ダンまちTACTICS   作:Leni

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23.闇派閥の残党

『歓楽街』と同じ第三区画に存在する、地上の迷宮『ダイダロス通り』。

 無秩序に増改築を繰り返された住宅街であり、一種のスラム街でもあった。

 人を惑わす入り組んだ建物の間を『闇派閥の残党』幹部である女ヒューマンのヴァレッタが、春姫を抱えてスイスイと進む。そして、それを追って三人の追跡者が走る。

 

『獣化』したベートと、魔法の風に後押しされたアイズ、そして《エクスカリバー》の機能で加速するベル。三者は猛烈な勢いで進むが、ときおり襲ってくる邪魔者たちに足止めされてしまい、なかなかヴァレッタに追いつけないでいた

 

 彼らを足止めする者は、『呪武具(カース・ウェポン)』で武装した暗殺者(アサシン)だけではない。

 どう見ても一般市民としか見えない者が、フラリと彼らの進路に躍り出て、壁として立ちはだかるのだ。

 

「くっ、いったいどういうことなんだ……!」

 

 ベルは【暗の剣】を用いて、邪魔する一般市民を昏倒させていく。しかし、彼はこの状況がつかめないでいた。

 

「『闇派閥(イヴィルス)』の新しい団員だろうな!」

 

「ええっ、もしかして春姫さんをさらったのって、『闇派閥』の人なんですか?」

 

「それすら知らなかったのかよ、テメェは!」

 

「春姫さんを助け出す以外の事情は、何も知りませんッ!」

 

「その程度把握してろッ! 説明している暇はねえから、全部薙ぎ倒して進め!」

 

「りょ、了解!」

 

 ベートとそんな言葉を交わしながら、必死でヴァレッタを見失わないよう駆けるベル。

 一方、アイズは付与魔法(エンチャント)で身に(まと)った風を使って高く跳躍し、ヴァレッタの位置の捕捉にかかる。

 しかし、そんなアイズに『闇派閥の残党』が放った攻撃が飛んでくる。魔剣だ。空を跳ねるアイズは格好の的になり、ヴァレッタのもとへ一直線に向かうことができなかった。

 

 やがて。ヴァレッタは建物の内部に入り、奥へ奥へと進んでいく。

 このまま行けば、相手の向かう先は袋小路なのでは、とベルは目を輝かせる。しかし、ベートとアイズはむしろ逆、しまったという表情になった。

 そして、建物の一番奥。そこに空いた四角い穴にヴァレッタが飛びこんだ。

 その直後、穴は音を立てて塞がる。突然降りてきた扉が、行く手をさえぎったのだ。

 

「クソがッ!」

 

 扉を思いっきり蹴りつけるベート。

 しかし、ミスリル製のメタルブーツは、その扉を傷一つ付けられない

 

「オリハルコンの、扉」

 

 ポツリと、アイズがつぶやく。

 その言葉に、ベルは目の前の扉の正体に気付いた。

 オリハルコン。最硬精製金属(マスター・インゴット)とまで呼ばれる、人類が生み出した叡智の結晶。『世界最硬の超稀少金属』だ。

 

 それを前に、打つ手なしといった様子で肩を落とすベートとアイズ。

 しかし、そんな二人にベルは言った。

 

「どいてください」

 

「あ?」

 

「扉を、破壊します」

 

「は?」

 

 ベルの言葉が信じられないとばかりに、ベートは目を見開く。

 そして、ベルをにらみつけるように今度は目を細めて問う。

 

「……できんのか?」

 

「できるまで、やります。全部薙ぎ倒して進むんでしょう?」

 

 大言壮語とも言えるベルの言葉に、ベートはただ無言で扉の前を空けた。

 そして、ベルは抜き身のままの《エクスカリバー》を構えて『剣気』を高め、その力を一息に解き放った。

 

 轟音が、オリハルコンの扉を大きく揺らす。

 しかし……扉は傷一つ付いてはいなかった。

 

 その結果に、無言でベルの挑戦を眺めていたアイズは、わずかに眉をひそめてつぶやく。

 

「オリハルコンは、『不壊属性(デュランダル)』の材料。残念だけど、破壊は……」

 

「まだです!」

 

 挑戦は、一度きりでは終わらない。

 

 ベルは、再度『剣気』を練って剣技を放った。

 しかし、扉は傷付かない。

 再度、『剣気』を練る。

 扉は壊れない。

『剣気』を練る。

 扉は破れない。

『剣気』を練る。

 扉がきしむ。

 

「!?」

 

 ベートは見た。ベルが技を放つたび、少しずつ扉が歪んでいくのを。

 そして。

 

「ハアアッ!」

 

 三日月のような『剣気』の刃がオリハルコンの扉を貫き、扉は大きくひしゃげた。

 

「よくやった! ガキ兎!」

 

 すぐさまベートが歪みきった扉を蹴倒し、大きく空いた穴へと飛びこんだ。

 それを即座に追うベル。

 だが、アイズは驚きのあまり一拍遅れてしまった。しかし、すぐさま気を取り直して、穴の向こう、地下に続く通路へと足を踏み入れた。

 

『ダイダロス通り』の地下。そこには、人によって造り出された空間が広がっている。

 数日前に、【ロキ・ファミリア】が突入して、団員七名を失う痛いしっぺ返しを受けた人造迷宮である。

 

 だが、そんな過去などお構いなしとばかりに、ベートは先頭でひた走った。一方、ベルは自分が足を踏み入れた場所が、そんな怪しい場所などという自覚はゼロである。

 ただ一人、アイズは警戒心を最大限に高めながら人造迷宮を進むが……。通路は一直線の階段が続くのみであり、彼らを阻む物は何もなく、やがて広間(ルーム)へと辿り着いた。

 

 オリハルコン製の扉がいくつも並ぶ、開けた空間。

 そこには、『闇派閥の残党』幹部ヴァレッタと、多数の武装した敵が待ち構えていた。春姫は、広間の隅に寝かされている。

 ベートとベル、そしてアイズの到着に、ヴァレッタは顔を歪ませて叫ぶように言った。

 

「いや、来るのはえーよ! フィンのヤローを()め殺す予定が台無しだ、クソがよ!」

 

 そう言って、ヴァレッタは着込んでいた長外套(オーバーコート)をひるがえして、武器を構えた。

 それは、禍々しい赤い刃を持つ長剣。敵に癒えぬ傷を刻みこむ『呪武具(カース・ウェポン)』である。

 

 そして、広間に待機していた人員、『闇派閥の残党』たちも、各々の武器を構えた。

 それは、『呪武具』に『魔剣』と、厄介な武器のオンパレードであった。

 

「ったく、せっかく戦利品抱えて帰ってきたっつーのに、ガンガンうるせえんだよ。穴でも掘ってきやがったのかよ。アダマンタイト製の壁だぞ? 頭おかしいんじゃねーか」

 

 長剣を握っていない方の手で、短い髪をかきむしるようにいじるヴァレッタ。

 さすがの彼女も、ベルがオリハルコンの扉を破壊してやってきたとまでは思っていないらしい。

 そんな彼女は、己と対峙するベートたちを順番に眺め、そして再び口を開く。

 

「まっ、来たのはしょうがねえ。ここは私たちの巣だ。ノコノコやってきた自分たちを恨んで死ねや」

 

 その言葉が、戦いの合図となった。

 真っ先に飛び出そうとしたのは、ベートだ。狙うは、大将首。ヴァレッタである。

 だが、当然のごとく『闇派閥の残党』たちが、その前に立ちふさがる。

 

 敵の手には、様々な種類の『呪武具』が握られている。

 回復薬(ポーション)も回復魔法も頼りにならない、わずかな傷でさえ命に関わることになる危険な戦いが待ち受けている。

 

 ――はずであった。

 

「【冥界恐叫打(めいかいきょうきょうだ)】!」

 

 唐突に、ベートの後ろからベルが剣技を放った。

『剣気』で形作られた刃がベートの正面に立つ男の足下から生え、全身を通り過ぎる。すると、男は衝撃を受けたように血を吐いた。

 それでも、男はその一撃で倒れることはなかった。男の【ステイタス】は『Lv.4』。ベルの剣技であっても、一撃で倒すには至らなかった。

 

 それを確認したヴァレッタは、勝てると確信した。二人の『Lv.6』と、力量の不明な助っ人(ルーキー)。それをこの場で始末できるとあって、彼女は笑った。

 

 しかし、次の瞬間。ベルの剣技で貫かれた男の『呪武具』が、粉々に砕け散った。

 

「は?」

 

 広間にいた誰かが、呆けた声を上げる。武器を失った男も、血に濡れた口を大きく開く呆然とした表情で、動きを止めた。

 そこへ、後方から風をまとったアイズが飛び出し、武器を失った男を斬り伏せる。

 そして。

 ベルは再度、先ほどの剣技を放つ。

 

「【冥界恐叫打】!」

 

 また別の『闇派閥の残党』の者が『剣気』の刃に蹂躙され、手に持つ『呪武具』を砕かれる。

 

「【冥界恐叫打】!」

 

 『闇派閥の残党』に交ざっていた暗殺者の短剣が、音を立てて折れる。

 

「【冥界恐叫打】!」

 

 ベルへと斬りかかろうとした男の長剣が、柄を残して消滅する。

 

「【冥界恐叫打】ッ!」

 

 遠くから槍を投げようとしていた敵の足下から刃が生じ、槍ごと敵を蹂躙した。

 

 まさかの、武器破壊技。それに気付いた『闇派閥の残党』と暗殺者の集団は、とっさにベルたちから距離を取った。

 それを広間の奥から目撃したヴァレッタは、顔を歪ませてベルをにらむ。

 

「オイオイ、『戦争遊戯(ウォーゲーム)』で見せた手札以外にまだあんのかよ! 本当になんなんだよテメェは!」

 

 そのヴァレッタの言葉に、ベルは兜の奥に隠された目を細めて、淡々と答えた。

 

「オリハルコンの扉が壊せるのに、武器の一本や二本、折れないとでも思ったんですか?」

 

「はあ?」

 

 まさかのベルの発言に、ヴァレッタは目を点にした。

 オリハルコンの扉を壊せる。そう言ったのか、こいつは。本気で言っているのか? そんな表情で、彼女はベルを見た。

 

「ククククク……」

 

 ヴァレッタの浮かべた表情が面白かったのか、ベートは戦意を高めながらも笑い声を上げてしまった。

 そのベートの笑い声が(しゃく)(さわ)ったのか、ヴァレッタは額に青筋を浮かべて叫ぶように言う。

 

「魔剣を放てぇッ! ヤツらを近づかせるな!」

 

 その言葉と共に、広間の左右から二発ずつ、魔剣による一撃が飛ぶ。

 だが。その魔剣の攻撃をベートはメタルブーツで蹴りつけることで掻き消した。

 そして、ベートは再び笑った。

 

「ハッ、魔剣代が浮いたぞ!」

 

 その嘲笑を含んだ台詞に、ヴァレッタは己の失策を悟った。

 ベートが装備するメタルブーツ。あれは、魔法を吸収してそれを付与魔法(エンチャント)のごとく扱う、特殊武装(スペリオルズ)なのだ。事前にその情報を入手していたというのに、ブーツを破壊する前に魔剣という手札を切らされてしまった。彼女は歯がみした。

 

 そして、相手に手札を切らせたベートは、魔剣による炎をメタルブーツにまとい、前へ前へと進んでいく。

『呪武具』でベートを傷付けようとする『闇派閥の残党』の者たち。しかし、それに対して中衛の位置からベルが的確に『剣気』の刃を飛ばしていき、武器破壊による援護でベートを助けた。

 さらに、アイズが風をまとって飛び跳ね、遠距離から魔剣を放とうとしていた者たちの注目を自分に引きつけ、隙を見て斬り込んでいった。

 

「【冥界恐叫打】!」

 

 再び、ベルの武器破壊が決まる。

 この剣技は、今までベルが使ってきた『聖剣技』にも『暗黒剣』にも当てはまらない。彼が扱える第三の剣の流派、『剛剣』の奥義である。

 

 先ほどベルがオリハルコンの扉を破壊したときも、この『剛剣』の基礎に(なら)って技を繰り返した。

 だが、『剛剣』の真骨頂は物質破壊ではなく、装備破壊。

 その中でも、【冥界恐叫打】は武器破壊を確実に成功させる奥義であった。さすがにオリハルコンを鍛錬して造り出す『不壊属性(デュランダル)』武器の破壊は叶わないだろうが、『闇派閥の残党』が持つ『呪武具』程度なら、簡単に破壊することができた。

 

 そんなベルの『剛剣』により、『闇派閥の残党』と暗殺者たちが傷を負い、武器を失う。

 その隙を突いてベートが前へ前へと進み、彼を囲もうとする敵を遊撃となったアイズが仕留めていく。

 

 確実に、確実にヴァレッタへと近づいていくベート。

 それを見たヴァレッタは、大声で叫んだ。

 

「私を守れ、てめぇらッ!」

 

 すると、ベートたちを大きく囲むように展開していた『闇派閥の残党』たちが一斉に陣形を変え、ヴァレッタを守る壁となった。

 空中を飛んでアイズがそれを飛び越えようとするも、後方に移動した暗殺者が魔剣を露骨に見せつけ、牽制をしてくる。

 

 一塊になって、ヴァレッタを守らんとする『闇派閥の残党』。

 だがそれは、ベルにとって格好の(まと)

 地下の空間に《エクスカリバー》の刃が(ひらめ)く。

 それにより範囲攻撃を可能とする『聖剣技』が炸裂し、一塊となった敵を撃ち抜いた。

 

 しかし。

 

 どういうわけか、敵の集団はベルの攻撃を余裕で耐えていた。

 

「!?」

 

 最初に『剛剣』を当てた相手より、今の敵の方が明らかに被害が少ない。

『Lv.』の高い幹部級の者たちが固まっていたのか。ベルは一瞬そう考えるが、頭の中で即座にそれを否定した。

 

 相手が強くなってきたのではない。自分が弱くなっているのだ。

 ベルは、先ほどよりも全身にかかる鎧の重さを鬱陶(うっとう)しく感じながら、そんな答えを導き出していた。

 

「ひひッ」

 

『闇派閥の残党』幹部ヴァレッタの笑い声が、人造迷宮の広間に小さく響いた。

 




・オリハルコン製の扉は『剛剣』で壊せるのか?
イヴァリースにある《オリハルコン》という名のナイフは『剛剣』で壊せます。ただし、ダンまち世界で『不壊属性(デュランダル)』として加工されたオリハルコン武具は破壊不可能と設定しました。
ちなみに《オリハルコン》の素材は、FFTによると『非常に硬い特殊な金属』だそうです。FFTAによると『オリハルコン』は幻の合金で、FF12RWでは『オリハルコン』を多量に含む『オリハルコンの鉱石』があり、FF12とFFTA2によると『オリハルク』という名の金属があるようです。
表記のブレや扱いの違いは、それぞれ作中の時代が異なることからくるものと解釈できます。
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