ディオニュソス神が勝利宣言とも取れる言葉を告げた、次の瞬間。
『
すると、彼女の前に展開していた【ヘルメス・ファミリア】の面々がなすすべもなく吹き飛ばされる。
「うおっ」
まさかの一撃に、ロキ神は思わず驚き声を上げてしまう。
「ははははは! 残念だったな! フィルヴィスは、【剣姫】を相手しているであろうレヴィスよりも格上だ!」
先ほど『魔城』内部でアイズが倒したレヴィスは、『Lv.6』の上位か『Lv.7』の下位ほどの力を持つと、フィンが推測していた。
それより格上となると、『Lv.7』相当の力があることは確実。ここにいる【ヘルメス・ファミリア】では、太刀打ちできる相手ではない。
「くっ!」
悔しそうに、うめき声を上げるロキ神。
そんな彼女をディオニュソス神が、先ほどのお返しとばかりに笑った。
「ハハハハハ、とんだ道化だな、ロキィ!」
「そうやな……クソジジイの言うとおりやったわ。何が起きても対処できる心構えは大切やな」
そんなことをロキ神が言った次の瞬間。『怪人』フィルヴィスに突進する者が現れた。
それは、吹き飛ばされた【ヘルメス・ファミリア】の面々ではない。
不意打ちとばかりにフィルヴィスへと攻撃を加えた者は、一人の巨漢。
オッタルの一撃で、外壁から吹き飛ばされ、オラリオの外へと落ちるフィルヴィス。
すると、手に持った大剣を構え直したオッタルは、無言で自身もオラリオの外壁から飛び降りた。
その一部始終を目の前で目撃することとなったディオニュソス神。彼は、呆然とした様子で言った。
「なぜ、【
【猛者】。オラリオで最強と言われている、『Lv.7』の冒険者。
オラリオ最大派閥は【ロキ・ファミリア】ではなく【フレイヤ・ファミリア】であるとする声がある。その理由も、彼がオラリオの冒険者たちの中で、突出した実力を持つが故であった。
そんな規格外な存在の登場に、ディオニュソス神は動揺を隠せない。すると、彼と相対するロキ神が、苦い顔をして言った。
「アホか。オラリオを吹き飛ばすなんて事態に、いくらフレイヤでも、だんまり決め込むわけがないやろ」
「違う! なぜ【猛者】がここにいるのだ! フレイヤの派閥は、『
「もちろん、『
現在、『精霊の分身』のうち三体は、【フレイヤ・ファミリア】のヘディン・セルランドが討伐しようと、指揮を続けている最中である。
しかし、その指揮下には、オッタルはいない。
「肝心なところでとんずらここうって神が、手もとに最大戦力を確保しておくって予想は、当然つけるやろ。だから、こっちも最大戦力をぶつけた。それだけや」
ロキ神は、外壁から下を見下ろし、オッタルとフィルヴィスの戦いを眺めた。
オラリオ最強の『Lv.7』。それが、『怪人』を追い詰めていく。
無限にも思える再生力を見せる『怪人』の身体。だが、オッタルはそれを気にも留めず、ひたすらに攻撃を加えていく。
そして。
「ふむ、やはり魔石を
モンスターと共通の『怪人』の弱点を看破したオッタルは、その場で大剣を力強く構えた。
そして、次の瞬間、彼は光り輝く『飛ぶ斬撃』を放った。
その一撃は、離れて様子見をしようとしていたフィルヴィスの胸を深く切り裂く。
胸部で輝いていた極彩色の魔石を破壊されたフィルヴィス。
彼女は、魔石を失ったモンスターと同じ末路を辿る。すなわち、肉体が全て灰の山へと変わったのだ。
「……いや、強すぎやろ、オッタル」
戦いを任せたロキ神も、こうあっさり決着がつくとは思っていなかったのか、そんな突っ込みを入れた。
そして、あらためて一柱だけになったディオニュソス神へと向き直る。
「で、頼みの護衛がいなくなったで。自分、どうするん? まあ、天界への送還しか道は残されておらんけどな」
対するディオニュソス神の反応は……歪んだ笑みであった。
「完敗だ、ロキ」
それは、笑い顔とは正反対の内容。
「大人しく、下界を去るとしよう。だが、一つだけ教えてくれ。私の敗因は、なんだった?」
「んー、ヒントを残した舐めプ……と言いたいところやが、違うなぁ。自分は、ある要素を盤面から見落としていたんや」
「……ほう?」
「自分が今回の計画を練り始めたのはいつからかは知らん。でも、一年や二年っちゅう話やないやろ。だけどな。下界は、新しい駒が次々と盤面に登場するんや。で、最近、盤面に登場した駒というと……」
「まさか、ヘスティアか!」
「正確には、【ヘスティア・ファミリア】全体やな。天界での自分を知るドチビの降臨、そのドチビの眷族になった超弩級の新人。どっちも自分、見落としていたやろ?」
「私は、未知の要素に破れたのか……!」
「そうや。下界に降りるうちら神々が切望するものであり、オラリオの破壊に躍起になっていて自分が軽視していたであろうもの。下界の未知が、自分の敗因や」
「ハハ、ハハハハハ! これから天界に還る私には、もう関係のない敗因だな! 全く参考にならん!」
ディオニュソス神は、そう愉快そうに笑って、その場でフラリと動く。
そして、懐から一本の短剣を取り出すと……勢いよく己の喉に突き刺した。
その次の瞬間、自殺を図ったディオニュソス神を死なすまいと、彼の『
彼の周囲に光の玉が浮かび上がり、神の肉体を癒やそうと『神の力』が光となって瞬いていく。
「うおっ、ヤバいで!」
「みんな、急いで離れろ!」
ロキ神とヘルメス神が、背後に振り返り、ダッシュで駆け出した。
それからわずかに遅れて、起き上がっていた【ヘルメス・ファミリア】のメンバーが、主神を追うように駆け出し、主神とロキ神の身体を抱え、高速で駆けていく。
そして、その背後で、光の柱が天へと立ちのぼる。『神の送還』である。
莫大なエネルギーは、ディオニュソス神が最後に立っていたオラリオ外壁を見事に破壊し、ギルドを悩ませるであろう最新の出入り口を作り上げた。
◆◇◆◇◆
オラリオの外壁は壊れたが、『怪人』フィルヴィスは死に、『エニュオ』は天に還った。
光の柱が収まるのを待ったロキ神は、オラリオの外から壊れた外壁を通ってオラリオ内に帰還しようとしているオッタルを見つけ、声をかける。
「おう、おつかれ。わざわざすまんなぁ」
「いや、いい糧となった」
「かーっ、うちらもまだ『Lv.7』がいないちゅーのに、一足先に『Lv.8』になるとか勘弁な!」
「さて……」
そう短く言い残し、オッタルはオラリオへと入り、大剣を背負ってオラリオの中心、バベルへと帰還していった。
ロキ神も、ひとまず自分の役割を終えたと息を吐く。そして、フィンに状況を伝えるべく、携えていた『
こうして、世界中で『狂乱の戦譚(オルギアス・サガ)』と語り継がれることになる、オラリオの総力を挙げた戦いは、ここに終わりを告げた。
邪神タナトス率いる『
しかし……。
「おう、フィン、おつかれー。『エニュオ』の送還完了やで」
『ああ、地上部隊から光の柱の報告を聞いているよ。こちらも、なんとか『精霊の分身』を全て討伐し終えた。でも、戦いは終わっていない』
「そうやなー。まだ肝心の、『穢れた精霊』本体が残っておるからな」
『いや、そうじゃない。今回の戦いは、どうやらもう少し続くみたいだ』
「はあ? まーだ、何かおるんか?」
『【ヘスティア・ファミリア】一行が、『闇派閥の残党』を見つけて、現在、追跡中だ。相手は、どうやら『人造迷宮』からダンジョンの第18階層に脱出して逃げだしたようだね』
「ん? 残党って、タナトスはもうおらんやろ」
『どうも、どこかの神が残党の一部を確保していた可能性があるね。話によると……【ヘスティア・ファミリア】の補佐に入っていた【疾風】が、ジュラ・ハルマーという『闇派閥』の男を発見したようだ』
「ジュラ・ハルマーっちゅうと……【疾風】のいた【アストレア・ファミリア】を壊滅させたとこの所属やったか?」
『ああ、ギルドの記録では、ジュラ・ハルマーは死亡扱いとなっていたはずだ。まあ、ヴァレッタ・グレーデの生存とかも考えると、『闇派閥』は誰が死んで誰が生きていたかなんて、あてにはならないけどね』
「フィン、どうするつもりや?」
『後を追いたいところだが、『精霊の分身』との激戦で皆、深く傷付いている。今すぐ出せる人員は、正直いない』
「む……。ドチビんとこに任せてええと思うか?」
『……親指がうずく。放置すると、とんでもないことが起きそうだ』
『
以上で第三章『人造迷宮』編は終了です。執筆期間をしばらく置いた後、次章『深淵の迷宮』編に続きます。