ダンまちTACTICS   作:Leni

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25.一つの派閥の終わり

 ベルの剣技によって、ヴァレッタは倒れた。

能力下降(ステイタス・ダウン)』の『魔法』は完全に解除され、『闇派閥(イヴィルス)の残党』の全てを打ち倒した三人。

 

 だが、代償としてベートとアイズは、『不治の呪い』による傷をいくつも付けられてしまった。

 応急処置として布で傷口を固く縛って止血を試みるが、血はにじみ続ける。

 

 よって、三人は急いで地上へと帰還することを決め、倒れた『闇派閥の残党』と暗殺者(アサシン)たちにしっかりとトドメを刺していった。そして、ベルは未だ気絶したままの春姫を抱え、人造迷宮の広間から脱出した。

 

 なお、脱出の際にベートがヴァレッタの遺体を肩に担ぎ始めたので、ベルは何事かとギョッとしてしまった。

 

「『闇派閥』がいたことを示す証拠だ。それくらい察しろ」

 

「人造迷宮の『鍵』、持っているかもしれない……」

 

 そんなベートとアイズの説明で、ベルは『闇派閥の残党』の遺体が、今後の局面で重要な役割を果たすことを知った。

 

 なんでも、神の眷族は死んだ後も背中に『神の恩恵(ファルナ)』が刻まれたままであり、その【神聖文字(ヒエログリフ)】を読み解くことで、眷族の真名や主神の名を暴くことができるのだという。

 さらに、彼女が隠し持っているかもしれないこの地下空間の『鍵』があれば、オリハルコンの扉をわざわざ破壊しなくても、扉を自在に開け閉めできるようになる可能性があるらしかった。

 

 そうして、ベルとベートは空を駆けるアイズの案内で、混沌とした迷路となっている『ダイダロス通り』を脱出。同じ第三区画の『歓楽街』まで戻り、【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)までやってきた。

 そこではすでに『抗争』の決着が付いており、イシュタル神が捕らえられて【イシュタル・ファミリア】の戦闘員たちは全員武器を手放していた。

 

女主の神娼殿(べーレト・バビリ)』の入口すぐのホールでは、【ロキ・ファミリア】の団長フィンが団員たちに指示を出して慌ただしくしている真っ最中であった。

 そこに姿を現したベルたち三人は、驚きをもって皆に迎え入れられた。

 

「べ、ベルくーん! 無事かい! 無事なのかい!?」

 

 くたびれた様子のリリルカを伴ったヘスティア神が、ベルのもとへと駆け寄ってくる。

 そんな主神の姿に、ベルはどこかホッとするような気持ちになりつつ答える。

 

「僕は無事です。春姫さんも、気絶はしていますが無事です。でも、ベートさんとアイズさんが……」

 

「おわっ、そこの二人とも、傷だらけじゃないか! 回復薬(ポーション)はどうしたんだい!?」

 

「それが、『呪武具(カース・ウェポン)』で、塞がらない傷を付けられてしまったらしく……」

 

「こんなところに来ている場合じゃないよ! 今すぐ病院だよッッッ!」

 

 そんな騒ぎがあり、ベートとアイズは、その場からすぐに医療系派閥である【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院まで搬送(はんそう)された。

『呪武具』の『呪詛(カース)』は強力な代物であったが、数日前に同じ傷で【ロキ・ファミリア】の団長フィンが運び込まれており、解呪の方法はすでに確立していた。

 よって、ベートとアイズは一日の入院をしただけで、無事に治療を終えることができた。

 

 なお、ベートが持ち帰ったヴァレッタの遺体は、ギルドの幹部職員同伴のもとで背中の『神の恩恵』が暴かれた。数年前の『暗黒期』に暴れ回ったヴァレッタの名と、邪神タナトスの名が【神聖文字】でしっかりと刻まれており、『闇派閥の残党』の存在が確かなものとして認められた。

 しかし、ギルドは『闇派閥の残党』の暗躍をオラリオの市民たちに公表することはなかった。

 

『闇派閥』が跋扈(ばっこ)していた『暗黒期』は何年も前に終わり、平和を謳歌している最中であるオラリオの市民たち。そんな中で、ただいたずらに市民を不安にさせるわけにはいかない。

 そのような判断から、『闇派閥の残党』の存在は一部の【ファミリア】以外には伏せられ、【ロキ・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】、そして【タケミカヅチ・ファミリア】にはギルドから箝口令(かんこうれい)が敷かれた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

『抗争』から数日後。【イシュタル・ファミリア】の本拠は、【ロキ・ファミリア】の人海戦術と、『抗争』中にさりげなくマッピングと家捜しをしていた【ヘルメス・ファミリア】の活躍によって完全に暴かれ、『闇派閥の残党』との関わりの証拠も無事に発見された。

 

 しかも、イシュタル神は、【フレイヤ・ファミリア】を滅ぼすために、『闇派閥の残党』だけでなく都市外の【ファミリア】とも通じていた。

 

 これにより、【イシュタル・ファミリア】と『闇派閥の残党』の暗躍を知ったギルドと一部の神々は、イシュタル神の処遇に対して頭を悩ませることになる。

 

 オラリオ南東部の『歓楽街』は、イシュタル神が牛耳っていた。

 イシュタル神を天界に送還するか、オラリオから追放するかを選ぶと、『歓楽街』が正常に回らなくなってしまう。

 しかし、それを理由に無罪放免とするわけにはいかなかった。

 

 慣例通りならばオラリオからの追放が穏当なのだが、そういうわけにはいかなかった。

 今度こそ【フレイヤ・ファミリア】を滅ぼすために、追放された後に都市の外で勢力を広げて、オラリオに牙を剥く危険性がイシュタル神にはあった。

 さらに、イシュタル神は『美の女神』である。都市の中に置き続けるのも、都市の外に追放するのも、『魅了』の力を考えると危険であった。

 

 それらのことを考慮して、最終的にイシュタル神は天界に送還されることが決まった。

 表向きの罪状は、オラリオへの外患誘致未遂と、違法な物品の取引。そして、眷族の『魂』を破壊するという、冒涜的な行為。全て実際にイシュタルが犯した罪であり、事情を知らぬ神々は、惜しみつつも送還に異を唱えることはなかった。

 

「これから、『歓楽街』は利権と縄張りの奪い合いでギスギスするやろうなー」

 

 バベルの三十階にある広間で、オラリオの郊外から立ちのぼる巨大な光の柱を他の神々と一緒に眺めながら、ロキ神が言う。

 すると、その隣で同じように光の柱、(すなわ)ち天に昇るイシュタル神の様子を見ていたヘスティア神が、ロキ神に尋ねる。

 

「ロキは、『歓楽街』の運営に興味はないのかい? イシュタル相手に『抗争』で勝利したのは、ロキのところって扱いだろう?」

 

「あー、利権は美味そうなんやけど、うちのとこは商業系派閥やないからな。ゴリッゴリの探索(ダンジョン)系派閥やから、『歓楽街』の運営なんて無理やな」

 

「そんなものかい」

 

 そんな二人のやり取りを他の神々は興味深げに見ていた。

 

 先日、【ロキ・ファミリア】は、【ヘスティア・ファミリア】を傘下に収めるとギルド経由で正式に発表した。

 オラリオでは現在は存在していない、下部組織としての派閥の在り方。犬猿の仲であった二人の主神の関係が、そのような決着をみせたことに多くの神々は驚きを隠せなかった。そして、そこから導き出せる一つの事実に肩を落とすことになった。

 

 それは、『戦争遊戯(ウォーゲーム)』で前代未聞の活躍を見せたルーキー、ベル・クラネルが、オラリオ最大派閥の一つに守られるということ。【ヘスティア・ファミリア】に娯楽目的でちょっかいをかけたがっていた一部の神は、歯がみする結果となった。

 

 そうして、イシュタル神は天に還り、【イシュタル・ファミリア】は正式に解散した。

 イシュタル神の『神の恩恵(ファルナ)』を失う形となった【イシュタル・ファミリア】の構成員たちは、次の所属先を探すため、オラリオの方々へと散っていく。

 

 そこから始まるのは、各派閥による戦闘娼婦(バーベラ)を始めとした主戦力の獲得合戦であった。

 

【イシュタル・ファミリア】副団長の青年タンムズは『Lv.4』。イシュタル神のお気に入りであった彼は容姿にも優れており、特に神々からの人気が高かった。しかし、彼はイシュタル神の悪事に多く荷担しており、捕らえられてギルドからの罰則を受けることになった。そのため、勧誘を狙っていた神々の前に、彼が姿を現すことはなかった。

 

 一方、団長のフリュネは『Lv.5』だというのに、神々からの人気が全くなかった。

 彼女の人外じみた容姿が原因ではなく、性格面が問題視された。彼女はイシュタル神ですら持てあましていたワガママな人物で、さらにその圧倒的な膂力(りょりょく)を用いて男漁りをして、相手を再起不能にしてしまう悪癖があった。

 よって、フリュネにアプローチをかける神は、ついぞ表社会では現れなかった。

 

 そして、【イシュタル・ファミリア】を裏切って派閥崩壊の原因を作ったアイシャ。

 彼女は、春姫と他、何名かの戦闘娼婦と共に【ロキ・ファミリア】へと所属した。

 

【ロキ・ファミリア】の本拠、『黄昏の館』。

 そのロキの私室にて、アイシャはベッドで横になり、背中を晒してロキ神の『神血(イコル)』を受け入れた。

 

「よし、これでアイシャはうちらの家族や。でも、ええんか? その『Lv.』やと、自分、しばらくは平団員扱いやで?」

 

 アイシャの背に刻まれた『Lv.3』の文字。『Lv.4』へのランクアップも可能だとロキ神は見抜いたが、とりあえずこの場では『Lv.3』のままに留めた。

 しかし、仮に『Lv.4』となったとしても、団員の層が厚い【ロキ・ファミリア】では幹部や幹部候補扱いとはならない。

 そんな事実に、アイシャはベッドから身を起こしながら笑って言った。

 

「それでいいさ。しばらく責任のある立場は、勘弁願いたいんでね。もし平団員になれるなら、打算なく助けるといってくれた【ヘスティア・ファミリア】のところに行くのも悪くなかったんだが……」

 

「ドチビのとこの団員は二人とも『Lv.1』の駆け出しやからな。冒険者として経験豊富な自分が行けば、十中八九、団長を押し付けられるやろうな」

 

「幹部の立場でさえ、面倒事が多かったんだ。団長なんて御免だよ」

 

「となると、ドチビの眷族はしばらく二人のままかぁ……なんとも頼りない傘下派閥やなぁ」

 

「何を言っているんだい。あんたらの……うちらの団長のお気に入りの小人族(パルゥム)に、今回の『抗争』で大活躍した兎剣士の二人がいる派閥だろう? それを傘下にしたなんて、贅沢な話じゃないか」

 

「ま、そうやな。ベルきゅんがいなかったら、『闇派閥』の幹部は倒せていたかも分からんし、春姫も『闇派閥』に奪われていたっちゅう話やしなー」

 

「手土産にオリハルコンの扉を持ってくるとか、傘下としては合格点どころじゃないよ」

 

「あれにはビックリしたわぁ……」

 

 そう、『抗争』が終わって【ロキ・ファミリア】がドタバタしているときのこと。ベルは、【ロキ・ファミリア】が急遽(きゅうきょ)編成した人造迷宮への偵察部隊を案内するために、再び『ダイダロス通り』に行き、そこで自身が破壊した『オリハルコンの扉』を回収してきた。

 そして、『Lv.1』で構成された自分たちの派閥で使う武具の素材としては、あまりにも高級すぎるとして、ロキ神にその扉を献上したのだ。

 

 自派閥の活動資金としなくていいのかとフィンが問うと、ベルはこう答えた。

 

「ヘルメス様から、『美神の魅了』対策ができたお礼として大金を受け取れるはずなので、資金は十分です。むしろ、これ以上稼ぎすぎると、本拠(ホーム)に金庫を増やす必要が出てきちゃいますね」

 

 そうして、ロキ神は稀少なオリハルコンの塊を確保することができた。前回のダンジョン『深層』への遠征で収支が赤字になった【ロキ・ファミリア】にとっては、貴重な資金源だ。

 

 ちなみに、【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)に押入った【ロキ・ファミリア】だが、一つの道具(アイテム)を除いて現地にあった資財には手を付けていない。イシュタル神は多くの隠し財産を本拠に持っていたが、その全ては、解散することとなった【イシュタル・ファミリア】の構成員に分配された。

 そのため、突然敗北する形となった【イシュタル・ファミリア】のメイン層、『歓楽街』の従業員たちから強い苦情は上がらなかった。

 

 そういった心配りの結果、今回、『抗争』を巻き起こした【ロキ・ファミリア】は、ギルドから一切のペナルティを受けなかった。

 ギルドの幹部からは、散々嫌味を言われたと団長のフィンが愚痴を漏らしていたが、実害はないのでロキ神は笑って流していた。

 

「ま、自分には早速、頑張ってもらうことになるで」

 

 ベッドから立ち上がって胸に衣服代わりの布を巻いていたアイシャに対し、ロキ神は彼女の豊満な肢体を眺めながら、そんなことを言った。

 すると、アイシャは目を鋭くして、ロキ神に尋ねる。

 

「『闇派閥の残党』との戦いか?」

 

「そうや。ヤツらの根城、人造迷宮『クノッソス』。そこの『鍵』を今回の一件で、うちらは五つ確保した」

 

 そう、ロキ神が【イシュタル・ファミリア】へ『抗争』を仕掛けた本当の理由。

 それは、アイシャの求めに応じて、春姫を助け出し自派閥に確保するためではなかった。

 本命は、イシュタル神が隠し持っている可能性が高かった、人造迷宮の『鍵』を確保すること。

 

【ヘルメス・ファミリア】の執拗(しつよう)な捜索の結果、【イシュタル・ファミリア】の本拠で隠し部屋が見つかり、無事に『鍵』が発見された。

 そして、ベートが持ち帰った『闇派閥の残党』幹部ヴァレッタの遺体のコートに、『鍵』がもう一つ隠されていた。

 

 さらに、そのヴァレッタの『鍵』を確保した直後、ハイエルフの副団長リヴェリアがエルフ部隊を率いて、ベルが破壊した扉の入口から人造迷宮内へと威力偵察に入った。そこで、ベルたちが殺害した『闇派閥の残党』の遺体から『鍵』を二つ、さらに人造迷宮内部で襲ってきた『闇派閥の残党』から追加で一つ回収した。

 

 この合計五つの『鍵』をもって人造迷宮を丸裸にし、内部に巣くう者たちを完全撃破する。ロキ神は、そんな決意を固めていた。

 




以上で第二章『歓楽街』編は終了です。次章、『王国出兵』編を兼ねた『人造迷宮』編に続きます。
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