ダンまちTACTICS   作:Leni

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27.戦いを前にして

『黄昏の館』の小会議室にて、三柱の神が会合を行なっている最中のこと。

 同じ『黄昏の館』、普段から団員たちの訓練所として使われている中庭にて、二人の剣士が木剣を交わしていた。

 ベル・クラネルと、アイズ・ヴァレンシュタインだ。ヘスティア神に同行してきたベルが、アイズに懇願(こんがん)されて数日ぶりの模擬戦を行なっているのだ。

 

 前回の模擬戦とは違い、周囲には【ロキ・ファミリア】の一般団員たちがおり、観戦をしている。

 先日、ベルはベートとアイズの幹部二人と共に、『闇派閥(イヴィルス)の残党』を討ち取った。その戦いの結果、ベルは【ロキ・ファミリア】の多くの者たちから注目を浴びていた。この模擬戦で、彼がどれだけの力を持つか、団員たちは見極めようとしていた。

 

 そんなベルの戦いぶりは、堅実そのもの。派手な動きはなく、それでいてアイズの動きを見事に誘導して、鉄で補強された木製の盾でもって防御を成功させていた。

 さらに、最小限の動きでアイズに有効打を入れていく。戦況は、誰が見てもベルの優勢であった。

 

 オラリオで最強の剣士と呼ばれているアイズ相手に、優位に立ち回る駆け出し冒険者。

 その事実を前にして、驚かぬ団員はほとんどおらず……一部の者はベルに憧れの目を向け、一部の者はベルの活躍に歯がみした。

 

 そして、戦いは続き、最終的にベルがアイズの手を狙い打って、アイズが木剣を取り落としたことで決着は付いた。

 

「ここまで、ですね」

 

 そう言って、構えを解くベル。

 

 一方、アイズは、治療役として控えていた団員のレフィーヤに怪我がないかの確認を取られながら、ムスッとした表情となった。

 彼女は、負けず嫌いであった。

 魔法を使えれば負けないのにと内心で思うが、しかし、それを口に出すことはなかった。

 

 アイズが魔法を使って戦うには、愛剣を使用する必要がある。

 さすがに最高幹部であるフィンやリヴェリア、ガレスといった面々がこの場にいない状況で、真剣を持ちだしての戦いを始めない理性は、アイズにもちゃんとあった。

 

 ゆえにアイズは、ベルに向かって言った。

 

「ベルさん。もう一戦」

 

「ええ、やりましょう。アイズさんとの戦いは、いくらでも歓迎します」

 

 そうして、団員たちが見守る中、再度の模擬戦が始まった。

 しかし、その戦いは、先ほどよりもベルの優位で進み……アイズは最終的に首筋に木剣を添えられて敗北した。

 

 完敗である。しかし、なぜ一戦目よりも簡単に負けてしまったのか。

 納得がいかないアイズだが、ここでムキになっては得るものがないと気付き、素直に彼女はベルへとなぜ今回の戦いがこのような結果で終わったのかを尋ねてみることにした。

 それに対する、ベルの反応はというと……。

 

「先日の模擬戦を含めて三度戦って、アイズさんの剣の癖というか、流派の傾向みたいなのがハッキリと分かったからですね。アイズさんって、実は同格以上の人とする対人戦に、そこまで慣れていないでしょう?」

 

 そのベルの言葉は、アイズにとって青天の霹靂のごとき衝撃であった。

 もしかして、私、対人戦の経験って少ない? そんな思いが彼女の脳内を駆け巡る。オラリオ最強の剣士などと皆から言われて、心の中で構築されつつあったプライドが、木っ端微塵に砕けた瞬間だった。

 

「アイズさんの剣は、人よりも大型のモンスターと戦うことを想定した動きに見えました。一方、僕は国もとで戦争に明け暮れていましたので、モンスターよりも対人戦闘の方が得意です」

 

 ベルのそんな言葉に、周囲に居た団員たちから感心するような声が漏れる。

 この可愛らしい見た目の少年が、実は戦争で揉まれた生粋の戦士だとは、想像もしていなかったという声でもあった。

 

「でも、アイズさんが想定している敵がモンスターなら、現状の剣術を高めていく方向でも悪くないんじゃないでしょうか。何せ、僕たちは軍人でも傭兵でもなく、冒険者なのですから」

 

 フォローするかのようなベルの言葉に、アイズは少し考え込み、そして答えた。

 

「私の本来の敵は、モンスターで間違いないけど……今は、対人戦に、慣れなきゃいけない」

 

「『闇派閥』との戦闘が控えているからですか?」

 

「ううん、そっちは、今のところ、問題ない。私の敵は……『怪人(クリーチャー)』」

 

「『怪人』……?」

 

 始めて耳にするワードに、ベルは不思議そうな顔を浮かべる。【ロキ・ファミリア】の敵は『闇派閥の残党』だとばかり思っていたベルは、想定外の敵の存在に疑問を隠せないでいた。

 そんなベルに、アイズは言う。

 

「敵は『闇派閥』だけじゃない」

 

「……詳しく、お願いします」

 

 そうしてベルとアイズ、及び野次馬となっていた団員たちは、中庭から大食堂まで移動することになった。

 そこでベルは、オラリオに迫る危機と、それをなそうとする敵を知ることになる。すなわち、『穢れた精霊』、『闇派閥の残党』、『都市の破壊者(エニュオ)』。この三勢力が、【ロキ・ファミリア】、ひいては【ヘスティア・ファミリア】の敵となることをベルは理解した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

『黄昏の館』内にある大食堂。そこで、口下手なアイズが、他の団員たちの補足を受けながらオラリオの危機についてベルへと話した。

 そして、アイズは言う。

 

「『怪人(クリーチャー)』の目的は、私の確保みたい。だから、人造迷宮に攻めたら、『怪人』は私を狙ってくる」

 

 そんな説明にベルはしばし考え込み、冷たい茶で口もとを湿らせてから、口をゆっくりと開いた。

 

「実は僕、国もとで、人でもモンスターでもない、悪魔と呼ばれる不思議な存在と戦ったことがあるのですが……」

 

「悪、魔……?」

 

 まさかのワードに、アイズは目を瞬かせた。

 

「まあ、詳細は今度、時間のあるときにでも話しますが、とにかく、人でもモンスターでもない存在との対戦経験が僕にはあります。『怪人』とはまた違うでしょうが」

 

 そんなベルの言葉を聞き、とりあえずアイズはベルの言葉を信じることにした。そして、彼の言葉の先を促す。

 

「一つ言えることは、『人型の化け物』は、純粋な対人戦とは違う戦い方が必要です。人と違う動きをしたり、そもそも身体の作りからして人と違ったり……人では不可能な行動をヤツらは取ってきます」

 

 ベルは、アイズに語る。

 人に似た人外の化け物。モンスターの力を持つ人。人の知能を持つモンスター。それらは、対人の剣術を突き詰めるだけでは、勝機がつかめない敵なのだと。

 そして、アイズが対することになるであろう『怪人』も、その類ではないのかと。

 

 ベルの話を黙って聞いていたアイズは、ベルの言葉が途切れたタイミングで、彼に尋ねる。

 

「どうすれば勝てる?」

 

「僕の場合は、自分の得意を押し付けます。人のようで人でないなら、人と似通った部分を攻めますね」

 

「得意……」

 

「アイズさんの剣技は、先ほども言ったとおり、人と戦う形をしていない。もっと大きな敵を想定しているように見えます」

 

 ベルの言葉に、アイズは素直にうなずく。

 今回の戦いとは関係のない、アイズの最終的な目標。それは、『隻眼の黒竜』の討伐だ。

 そんな自分の剣が、人と戦う形をしていないと言われたならば、きっとその通りなのだろう。アイズは、そう納得した。

 

「今のアイズさんは、強大な力を持つ人と戦うには、いろいろ不足しているかもしれません。ですが……相手は『怪人』。知能を持つモンスターに近いならば、いくらでもやりようはあるはずです」

 

 ベルのその言葉を聞いて、アイズは『怪人』との戦いに勝機を見出し始めた。

 目に光が宿り、闘志が燃え上がってくる。

 そんなアイズに、ベルはさらに言う。

 

「その『怪人』の特徴を教えてください。一緒に、対策を練りましょう」

 

 そして、そこからは大食堂にいた一般団員も含めた、『怪人』の徹底解剖ともいえる大検討会が始まった。

 そんな彼らの様子をいつの間にか大食堂へとやってきていた最高幹部のリヴェリアとガレスが、優しい目で見守っていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 アイズが大食堂でベルと共に検討会を行なっている最中のこと。

『黄昏の館』の執務室で、団長のフィンが頭を悩ませていた。

 先ほどまで、フィンは【ロキ・ファミリア】の最高幹部のリヴェリアとガレス、そして【ヘスティア・ファミリア】の団長リリルカと共に、一つの作戦を練っていた。

 

 それは、『人造迷宮(クノッソス)』の攻略作戦。

 派閥の首脳陣の話し合いで、フィンの編み出した作戦案が没となり、一旦頭を冷やすという名目で、一時解散したばかりである。

 

 リヴェリアとガレスは食堂に飲み物を取りに行くと言い退室し、リリルカは突然やってきたティオネにさらわれていった。

 そうして一人、執務机の席に座るフィンは、作戦案をさらに練ることを止め、物思いにふけっていた。

 

 フィンが最初に思い付いた作戦案。それは、一部の団員を『使い捨て』とすることで、最終的な損害を押さえるという非情な案であった。

 しかし、それを皆に披露したところで、彼はリリルカが浮かべた苦い表情を見て即座に案を撤回した。

 

 仲間に犠牲を強いる戦い。効率は良いが、若いリリルカにとっては嫌悪の対象であったようだ。

 と、考えたところで、フィンは自身の考えを否定する。

 若い、若くない、という話ではない。自身の案は、『小人族(パルゥム)の【勇者】が掲げるには相応しくない』のだ。

 

 フィンは、ふと数日前のロキ神の姿を思い出す。

 それは、【イシュタル・ファミリア】の幹部であったアイシャが、『殺生石』について語ったときのこと。

 春姫の『魂』を破壊する行為に、ロキ神は明確な怒りを見せていた。

 

 己の眷族の『魂』を使い捨てにしようとした、イシュタル神。

 それは、今回の作戦のため、仲間に犠牲を強いる方策を思い付いてしまった今の自分と、何が違うのか。

 フィンは、自身がいつの間にか、『英雄』や『勇者』とは程遠い存在になりかけていることを自覚してしまった。

 

「野望が、僕の目をいつの間にか曇らせたのか……」

 

 フィンが持つ野望。それは、小人族(パルゥム)の再興。

 小人族の間で神格化されるまでに至った、過去の英雄たち、『フィアナ騎士団』の栄光を再びというものであった。

 

 だが、その伝説に語られる『フィアナ騎士団』は、今のフィンのような存在であっただろうか。

 否である。

 

 フィンは思う。

 たとえ自身の内面が『英雄』に相応しくないとしても、善人の仮面を被って人々が望む『英雄』の姿を取り繕うことは可能だろう。

 だが、そんな『偽りの英雄』を見て、本当に同族たちは『勇気』を奮い立たせることができるのか。

 

 フィンは思い出す。

 ミノタウロスと戦わせると告げたときに見た、覚悟を決めたリリルカの顔。

『Lv.1』がミノタウロスに単身で戦う。馬鹿げた話だ。だが、それに挑むのはけっして蛮勇ではない。『本当の冒険者』として、『英雄の候補者』として持ってしかるべき『勇気』である。

 

 フィンは自身に問う。

 その『勇気』は、今の自分にあるか。

 馬鹿げた戦いに挑み、『勇気』を示すことはできるのか。

 否だ。彼は仲間に犠牲を強いることを考えていた。

 

 ゆえに、フィンは決めた。

『勇気』を再び、この胸に灯す。不可能を可能にしろ。

 

「……やれやれ、最近は、若者に感化されてばかりだな」

 

 そんなぼやきを一人、口にしたフィンは、再度、執務机に広げた資料に目を通し、新しい攻略作戦を練り始めた。

 この時、フィンは、確かに一歩、心の『成長』を遂げていた。

 

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