ダンまちTACTICS   作:Leni

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31.戦場を切り裂く刃

 初夏の陽射しが降り注ぐ、大陸西部。オラリオ近郊の広野(ひろの)にて、ラキア王国軍は戦争が始まって以来、最大の危機を迎えていた。

 道化師が描かれた旗を掲げる一団に、突撃を受けていたのだ。

 オラリオ最大派閥の一つ、【ロキ・ファミリア】による本格的な攻勢だ。

 

 攻勢とは言ってもその数、たったの二十であるが、この戦争で【ロキ・ファミリア】がここまで大集団で攻めてきたことは初めてだ。

 そもそも、『Lv.2』の集団十人もいれば、『神の恩恵(ファルナ)』を受けていない兵を千人も止めることができるとされる。

 

 では、今回の【ロキ・ファミリア】はというと、『Lv.4』の幹部候補、ラウル・ノールドを先頭に置き、『Lv.2』が中核を担い、ときおり『Lv.3』と『Lv.1』が混じる構成をしていた。そんな集団が、戦場を縦横無尽に駆けている。

 中肉中背の特徴のないヒューマンの男、ラウル。そんな彼が、手にした武器を振るうたび、人が飛び、馬が飛び、陣形は崩壊した。

 

 王国兵のほとんどが『Lv.1』であり、まれに『Lv.2』の部隊長が交ざっている程度。

 そんな王国軍が、『Lv.4』を先頭にした一団の突撃を防げるはずがない。

 さらに、王国にとって最悪なことに、一団の殿(しんがり)には、かの【ロキ・ファミリア】の団長である、フィン・ディムナが槍を持って控えていた。

 

 勝てない。それを理解した王国軍は、一部が潰走(かいそう)を始めた。

 連日の戦いで士気が低下していたところに、この突撃だ。もはや、王国は軍としての形を保つことができないでいた。

 

 そんな勝利の立役者、ラウル・ノールドは、武器として用意されていた頑丈な金属棒を肩に担ぎながら、【ロキ・ファミリア】の仲間たちを置いていかないよう速度を調整して走っていた。

 この部隊では一番上の『Lv.』を誇る彼は、息も切らさずに背後の面々を見ながら言った。

 

「いやあ、なんか敵が可哀想になってくるっすね」

 

 すると、彼より立場が下である『Lv.2』や『Lv.3』のメンバーが、これまた余裕そうな表情で口々に言った。

 

「もうここまで来ると弱い者いじめ」

 

「いやー、さすがラウルさん。『Lv.4』は違う!」

 

「この人ここまで強いのに、なんで普段目立っていないんだろう……」

 

 団員たちの、褒めているのか褒めていないのか微妙なコメントに、ラウルは苦笑した。

 だが、彼がこの派閥内で人望を得ているのは確かなことだ。だからこそ、この一団の指揮官は彼を先頭に置いたのだ。

 

 その指揮官は、殿の位置でひた走っていた。小人族(パルゥム)の青年。フィン・ディムナ。『Lv.1』である。

 彼は、明らかにオーバースピードの進軍に、ヒイヒイ言いたいのを我慢しながら、ただ無言を貫いている。

 

 そんな彼の様子を見たラウルは、少々進軍スピードを落として、後方に向けて言った。

 

「いやー、本当に我らが総大将は頼りになるっすね」

 

「うんうん、リリちゃん、じゃなかった、団長マジ頑張ってる」

 

「さすが、小人族で団長を務めているだけあるよね」

 

「指揮も的確だし、本当に小人族の希望だなー」

 

「戦後のティオネさんの反応が怖いね!」

 

 そんな団員たちの言葉に、フィン……に魔法で姿を偽っているリリルカは、冷や汗を流した。

 思ったよりも、【ロキ・ファミリア】の期待が重い。さらに、最後のセリフはとても怖い。

 だが、リリルカは王国軍の士気を下げるため、フィンとしての演技を続けて無言で団員たちに手を振るだけで留めた。

 

 そして、リリルカは思う。

 ベルさん、さっさと戦争を終わらせて、この辛い長距離走を終わらせてください、と。

 今のリリルカ、そして【ロキ・ファミリア】は、敵の軍勢の注意を引きつける『囮』として動いていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

『Lv.6』の【ステイタス】に迫る身軽さを活用して、戦場の奥深くに単身踏みこんだベル。

 

 彼は、どう見ても目立つ輝く鎧兜と盾を隠すよう身に着けていた、カモフラージュ用の外套(がいとう)を脱ぎ捨てる。そして、姿を現すと同時に、陣の最奥を護っていた護衛を一方的に薙ぎ倒し始めた。

 それからベルは、立派な幕舎が立つ箇所へと、猛烈な勢いで進んでいく。

 

 まさかの奇襲に、色めき立つ敵本陣。

 そして、本陣を守る彼らは、総大将のいる幕舎への道を塞ごうと身を挺して陣形を変える。

 だが、しかし。

 

「【聖光爆裂破(せいこうばくれつは)】!」

 

 ベルが、以前の春姫救出作戦と『闇派閥の残党』との戦い、そして普段のダンジョン攻略で稼いだ『JP』を使って覚えた新技を放つ。

 すると、『直進する剣気』がベルの前方全てを吹き飛ばした。

 

 その開いた空間へ向けて走り出すベル。それと同時に、幕舎から男が二名、姿を見せた。

 光り輝く金髪の美丈夫、ラキア王国の主神アレス。

 もう一人は、蜂蜜のような金髪の貴公子、第一王子のマリウスだ。

 

 マリウスは、今回の戦いにおけるアレス神の副官であり、人間としての総大将でもある。そんな彼は、ベルの姿を確認すると共に、全てを諦めたようにかぶりを振った。

 だが、アレス神は、余裕そうな顔で、ベルに向けて叫ぶ。

 

「来たか! 撲殺兎、いや、殺人兎!」

 

 敵の主神と敵軍の総大将を前にして、ベルは走りを止め、油断なく剣を構える。そして、ぼやくように言った。

 

「一兵も殺した覚えはないんだけどなぁ……」

 

 だが、そんなベルの言葉をあっさりと無視したアレス神は、その場で拳を握って叫ぶ。

 

「お前の躍進もここで終わりだ! 来い! 我が最終兵器よ!」

 

 そんなアレス神の言葉が終わると、アレス神の後方にある幕舎の中で、巨大な影が立ち上がった。

 そして、その影はノシノシと歩みを進め、幕舎から出てきてその姿を見せた。

 

「やっと出番かい? もったいぶらずに、さっさと戦わせな~」

 

 それは、ベルが以前、春姫を救出するときに見た、異形のアマゾネスであった。

 名をフリュネ・ジャミール。解散した【イシュタル・ファミリア】の元団長である。

 そのフリュネは、軽装を好むアマゾネスらしからぬ装備をしていた。全身型鎧(フルプレート)を着こんでいるのだ。手には、大剣を構えている。

 

 まさに戦場に立つに相応しい出立(いでた)ち。そんなフリュネが、ベルの前に立ちはだかった。

 その威容に、アレス神は勝ち誇ったように叫んだ。

 

「殺人兎! 何やら怪しげな『レアスキル』で『クロッゾの魔剣』を折ったらしいが、こやつが持つのはオリハルコンでできた『不壊属性(デュランダル)』の大剣だ!」

 

「おかげで戦費がさらにかさみました……」

 

 アレス神の言葉の後に、ポツリと王子マリウスがつぶやく。

 そんな二名の言葉をベルは気にもせず、愛剣の《エクスカリバー》を構えて、フリュネと向かい合う。

 確かに、ベルの『剛剣』では『不壊属性(デュランダル)』の武具は破壊できない可能性が高い。しかし、手数の豊富なベルは『不壊属性(デュランダル)』の武具を無効化できる手立てを身に付けていた。

 

 それは、先日、彼に新しく芽生えたジョブ、『シーフ』の『アクションアビリティ』。『盗む』というそれの中に、【武器を盗む】の技がある。相手が装備している武器を相手の目の前で奪うという、とんでもない無力化方法である。

 しかし、ベルが今セットしている『アクションアビリティ』は、『盗む』ではなく『モンク』のジョブで覚えられる『拳術』だ。よって、ベルはフリュネと正面から剣の斬り合いをしなければならなかった。

 

 ただし、もしフリュネの武器を盗めたとしても、この状況ではベルはその手段を選ばなかっただろう。

 

 ベルのオラリオにおける目標は、『剣聖』となることだ。

 強敵であるフリュネと真正面から戦えるのならば、その経験を糧とするために正々堂々と戦うことを狙う。

 けして相手を舐めているわけでも、手加減しているわけでもない。これは、ベルが剣士として一つ前に進むための、立派な『冒険』なのだ。

 

 そうして、ベルとフリュネの戦いが始まった。

 距離が縮む前に、ベルは牽制として『聖剣技』を放つ。

 

「【不動無明剣(ふどうむみょうけん)】!」

 

 天から降り注ぐクリスタルが、フリュネに直撃する。

 しかし、頑強な全身型鎧を着込んだフリュネは、わずかにひるんだだけで前進を続けた。

 

「痛いねぇ! 絶対に許さないよォ~!」

 

 ベルは思う。なかなかの生命力だと。

 かつて戦ったヴァレッタよりも、高い【耐久】の【ステイタス】を誇っている相手であると、ベルは今の一撃で見抜いた。

【不動無明剣】に付随する状態異常(ストップ)が発動していないあたり、【耐異常】の『発展アビリティ』も鍛えてありそうだ。

 

 そして、とうとう剣の間合いにフリュネが踏みこんできた。

 そこから始まるのは、二人の冒険者の純粋な剣の競い合いだ。

 

 フリュネは、ベルから距離を取ると怪しげな技が飛んでくることを十分理解していた。

 よって、大剣の攻撃範囲内で、執拗にベルを攻めた。

 しかし、フリュネの一撃は、ベルの防御を崩せない。

 

 一方、ベルは『聖剣技』を放つ動作を見せる。慌ててフリュネは大剣を振り抜こうとするが、そこでベルは剣をひるがえして、前へと踏みこんだ。

 大剣の間合いよりも、一歩だけ近いその距離。そこでベルは、鎧の隙間に差し込むような突きを見舞った。

 

「ギイッ!?」

 

 切れ味に優れた《エクスカリバー》が、フリュネの【耐久】を突破して痛打を与える。

 そして、フリュネがひるんでいる間に、ベルは畳みかけるように剣を振るう。

 

『全剣技』は強力な技であるが、それだけがベルの剣術を構成しているわけではない。

 いわゆる『初見殺し』の意味合いが強い『全剣技』。しかし、対策や警戒をされたところで、それをフェイントとして用いることもできる。

 

 純粋な剣の腕では、かの『Lv.6』、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの上をいくベル。

 では、その巧みな剣術と『全剣技』を組み合わせれば、どうなるか。

 その結果は、フリュネが一方的に押され続ける戦いとなって表れた。

 

「ガアアアアアッ!」

 

 鎧の隙間を刺され、時には『剛剣』の基礎動作に任せた鎧を切り裂く一撃が入る。

 苦しまぎれにフリュネが距離を取ろうとすると『聖剣技』が遠慮なく飛んでいく。

 それを目の前で眺めていた『軍神』アレスは、想定外の結果に顔を歪ませた。

 

「馬鹿な! 我が秘密兵器は『Lv.5』だぞ! それがどうして、こうも一方的に!」

 

 その言葉を聞いたベルは、目の前の人物がアイズよりも明確に格下であると知って、失礼ながらも残念な気持ちになった。

 少なくとも、フリュネの剣術はアイズよりも洗練されていない。膂力(りょりょく)に頼った一撃が多く、ヴァレッタのようなアッと言わせるような切り札を隠し持っている様子もなかった。

 

 やがて。アレス神が唖然(あぜん)としている間に、フリュネはボロボロになった全型身鎧を着たまま、その場で膝を突いていた。

 決着は、ほぼ付いたと言っていいだろう。

 

 そんなフリュネに対し、ベルは最後に、『不壊属性(デュランダル)』の大剣を折れないか、試してみることにした。

 

「【地獄の鬼の首折る(やいば)の空に舞う、無限地獄(むげんじごく)百万由旬(ひゃくまんゆじゅん)……】」

 

「ヒイッ!?」

 

 ここに来て詠唱を始めたベルに、フリュネは完全に心が折れた様子で悲鳴を上げた。

 

「【冥界恐叫打(めいかいきょうきょうだ)】!」

 

『剛剣』の奥義が、フリュネを襲う。

 しかし、フリュネが持つオリハルコンの大剣は、わずかな歪みすら見せなかった。

 どうやら、オリハルコンの扉はともかく、『不壊属性』のオリハルコン武器は『剛剣』では破壊が不可能なようだと、ベルは結論付けた。

 そして、ベルは『剛剣』の一撃を受けて倒れ伏したフリュネに近づき、《エクスカリバー》を向ける。

 

「うーん、殺しは厳禁と言われているけど、オラリオからの脱走兵はどうすればいいんだろう。やっぱり打ち首かな?」

 

 一方的に敗れたフリュネの首に、剣を添えるベル。

 そんなベルの冷たい態度に、『軍神』アレスは恐れおののいて、叫ぶように言った。

 

「クソッ、我が秘密兵器をこうもあっさりと! やはり、お前は殺人兎だ!」

 

「えーと、神アレス。僕はヒューマンだから兎は否定させてもらうけれど、殺人に関してはいまさらだよ」

 

 おおよそ神に向けるものではない、冷たい目でアレス神を見たベル。

 そして、彼はさらに続けて言った。

 

「なにせ、何年も戦場で戦ってきたから、ねっ!」

 

 その言葉と同時に、ベルはアレス神の横にいる王子を守っていた近衛に攻撃を放った。手加減をした『聖剣技』である。

 ベルの目的は、フリュネの打倒ではなく、戦争の決着だ。ここで王子を見逃す理由はなかった。

 

 王子は『Lv.3』の実力を持つが、フリュネと近衛たちを倒され、これ以上の抵抗は無意味と判断。

 その場で武器を放って、降参の意思を示した。

 

「よし、秘密兵器を倒して、総大将も降参した。残った主神は……うーん、どうしようか」

 

 そう考え込むベルの目はひどく冷めていた。

 彼の目から、神であろうと容赦しないという、人の子にはありえてはならない意志を感じ取った『軍神』アレスは、背に大量の冷や汗を流した。

 よって、アレス神は全力で叫ぶ。

 

「こ……降参するッ! 捕虜として、(じん)道的な扱いを求めるッ!」

 

 開戦から数えて、十日目の昼。

 オラリオが王国から戦費を搾り尽くすまで続くかと思われていた戦争は、唐突に終わりを告げた。

 




・『剛剣』の仕様
イヴァリースクロニクルズの『エンハンスド』では、破壊できる対象が存在しなくても威力は下がりますがダメージを与えられます。

・冷や汗を流すアレス
地上に降りた神ですが、どうやら汗を流す生態をしているようです。原作八巻で風邪を引いたヘスティア様が汗をかいています。
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