ダンまちTACTICS   作:Leni

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34.大神ゼウス

 迷宮都市オラリオから冒険者が外に出るには、煩雑(はんざつ)な手続きが必要だ。

 先日まで繰り広げられていた王国との戦争の最中は、比較的出入りが楽になっていた。だがしかし、戦争はすでに終わり、戦後処理が始まっている。

 そのため、ベルが港町へ行くには、ギルドへの申請が必要であった。

 

 さらに、ベルと同行する二名の【ロキ・ファミリア】のメンバーも問題であった。

『Lv.6』、アイズ・ヴァレンシュタイン。同じく『Lv.6』、ティオナ・ヒリュテ。高い『Lv.』を誇る戦力、それも第一級冒険者だ。彼女らを都市の外へと出すことに、ギルドは問題視した。

 だが、そこでフィンが『エニュオ』の狙いであるオラリオ崩壊のシナリオを説明すると、ギルドの上層部は手の平を返したようにベルたち三人に外出許可を与えた。

 

 自分たちの足下が丸ごと吹っ飛ぶような大惨事は、彼らも避けたかったのだろう。

 

 そうして、オラリオから出て、そのまま走って港町(メレン)へとやってきた、ベル、アイズ、ティオナの三人。

 ちなみに、あの書庫にいたうちの半数の女子がいないが、ティオネはフィンのもとを離れたくないとティオナに任務を丸投げし、春姫は『Lv.1』のため三人の全速力についていけないとして辞退し、レフィーヤは現在、冷静さが欠けているとしてフィンに止められた。

 

 メレンは、海と繋がる汽水湖(きすいこ)に存在する漁業の町であり、世界中から船が集まる貿易港でもある。

 当然、港は巨大で立派なものであり、行き交う人々も多い。

 そんな中、ベルは用意してきたメレンの地図を片手に、大通りを進む。やがてベルたち三人は、一軒の店の前へと辿り着いた。

 

「……喫茶店?」

 

 アイズは、ゼウス神が滞在しているという店の外観を見て、そんな感想を漏らした。

 店の外観は、オラリオにも存在しているシックな見た目の喫茶店のもの。看板には共通語(コイネー)で『ドドネカフェ』との文字がつづられていた。

 だが、そんなアイズの反応に、ベルは困ったような顔を返す。

 

「喫茶店と言えば、喫茶店らしいんだけど……ちょっと変わった店で」

 

 入ってみれば分かる、とベルは二人の少女たちを促して、順番に店のドアをくぐった。

 そして、ベルたち三人は、すぐに複数の店員たちに迎えられた。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様!」

 

 それは、見目麗しい女性店員たちだった。しかも、ただの店員ではない。全員が、使用人の制服として天界の神々が大昔に伝えたとされる、メイド服を着用していた。

 そう、ここは、ゼウス神が経営する『メイド喫茶』なのだ。

 

 完全な異文化に、目を白黒させるアイズとティオナ。

 一方、店員のメイドたちはというと、こちらも訪ねてきた客の顔を見て、目を白黒させた。

 

「まあ、この御方、オラリオの【剣姫】よ!」

 

「では、こちらはもしや【ロキ・ファミリア】の【大切断(アマゾン)】?」

 

「あっ、こちらのご主人様、この前、情報誌で見た、お館様のお孫様よ!」

 

「キャー! わたくし、お孫様のファンなんです!」

 

 一瞬で、メイドとしての(うやうや)しい態度を崩す店員たち。

 すると、店内にいた客たちも何事かと店の入口へと振り返り、まさかの有名人の来訪に度肝を抜かれて大騒ぎを始めてしまった。

 

 それから、しばらく騒ぎは続くが、やがて一人の麗しい女性の「静まりなさい!」という一喝で店員と客たちは大人しくなった。

 

「だ、団長、すみません……」

 

「メイド長、でしょう?」

 

「あっ、はい、メイド長!」

 

 そんなメイドたちのやり取りに、ホワーっとした顔で呆けるアイズ。

 一方、ティオナはベルに向けて、頭に浮かんできた疑問をぶつけた。

 

「ねえねえ、ベル君。ここって、喫茶店でいいのかな?」

 

「『メイド喫茶』っていう、店員がメイドさんをしているお店だよ。お祖父ちゃんが経営している、商業系派閥(ファミリア)なんだ」

 

「あはは、なんで店員がメイドなんだろう!」

 

「ほら、使用人ってお金持ちしか雇えないよね? でも、この店に来ると普通の人でもメイドさんに主人扱いしてもらえて、お金持ち気分が味わえるらしいんだ」

 

「なるほど! 人気出そう!」

 

「オープンしたばかりだけど、盛況みたいだね……」

 

 ベルは、興味深げにベルたちの方を見てくる男性客たちを眺めながら、そんなことを言った。

 それから、ベルはあらためてメイド長と名乗った新生【ゼウス・ファミリア】の団長に挨拶を受ける。

 

「お孫様、おかえりなさいませ。お戻りを我々一同、お待ちしておりました」

 

「は、はい……今日は、お祖父(じい)ちゃんと会いたくて、オラリオからやってきました。急ぎだったので、面会予定は入れていないんですけど……」

 

「なるほど。では、奥の個室にご案内します。お館様を呼んでまいりますので、実家に帰ってきたつもりでおくつろぎください」

 

 そうして、ベルはメイド喫茶『ドドネカフェ』のVIP席である個室に案内された。

 アイズとティオナと共に紅茶を飲みながら、個室に待機したメイド長と雑談をしてゼウス神の訪れを待った。

 

「ねえねえ、この喫茶店の店員って、全員、神ゼウスの眷族なのかな?」

 

 ティオナが、屈託のない笑顔でメイド喫茶の内部事情に踏みこむ。

 すると、メイド長は嫌な顔一つせず、素直に答えた。

 

「はい。お館様より、全員が『神の恩恵(ファルナ)』を受けております」

 

「神ゼウスって、神ヘラっていう女神に執着されているって聞いたことがあるよ。神ゼウスの周りに女の子の眷族がいっぱいいる状況って、危なくないの?」

 

 ティオナの単刀直入な質問に、メイド長は微笑みを返す。

 

「わたくしたちは、皆がメイドです」

 

「うん、メイド服が喫茶店の制服なんだね。画期的だよねー」

 

「いえ、違います。わたくしたちは、喫茶店の店員ではなく、メイドなのです」

 

「……うん?」

 

「メイドは、館の使用人です。お館様の家族でも、妻でも、愛人でも、情婦でもありません」

 

「あー……」

 

「つまり、お館様に懸想(けそう)なさる女神様がいらっしゃっても、わたくしたちは、どうぞどうぞと、そのままお通しするまでです」

 

「あはは! なるほど!」

 

 そんなティオナとメイド長のやり取りを黙って見守っていたベル。

 だが彼は、家族ではないという部分は嘘なんだろうなぁ、などと思いながら、紅茶をのんびりと飲むのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 しばらくしてから、個室にやってきたゼウス神。立派な体格を持つ老人の姿をした、男神である。

 彼はベルとの再会を喜び、そして『戦争遊戯』とラキア王国との戦争での活躍に触れ、よくやったとベルの頭を子供時代のように強く撫でた。

 完全に子供扱いされたベルだが、全くもって嫌そうな顔を見せていない。それをメイド長は、慈母のような微笑みで見つめていた。

 

 そして、ゼウス神はベルが連れてきた二名の女性に目を向ける。

 

「ベルよ。早速、恋人を紹介しに来たのか。なかなかやるじゃないか」

 

「えっ、いや、違うよ!? この人たちは、お祖父ちゃんに聞きたい話があるから、連れてきたんだ」

 

「チッ、まだ手を出してないのか。据え膳食わぬは男の恥だぞ」

 

「そういう関係じゃないからね!?」

 

 と、そんなやり取りをしてから、あらためてアイズとティオナはゼウス神に自己紹介をした。

 もちろん、【ロキ・ファミリア】所属ということも、しっかり明かした上でだ。

 しかし、ゼウス神は全く気にした様子も見せずに、むしろ美少女である二人に鼻の下を伸ばす始末であった。

 

「で、お祖父ちゃん。聞きたいことがあるんだ」

 

「ん? ああ、言ってみろ。話だけなら聞くだけ聞いてやる」

 

 そうして、ベルはここまでの経緯を詳しくゼウス神に話し始めた。

『穢れた精霊』、『人造迷宮』、『邪神の送還』、『都市の破壊者(エニュオ)』、そして『ニーズホッグ』と『精霊の六円環(ろくえんかん)』についてだ。

 

 一通り話終わったあと、ゼウス神は深々とため息を吐いた。

 

「相変わらず、騒がしい街じゃねえか、オラリオは」

 

「それで、お祖父ちゃん。『精霊の六円環』について、詳しい話を聞きにきたんだ」

 

「ふむ……」

 

 ゼウス神は、その場でそのたくましい腕を組み、少しだけ考え込んでから答える。

 

「『精霊の六円環』の発動には六精霊による詠唱の他にも、膨大な魔力が必要だ」

 

 いきなり核心に迫る発言に、アイズとティオナが期待の目を向ける。

 それにゼウス神は気を良くしながら、さらに続けた。

 

「大気中から少しずつ『魔素』を集めているだろうが、どうしても時間はかかる。手っ取り早く魔力を集めるには、三つの方法が考えられるな。人の生命力と、人の精神力(マインド)、それとモンスターの魔石、それぞれの吸収だ。地下で全滅したという『闇派閥(イヴィルス)の残党』とやらは、『精霊の分身(デミ・スピリット)』にとって、格好の餌だったろうな」

 

 邪神タナトスの急すぎる送還で、【ステイタス】を封印された『闇派閥の残党』は、『人造迷宮』内で増殖した肉塊に潰されたと見られている。

 そして、ゼウス神は、その潰された者たちが『精霊の分身』に精神力ごと取って食われたと主張しているのだ。

 

「『神酒』で酔わされてたというペニアのババアと【ディオニュソス・ファミリア】の面々も、精霊の生贄となる予定だったのだろうな。これを防げたのは大きいぞ。おそらく、それでいくらか猶予はできたはずだ」

 

 真面目なゼウス神の言葉に、ベルは尊敬の目を向け、アイズとティオナは感心している。

 

「それでも時間と共に魔力は集まっていく。潰すなら、早くせんといかんぞ。なにせ、オラリオの全てを吹き飛ばす一撃だ。六体の精霊を全力で叩け」

 

 ゼウス神のその言葉に、ベルはうなずく。

 そんなベルに向けて、ゼウス神はさらに言葉を続けた。

 

「……と、敵は思考を誘導してくるだろうな」

 

「えっ」

 

 まさかの言葉に、ベルは驚きの声を返してしまう。

 

「『精霊の分身』は、六体しかいない? なぜそう決めつける。まだいるかもしれんぞ」

 

 そんなゼウス神の主張に、アイズが反論するように言った。

 

「『人造迷宮』には、『精霊の分身(デミ・スピリット)』になる『宝石の胎児』を育てる、七つの大型容器(フラスコ)が、ありました」

 

「『精霊の分身』のうちの一体は、私たちの仲間がもう倒したよ!」

 

 ティオナも、アイズに追従するようにそう言う。

 しかし、ゼウス神はそんな二人の態度を鼻で笑う。

 

「おいおい、お嬢ちゃん。その『宝石の胎児』の生産場所が、どうしてその一ヶ所だと決めつける? どうして大型容器は一回ずつしか稼働していないと決めつける?」

 

「!? それは……」

 

 ゼウス神にそう指摘され、アイズは言葉に詰まってしまう。

 そんなアイズに、ゼウス神はさらに畳みかけるように言った。

 

「六体の『精霊の分身』でオラリオをぶっ飛ばす。まあ、ディオニュソスはやれるならやるだろうな。だが、そこまで見抜かれることまで、『都市の破壊者(エニュオ)』なんて名乗って暗躍しているつもりの、あのクソ陰険野郎は利用してくるぞ」

 

 ゼウス神はディオニュソス神やヘスティア神と同じ、天界の天神峰(オリンポス)出身だ。ディオニュソス神の正しい性格も把握しているようだった。

 

「『エニュオ』は、なにを、してくる?」

 

 アイズがゼウス神に尋ねると、彼は素直に「分からん」とだけ答える。

 だが、それは無責任な思考の放棄ではなかった。

 

「一つ言えるのは……何が起きても対処できる心構えを持て、だな。相手はこれをやってくるはずだ、なんて決めつけて構えているやつほど、策士にとっては罠に()めやすいもんだぜ?」

 

 すると、話を聞いていたティオナが、目を輝かせて叫ぶ。

 

「なるほど! すごい! さすが元最強派閥の主神だね!」

 

「ははは! だろう、だろう!」

 

 ティオナにおだてられ、ゼウス神は気を良くして笑った。

 それから、ゼウス神はベルにもう一度目を向けて、彼に向けて言う。

 

「ま、一応、ウラノスにも確認を取ってくれ。あいつもディオニュソスと同郷だ。どれ、紹介状を書いてやろう」

 

「お祖父ちゃん、ありがとう」

 

「なに、仕送りの礼だ。それに、バベルが吹き飛ぶのはさすがにヤベエからな」

 

 ダンジョンの蓋である、オラリオ中心部の長大な塔、バベル。これが消滅し、オラリオが滅んでしまえば、世界は再び混沌とした時代が訪れてしまうだろう。

 それを防ぐために、こうしてゼウス神が助言をしてくれた。

 ならば、後は自分たちの力で、『都市の破壊者(エニュオ)』の企みを止めてみせる。

 

 ベルは、祖父が紙にペンを走らせる様子を見ながら、そう心に固く誓うのであった。

 




・新生ゼウス・ファミリア
全員オリキャラのメイドさんなので、ネームドはいません。
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