ダンまちTACTICS   作:Leni

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32.ステイタス更新

『軍神』アレスと王子マリウスを捕虜にしたベルは、【ロキ・ファミリア】と合流し、オラリオ側の本陣へと胸を張って帰還した。

 

 フリュネも捕虜としたが、彼女は完全に心が折れてしまったらしく、力なく震えており、オラリオの冒険者が担架に乗せて都市まで護送していった。

 敵軍への寝返りはギルドから厳しい処分が下されるだろうが、ベルはそのときフリュネへの興味をすっかり失っていた。

 ベルに負けて悔しがるでもなく、再戦に燃えるでもなく、復讐を誓うでもなく、ただ怯えた姿を見せるフリュネに、今後の躍進を期待できなくなったためだ。

 

 それからベルは、【ロキ・ファミリア】の面々と一緒に陣を片付け、翌日、オラリオへと凱旋(がいせん)した。

 オラリオの東口から帰還したベルとリリルカ、【ロキ・ファミリア】は、意気揚々と門をくぐったが、市民が彼らを讃えるために集まっているということは特になかった。

 どうやら、オラリオの市民にとって、王国との戦争は片手間で冒険者たちが片付けてくれる日常の延長線上の出来事でしかないようだった。

 

 しかし、ベルたちを待っていた者は一般市民ではないがちゃんとおり、彼らの無事な帰還を迎え入れた。

【ファミリア】の主神ヘスティアと、王国に狙われたため一足先に都市へと帰還していたヴェルフである。

 

「リリ君! ベル君! ヴェルフ君から活躍は聞いたよ! 怪我はないかい!?」

 

 ヘスティア神に抱擁を受けたリリルカは、恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 一方、ベルはヴェルフと互いに握った拳を軽くぶつけ合う、仲良さげな挨拶を交わしていた。

 そして、ヴェルフはベルが口を開く前に、得意げな顔をして言った。

 

「おう。なったぜ、『Lv.2』」

 

「えっ……!? うわあ、ランクアップ、おめでとう!【鍛冶】の『発展アビリティ』は取れたの?」

 

「もちろんだ。これで、ようやく上級鍛冶師(ハイ・スミス)の仲間入りだぜ」

 

「すごい! リリ団長ー。専属鍛冶師が、上級鍛冶師になったよ!」

 

 すると、ヘスティア神の抱擁から抜け出したリリルカが、少し悔しそうにして言った。

 

「先を越されてしまいましたね。しかし、これでヴェルフさんはダンジョンに用は無くなってしまいましたか」

 

「いや、やれるもんなら鍛冶師に専念したいところだが、資金繰りや素材集めの問題があるからな。【力】や【器用】の『基本アビリティ』も上げてえし、今後もたまに、ダンジョンへ同行させてもらっていいか?」

 

「ええ、『Lv.2』が仲間として同行していただけるなら、願ってもないことです。歓迎します」

 

 そういうわけで、専属鍛冶師がランクアップするという吉事と共に、【ヘスティア・ファミリア】は本拠(ホーム)へと帰還するため、足取り軽く東のメインストリートを歩いていった。

 

 ちなみに、ヴェルフがランクアップに至ったのは、戦争中に起こった『クロッゾの魔剣』を巡る事件の解決が、偉業に足ると判定されたからであった。

 戦場での『クロッゾの魔剣』の鍛錬、実父とのやりとり、そして物質破壊能力に特化させた『クロッゾの魔剣』を用いた王国兵への不殺攻撃は、彼を肉体的にも精神的にも成長させたようだ。

 

 そうして、道中でヴェルフや【ロキ・ファミリア】の面々と別れ、久方ぶりに本拠へ帰還したベルとリリルカ。本拠に辿り着いて順番にシャワーを浴びた二人は、一息ついてからヘスティア神から【ステイタス】の更新を受けることになった。

 今回の戦争は十日間続いた。そのため、戦争中に稼いだ『経験値(エクセリア)』をすくい上げ、『基本アビリティ』を向上させようというのだ。

 

 だが、その前に、ヘスティア神はオラリオ側で進んだ『人造迷宮』の攻略状況について話し始めた。

 

「『人造迷宮(クノッソス)』は、『(けが)れた精霊』によって汚染されてしまったそうだよ。オラリオの地下は『精霊の分身(デミ・スピリット)』が生み出した肉の塊に埋め尽くされているんだ」

 

 そんな言葉に、ベルは驚きを露わにした。

 まさかの事態急変。それが、昨日の戦争終盤、ベルが敵本陣を強襲しているときに巻き起こっていたのだとか。

【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の連合は、『人造迷宮』の深部にて『闇派閥の残党』の主神であるタナトス神を見事に追い詰めた。だが、タナトス神を地上に連行しようとしたときに、極彩色の魔石を持つモンスターが大量に襲いかかってきたのだという。

 

 下界に降りた神は死にかけると、『神の力(アルカナム)』が発動してその身を守ろうとする。そして、下界で『神の力』を使った神は、天界に強制送還されてしまう。

 そのとき、神は巨大な光の柱となって、莫大なエネルギーを放出する。タナトス神も、モンスターに殺害されかけ、光の柱となって天界へと消えた。

 

 そのときの莫大なエネルギーを『穢れた精霊』が産み落とした存在である『精霊の分身(デミ・スピリット)』が吸収した。その結果、『精霊の分身』が極彩色のモンスターの苗床としている緑色の肉、それが『人造迷宮』内部で大増殖した。

『人造迷宮』の通路の床や壁面、天井が、醜い肉塊に侵食されてしまったのだ。

 

 タナトス神の捕獲部隊と『人造迷宮』のマッピングを行なっていた捜索部隊は、肉塊の増殖で潰される前に、ギリギリで脱出に成功した。だが、内部にいたであろう『闇派閥の残党』の生死は不明。

 邪神タナトスが送還されたため、おそらくは『人造迷宮』内に居た者たちは全員、『神の恩恵(ファルナ)』を失ってそのまま肉塊に潰されて死亡したと見られている。

 

 (うごめ)く肉塊の壁は、内部に足を踏み入れた者を攻撃してくるのだという。物理的な攻撃だけでなく、魔法すら放つ凶悪さだ。

 そのため、『人造迷宮』の再度の攻略は、困難を極めると見られていた。しかし、『精霊の分身』は苗床から際限なく極彩色のモンスターを生み出すため、このまま放置するわけにはいかない。

 

「だから、リリ君とベル君が怪我を負うことなく『人造迷宮』攻略を完遂できるよう、【ステイタス】を更新しようじゃないか!」

 

 そう言って、ヘスティア神はまず団長のリリルカから【ステイタス】更新作業を始めた。

 更新作業は、上半身裸になる必要がある。そのため、更新作業はヘスティアの神室(しんしつ)で行なわれ、ベルは家のリビングでリリルカの更新作業の終わりを待った。

 しばらくして、ヘスティア神の神室から出てきたリリルカは……上機嫌になっていた。

 

「リリ団長、どうだった?」

 

「あと一息でランクアップ可能だそうですが、『基本アビリティ』を【ロキ・ファミリア】の遠征期限ギリギリまで上げるつもりなので、それはいいです。それよりも、新しい『スキル』が発現していました!」

 

「わっ! おめでとう!」

 

「ふふふ、指揮系の『スキル』でした。戦争で働いた分が、見事に反映された結果でしたね。お師匠様の無茶振りに耐えた甲斐があるってもんです」

 

 王国との戦争ではその指揮の的確さに、【ロキ・ファミリア】だけでなく、他の【ファミリア】からも頼りにされていたな、とベルはリリルカの勇姿を思い出す。終盤に至っては、オラリオ義勇軍の全体指揮みたいなこともさせられていた。

 確かに、新たに『スキル』が芽生えてもおかしくない活躍ぶりであった。

 

「さあ、次はベル君の番だぜ?」

 

 神室から遅れて出てきたヘスティア神にそう言われてベルは神室へと入り、部屋の隅に置かれた一人用のベッドに腰掛ける。

 そして、上着を脱いでから、ヘスティア神が普段使っているはずのベッドにドキドキしながら横たわった。

 

 ベルの尻の上にヘスティアが乗り、彼女は手の指に針を刺して血をにじませる。

 それから、ヘスティア神による【ステイタス】の更新作業が始まった。

 

 ベルは、『Lv.1』になってまだ日が浅い。なので、『基本アビリティ』の伸びは悪くない。

 王国との戦争でも存分に戦い、全身を酷使したため、【魔力】以外の数値が軒並み上昇している。【魔力】に関しては、『白魔道士』というジョブを育てるようになれば問題なく上がるとヘスティア神は見ていた。

 

 そうして、『基本アビリティ』部分の『経験値』をすくい上げ、次に『魔法』や『スキル』を発現させるための『経験値』が貯まっていないか見るヘスティア神だが……彼女は、まさかの事態に驚くことになる。

 

「ベル君、ロキと何かあったのかい……?」

 

「えっ? 戦争が始まってからは、一度も会っていませんけど……」

 

「うーん、じゃあ、これはどういうことだろう……?」

 

「僕の【ステイタス】に何かおかしな点でもありました?」

 

「いいや、おめでとう。新しい『スキル』だ。新しい『スキル』なんだけど。うーん」

 

「えっ、『スキル』ですか!? あっ、もしかして欠点や短所がある条件付きの『スキル』ですか?」

 

「いや、違うよ。名前がちょっと不穏でね。ちょっと待って。スキル名を書いてみるよ」

 

 ヘスティア神が、ベルの尻から一旦降り、部屋に備え付けられている作業机で羊皮紙にペンを走らせる。

 そして、ベッドに横たわるベルの前に、その羊皮紙を突きつけた。

 そこに書かれていたスキル名はというと……。

 

聖魔抜剣(ラグナロク)】。そんなベルの少年心を刺激するスキル名であった。

 

「うわー、格好良い!」

 

 喜ぶベルだが、ヘスティア神はというと、とんでもないといった様子で彼に言った。

 

「いやいや、『ラグナロク』といったら、ロキが天界で画策していた『神々の黄昏』……『神々の殺し合い』の計画名だよ!」

 

「あっ、そうなんですね。……いえ、この名称は多分、それのことではないですよ」

 

 ロキ神から『神血(イコル)』を受けたわけでも、ロキ神と一緒の日々を過ごしたわけでもないベルが、ロキ神由来のスキルに目覚める理由はない。

 そしてベルは、この『ラグナロク』という名称に心当たりがあった。

 

「あっちの世界、イヴァリースに、《ラグナロク》っていう剣があったんですよ」

 

「ええっ、ずいぶんと物騒な名前の剣だね」

 

「そうですか? ちなみに、悪魔の一体を倒したときに手に入れたんですが……向こうの伝承では、『世界の終焉に現れる騎士剣』と言われています」

 

「うーん、剣の名前かぁ……。ちなみに、ボクたちの間での『ラグナロク』はロキが名付けた固有名詞じゃなくて、もともと天界の言葉で『神々の滅びの運命』を意味するんだ。だから、ロキ本人とは本来、無関係ではあるんだけど……」

 

 ヘスティア神は、何かを考え込むように「うーん」と(うな)り、そして言葉を続けた。

 

「ロキの画策していた『神々の黄昏』と、『世界の終焉に現れる剣』。奇妙な符合だねぇ」

 

「《エクスカリバー》にも劣らない強力な剣でしたから、それが印象深くてスキル名にまでなったのかもしれません」

 

「うん、眷族の心境が、スキルや魔法として現れることは、しばしば起きると聞くからね。まあ、ロキとは無関係ってことだね! 安心したよ!」

 

「ちなみに、スキルの詳細はどんなものですか?」

 

「おおっと、ちょっと待っておくれ。書き写すよ」

 

 ヘスティア神はベルの目の前に置かれた羊皮紙を手に取り、彼の背に刻まれた【神聖文字(ヒエログリフ)】を共通語(コイネー)に翻訳していく。

 そうして、ベルの前に再びスキルの詳細が書かれた羊皮紙が置かれる。

 

聖魔抜剣(ラグナロク)

 ・全剣技をチャージする。

 ・チャージした全剣技の威力上昇。

 ・チャージした聖剣技の状態異常発生率上昇。

 ・チャージした剛剣の物質破壊能力上昇。

 ・チャージした暗黒剣の範囲拡大、隣接した仲間への効果還元。

 

「チャージ……」

 

 羊皮紙を見つめながら、ベルはそんなことをポツリとつぶやいた。

 まさかの『全剣技』専用の『スキル』に、ベルは驚きを隠せなかった。

 

 そんなベルのつぶやきに、ヘスティア神が反応する。

 

「チャージはこの場合『力を溜める』という意味だろうね。ベル君の【幻想残滓(ファイナルファンタジー)】の『アクションアビリティ』にも『チャージ』があったね」

 

「ええ、基礎的な攻撃動作を溜め撃ちする『弓使い』の技ですね」

 

「これ、間違いなく、『レアスキル』だよね……」

 

「この世界で僕しか使えない、『全剣技』専用の『スキル』ですから、そうなりますね」

 

「はー……。強そうなことしか書いていないね……」

 

「そうですねぇ」

 

「とりあえず……扱いはロキに丸投げしようか」

 

「……いいんですか、それ」

 

「ボクは『従属神』だからね! 難しいことは、上司に投げるに限るよ!」

 

 下界でのアルバイト生活に慣れてしまった、ヘスティア神。彼女は『上司に丸投げ』という必殺技をいつの間にか覚えていた。

 

 ちなみに、天界でのやらかしの名が付いた『レアスキル』の話を聞いたロキ神はというと……恥ずかしがるでもなく、ただその場で大笑いしたという。

 




第三章前半部は以上で終了です。
このまま第三章後半部も一日一話ずつの更新で続きます。
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