ダンまちTACTICS   作:Leni

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16.再出発

 オラリオ内にあるとある貸しホール。

 そこで、とある催し物が開かれようとしていた。

 

「えー、では、これより第一回【ヘスティア・ファミリア】入団説明会を行なわせていただきます」

 

 百名収容可能だというダンスホール。そこで、ベルは魔石製品である拡声器を使って、ホールに詰めた人々に向けて声を飛ばしていた。

 本日の彼の役割は、【ヘスティア・ファミリア】の入団希望者を相手にした説明会と大面接の司会である。

 

 あの『戦争遊戯(ウォーゲーム)』の勝利以降、【ヘスティア・ファミリア】に入団希望者が殺到していた。

 入団希望者は非常に多かった。そこで団長であるリリルカは、彼らを一ヶ所に集めてまとめて面接し、有望そうな人物を選出する案を出した。

 そうして開かれたのが、今回の入団説明会である。

 

「なにぶん人が多いので、こちらからいくつか条件を述べていきます。その条件に該当しない方は、順次退席していってください。また、条件に該当するものの、こちらの方針等に納得がいかない方も退席していただいて構いません」

 

 拡声器に向かって、用意していた原稿をスラスラと読み上げていくベル。

 立って説明を行なっているベルの横では、椅子に座ったヘスティア神とリリルカの姿があった。

 

「【ヘスティア・ファミリア】は探索(ダンジョン)系の派閥です。基本的に、冒険者とサポーターのみを募集しています」

 

 このベルの説明に、集まっていた人々が去ることはなかった。この程度は承知の上でやってきたのだろう。

 

「募集人員の『Lv.』は問いません。『Lv.1』の方のみでなく、『神の恩恵(ファルナ)』を与えられていない初心者の方でも、我々の主神ヘスティアが『恩恵』を刻みますので、一緒に『初層』から頑張って攻略していきましょう」

 

 未経験者大歓迎、というやつだ。

 何しろ、リリルカもベルも『Lv.1』の駆け出しだ。ここで『Lv.』の高い熟練の冒険者に来られても、正直なところ持てあましてしまう可能性があった。

 

本拠(ホーム)は、まだありません。今回、入団する団員の数次第で、新しく建物を借り受けるか買い上げる形となります。資金は、『戦闘遊戯』での勝利で手に入れた資金を充てますので、本拠の確保は問題ないと思ってください」

 

 そのベルの言葉に、「おおっ」と喜びや期待が混じったざわめき声があがった。

 どうやら、『戦争遊戯』でヘスティア神がアポロン神から大金を巻き上げたことは、しっかりと知れ渡っているようだ。

 

「ここからが重要なのですが、僕が『戦争遊戯』で見せた技は、他の方に伝授することはできません。僕固有の能力、『スキル』の一種と思ってください。純粋な剣技は僕から教えることは可能ですが、飛ぶ斬撃等はお教えできません」

 

 ベルがそう言うと、幾人かの人間が用意されていた椅子から立ち上がり、退席していく。

 どうやらベルが『戦争遊戯』で見せた『聖剣技』は個人の『スキル』由来の力ではない、純粋な技術であるという噂がオラリオに広まっているようであった。

 噂を広めたのは、神々だ。その部分は嘘ではないのだが、イヴァリースの力である『剣気』が必要なため、ベルとしても不本意ながら他者に教えることは不可能であった。

 実は剣の弟子を取ってみたいと思っていたベルだが、『剣気』を伝授できない以上は、この反応も仕方ないものだと諦めた。

 

「【ファミリア】の体制ですが、団長はこちらにいる小人族(パルゥム)の女性であるリリルカ・アーデが務めます。これは確定事項です。僕、ベル・クラネルは団長ではありません。僕はオラリオに来て日が浅く、リリルカ団長はオラリオでのサポーター経験が長いため、僕が団長を務めることはありません。リリルカ団長の下に付くことに異論がないという方のみ残ってください」

 

 と、この説明で半数以上の入団希望者が立ち上がり、去っていった。

『戦争遊戯』で活躍したベルの下ならともかく、『Lv.1』の小人族の少女の下に付くことは納得できないという者は多かったのだろう。

 

 実はリリルカだが、今回の件に(あわ)せてベルに団長の座を譲ろうとしていた。

 しかし、ベルはそれを拒否した。

 

 というのも、リリルカはオラリオ生まれであり、ダンジョンにもオラリオの情勢にも詳しい。

 一方、ベルは田舎生まれで異世界育ちだ。オラリオの事情には疎い。

 そのことから、オラリオで【ファミリア】を運営するには、リリルカの方が相応しいとベルは判断したのだ。ヘスティア神も、ベルよりもリリルカの方が、団長という皆を率いる役割に向いているとの意見を出した。

 

 リリルカは頭も良く、人を率いる才があることをヘスティア神は知っていた。頭が良いのは劣悪な環境で悪知恵を働かせていた経験から来るもので、人を率いる才はリリルカの師匠である【ロキ・ファミリア】の団長フィンが見出した才能である。

 

 一方で、ベルは南天騎士団に居た頃から一貫して下っ端として働いてきた。

 人を率いる能力は皆無で、頭もさほどよくない。その話を聞いたヘスティア神は、ベルに関しては純粋な戦闘員として運用するのがいいと判断した。

 

 ゆえに、入団説明会ではリリルカが団長となることは決定事項であると、入団希望者たちに伝えることになった。

 

 その後も、リリルカが考えた【ヘスティア・ファミリア】の方針をつらつらとベルは述べていき、最終的に残ったのはわずか二十名程度の入団希望者であった。

 

「では、ここからは入団面接を行ないます。団長のリリルカと、神ヘスティアによる面接となります。神が面接官となるので、嘘は通じないと思ってくださいね」

 

 そうして入団説明会は、面接会へと変わり……最終的に、団員候補は一人も残らなかった。

 

「……えっ、一人も残らなかったんですか? 神様、どういうことですか?」

 

 まさかの結果に、ベルはヘスティア神のことをジッと見つめた。

 すると、ヘスティア神はムスッとした不機嫌な顔で答える。

 

「まったく、失礼しちゃうね。面接に残っていたのは、団長の座を奪ってやろうと目論んでいる子か、人格や素行に問題がある子のみだったよ」

 

「うわあ、そうなりましたか」

 

「人格面に問題がなかった子は、おそらくリリ君の下に付くことが納得いかなくて面接まで残っていなかったんだろうね。いや、そういう意味では、今回、人格面に本当の意味で問題がない子は一人もいなかったことになる」

 

「そういうこと、あります?」

 

「あるんだねぇ……」

 

 ヘスティア神とベルは、そんな言葉を交わして、お互いため息を吐いた。

 すると、その会話を座って聞いていたリリルカは、顔を伏せながら口を開いた。

 

「やっぱり、リリが団長を務めるのは無理があったのではないですか……?」

 

 すると、ヘスティア神はリリルカに言い訳するかのごとく、慌てて彼女に向けて言う。

 

「いや、リリ君の下に付けないなんていう子は、ベル君が団長になっていたとしても、リリ君と衝突して問題を起こしていたに違いないよ」

 

「そうだね。リリ団長が平団員だったら、あの人たちはリリ団長を下に見て横柄な態度を取っていた可能性は高いよね」

 

 ベルもヘスティア神の意見に同調するように、そんなことを言った。

 確かにそうかもしれない、とリリルカは納得し、顔を上げた。

 

「仕方ありません。しばらくは、リリとベルさん、そして外部の助っ人であるヴェルフさんの三人でダンジョンに潜ることにしましょう」

 

「うん、三人一組(スリーマンセル)でダンジョンに潜るのは、割と一般的なんだよね? それなら、無理に団員を増やすこともないよ」

 

「はい。今回の説明会は、次から次へとやってくる入団希望者へ対応するために行なったもので、【ファミリア】の拡大は主目的ではありませんでしたからね」

 

「今回の一件で、入団希望者がいなくなるならそれはそれで、わずらわしさが減っていいことだよね」

 

 リリルカとベルがそんな言葉を交わし、そんな二人を見守っていたヘスティア神が、あらためて言う。

 

「しばらくは、リリ君とベル君の二人がボクの家族だ。なあに、本拠(ホーム)の用意に資金が掛からないことを喜ぶとしようぜ!」

 

 そうして、【ヘスティア・ファミリア】はあらためて、二名の冒険者を(よう)する探索系の【ファミリア】として活動を再開することとなった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 入団説明会から数日。【ヘスティア・ファミリア】は、新しい本拠(ホーム)へ引っ越しを済ませていた。

 オラリオの北北西にある大きな庭付きの広めの一軒家。中古物件だが、作りはしっかりした建物だ。ちなみに、賃貸ではなく一括での購入となった。リリルカがだいぶ値切ったらしく、【アポロン・ファミリア】から搾り取った活動資金はまだまだ残っているようだ。

 

「暖炉付きの家、ずっと欲しかったんだ」

 

 本拠に家具を設置している最中、ヘスティア神は居間にある暖炉を見てそんなことを言った。

 

「ああ、あの廃教会の地下って、暖房はなかったですからね。冬は辛かったでしょう?」

 

 ベルは、レンガが組まれた大きめの暖炉を見ながら、ヘスティア神にそう言った。

 

「冬の寒さもそうだけど、実はボクという神にとって、暖炉は重要なんだ」

 

「そうなんですか? ヘスティア様って、火の神様なんですか?」

 

 意外だ、という顔でベルはそう言った。

 目の前にいる女神は燃えさかる火を司るような激しい性格の神には見えない。そういう思いからくる驚き顔であった。

 すると、ヘスティア神はフフンと笑って、驚くベルと、新しいソファーの配置に悩んでいるリリルカに向けて言う。

 

「神としてのボクが司る事物(じぶつ)は『聖火』で、護り火……家を照らす炎なんだ」

 

「護り火、ですか?」

 

「そうさ。ボクは、家庭の安寧を司る神なんだ。暖炉を囲み、一家で団らんする。そんな幸せな家を護る火をボクは司っている」

 

「家族を護る神様ですか。素敵ですね」

 

 ベルが笑顔でそう言うと、ヘスティア神は得意げに「だろう?」と笑い返した。

 それから、ソファーの配置を決めたリリルカが、ヘスティアへと近づいてきて言う。

 

「家具の配置は、こんなものですね。思ったよりも資金が余りましたので、残りはヘスティア様の借金の返済に充てます」

 

「おおっと、待ちたまえよ。あの借金はボク個人の借金だ。さすがに派閥の活動資金を返済に充てるわけにはいかないよ」

 

「何を言っているのですか。借金は、この派閥の団員にしか使えない槍の代金です。つまり派閥の共有財産であり、その代金はヘスティア様の個人的な借金にはなりません」

 

「いや、ヘファイストスには、ボクが働いて返すって言ってあってだね?」

 

「派閥の資金は主神の資金です。勝手に使いこむことは許しませんが、実質的にはすべてヘスティア様のお金ですよ」

 

「そうはならないよ。ボクはダンジョンにも潜れないし、『戦争遊戯』でだって戦えない。派閥の資金は、キミたちの物だ」

 

「むう、なんでそうなるんですか!」

 

「リリ君、ボクを眷族(こども)から搾取するような神にしないでおくれ」

 

「ヘスティア様が自分のためにお金を使い込むなら怒りますが、あの槍については話は違いますよね!?」

 

「違わないよ。あれは、ボクがリリ君にプレゼントしたくて打ってもらったものだ。だから、あの三億ヴァリスは、ボクのワガママで作った借金なのさ」

 

「むぐぐぐぐ……」

 

 頑なにお金を受け取ろうとしないヘスティア神に、リリルカは悔しそうにしながら引き下がった。

 それを見ていたベルは、こういうやりとりも家族っぽくていいなぁ、などとのんきな顔をしながら思った。

 三億の借金を巡る家族のやり取りなど、通常なら修羅場にしかならないという突っ込みを入れる者は、この場にはいなかった。

 

 それから。新しい家で暖炉の明かりに照らされながら、ベルとリリルカの二人とヘスティア神の一柱は、今後の方針を話し合い始めた。

 

「まず、この本拠(ホーム)は『竈火(かまど)の家』と名付ける!」

 

「単なる一軒家ですけど、仰々しい名前をつける必要があるんですか?」

 

 ヘスティア神の宣言に、ベルが首をかしげながらそう問うた。

 すると、ヘスティア神は得意げな顔をして答える。

 

「ふふふ、【ファミリア】の本拠っていうのは、だいたい名前があるものさ。あの廃教会はあまりにもボロボロで、名付けるのもちょっとどうかと思っていたけど、これだけ立派な家なら正式に名前を付けても体裁は保てるよ」

 

「そういうものですか」

 

 ベルはヘスティア神の説明に、素直に納得した。リリルカも異論はないのか、無言のままである。

 そんな二人を見て、本拠の名前に問題がないと判断したヘスティア神は次の議題に移る。

 

「では、次はあれだ。【ヘスティア・ファミリア】の徽章(エンブレム)を決めよう」

 

 エンブレム。どの【ファミリア】にも存在する、所属を表すシンボルマークだ。

 実は、先日終わった『戦争遊戯』に際して、【ヘスティア・ファミリア】にエンブレムがなかったことから、商業系【ファミリア】からヘスティア神に苦情が入っていた。

『戦争遊戯』は都市を挙げた興行であった。それなのに、所属を示すマークがなかったため、街中に張り出すポスター等のデザインで苦労をさせられたという文句が上がっていたのだ。ヘスティア神からすると、知ったことではないという反応をするしかないのだが。

 

 だが、エンブレムがないと、今後、何かと不便なのは確かだ。団長であるリリルカは、そう納得した。

 そこで、この場にいる三名で図案をすぐに決めることとした。

 

「ヘスティア様が司る事象が護り火ならば、火のデザインは欠かせませんね」

 

 リリルカがそう言うと、ベルもなんとか案を絞り出そうとして周囲に目を向け、そしてヘスティア神の姿を見てふと思い付いた。

 

「神様の髪飾り、その花は何か神様に関連する花なんですか?」

 

 ヘスティア神の髪型は、ツインテールだ。艶やかな黒髪を赤い花の付いた髪飾りでくくってまとめている。

 そこに注目したベルの視線を受けて、ヘスティア神は得意げな顔をして答えた。

 

「いいだろう? この髪飾り、リリ君がプレゼントしてくれたんだぜ?」

 

「へえ、そうなんですか。いいですね、そういうの」

 

「この飾りの花は『フレーゼ』。花言葉は『純潔』だ。ボクは天界で純潔の神なんて言われてもいたから、お気に入りなんだ」

 

 ヘスティアのその言葉に、リリルカは少し恥ずかしそうな顔をしながら言う。

 

「では、エンブレムの図案は赤い花(フレーゼ)と護り火を組み合わせたものにしますか」

 

「賛成。それでいこう」

 

「ボクも異論は無いよ」

 

 そうして、リリルカとベルは、羊皮紙にいくつかの図案を描いていき、どのような配置がいいか議論を交わし始めた。

 そんな二人の眷族(こどもたち)のやりとりをヘスティア神は慈母のような優しい表情で見守っていた。

 

「よし、これでいきましょう」

 

 そうして、護り火の灯った聖火台とそれを囲む花々という図案が決まり、リリルカは清書した羊皮紙を高々と掲げた。

 これから、このエンブレムは【ヘスティア・ファミリア】を表すシンボルとして長く使われていくことになるだろう。その事実に、ヘスティア神は胸がいっぱいになるような気持ちとなった。

 ああ、天界から降りてきてよかった。心から彼女はそう思った。

 

「では、ギルドに図案を提出してきます」

 

 そう言って、リリルカが出かける準備を始めようとしたところ。

 不意に、居間に鐘の音(チャイム)が響いた。

 玄関に設置された、来客を知らせる魔石製品の音である。

 

「おや、お客様ですか。リリが出ますね」

 

 リリルカは、居間に羊皮紙を置いて、そのまま玄関に向かった。

 そして、玄関の扉を開けて、客の姿を確認すると……。

 

「やあ、戦勝祝いと、引っ越し祝いに来たよ」

 

「お師匠様!?」

 

 玄関先にいたのは、なんと【ロキ・ファミリア】の団長フィン・ディムナと、同派閥の幹部アイズ・ヴァレンシュタインであった。

 

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