ベルの話が終わり、【アルテミス・ファミリア】の面々は各々好きに騒ぎ始めた。
強大なモンスターの退治に成功した事による勝利の宴だ。
しかし、ここは樹海のど真ん中。皆、酒は控えめで、見張りもしっかり立てている。
それでも、勝利の後は皆を陽気にさせるらしい。ベルは、騒ぎに騒ぐ女戦士たちに付き合って、一緒に宴を楽しんだ。
「いやー、あれだけ強いモンスターなんだから、偉業も溜まったかな?」
「そうだねー。ランクアップ、何人か出るかもね」
そんな女戦士の話をベルは不思議そうに聞いていた。
すると、別の女戦士が、わざわざベルに解説をしてくれる。
「『
「へえー、偉業ですか。それって、神様たちが偉業かどうか判定するんですか?」
「判定するのは『神の恩恵』、かしら? いろいろな経験で【
「そんな仕組みなんですねぇ。不思議ですね」
「私たちの【ファミリア】は三十人もいないから、頻繁に【ステイタス】更新をしてもらえるけれど、百人を超えるようなところは更新も滅多にしてもらえないみたいね」
そんな話を聞いて、ベルはチラリと隣で酒を飲む祖父を見た。
ベルの祖父の正体は、ゼウスという名の神様だった。ならば、祖父は自分に『神の恩恵』を与えてくれるのだろうか。そんなことをベルは考えた。
『聖石』という秘宝の力に魅入られ、ルカヴィと呼ばれる悪魔に力を与えられて破滅した人間をベルは、異世界イヴァリースで幾人か見てきた。ベルが所属していた傭兵団ではその経験から、他者から与えられる外付けの力は信用しないという者が多かった。
しかし、ベルには他者から与えられる力をそこまで忌避する感覚はなかった。
なにせ、ベルは『クリスタル継承』をしてようやく、イヴァリースに存在する『剣気』の力を操れるようになったのだ。強くなれるのならば、ベルは外付けの力だろうが大歓迎である。さすがに、悪魔のような怪しい力に頼ることはしないが。
と、そんな気持ちを近くにいる女戦士たちに漏らしたベル。
すると、女戦士たちはベルの発言に笑い、そして言った。
「『神の恩恵』は、外付けの力なんかじゃないよー」
「そうそう、アルテミス様が言うには、『神の恩恵』は人に秘められた潜在能力を解放するだけなんだって」
「その割には『神の恩恵』がなくなったら、【ステイタス】は全部封印されてしまうらしいけれど。不思議よね」
潜在能力の解放……何それ格好良い。ベルは心の中で興奮した。
そして、ベルは隣に座る祖父をチラチラと見て、『神の恩恵』を貰えないかアピールしてみた。
しかし、祖父はそんなベルの視線を意にも介せず、騒ぐ女戦士たちの姿を見ながら鼻の下を伸ばしていた。
その祖父の様子に、ベルはガクリと肩を下げ、祖父の視線の先をなんとなく追った。
すると、そこでは【アルテミス・ファミリア】の団員たちが弓の腕比べをしていた。
光源は焚き火だけだというのに、気にせず木々の間に矢を放っていく。そのたび軽快な音が響くので、矢は的にしっかりと命中しているのだろう。
それをベルが興味深げに見ていると、彼の周囲にいた女戦士たちがそれを目ざとく見つけたようで、ベルに再び絡み始める。
「ベルさん、弓に興味がおありで?」
「あー、はい。僕も少しは弓の腕に覚えがあるので」
「あら、そうなのですか。では、ベルさんもやってみます?」
「それが、こんなに暗い中で、どうやって的に当てているか不思議に思って……明かりってこの焚き火だけですよね?」
ベルがそう言うと、周囲の女戦士たちは何かを納得したような表情になる。
「ベルくんって、本当に『神の恩恵』が与えられていないんだねー」
「【ステイタス】が上昇すると、目がよくなって夜目が利くようになりますのよ」
「あれだけ強いのに、目は一般人並みって、逆に不思議ね」
『神の恩恵』があれば、夜目が利くようになる。それはなんとも便利なものだとベルは思った。
ベルは、イヴァリースにいた頃、傭兵団総出で『ディープダンジョン』と呼ばれる古い灯台の遺跡に潜って、
その『ディープダンジョン』はとても暗かったうえに、モンスターがはびこっていて、傭兵団の面々は攻略にとても苦労した。
モンスターを倒すことで出現した『
と、ベルがそんなことを考えている間にも、女戦士たちは弓の話で盛り上がっている。すると、その矛先がベルに再び向く。
「そういえば、ベルくんの荷物の中に弓があったよね?」
そう問われ、ベルは素直にうなずいてみせる。
「見せてもらっていいかな? 異世界の弓とか気になるー」
「構いませんよ」
ベルは、背後に置いていた背負い鞄にくくりつけられていた弓を取り外し、さらに鞄の中に入っていた弦を取り出す。
そして再び焚き火の前に戻り、皆が見守る中、弓に弦を張った。
弓に弦を張ったところで、興味深げに見ていた女戦士の一人に、弓を手渡した。
「どうぞ」
「うはー、これが異世界の弓……良い弓に見えるけど……うわ、すごい強弓!」
「次、貸してくださいまし!」
「その次は私ねー」
女戦士たちが、ベルの弓に群がり、その弦の張りの強さに驚いている。
だが、さすが皆『神の恩恵』を受けているだけあるのか。弦を引けないという者はいなかった。
その様子を見ながら、そういえばとベルは思い出す。
「その弓の名前、《アルテミスの弓》っていうんですよね。狩りの女神にちなんだ名前らしいです。モンスター素材を店で加工して作った弓なので、さすがにこちらのアルテミス様とは関係ないと思いますけど」
団員の弓の腕比べを見ていた女神アルテミスが、ベルのその発言を聞いていたのだろう。
アルテミスは、ベルの方へ近づいてきて、女戦士から《アルテミスの弓》を受け取って、しげしげと眺めた。
「私とは縁もゆかりもない品だな」
「ですよね。たまたま神様の名前が一致していただけですかね?」
「そうだろうな。私は天界にいたころ、そのイヴァリースとかいう国がある次元を観測したことはない」
そうして、女神は一通り弓を観察した後、近くで興味深げにしていた団員の一人に《アルテミスの弓》を手渡した。
それからアルテミス神は、ベルの隣に座り、彼に言った。
「剣だけかと思ったが、弓も使えるのだな」
「えっと、はい。ある程度は使えます。剣ほど慣れてはいないんですけど……」
ベルはイヴァリースで騎士の教養の一つとして、弓を覚えさせられていた。
騎士と言えば騎士剣を使って戦う印象が、イヴァリースの民の間ではある。
しかし、実際の戦争では、こちらの世界での馬の役割を負うモンスター、チョコボの上から弓を引いて一方的に矢で射かけることも多いのだ。そのあたりのことをベルはアルテミス神に話した。
「中には、チョコボに乗りながら『魔法』で戦う騎士もいましたけど……僕は『魔法』ってあんまり得意じゃないんですよね」
ベルがそう言うと、周囲の女戦士たちがベルに向かって口々に言い始める。
「ヒューマンなのに『魔法』を使えるだけでもすごいよ!」
「治療の『魔法』、助かった」
そう、ベルは巨大なサソリのモンスター『アンタレス』を倒し終わった後、怪我をした戦士たちを治療するため、【ケアル】という『白魔法』で治療を施して回ったのだ。
ゆえに、【アルテミス・ファミリア】は全員、ベルが『魔法』を使えると知っている。
「『魔法』は回復系以外も使えるのか?」
アルテミス神にそう尋ねられ、ベルは答える。
「えっと、低級の火炎魔法なら使えます」
「へえ……見せてもらっていいか?」
そう
突然の『魔法』に、離れて見ていた団員たちは宴会芸と勘違いしたらしい。場は大盛り上がりとなった。
大騒ぎする【アルテミス・ファミリア】を見ながら、ベルは隣に座るアルテミス神に向けて言う。
「向こうの世界から帰るときに、言われたんです。こっちの世界では、『魔法』が発動しないかもしれないって」
「ん? どういうことだ?」
「うーん、魔道士の人は、世界に満ちる成分が違うかもって言っていましたね」
その言葉に、アルテミス神は納得し、団員たちは不思議そうにした。
「ええっ、よく分からないわ」
「世界の成分……何それ?」
「アルテミス様、説明してー」
「むっ、そうだな……むう、説明が難しい! おい、ゼウス! 説明してやれ!」
突然、話題を振られたゼウスは、「ぬ?」と不思議そうにアルテミス神の方を振り向いた。
女戦士たちの観察に忙しくて、ゼウスは欠片も話を聞いていなかったようだ。
すると、ベルは苦笑しながら、祖父であるゼウスにあらためて話をした。
「そうだな。ベルが別世界に行っても呼吸と飲食が可能だったあたり、二つの世界を構成する要素は似通っているのではないか?」
「ゼウス様、もっと分かりやすく!」
女戦士たちに酌をされながらそう言われ、ゼウスは気を良くして説明を続ける。
「たとえば、世界全体が水に覆われている、人が住めない人魚の国なんて世界があるかもしれんぞ。なにせ、次元を隔てた異世界は、無数に存在しているからな」
そんなゼウスの言葉に、ベルは驚く。水に覆われた世界。そんなところに飛ばされていたら、溺れ死ぬしかないだろう。
「うわ、もしかして、僕って運が良かった?」
ベルがそう言うと、ゼウスは笑って答える。
「次元の裂け目に飲みこまれておいて、死ななかっただけでも運はピカイチだ。そこから生きていられる世界に出られたことを考えると、豪運だぜい」
ゼウスがそう言うと、ゼウスに酌をしていた女戦士の一人がベルの方を見て言う。
「うわー、ベルくん御利益ありそう。拝んどこ」
「もっと御利益がありそうな神様が、ここにいるんだが?」
「わたしたちの主神はアルテミス様だから、ゼウス様を拝むのはちょっと……」
そんな女戦士の発言に、周囲の団員たちは一斉に笑い声を上げた。
◆◇◆◇◆
やがて、宴は終わりに近づき、ベルから女戦士たちも離れていって、改めてベルは祖父といろいろなことを話した。
主にベルが一人で祖父に農村時代の思い出を語るだけであったが、ふとベルは気になったことを祖父に尋ねた。
「そういえば、お
すると、祖父がベルに向けて語り始めた。
どこかに飛ばされたであろうベルを何年も探していた。
正直、生存はしていても見つからない可能性は高かった。
それでも、神の知り合いをあたって、わずかな望みにかけて大切な孫を捜し歩いた。
まさか、異世界に飛ばされていて、しかも自力で自分のもとに戻ってくるとは思わなかったが。そう言って、祖父は豪快に笑った。
そして、今度は祖父がベルに向けて尋ねてきた。
「ベルは、これからどうする? 村に帰るのか?」
「ううん、お祖父ちゃんには悪いけど、あの村には帰らないよ。僕は、剣の腕をもっと鍛えたい。いつか、剣聖と謳われるほどの達人になるって、師匠と約束したんだ」
ベルがそう言うと、祖父は嬉しそうに笑って言った。
「そうか! では、武者修行の旅だな!」
「そうだね。強いモンスターを探して、退治する旅をすることになるのかな」
「いや、強いモンスターと戦いたいなら、ダンジョンがあるぞ。ほれ、昔に話した迷宮都市だ。オラリオだな。もしお前が望むのならば、オラリオまで案内してやる」
迷宮都市オラリオ。その名を聞いて、ベルの胸の奥が弾んだ。
その都市には、世界唯一の大迷宮『ダンジョン』が存在すると、ベルは遠い記憶を思い出した。
祖父が昔語った、ダンジョンに挑む数々の冒険者の逸話をベルが思い出していると、ベルの隣に座るアルテミス神が祖父に言う。
「しかしゼウス。貴様、オラリオを出禁になっていなかったか?」
「そうだな。儂はオラリオの近くに居を構えるから、ベルはオラリオに住むといい。そこで神の眷族となって、迷宮で大冒険を繰り広げるんじゃ」
祖父にそう言われ、ベルは首をかしげながら祖父に問う。
「お祖父ちゃんの眷族になって、そこからオラリオに通うってこと?」
「いや、オラリオは入るのは簡単だが、出るのは手続きが面倒でなあ。毎日通うのは無理だ。なので、ベルが望むなら、知り合いの善良な女神を紹介してやろう」
お祖父ちゃんの眷族になるんじゃないんだ。ベルはそう思って、肩をわずかに落とした。
だが、そんなベルの背中を祖父は叩き、ベルに向けて言う。
「儂に縁が深い女神が、最近【ファミリア】を作ったらしくてな。当然、団員はまだ少ないだろう。小さな集団を大きくしていくのも浪漫があるぞ」
祖父のその言葉に、アルテミスも納得したようにうなずく。
「ああ、ヘスティアか。彼女なら、こやつを任せても安心だろう」
「うむ。少しぐーたらなところが玉に瑕だが、
祖父がそう言うと、アルテミス神はゴミクズを見るような目を祖父に向けた。
そうして。
二日ほど掛けてアルテミス神たちと一緒に樹海を脱したベルは、樹海の前で【アルテミス・ファミリア】と別れて、祖父と共に迷宮都市オラリオへと向けて旅を始めた。
その旅は、一ヶ月という長いようで短い旅であり。
ベルは、数年ぶりとなる祖父とのやりとりに心を満たされながら、幼い頃に祖父から何度も聞かされた迷宮での『冒険』に、胸を躍らせていた。
・魔法の発動に必要な世界に満ちる成分
FFTの過去の時代が舞台の、FF12に登場する『ミスト』のこと。魔石(クリスタル)という鉱物が発する、魔法の力の源です。FFTにおいて魔石は、店売り最高峰の防具であるクリスタルシリーズに嵌め込まれているようです。
本作オリジナル設定として、『ミスト』より安定した魔法成分が、ダンまち世界の空間中に存在していることとしています。神々とか精霊とかモンスターの魔石とかダンジョンとかが存在する世界なので、そんな大気成分くらいあってもええやろの精神。