自分の身体能力が衰えている。ベルは、この感覚に覚えがあった。
イヴァリースの一般的な
すなわち。今のベルは、どういうわけか身体能力に制限を受けている。
『スキル』か、『魔法』か、『
いずれかはベルは分からなかったが、明らかになんらかの技を掛けられていると、彼は確信した。
「ひひッ」
同じ答えに、ベートも辿り着いていた。
ベルの一撃に耐えた敵たちの反撃を
「ひひひひッ」
危うく『
風の威力が弱まってきている。彼女に宿る魔力が失われつつあった。
「ひひひひひひひひひッ」
明らかに『弱くなった』三人を前に、ヴァレッタは笑い声を上げた。
そして、告げる。
「ひひひ、言ったよな? ここは私たちの巣だって」
その言葉に、アイズが真っ先に反応した。
「『
「おっ、正解。私の『魔法』だよ。それもクソみてーに使い勝手の悪い、設置型の『魔法』だ」
「罠……!」
「気付くのがおせーよ、ノロマァ。魔法名は【シャルドー】。『
くつくつと笑いながら、ヴァレッタが言葉を続ける。
「まあ、リスクがないっつっても、詠唱はなげえし、発動中はここから出られねえし、
ヴァレッタは、
「ちなみに、時間が経てば経つほど、効果は重ねがけされるぞ?」
「兎野郎! 武器破壊を続けろ! アイズ、速攻で決めるぞ!」
ヴァレッタの言葉の直後に、ベートはそう指示を出して、急いで戦いを再開させた。
「ひひひひひ、お前ら、私を守れ! そうすれば、そいつらを確実に討ち取ってやるからよぉ!」
それから、ベートとアイズの猛攻が始まった。その後方で、ベルは必死に武器破壊の『剛剣』を繰り出すが、彼の奥義は一人ずつしか攻撃できない。そのため、敵の『呪武具』が少しずつベートとアイズに傷をつけていく。
だが、防御をある程度捨てて攻撃に専念した分だけ、敵を打ち倒す二人の速度が上がっていく。
そして、とうとう『闇派閥の残党』は、ヴァレッタを含めて五人を残すだけとなった。
広大な
だが、その結果として、ベートとアイズは裂傷をいくつも負い、その後方でベルは歯がゆい思いをしていた。
ベルの剣技は距離をある程度無視する。ゆえに、前衛を二人に任せて後方から剣技を放つ戦術が、最も効率のよい戦い方だ。
しかし、この三人の中で、一番『呪武具』の脅威に対抗できるのも、鎧兜に身を包んで盾を装備したベルなのだ。
それでも、ベートとアイズの身を削るような前進は功を奏した。
ベルの『剛剣』の間合いに、ヴァレッタを捕らえたのだ。
ベルは、剣を構え、まずはヴァレッタの持つ『呪武具』を破壊しようと、『剣気』を練った。
だが、それよりも早く。
ヴァレッタたち五人は、一斉に『呪武具』をベートとアイズに向けて
「ぐっ!」
「うっ!」
必死に投擲を防ぐベートとアイズ。
しかし、ヴァレッタが投げた赤い刃の長剣が、ベートの太ももを深くえぐった。
「ひひひ、大当たりぃー」
そう言いながら、ヴァレッタは左手にいつの間にか持っていた鞘から、長剣を引き抜いた。
それは、禍々しい刃を持つ『呪武具』ではなかった。
「オリハルコンの扉を壊したって? でもさぁ、今の弱った兎ちゃんが、正真正銘の『
その刃の輝き。それは、アイズが持つ剣《デスペレート》と同じ、『世界最硬の超稀少金属』オリハルコンを鍛造した輝きであった。
まさかの破壊不可能な武器の登場。ベルの『剛剣』に勝機を見いだしていたアイズは、顔を険しくする。だが、ベートは太ももから血を滴らせながらも叫ぶ。
「武器なんぞ関係ねえ! 一太刀も浴びずにぶっ殺せば終わりだ!」
それは、己を鼓舞する言葉か、アイズを
だが、そんなベートの心を折らんと、ヴァレッタが告げた。
「ああ、そうだ。時間経過で『
そのヴァレッタの言葉と共に、彼女の四人の取り巻きが、それぞれオリハルコン製の武器を構えた。
まさかの、五人全員が『
だが、それは何も不思議なことではない。この地下空間、人造迷宮はアダマンタイトの壁とオリハルコンの扉で構成された場所なのだ。その建造にかかる費用と比べると、『
まさに、ヴァレッタはこの場に罠を張って、多数の強力な武器を用意し、春姫を追ってくるであろう敵を待ち構えていたのだ。
本来ならばもう少し時間をかけて罠を展開し、【ロキ・ファミリア】全体を嵌め殺す予定であったヴァレッタ。それでも、少ない準備時間で幹部二人を殺せるならば、大金星である。
「さあ、今のお前らはどれくらい『弱く』なったかな? まさか天下の『Lv.6』二人が、『Lv.5』の私よりも弱いなんて事はねえよな?」
武器を構え、ベートとアイズの二人と対峙するヴァレッタたち五人。
だが、ベートとアイズはそれでも絶望していなかった。彼らも『Lv.6』まで登り詰めた冒険者。切り札はまだしっかりと隠し持っていた。
一方、駆け出し冒険者のベルはというと、一人、勝機を見いだしていた。そのベルは、剣を構えて口を開く。
「【死ぬも生きるも剣持つ定め……地獄で悟れ!】」
「あん? 魔法か。させねえよ」
ヴァレッタがベルの詠唱に警戒心を露わにし、ベートとアイズを押しのけようと前に出た。
当然、それを止めようと、ベートとアイズの二人がヴァレッタの前に立ちふさがる。
しかし、二人はオリハルコンの長剣を振るったヴァレッタの攻撃を防いだだけで弾き飛ばされ、さらに取り巻きの四人がベートとアイズを押さえにかかる。
そして、ヴァレッタがベルの前に立った瞬間。
ベルはその場で剣を振るった。
「【
必中の『暗黒剣』が、ヴァレッタを貫く。
しかし、その攻撃はヴァレッタの身を傷付けることは無かった。それは、『
「ぐっ、
それは、春姫を
「はっ、甘え! カスみてえな『Lv.1』の『魔法』で
そう言って、ヴァレッタはベルに向けてオリハルコンの長剣を振るう。
すると、ベルは重たい足を動かしてヴァレッタとの距離を調整し、盾で攻撃を弾いた。
そして。
「【暗の剣】!」
再び、ベルの『暗黒剣』が飛ぶ。
「クソッ、詠唱いらねえのかよ! だが、甘いっつってんだろ!」
「【暗の剣】!」
「しつけェ! 死ねッ!」
『Lv.5』のヴァレッタにも避けられない【暗の剣】が三度飛び、彼女の精神力を削っていく。
その影響で
だが、ヴァレッタの剣は、ベルの堅牢な防御を崩せない。
なぜだ、とヴァレッタは思うが、すぐに彼女は一つの事実に気付いた。目の前の少年は、そもそもこの
それはすなわち、ベートやアイズと比べて、『
ヴァレッタの攻撃を盾で防ぐくらいの身体能力は、ベルにはまだ残されていた。
「【暗の剣】ィ!」
「ど、どれだけ連発すれば気が済むんだ、クソ兎がァーッッッ!」
ベルが使う剣技の最大の特長。それは、『リソースを一切消費しない』ことにあった。
ゆえに。ベルが剣を握っている限り、『剣気』を練り続けられる限り、いくらでも剣技は敵に飛んでいく。
そして、とうとうヴァレッタは、結界魔法を維持できないほど精神力を失ってしまった。
意識が朦朧とし、オリハルコンの長剣を手放しそうになる。そんな中、再び少年の詠唱が聞こえてきた。
「【大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん!】」
かすむ視界の中、ヴァレッタは光り輝く鎧兜に身を包んだ少年が、黄金の剣を振りかぶるのを見た。
「【無双稲妻突き】!」
枷から解き放たれた雷神の申し子が、ヴァレッタに死を運んできた。
・全剣技の詠唱
剣技を放つ際に詠唱したりしなかったりとブレブレですが、本作品でのFFTの技の詠唱は自転車の補助輪のようなものとしています。つまり、詠唱をすると上手く技を発動できるようになるという独自設定をしています。なお、威力上昇等の効果はありません。一方、魔法については詠唱必須という独自設定です。FFTの詠唱は格好良いので今後の魔法使用時はガンガン詠唱してもらいます。
作中でこの設定に触れる前にベルくんが完全詠唱全剣技を放ったので、あとがきで触れさせていただきました。
・作中で発揮されなかったベートとアイズが狙っていた逆転方法
ベート:魔法【ハティ】で結界魔法破壊。
アイズ:風で加速して広間内を駆け回って、落ちている魔剣を拾って遠距離から一方的に砲撃。相手がひるんでいる隙に『呪武具』も風に乗せてぶん投げる。