ダンまちTACTICS   作:Leni

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第三章『人造迷宮』編:黄昏を告げる鐘
26.道化神の企み


「というわけで、オラリオに攻めてきとる王国(ラキア)への対応は、【ヘスティア・ファミリア】メインで任せるで。うちからは、主要メンバーは出せん」

 

 独特の訛りがある言葉で、ロキ神が言う。

 ここは、【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)、『黄昏の館』。その中にある小会議室で、三柱の神が会合を行なっていた。

 集まった神は、ロキ神、ヘスティア神、そしてヘルメス神だ。

 

「うーん、大丈夫かな……?」

 

「問題ないやろ。メイン火力はベルきゅんがおるし、うちのとこから出すメンバーの指揮はフィンの正式な弟子になったリリたんが行なえばええ」

 

 ヘスティア神が心配そうに言うと、ロキ神が軽い調子でそう答えた。

 

 現在、この二柱はオラリオが巻き込まれようとしている戦争の対応策を話し合っていた。オラリオが存在する大陸にある軍事大国、ラキア王国。軍神アレスという神が支配する国家系派閥(ファミリア)でもあり、昔からオラリオを敵視して何度も戦争を仕掛けてきていた。

 

 その戦争が、再び起きようとしており、【ロキ・ファミリア】はオラリオの管理機関(ギルド)からの要請で戦力の供出をすることになっていた。

 だが、現在、【ロキ・ファミリア】は別の用事で忙しい。よって、戦争の対応のメインを傘下の派閥の【ヘスティア・ファミリア】に任せることとしたのだ。

 

「はー……。まあ、オラリオに攻めてきているなら、ボクらの派閥も他人事ではないから、リリ君やベル君の参戦拒否はできないだろうけどさ。ロキはなんで戦力を出し渋るんだい?」

 

 ヘスティア神が、観念したようにため息を吐き、参戦を承認する。だがしかし、【ロキ・ファミリア】の消極的な姿勢が解せないのか、ヘスティア神はそんな問いをロキ神に投げかけていた。

 

「それや。それが今日の話し合いの主題や。王国のことなんて、おまけやおまけ」

 

「うわー、それって、もしかしてロキたちが巻き込まれているっていう、厄介事のことかい?」

 

「おう。今日から、ドチビも盛大に巻き込まれてもらうで。いや、ベルきゅんが『闇派閥(イヴィルス)』の幹部をぶち殺したから、とっくの前に巻き込まれておるな!」

 

「うへえ……」

 

 そんなロキ神とヘスティア神のやりとりを小会議室の席に着いているヘルメス神が、ニコニコとした笑顔で見守っている。

 そして、漫才じみたやりとりを繰り返しながら、ロキ神はヘスティア神に、現在の【ロキ・ファミリア】とオラリオを取り巻く、特大級の厄介事を説明し始めた。

 

「第一の勢力、『穢れた精霊』や」

 

 精霊。それは、神々が地上に降臨するよりも以前、神が己の代理者として地上で活動させていた存在だ。

 そんな精霊が、ダンジョンの『深層』、奥深くにいる。それも、ただの精霊ではなく、人類に対して敵対的な姿勢を見せる『穢れた精霊』。本来の人類を助けるための在り方とは異なる、堕ちた存在だ。

 

 その『穢れた精霊』は、通常のダンジョンに居るモンスターのものとは違う、極彩色の魔石を持つ独自のモンスターを手下として操っている。さらには、その極彩色の魔石は人間に取り付けることで、モンスターの力を持つ人、『怪人(クリーチャー)』を造り出すことができる。その『怪人』もまた、『穢れた精霊』の手下として動いている。

 

 さらに、『穢れた精霊』は己の分身として、『宝玉の胎児』を産み出している。

 その『宝玉の胎児』をモンスターに寄生させることで、モンスターの特性を持った精霊が誕生する。強力な魔法を使う厄介な存在であり、これを討伐するには【ロキ・ファミリア】も総力を挙げて対応する必要があった。

 

「そんな『穢れた精霊』と協力している勢力が、『闇派閥(イヴィルス)の残党』やな」

 

 かつて、オラリオを恐怖のどん底に陥れた『闇派閥』、その生き残りたち。

 彼らは、オラリオの地下にあるダンジョンを囲むように建造された『人造迷宮(クノッソス)』を根城としている。以前、『人造迷宮』へと攻め入った【ロキ・ファミリア】は、手痛い反撃を食らい、七名の団員を失う結果となった。

 

 しかし、先日の【イシュタル・ファミリア】との『抗争』にて、『人造迷宮』内の機構を動かす『鍵』を【ロキ・ファミリア】は手に入れた。

 そのため、ロキ神は『人造迷宮』を攻略すべく、いくつかの良識のある武闘派派閥(ファミリア)と連携を取ろうとしていた。王国との戦争に主要メンバーを出せないのも、これが理由である。

 

「そして最後に、謎の勢力っちゅーか、神らしき存在がおる。どうやら、『エニュオ』と名乗っておるようやな」

 

「『都市の破壊者(エニュオ)』、ねえ……」

 

 ロキ神が口にした『エニュオ』という単語。それは、神々の言葉で『都市の破壊者』を意味していた。

 ここでいう都市とは、十中八九、オラリオのこと。ロキ神はそう言った。

 そして、オラリオの破壊とは、すなわちダンジョンの(ふた)であるバベルの崩壊を意味する。

 なんとも物騒な話だと、ヘスティア神はその場で頭を抱えたい気分になった。

 

 オラリオにいる以上、無視することはできない話だ。聞いてしまったからには、協力を拒むことはヘスティア神にはできない。彼女は、ダンジョンからモンスターが無限にあふれ出てくる大惨事を許容できるほど、(じん)格面は終わってはいなかった。

 

「そういうわけで、厄介な存在が徒党を組んでおるわけやな。で、ドチビが合流するまで、うちと、ヘルメスと、もう一柱の三名でなんとか対応していたわけや」

 

「……いくら【ロキ・ファミリア】が大きな派閥だからって、オラリオの危機に対応するには勢力が少なくないかい?」

 

 ロキ神の言葉に、ヘスティア神が疑問をぶつけた。

 すると、ロキ神は「そうやな」と素直に認め、そして言った。

 

「だから、次の作戦になる、『人造迷宮(クノッソス)』攻略では、他の派閥も巻き込む。ドチビのところもそうで、ガネーシャんとこも交渉中や」

 

「ああ、ガネーシャなら、オラリオの危機と聞けば飛びつくだろうね」

 

 ヘスティア神は、オラリオの治安維持を一手に引き受けている巨大派閥、【ガネーシャ・ファミリア】の主神を思い出しながらそう言った。

 そして、話題は『人造迷宮』の攻略へと移っていく。

 

 詳細は、現在【ロキ・ファミリア】の団長フィンが詰めている最中だという。

 だが、少なくとも王国との戦争が続くうちは、完全攻略が難しいだろうとロキ神は見解を示した。

 ゆえに、戦争の間は、『人造迷宮』のマッピングを主にやることになるだろう、とも続けた。

 

 すると、話をずっと黙って聞いていたヘルメス神が、ようやくその口を開く。

 

「もし、『人造迷宮』で檻や枷に囚われているモンスターを見つけて、襲いかかってこないようなら、討伐せずにうちの【ファミリア】か【ガネーシャ・ファミリア】の人員に渡してほしい」

 

 唐突な言葉に、ロキ神はいぶかしげな顔となり、ヘルメス神に問うた。

 

「なんや? なんかあるんか?」

 

「『闇派閥』の資金源の一つだよ。ロキたちは、ずっと俺とウラノスに何か隠し事があるんじゃないかと疑っていたけど、それが隠し事の正体だ」

 

 ウラノスとは、ギルドを支配する主神の名だ。普段は、ギルド本部の奥に引きこもり、ダンジョンに対して『祈祷』をすることで、モンスターの氾濫を抑えているとされている。

 そのウラノス神をロキ神が疑っていたと聞いて、ヘスティア神は驚き顔になる。

 そんなヘスティア神の反応を面白げに見ながら、ヘルメス神は言葉を続けた。

 

「簡単に言うと、人を襲わないモンスターさ。それを『闇派閥』のヤツらは、オラリオの外の好事家に売りさばいて『人造迷宮』の建造費としていた」

 

 その言葉に、ロキ神はピンと来たのか、ヘルメス神に確認するように言った。

 

「テイムされたモンスターっちゅうことか」

 

 テイムとは、モンスターを倒すギリギリまで痛めつけ、屈服させることで言うことを聞かせる技術である。この分野は、【ガネーシャ・ファミリア】が長じていた。

 だが、ロキ神の言葉をヘルメス神は否定する。

 

「それもまた違う。でも、詳しい話は、今はまだできない」

 

「この後に及んで隠し事とか、アホか! このスカタン!」

 

 まさかのヘルメス神の姿勢に、ロキ神が即座に罵倒を返した。

 しかし、ヘルメス神は一切動じずに、ロキ神に向けて言う。

 

「作戦が終了した後ならいくらでも話すさ。でも、作戦前はダメだ。なぜなら……真実を知った【ファミリア】の眷族(こども)たちが、『人造迷宮』に巣くう極彩色のモンスターの討伐を躊躇(ちゅうちょ)しかねないからね」

 

「それは……」

 

「おっと、予想が付いても、その予想を眷族(こども)たちに話さない方がいいぜ? 攻略作戦を成功させたいならね」

 

 ヘルメス神のそんな飄々(ひょうひょう)とした態度の言葉に対し、ロキ神は何かを考え込む姿勢を見せた。

 そして、そんなロキ神に、ヘルメス神がさらに言う。

 

「そういうわけで、俺のことを警戒するのは、今回の作戦でだけは止してくれ。あらためて正直に告白すると、その囚われたモンスターが、俺とウラノスの本命で、隠し事だ」

 

「……まあ、今は追及せんでおいてやるわ」

 

 そんなやりとりを終え、ヘルメス神は再び黙り始めた。

 それから、ロキ神はヘスティア神に、『人造迷宮』の判明している仕組みを話していく。

 あらためて後日、フィンからリリルカとベルに説明があるとも言ったが、主神が無知なままではいけないと、ロキ神はヘスティア神に知識を叩き込んでいった。

 

 そして、一通りの話が終わったところで、ヘスティア神はずっと疑問に思っていたことをロキ神に問いかけた。

 

「ところで、協力関係にある神は、ボクを抜いて三柱と聞いたけど……そのもう一柱は、なんでこの場にはいないんだい?」

 

 そのヘスティア神の問いに、ロキ神はニヤリと笑って言った。

 

「ああ、その神は、ディオニュソスなんやけど……」

 

「ええっ、ディオニュソスだって? 彼がこの作戦に手を貸しているのかい?」

 

 ヘスティア神のその反応に、黙っていたヘルメス神がボソリとつぶやくように言う。

 

「やっぱり、そういう反応になるよねぇ」

 

 そのつぶやきを耳ざとく聞いていたロキ神。彼女は、それを踏まえてヘスティア神とヘルメス神の二柱に向けて、告げた。

 

「……今回、ヤツを呼んでいないのは、天界でのヤツがどんな神物(じんぶつ)だったか聞くためや。特にドチビは、今のディオニュソスを知らんようやから、先入観なしで正直な意見を言えるやろ」

 

「うん……?」

 

 不思議そうな顔で、ヘスティア神が首をかしげる。

 そんな彼女に、ロキ神は薄い笑みを浮かべたまま言葉を続けた。

 

「どうも、他の神に聞いた天界でのヤツの性格と、今のヤツの性格が一致しないんや。怪しいなんてもんやない」

 

「性格の不一致に関しては、天界で『神々の殺し合い(ラグナロク)』を起こそうとしていたロキだってそうなんじゃあ……?」

 

「まあ、それはそうなんやけど、性格が変わるにも限度ちゅうもんがある」

 

 ヘスティア神は、そうかなぁ、などと思いつつも、『ロキ神に対し悪口を言わない』という契約に従って口を閉じた。

 そんな彼女に向けて、ロキ神は問う。

 

「だから、聞くで。天界でのディオニュソスは、どんな神やった? 自分、ヤツと同郷やろ」

 

「そうだね。天神峰(オリンポス)のご近所さんだったよ。ディオニュソスかぁ……まあ、すごい子だったねえ……」

 

 つぶやくように言ったそんな言葉から、ヘスティア神は天界における問題児、ディオニュソス神について語り始めた。

 

 曰く、何もかも傷付けそうなほど、ひどく尖っていた。今にも『私の右手に眠る邪気が貴様等を破滅の彼方へと消し飛ばすぞぉー!』とか言い出しそうであったとか。

 

 曰く、ロキ神に似た『病気』を患っていた。何が気にくわなかったのか、それとも暇だったのか、『神々の殺し合い』を画策していたという。

 

 曰く、癇癪持ち。手当たり次第に当たり散らす凶暴な性格で、天神峰(オリンポス)の代表者である十二神を決める際に選外となりかけたことで、大荒れしたという。

 

 そんなヘスティア神の語りに、ロキ神は思考を深めていく。

 彼女の語りと、地上におけるディオニュソス神の言動と性格が一致しない。ロキ神が知る地上の彼は、紳士的で、冷静で、オラリオの市民に愛された善神である。

 自分と同じように、地上に来て丸くなったのか。そうも考えるが、次のヘスティア神の言葉で、ロキ神はその考えを完全に否定することとなる。

 

「そうだね。一言で言うと、彼は……『怖い』神だった」

 

 ロキ神は、天界でのヘスティア神を思い出す。

 これでもヘスティア神は、天界では相当格の高い存在であった。そして、その在り方は良い意味でも、悪い意味でも平等(フラット)だ。誰も差別しないし、区別しない。犬猿の仲と思われていたロキ神を相手にしても、ロキ神が突っかかってこなくなった途端、こうして平然と仲良く会話ができている。

 

 そんな彼女が、『怖い』と称する。その事実に、ロキ神は『都市の破壊者(エニュオ)』の正体を確信した。

 それを口に出さずに、ロキ神はヘスティア神だけでなく、ヘルメス神にも天界でのディオニュソスの全てを語らせていく。

 

 一通り語らせた後、次に、ロキ神は、ヘルメス神と一緒に、地上でのディオニュソス神の特徴や言動をひたすらに挙げていく。

 その語られる特徴の数々に、ヘスティア神は目を白黒させた。

 だが、ある一項目で、ヘスティア神は天界から変わらぬ彼の一つの特徴を見つけ、ホッと息を吐いた。

 

「ああ、相変わらず、ディオニュソスは、お酒好きなんだね」

 

「ん? ああ、ヤツは酒に関する権能も持っていたんやったか?」

 

「特に、葡萄酒だね。天界の方々から葡萄酒や、原料の葡萄を集めていたよ」

 

 その言葉を聞き、ロキ神は新たに一つ、確信を持った。

 そして、いつもは細めている目を薄らと開き、ヘスティア神を見つめて、言う。

 

「……ドチビ、確か自分、ソーマと縁があったな?」

 

 ソーマ神。【ヘスティア・ファミリア】の団長リリルカが以前所属していた派閥の主神だ。

 地上に降りてきた彼は、神の権能を用いぬ『神酒』の醸造に心血を捧げてきた、根っからの酒造りマニアである。

 

「うん? そうだね。リリ君を助け出したときに顔を合わせたし、探索系派閥から商業系派閥に変わるための手伝いもしてあげたよ」

 

「うちがこっそり、ソーマと面会することは可能か?」

 

「こっそり? 別に、ロキなら堂々と会えると思うけど……」

 

「いや、こっそりや。ディオニュソスに見つからんよう、こっそり」

 

 ロキ神の思惑がつかめずに、ヘスティア神はただ困惑を返す。

 すると、横からヘルメス神がロキ神に笑顔を向けて、言った。

 

「俺が手配しよう。会おうか、ソーマに」

 

 そんなヘルメス神の怪しい笑みを見て、ヘスティア神は困り顔で問う。

 

二柱(ふたり)でいったい、何を企んでいるんだい……?」

 

 すると、その問いに答えたのは、同じく怪しい笑みを浮かべるロキ神であった。

 

「なあに、単なる探偵ごっこや。キーアイテムは、『神酒』やな」

 

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