ダンまちTACTICS   作:Leni

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28.王国との戦争

 東からやってきた軍団が、オラリオ近郊に布陣した。

 迷宮都市オラリオと、ラキア王国の戦争が、いよいよ始まる。

 

 しかし、『人造迷宮(クノッソス)』攻略を前にして、【ロキ・ファミリア】の主要戦力はオラリオ内から動けない。

 一方、王国との戦争と『人造迷宮』の両方を対応しなければならなくなったオラリオの管理機関(ギルド)。彼らは、王国との戦争で人の采配に優れた団長である、フィンの不在を問題視した。

 

 ギルドに散々渋られたフィンだが、彼は名代(みょうだい)として、一人の弟子を派遣した。

 それは、意外なことに【ロキ・ファミリア】の幹部ではなかった。

 彼の弟子は、傘下の派閥である【ヘスティア・ファミリア】の団長、リリルカ・アーデであった。

 

 リリルカは『Lv.1』だ。当然のことながら、ギルドはそれを不安視する。

 しかし、リリルカが率いた【ロキ・ファミリア】の団員たちは、彼女の言葉にしっかりと従っていた。そして、オラリオ郊外に辿り着くとすぐに、見事な動きで陣地を構築してみせた。

 

 本人の強さと、指揮能力に因果関係はない。

 その事実を見せつけられたギルドは、素直に【ロキ・ファミリア】の方針を受け入れた。そもそも、ギルド側としても、フィンに『人造迷宮』攻略で手を抜いてもらうわけにはいかないのだ。

 

 そうして、王国と迷宮都市の二大勢力が、オラリオから東に進んだ広野(ひろの)で対峙する。

 

 ラキア王国は、『軍神』アレスが率いる国家系派閥(ファミリア)である。

 万を超える兵士はいずれも『神の恩恵(ファルナ)』を背に刻まれている。ほとんどが『Lv.1』で【ステイタス】もほぼ更新されていないが、それでも通常の国家にとっては悪夢のごとき戦力であった。

 

 しかし、オラリオを相手にする場合は事情が違う。

 戦力として出てくる冒険者は、全員が『神の恩恵』持ちで、しかも半数が『Lv.2』以上だ。

 この(しん)時代、人の力は『量より質』と言われて久しい。

 

 それを体現するように……開戦から数時間経過した戦場の一角、【ロキ・ファミリア】が担当する前線では、一人の戦士が大暴れしていた。

 

「ハアッ!」

 

 その戦士は、武器を持っていなかった。

 手には手甲を嵌めてはいるが、剣も槍も持たず、拳で王国の兵たちを薙ぎ倒していた。

 しかも、その戦士は鎧を着ていない。モンスター素材でできた身軽な戦闘衣(バトルクロス)のみを身に纏い、舞うように戦場を駆けていた。

 

「うわあああ!」

 

「ぼ、撲殺兎だあああ!」

 

「逃げろ、逃げろおおお!」

 

 手甲一つで目の前の全てを破壊する戦士。

 それをラキア王国の兵たちはいつの間にか『撲殺兎』というあだ名をつけて、恐れるようになっていた。

 

『撲殺兎』の正体。

 それは、『モンク』にジョブチェンジしたベル・クラネルであった。

 

「うーん、そんなに僕、兎人(ヒュームバニー)の人たちに似ているのかなぁ……」

 

 何百人目かも分からない敵兵を殴り倒したベルが、そんなことをぼやく。

 だが、そんなゆるい言葉とは裏腹に、彼は鋭い目で戦場を観察していた。

 

 かつてイヴァリースにて、五十年間続いた戦争の末期と、国内を真っ二つにした内乱という二つの大戦(おおいくさ)を生き延びたベル。彼は、オラリオの勝利が確実と言われたこの戦いでも、一切の油断なく注意を払い続けている。

 拳で戦ってはいるが、腰にはしっかりと鞘に収めた剣を差し、いつでも抜いて本気で戦えるようにしてある。

 

 その一方で、ベルは困惑もしていた。

 混沌とした戦場で人を殺さぬよう手加減するという慣れぬ行為に、四苦八苦していたのだ。

 実はこの戦争、オラリオの商業系派閥(ファミリア)が、ラキア軍から金を搾り取るために、兵士の殺害を極力避けるよう通達していたのだ。

 

 人は、死ねばそれで全て終わりだ。

 だが、生き延びれば、食事も休養も治療も必要となってくる。

 その必要とする諸々を商業系派閥は、ラキア王国に売り払おうという算段をしているのだ。

 

 オラリオでは『闇派閥(イヴィルス)の残党』を倒すために、オラリオの主要派閥が陰ながら攻略の準備を進めている。それだというのに、一般的な派閥はのんきな金儲けに明け暮れていた。

 オラリオには管理機関(ギルド)があるが、オラリオの全派閥を支配する首長的立場というわけではない。

 基本的に派閥はそれぞれが独立しており、互いに対等な立場にある。

 

 よって、商業系派閥が徒党を組んで戦争のやり方に口出ししてくると、『闇派閥の残党』への対処に忙しい主要派閥が欠けた戦闘系の派閥では、意向を拒否をしきれなくなっているのだ。

 

『ベルさん、3-Dに移動してください!』

 

 戦場を観察していたベルに、遠くからリリルカの声が響いてくる。魔石を用いた拡声器によるものだ。

 それに従い、ベルは脳内に叩き込んだ戦場の地図を参照して駆け出し、次なる前線へと向かった。

 

 そして、ベルは接敵した。『JP』を稼ぐため『モンク』のジョブで戦い、『Lv.1』の雑兵をイヴァリースから持ち込んだ手甲、《ブレイザー》で殴り倒していく。

 剣の修行にはならないが、【ロキ・ファミリア】からのノルマである『モンク』の『アクションアビリティ』を覚えるには、これがちょうどよかった。

 とにかく、敵の数だけは多いのだ。数を狩るだけで貯まる『JP』を稼ぐのに、これ以上の状況はない。

 

 さらに、剣を使わず格闘で戦うのは、手加減にも丁度よかった。

 おかげで、今のところベルは敵兵を殺した感触が手には残っていなかった。ただし、敵兵は鼻が潰れ、骨が折れ、一部の者は内臓が損傷していたのだが。

 

 後に『第六次オラリオ侵攻』と呼ばれる戦いで、『撲殺兎』の悪名が王国側の記録に刻まれることになる、とある一幕であった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 また別の日、ベルは『モンク』のジョブではなく『弓使い』のジョブに就いていた。

 手に持つのは、《アルテミスの弓》。強弓であり、敵の弓兵よりも遠くから弓を射かけることができる。

 

 それを手に構えながら、ベルはリリルカの指示で矢を飛ばしていた。

 

 狙いは、敵の騎士が乗る馬。

 馬は、『基本アビリティ』の【敏捷】を高めた冒険者よりも、足が遅い。

 さらに言うならば、イヴァリースの戦場を走る、鍛えられた(レベルのたかい)チョコボよりも足が遅い。

 よって、ベルは遠くから騎士が乗る馬に、軽々と矢を命中させていった。

 

 やがて、騎兵突撃でオラリオ側の陣地に攻め入ろうとしていた騎馬隊の馬は、上に乗った騎士を残して全滅した。

 その馬は、オラリオの冒険者たちが近づいていって回収している。

 これもまた馬肉にして、王国の兵たちに売りさばくのだ。血抜きが十分ではないが、敵兵の口に回るものなのでオラリオの誰も気にしていない。

 ダンジョンで取れる魔石が主産業であるオラリオでは手に入りにくい、安価な革製品にもなる。よって、倒れたラキア王国の馬は全て、商魂たくましい商業系派閥の手に渡った。

 

 そんな馬の扱いを見ながら、ベルは無常を感じつつ本陣に戻り、次の作戦を練っていたリリルカへと向けて言った。

 

「馬ってこんなに足が遅かったんだね……」

 

「そうですね。リリはオラリオから出たことがほとんどないので、都市内を並足で走る馬車くらいしか知りませんでしたが……予想よりも遅かったですね」

 

「軍事行動をするなら、馬に『神の恩恵(ファルナ)』を与えればいいのに」

 

 ベルがそんなことを言い出すと、リリルカはその場で吹き出した。

 

「動物に『神の恩恵』……聞いたことありませんね」

 

「戦争で勝ちたいなら、それくらいするべきじゃない?」

 

 ベルはイヴァリースに置いてきた、戦場を共に駆けた愛鳥であるチョコボの勇姿を思い出しながら、そんなことを言った。

 すると、リリルカは呆れたような顔で、ベルに答える。

 

「確かに効率的ですが……、きっと『軍神』アレスのプライドが許さないですよ」

 

「そっかぁ……」

 

 天界の神にとって地上の生物は、人も家畜も等しく自分たちの子供というわけではないんだな、とベルは思った。

 

「家畜の神様っているのかな?」

 

「畜産を司る神はいるでしょうが、家畜に加護を与える神はいるのでしょうかね?」

 

 少なくとも、オラリオに動物を眷族としている神がいるという話は聞いたことがないと、リリルカはベルに答えた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 夜。都市郊外のオラリオ本陣にて、ベルは都市から出張してきた鍛冶師(スミス)に、酷使した装備の点検を任せていた。

 今回のベルは、【幻想残滓(ファイナルファンタジー)】の『スキル』でセットできる『サポートアビリティ』に、『獲得JPアップ』を付けている。予定の空いた日に何度かダンジョンに潜ることで覚えた『メンテナンス』という、装備の損耗を防ぐ『サポートアビリティ』はセットしていないのだ。

 

 よって、戦いを終えた後、こうして鍛冶師に装備の点検をしてもらうことは必須であった。

 ベルの装備を担当するのは、リリルカと専属契約を結んでいる【ヘファイストス・ファミリア】所属のヴェルフ・クロッゾだ。

 

「おう、ずいぶんと使いこんだな。待ってろ、今、直してやる」

 

 ベルから手甲の《ブレイザー》を受け取ったヴェルフが、敵の攻撃を何度も防いで小さな歪みが出てきたそれの修理を始めた。

 それをベルは興味深げに眺めていた。ちなみに、リリルカはオラリオ義勇軍全体の作戦会議に呼ばれているため席を外している。

 

 ヴェルフは戦場に持ち込んだ鍛冶道具を使って、器用に手甲の歪みを直していく。

 その腕は確かなものであり、未だ【鍛冶】の『発展アビリティ』が発現していない『Lv.1』とは思えない、見事な手つきであった。

 

「よし、完了だ。次は服のほつれを見るぞ」

 

「うん、よろしく」

 

 ベルは、脱いであったモンスター素材製の戦闘衣(バトルクロス)をヴェルフへと渡す。

 そして、戦闘衣のチェックを始めたヴェルフに、ベルは話題を振った。

 

「今回の戦争、一部の鍛冶師も前線に出て戦っているって聞いたけど、ヴェルフもそうなの?」

 

「ん? ああ、殺しはしなくて良いって聞いたから、『経験値(エクセリア)』稼ぎがてらな」

 

「ヴェルフは王国出身って聞いたけど、気まずくない?」

 

「いや、ムカつく兵隊をぶっ飛ばせて、せいせいするくらいだな。昔から、他所に侵略ばかりしている故郷の軍が気にくわなかったんだ」

 

「へー……」

 

 イヴァリースの内戦に巻き込まれて苦しんでいた一年前の自分とは、ずいぶんと心境が違うのだなとベルは思った。口に出してそれを言うことはなかったが。

 

「よし、ほつれはないな。しかし、ベル。お前、本当に戦闘衣一枚だけでよく戦えるな」

 

「『モンク』のジョブはそれを『装備』して戦うのが、一番強くなれるんだ。上に鎧を着こんだら、どうも『装備』の効果が薄くなるみたいで……」

 

「本当に意味分からねえ『スキル』してんな……」

 

 そんなヴェルフの言葉に、自分でもそう思うとベルは心の中で答えた。

 そして、ベルは自身の事情を知るヴェルフに、さらに雑談がてら打ち明けた。

 

「実は、さっき新しいジョブが発現していて……『シーフ』って言うんだけど」

 

「おっ、もしかして斥候(せっこう)職か? ダンジョンで役立つやつだと、同行する身としては助かるんだが」

 

「相手の装備を『盗む』、悪漢みたいなジョブだったよ……」

 

「モンスター相手に役に立ちそうにねえな! いや、天然武器(ネイチャー・ウェポン)を奪うときに役立つのか?」

 

「ちなみに、『移動+2』っていう足が速くなる能力もあったよ」

 

「……さっき【ロキ・ファミリア】の団員が、お前の進軍速度についていけないって愚痴をこぼしていたぞ。それ以上、一人で突出してどうすんだ」

 

「一人だけ、騎兵のつもりで突撃しようかなって……」

 

「やめてやれ。今度こそ死人が出るぞ」

 

 そんなやりとりを終え、ベルは夜襲に気を付けながら身を休めた。

 そうして、ベルからするとあまりにもゆるすぎる戦争は、それから数日の間、大きな動きがないまま続いた。

 

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