ダンまちTACTICS   作:Leni

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21.鐘の音が告げるその時まで

 鎖に繋がれた生贄の少女、春姫。その周囲には、アマゾネスを始めとした多くの戦闘娼婦(バーベラ)たち。

 その戦闘娼婦たちは、儀式への乱入に驚いてはいなかった。『歓楽街』に侵入した【ロキ・ファミリア】の存在をすでに知っていたのだろう。戦闘娼婦たちは各々が武器を持って武装しており、敵を待ち構えて戦闘態勢を整えていた。

 

 だが、そんな彼女たちが驚く要素が一つだけあった。

【イシュタル・ファミリア】の幹部であるアイシャの存在である。

 

 アイシャは、【イシュタル・ファミリア】の多くの者たちに慕われている人物だ。部下の面倒見がよく、それゆえ皆から頼りにされていた。そんなアイシャが、【ロキ・ファミリア】という敵をこの儀式の場まで連れてきた。

 

 アイシャは以前から、春姫を『殺生石』の犠牲とすることに反感を抱いていた。一度は、イシュタル神が調達した別の『殺生石』を破壊することまでした。

 だが、そのことでイシュタル神の怒りを買い、アイシャは二度と主神に逆らえないよう、とことんまで『美神の魅了』をかけられたはずであった。

 

 しかし、今こうして、アイシャは【イシュタル・ファミリア】に敵対する姿勢を見せている。まさかの裏切り行為に、戦闘娼婦たちは動揺を隠せないでいた。

 ただし、一人のアマゾネスを除いて。

 

「アイシャ~! やっぱり裏切ったんだねぇ~! いいよ、そこにいる【剣姫】と一緒に、ギタギタに潰してやるよぉ~」

 

 そんな間延びした声を発した者は、奇妙な姿形をしたアマゾネスだった。

 二(メドル)を超える巨大な身体に、短い手足。しかし、その全身は筋肉に覆われており、横幅も広かった。顔も大きく、異様に大きな口でニタリと笑って、ギョロギョロした目を忙しなく動かしている。

 あえて形容するなら、二足歩行する超巨大なヒキガエルのようであった。

 

 そんな異形のアマゾネスは、名をフリュネ・ジャミールといった。

 戦闘娼婦の中で最強の『Lv.5』を誇る、【イシュタル・ファミリア】の団長である。

 その彼女が、不意に大きく息を吸い込んだ。そして、叫ぶ。

 

「春姫ェ! 寄越しなぁッ!」

 

 突然放たれたフリュネの大声に、鎖で囚われたままの春姫は、ビクリと震える。

 そして、反射的に彼女は『魔法』の詠唱を開始してしまった。

 

「【――大きくなれ】」

 

 その詠唱を聞いた瞬間。戦闘娼婦、特にアマゾネスの者たちは即座に臨戦態勢へと入り、春姫を守るように陣形を組み始めた。

 

 アイシャの裏切り。その衝撃の事実から目を逸らし、アマゾネスという種族の闘争本能に身を任せ、敵の排除に動いたのだ。

 激しい戦いの末の勝利を誉れとする亜人アマゾネス。彼女たちが今の状況で闘争本能を高めるのは、当然のことであった。

 なぜなら、敵は裏切りの幹部アイシャと『戦争遊戯(ウォーゲーム)』で活躍した謎のルーキー、ベル・クラネルだけではないのだ。

 

 彼女たちの目の前には、【ロキ・ファミリア】の幹部であるアイズとベートという圧倒的強者がいた。二人はどちらも『Lv.6』。彼女たちの首領であるフリュネより、明らかに格上である。

 さらに、【タケミカヅチ・ファミリア】の団員もおり、アマゾネスたちは『殺生石』の儀式を開始するために、本気で敵に立ち向かわなければならなかった。

 

「お前らぁッ! 春姫の詠唱が終わるまで、絶対に通すんじゃないよぉ~!」

 

 そんなフリュネの指示に嫌そうな顔をしつつも、戦闘娼婦たちは陣形を崩さない。

 その陣形の奥で、春姫は鎖に繋がれながら詠唱式を紡ぐ。

 

「【()の力に()の器】」

 

 すると、春姫の詠唱に応じるかのごとく、フリュネの身体に金色(こんじき)の粒子がまとわりつき始めた。

 狐人(ルナール)が使うという『特殊な魔法』……『妖術』。おそらくは、対象を強化する補助魔法だとベルは推測し、彼は叫んだ。

 

「春姫さん、助けに来ました! 魔法を止めてください!」

 

 すると、アイシャも武器である大朴刀を構えながら、春姫に向けて叫ぶ。

 

「春姫! 止めな! フリュネに味方する義理はもうないだろう!」

 

「春姫ェ! もし止めたら、どうなるか分かっているんだろうね~!」

 

 最後にフリュネがそう叫び、春姫はビクビクと震えながら、言葉を発した。

 

「【数多(あまた)の財に数多(あまた)の願い】」

 

 彼女の答えは、詠唱の続行。フリュネに対する支援の継続であった。

 

「春姫さん!?」

 

「春姫ッ、あんた助かりたくないのかい!?」

 

「ゲゲゲゲゲ、それでいいよぉ~」

 

 ベル、アイシャ、フリュネがそれぞれの反応を示すが、今の春姫はその言葉を聞いてすらいなかった。

 

「【鐘の()が告げるその時まで、どうか栄華(えいが)幻想(げんそう)を】」

 

 詠唱を続ける彼女は、混乱していた。

 

『魂』を囚われる儀式がとうとう実行されるとあって、全てを諦めていたときに、突然現れた見覚えのある少年ベル。その彼が、自分を助けるなどと言い出し、彼女はまるで物語の一(ページ)に放り出されたような気持ちになった。

 そんな中、春姫はいつものダンジョン攻略の時のように、フリュネに『妖術』の使用を強いられた。

 だというのに、【イシュタル・ファミリア】側のはずのアイシャが自分の『妖術』を止めようとしている。

 さらには視界の端では、幼い頃に一緒に遊んだ記憶のある極東の幼馴染みが、記憶よりも大きく成長した姿で武装している様子も見えた。

 

 あまりにも物事が錯雑(さくざつ)としすぎて、春姫は完全に混乱してしまった。

 神々の言葉を借りるなら、パニクってしまった。

 

 そこで、彼女が取った行動。それは、()()()()()()()()ことであった。

 彼女は心の平静を保つため、思考を停止して団長(フリュネ)の指示に身を任せ、『妖術』の詠唱を開始してしまったのだ。たとえ自分の『魂』を滅ぼす愚行であろうとも、彼女はそれに気づけない。

 

「ゴチャゴチャしゃべってんじゃねえッ! 殴ってでも、あの雑魚狐の詠唱を止めるぞ!」

 

 そんな混沌とした状況を破ったのは、いつの間にか再度の『獣化』を決めていたベートであった。ここは屋上。『殺生石』の儀式のために、満月の光が天から降り注いでいる。

 

 巨狼の力を宿した彼は、陣形を固めた戦闘娼婦の集団に突っ込んでいき、前方にいたアマゾネスを蹴り倒した。

 そして、そこから大乱戦が始まった。

 ベートを追ってアイズが飛び出し、それをフリュネが横から大戦斧で斬りつけて止めようとする。

 アイシャが自身と同じ『Lv.3』の幹部であるアマゾネスのサミラと一対一の戦いを始めると、そこに邪魔が入らないよう他のアマゾネスたちが【タケミカヅチ・ファミリア】の団員たちを妨害にかかる。

 

「【――大きくなれ】」

 

 そして、ベルはと言うと、黄金の騎士剣を構え、春姫の前に立ちはだかるアマゾネスたちを『聖剣技』で薙ぎ払い始めた。

 

「ギャーッ! やっぱ強い!」

 

「【血塗られた聖兎剣士(ヴォーパル・バニー)】、ヤベーッ!」

 

「ヌワーッ!」

 

 戦闘娼婦たちのほとんどが、『Lv.2』か『Lv.3』の上級冒険者だ。しかし、『Lv.1』のベルはそんなものお構いなしとばかりに『剣気』を練ってクリスタル状の刃を天から降らせた。

 

 一歩一歩、春姫に近づいていくベル。

 しかし。その姿を見た春姫は、自分に助けが来ているという実感を持たなかった。むしろ逆で、いつもダンジョンで自分の詠唱を守っているはずの戦闘娼婦たちが蹴散らされて、敵が自分に迫ってきていると勘違いしてしまった。

 そのせいか、春姫の詠唱速度が上がっていく。

 

「【神饌(かみ)を食らいしこの体。(かみ)(たま)いしこの金光(こんこう)(つち)へと(いた)(つち)へと(かえ)り、どうか貴方へ祝福を】」

 

 詠唱が完成に近づき、アイズとの戦いで防戦一方のフリュネの頭上に、光り輝く紋様の渦が出現する。

 その渦はやがて一つの形へと変化する。

 金色に輝く、柄のない光の槌である。

 

「【──大きくなぁれ】」

 

 詠唱が完成し、春姫は最後に魔法名を宣言しようとする。光り輝く槌が、真下にいるフリュネに祝福を与えんとする。

 だが、その直前に、ベルは春姫のすぐ近くまで辿り着いていた。

 その春姫に、ベルは剣を向ける。

 

『聖剣技』を当てて、詠唱を止めようというのか。春姫を守る戦闘娼婦たちは、必死でベルを止めようとする。

 だがしかし。

 ベルには春姫を傷付けるつもりは毛頭無かった。

 代わりにベルが放つのは、『戦争遊戯』の最中に稼いだ『JP』で取得した、新たな『暗黒剣』。

 

 その新しい剣技が、魔法名を紡ごうとする春姫に向けられる。

 

「【ウチデノ――】」

 

「【(あん)(つるぎ)】ッ!」

 

「コンッ!?」

 

『妖術』の発動ギリギリで、ベルの『暗黒剣』が春姫を襲った。

 

 春姫の足下から発生した『暗黒の剣気』が、彼女の全身を貫く。

 しかし、春姫の身体は傷一つついてはいなかった。

 代わりに、『妖術』の完成間際で、春姫は精神に多大な負荷を受けた。それにより、『妖術』の発動は完全に止まった。

 

『魔法』の発動を途中で強引に止めると、『魔力暴発(イグニス・ファトゥス)』が起こる可能性がある。制御されていた魔力が暴走し、詠唱者を傷付ける現象だ。

 しかし、春姫はベルの攻撃で『妖術』を途中で止めたというのに、『魔力暴発』を起こしていなかった。

 

 ベルの放った【暗の剣】が、春姫の魔法発動に必要な精神力(マインド)と、発動のために溜めていた魔力を根こそぎ吹き飛ばしたのだ。

 そして、その吹き飛ばした分の精神力(マインド)と魔力は、ベルの精神力へと還元された。

 

【暗の剣】は、ベルが『戦争遊戯』の最中で使用して自身の傷を癒やした【(やみ)(つるぎ)】と対になった剣技。

 攻撃した相手の精神力を奪い、使用者の精神力を癒やすという、反則じみた技だ。

 

 この一撃により、春姫は全ての精神力を奪われ、気絶した。

 魔法の使い過ぎなどで精神力を失った冒険者は、精神疲弊(マインドダウン)という虚脱(きょだつ)状態に陥る。さらに、全ての精神力を失ってしまうと、精神枯渇(マインドゼロ)という気絶状態となる。

 ベルは、春姫を【暗の剣】で精神枯渇(マインドゼロ)にすることで、彼女を傷付けることなく魔法の発動を阻止したのだ。

 

「ごめん、春姫さん。寝ている間に、勝手に助けさせてもらうよ」

 

 そう言ってベルは、自分の周囲を囲み始めた戦闘娼婦たちを【無双稲妻突き】でまとめて吹き飛ばした。

 




・なぜ【暗の剣】を食らった春姫に『魔力暴走』が起きなかったのか?
FFTでは魔法を発動した瞬間にMPを消費しますが、ダンまちでは魔法詠唱中にも少しずつ精神力を消費して発動に必要な魔力をプールします。その二つの仕様の齟齬のつじつま合わせとして、魔法詠唱中の相手に【暗の剣】を撃つとプールしている魔力も奪うよう、独自解釈として上方にバランス調整しました。
ただし、バランス調整の本命としては、【暗の剣】が精神力奪取で『魔力暴走』を誘発するようになった場合、あまりにも強すぎる剣技となってしまうため、作劇上の都合で下方にバランス調整した感じです。ノータイムで発動する技を当てるだけで『魔力暴走』とか、ヴェルフの魔法が要らない子になってしまう……。
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