラムザさんには師匠も付いていくんですよね?」

 

 そんな『異端者』ラムザの主張を聞いたベルが、しつこく彼に尋ねた。

 

「オルランドゥ伯は、大罪人として処刑されたことになっているからね。今さら生存がバレたら大問題だ。だから、僕と一緒に亡命する」

 

 そう言いながらラムザが横を見る。すると、そこには六十歳ほどの老人が立っていた。

 背筋は伸び、筋骨隆々で老いを感じさせない、白髪白髭の男。

 彼こそ、イヴァリースで剣聖と名高い【雷神シド】。シドルファス・オルランドゥ伯爵だ。そんなオルランドゥ伯が、真っ直ぐな目でベルを見て言った。

 

「ベル。故郷へ帰りなさい。家族を残しているのだろう?」

 

「師匠……」

 

「ベル……。お前を弟子の一人として育ててきたが、共に過ごす息子のようにも思っていた」

 

「……!」

 

「だからこそ、父代わりとなった者として言わせてもらおう。家族に無事な姿を見せてあげなさい」

 

「……はい」

 

「そして、剣の師としても、ベルに伝えなければならぬことがある」

 

「……はいっ!」

 

「お前は、今まで取った弟子の中で最も優れた器の持ち主だ。剣の才があり、努力を惜しまず、そして何より、性根が真っ直ぐだ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ゆえに、皆伝の証として、これを授けよう」

 

 オルランドゥ伯が、ベルの前へと進み出る。そして彼は、腰に差していた剣帯から鞘に入った剣を取り外し、それをベルに向けて差し出した

 イヴァリースにて騎士が使う、騎士剣と呼ばれる種類の刀剣だ。

 刃渡りが長く、チョコボと呼ばれる陸上を走る大型の鳥に騎乗しながら振るうことができる、騎士の証。

 

「それは……師匠の愛剣じゃないですか!」

 

「ああ。大成した証として、この《エクスカリバー》を持っていけ。これでお前は、この【雷神シド】の後継者だ」

 

「えええええ……」

 

 まさかの師匠の言葉に、ベルは困惑の声を上げてしまう。

 さらに、押し付けるように渡された剣をベルは、思わず受け取ってしまった。

 

「よかったね、ベル」

 

 兜と、受け取った騎士剣を同時に右手に持って、あたふたとするベル。その光景を見ながら、ラムザが笑ってそう言った。

 すると、ベルはとりあえず兜を頭に被り、鞘に入った騎士剣を右手にしっかりと持って、ラムザへと言葉を返す。

 

「よかったね、じゃないですよ! これ、《エクスカリバー》ですよ、《エクスカリバー》! 伝説の騎士剣ですよ!」

 

「大丈夫、もう一本あるから。ほら、ディープダンジョンで見つけたやつ」

 

「確かにそうですけど、そういう問題ですか!?」

 

「二本目があったってことは、どこかで三本目が見つかるかもしれないよ。隣国に亡命したら、しばらくはトレジャーハンターをやるつもりだからさ」

 

「三本目までいくと、今度はありがたみがなくなる……!」

 

 急に(ゆる)んだ場の雰囲気。

 それを打ち払うかのように、オルランドゥ伯が咳払いをした。

 すると、空気が一瞬で引き締まり、静かになったところでオルランドゥ伯がベルに再び言う。

 

「ともあれ、こちらの心配はいらん。皆伝の証として、持っていくといい」

 

「師匠……はい! ありがたく頂戴いたします!」

 

「鍛錬を(おこた)るでないぞ」

 

「はい! 師匠のように剣聖と(うた)われることを目指して、剣の腕を高めてみせます!」

 

「よくぞ言った!」

 

 そうして、傭兵団の他の団員からも次々と言葉がかけられ、ベルは最後の別れの挨拶を交わした。

 別れの挨拶が一巡し、団長のラムザに話が回ってくる。

 するとラムザは、確認を取るようにベルへと問いかけた。

 

「本当に、キミのチョコボを連れていかなくていいのかい?」

 

「ええ、一匹だけなら飼い馴らせても、卵で増えていくと管理しきれなくなりますからね。故郷の環境を乱したくありません。野良のチョコボは危険ですから……特に赤いの」

 

 イヴァリースに生息するモンスターの一種、チョコボと呼ばれる巨大な鳥は、卵で増えていく。

 そして、人に飼い馴らされていない野良のチョコボは、人に襲いかかる凶暴な生物である。

 その卵で増えて人を襲う性質が、チョコボのいない故郷の地で発揮されることをベルは恐れた。ゆえに彼は、今まで騎乗用に飼っていた愛鳥をラムザたちへ托すことにしたのだ。ベルがオルランドゥ伯の配下として、内戦で武勲(ぶくん)を上げたときも騎乗していた軍用のチョコボである。

 

「後を頼みます、団長。チョコボだけじゃなくて、師匠のことも頼みます」

 

「ああ、任せて」

 

「ラムザに世話をされるほど耄碌(もうろく)したつもりはないが……」

 

 ベルの言葉に、ラムザはうなずき、オルランドゥ伯は呆れたようにつぶやいた。

 

 内戦が起こる一年前まで行なわれていた隣国との戦争、五十年戦争の末期。戦場で突如、次元を裂いて現れたという幼子、ベル・クラネル。

 彼は、養い親であり剣の師であった【雷神シド】から皆伝を認められ……。

 その証を手に、再び次元を超えて故郷の地へと旅立っていった。

 

 少年ベルが『転送機』の導きによって向かう目標地点は、祖父の暮らす田舎の村。

 そこでは、祖父が一人、寂しく暮らしているはずだ。次元を渡る奇妙な感覚を数年ぶりに味わいながら、ベルは祖父にどうイヴァリースでの生活を説明しようかと考えていた。

 

 やがて。

 

 祖父との縁を辿って次元を超越したベルは、自身が生まれた世界へと帰還した。

 しかし、次元を裂いて飛び出した先に見えたその風景は、見覚えのある故郷の田舎村ではなく……。

 

「……なんだ、ここ」

 

 ベルはどういうわけか、古い石造りの建物の内部にいた。日の光は差していないが、光源はあり、ランプのようなものがいくつか光を放ちながら地面に転がっている。

 その光を頼りに、ベルは周囲の状況の把握に努めた。

 

「!?」

 

 そして、ベルはすぐさま臨戦体勢に入った。

 広間になっている建物の奥では、複数人の戦士たちが巨大なモンスターと戦闘を行なっていたのだ。

 だが、戦況は見るからに戦士側が劣勢。

 戦士の中にはすでに倒れている者もおり、意識がある無事な者も必死に戦い続けている。突然現れたベルに注意を払う余裕がある者は誰もいないようであった。

 

 そんな中、膝を突いて今にも倒れそうになっている女戦士に、巨大なモンスターの尾が迫る。

 それを見たベルの判断は、早かった。

 

「助太刀します!」

 

 数年ぶりに使う故郷の世界の言語、共通語(コイネー)を発しながら飛び出すベル。彼は、荷物として持ち込んでいた左手の盾を構えて女戦士とモンスターの間に割り込んだ。

 巨大な尾による一撃が、盾と衝突する。

 しかし、ベルは思いっきり踏ん張って衝撃に耐えた。尾は上に受け流され、巨大なモンスター、サソリに似た黒い甲殻生物は、腹をベルの前に晒す。

 

 そこへ【雷神シド】の愛剣《エクスカリバー》を素早く鞘から抜き去ったベルは、『剣気』を込めて全力で剣を振るった。

 それは、『聖剣技』という武術に分類される、師から学んだ技の一つ。

 

 ――大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん!

 

「【無双稲妻突き】!」

 

 雷光がほとばしり、ベルの『剣気』で形作られた巨大な刃が、モンスターの腹を大きく穿(うが)った。

 


 

●アラズラム・J・デュライ著『ブレイブストーリー』より抜粋

ベル・クラネル

【雷神シド】最後の弟子。剣聖と謳われたシドルファス・オルランドゥ伯爵が五十年戦争末期に拾った戦災孤児で、オルランドゥ伯から直接、剣の手ほどきを受けた。獅子戦争では南天騎士団の一員として、敵将を討ち取る活躍を見せた。しかし、オルランドゥ伯が謀反の疑いをかけられたため騎士団から出奔(しゅっぽん)。ラムザ・ベオルブ率いる傭兵団に身を寄せるが、戦争終結後の行方はラムザ同様、明らかになっていない。

 




新作始めました。
ダンまちとFFTのクロスオーバー二次創作ですが、FFT側の物品等はベルくんが習得・学習した技術と、ベルくんに芽生える予定の『スキル』『魔法』と、ベルくんが持ち込んだ装備・手荷物以外は出しません。後出しで唐突にFFT側の存在がしゃしゃり出てくることはないので、安心してダンまち二次としてお楽しみください。

なお、FFTのゲームシステムを作中の世界に落とし込んだ結果として、独自設定や独自解釈が頻出します。

・無双稲妻突き
FFTに登場するあまりにも無法な技。突きと名前にありますが剣の動作は斬撃で、地面から尖ったエフェクトが飛び出て相手を突き刺す聖剣技です。FFTキャラが3D化されたFFBE幻影戦争でも、動画を見る限りではそんなモーションのままのようです。
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