ダンまちTACTICS   作:Leni

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FFTイヴァリースクロニクルズの『エンハンスド』をクリアしたため、勢いで新章の一話目だけ載せます。
また、既に投稿済みの話の微修正を行ないました。暫定的に『獅子戦争』に合わせていたところを『エンハンスド』に沿った内容に変えています。
主な修正点は、第一話のクラウドの出自変更と、ベルくんの『レアスキル』の編集画面の用語変更。ストーリーへの影響は全くないので、読み直す必要はありません。


第四章『深淵の迷宮』編:逆巻く冒険譚
38.下へ下への急降下


 ベルの活躍により、オラリオの冒険者を壊滅させるという『エニュオ』の企みは阻止された。

 だが、戦いはまだ終わってはいなかった。

 

『魔城』と化した『人造迷宮(クノッソス)』。その奥に潜んでいた邪竜を無事に討ち果たし、地上へと帰還しようとしていたベルたち一行。その前に、突如(とつじょ)、モンスターが現れたのだ。

 それも、ただのモンスターではない。ダンジョンの『下層』、『密林の峡谷』にいるとされる四つ足の凶悪なモンスターだ。しかも、モンスターだというのにベルたち冒険者を襲ってこず、遠巻きに彼らを見つめるだけだった。

 

 何事か、と騒ぐベルたちに同行していた数人の【ロキ・ファミリア】のメンバー。

 だがしかし、そこで一人の冒険者が、モンスターの上に人が乗っていることに気付いた。目撃した冒険者は、【ヘスティア・ファミリア】の団長リリルカが連れてきた、派閥外の人間。『戦争遊戯』の際にも、リリルカの求めに応じて助っ人にやってきてくれた覆面のエルフだった。

 

「あれは……『闇派閥(イヴィルス)』!」

 

 助っ人エルフのその言葉に、ギョッとする一同。『闇派閥(イヴィルス)の残党』と呼ばれる存在は、ほぼ壊滅したはずだった。

 多くが討ち取られるか、捕らえられるか、『魔城』に飲みこまれるかしており、彼らを率いる邪神タナトスも天界に還っている。

 

「なぜ生きて……くっ、逃げるな!」

 

 モンスターの上に乗っている者は、冒険者風の猫人(キャットピープル)の男であった。

 だが、覆面のエルフ、リュー・リオンは知っている。あの猫人の男はかつての『暗黒期』にて、悪行の限りを尽くした『闇派閥』に所属していた人物だと。

 そして、リューは思い出す。あの男は、すでに殺したはずだった。かつて自ら討ち取ったはずの男に向けて、リューは叫ぶ。

 

「待てッ! ジュラァアアアッ!」

 

 かつての『闇派閥』の男、ジュラ。彼は、『下層』の獣の上で鞭を振るい、まるでリューをあざ笑うかのように獣を蛇行させ、魔城の奥へと進んでいく。それをリューはとっさに追い、あわててリリルカ、ベル、そして【ロキ・ファミリア】の面々がそれをさらに追い始めた。

 

 だが、相手が乗るのは『下層』でもっとも足力に優れた獣型モンスター。

 そこらの上級冒険者では追いつけない速度で駆けていく。

 

 それを追うリューはさすが『Lv.4』といったところか。だが、この中で唯一の『Lv.1』であるリリルカが、露骨に遅れだした。

 

「あああああ、待ってください!」

 

「ここは僕に任せて! リリ団長は他のメンバーと合流して!」

 

 同じく『Lv.1』ながら、足力にすぐれたベルが、リリルカに振り返りながらそう言う。しかし。

 

「ダメです! 明らかに『闇派閥の残党』の罠です! 頭に血が上った彼女と、お馬鹿のベルさんだけに任せるわけには! ええい、もう!」

 

 リリルカは全速力で走りながらそう叫ぶと、愛用の槍と通信用の魔道具(マジックアイテム)以外の全ての荷物をその場に捨て始める。そしてなんと、身軽になった途端、並走するベルの背中に飛び乗った。小柄な小人族(パルゥム)の少女だからこそできる、まさかの他人任せ。

 その意味を感じ取ったベルは、背負ったリリルカを振り落とさないようにしながら、前方を走るリューを追った。

 

「くっ、重い……!」

 

「ちょっとベルさん!? リリは重たくないですからね!? 槍が! 槍が重いんです!」

 

 そんな間の抜けたやりとりを交わしながら、ベルとリリルカは【ロキ・ファミリア】のメンバーを少しずつ引き離しながら、リュー、そして『闇派閥』の男を追い続けるのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ジュラ・ハルマーは五年前、【ルドラ・ファミリア】に所属していた。

 二つ名は【奴隷猫(スレイバーキャット)】。奴隷のような扱いを受けていた、わけではない。彼は逆に人身売買を行なう側の存在であった。

 彼が所属していた派閥は、いわゆる『闇派閥』だった。

 オラリオの『暗黒期』の頃には、彼も様々な悪事に手を出して己の欲望を満たしていた。

 

 だが、世に悪が居れば、正義が生まれる。

 リュー・リオンが所属する【アストレア・ファミリア】はまさにその正義の派閥で、【ルドラ・ファミリア】の企みをリューたちは幾度も挫いていた。

 それを邪魔に思った【ルドラ・ファミリア】は、今から五年前に【アストレア・ファミリア】をダンジョンの30階層で襲撃。結果は、両者痛み分け……いや、両者全滅で終わった。

 

 現在、『下層』のモンスターを繰るジュラには、片腕がない。

 彼はかつてリューによって切り落とされ、永久にその右腕を失っていた。さらには、猫人の特徴である頭頂部の耳も片方削がれている。それらの傷を負った日から、ジュラはリューへの復讐を誓った。

 

 だが、彼に復讐の機会は巡ってこなかった。

 復讐を遂げたリューが冒険者を辞め、罠を張りやすいダンジョン内へと入らなくなったのだ。

 それどころか、ようやくリューの居場所を突き止めたと思ったら、【フレイヤ・ファミリア】の元団長が経営する酒場で働いている始末だ。とても、復讐のための襲撃ができるような状況ではなかった。

 

 それが、今回。どういうわけか、『魔城』の攻略に、正体を隠したリューが参加していた。

 ゆえに、ジュラは動いた。心の奥底から湧き上がる復讐心を満たすために、リューを罠に嵌めようと。

 

 一方、リュー・リオン。彼女は、かつて討ち取ったと思っていたジュラが生きていたと知り、今度こそ息の根を止めようと全力で彼を追いかけていた。

 

 彼女が所属していた【アストレア・ファミリア】は、リューを残して全滅した。その主犯が、【ルドラ・ファミリア】だった。

 その悲劇の事件から生き延び、地上に帰還したリューは、復讐を開始した。

『闇派閥の残党』を陰ながら討ち取って行き、さらには彼らに関与した商人やギルドの職員まで殺して回った。

 その結果、ギルドのブラックリストに載り、賞金首にまでなった。

 

 その後は、オラリオを去るでもなく、ギルドに自首するでもなく、彼女はやるべきことを失ったまま酒場で働く日々を送っていた。

 そんなある日、リューは一人の小人族を裏路地で拾った。

 リリルカ・アーデという、少女だ。彼女は自身の所属する派閥のメンバーに虐げられており、生まれついての悲惨な環境に囚われていた。

 

 失われていたはずの正義の灯火が、リューの心に宿った。

 そして、リリルカを拾ったときに偶然居合わせていたヘスティア神と協力して、リリルカを彼女の派閥から解放することに成功。その事件を通して、まるで怪我や病気のリハビリをするかのごとく、リューの正義の心は再び研ぎ澄まされていった。

 

 リリルカとの縁から『戦争遊戯(ウォーゲーム)』、そして今回の『魔城』攻略戦に参加したリュー。

 誰かのために、人々のために、戦う。その素晴らしさを思いだしかけていた彼女。

 だがしかし、ここにきて【ルドラ・ファミリア】の残党であるジュラ・ハルマーの姿を見て、彼女の心は再び復讐心で埋め尽くされた。

 

 派閥の仲間たちの憎き仇。

 彼を今度こそ討つために、リューは『魔城』の奥へと進んでいく。その先に、罠が待っているとも知らずに。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「こちら、『魔城』を突破し、現在ダンジョンの中! 景観からして、おそらくは18階層! リヴィラの街の近辺と思われます!」

 

 リューを追って走るベル。その背中にはリリルカがいて、『眼晶(オクルス)』を用いて『魔城』内にいるフィン・ディムナに現状の報告を行なっている。

 ここまでのリューの言動をリリルカが報告した結果、リューが追う相手は元【ルドラ・ファミリア】のジュラ・ハルマーだと導き出された。フィンはオラリオでも古株で、『闇派閥』とも戦った過去があるのだ。

 そんな彼曰く、ジュラ・ハルマーは『調教師(テイマー)』。モンスターを従える、特殊な技能持ちだという。

 

 だが、彼の五年前の実力では、今、彼が乗りこなしているモンスターは、従えることはできないはずだった。フィンからはそう返答が来た。

 

「やっぱり罠があるじゃないですかぁ……」

 

 弱音を吐くように、リリルカがベルの背中で(なげ)く。

 

 こちらの人員は、リューとベル、そして『Lv.1』のリリルカ。【ロキ・ファミリア】のメンバーが数名いるのは頼もしいが……ジュラ・ハルマーが誘導している先に待っている何か次第では、その戦力でも心許なかった。

 

「うーん、【聖魔抜剣(ラグナロク)】のチャージをしながら走れればよかったんだけど……正直、走るだけでいっぱいいっぱいで無理そうだ」

 

 リリルカと、彼女が持つ重たい総金属の槍という、二つの荷物を背負うベル。だが、それは特に走るベルの負担にはなっていない。彼の数値上の【ステイタス】は駆け出し冒険者のそれだが、その実態としては『Lv.6』なりたての冒険者に迫るものがあった。

 

 しかし、今の彼には、リューを全力で追う以外に何かをする余裕はなかった。

 初めて訪れた『中層』の環境が、彼の前に立ちはだかっているのだ。要するに、ベルはオラリオのダンジョンを走り慣れていないのだ。

 

 もし【聖魔抜剣】が使えたら、敵が足を止めて罠を発動しても、罠ごと食い破れる可能性はあった。

 だが、現実はそう上手くいかないものだ。

 よって、ベルは難しく考えることをやめ、頭脳担当のリリルカの負担を和らげる走りに努めた。

 

 その後も、ジュラ・ハルマーとリューの追走劇は、階をまたいで行なわれた。

 安全地帯である18階層の中央樹を下り、19階層『大樹の迷宮』へ。

 すると、そこからはなぜか不自然に空いた地面の穴から、下の階へ下の階へと飛び降りていく。

 

 不気味だ。ダンジョンのこの階層に、都合よく穴など空いているはずがない。少なくとも、ベルの知識の中には、『大樹の迷宮』にショートカットできる穴などなかった。

 

『『ラムトン』だ』

 

 そこで、ベルの背中からフィンの声が響いてきた。

 

『『ラムトン』は、ダンジョンの階を移動する『深層種』のモンスターだ。正式名は『ワーム・ウェール』。巨大な蛇のモンスターで、ダンジョンの天井や床を穿孔して、階層を行き来する、危険な存在だ。少なくとも、この先でその『ラムトン』が待ち受けている前提で、覚悟をしておくんだ』

 

『深層種』。その言葉を聞いて、ベルの背後でリリルカが息を飲んだ。

 少なくとも、敵の手札は二つ。ジュラ・ハルマーが駆る四つ足の獣型モンスターと、巨蛇型モンスターのラムトンこと、『ワーム・ウェール』。その二体との戦いとなることは、ほぼ確実になった。

 リリルカは、揺れる視界の中、必死で待ち受けているであろう罠と、その打開策を練り始めた。

 

 やがて、ダンジョンの穴は終わりを告げ、ベルとリリルカは、拓けた場所へと降り立った。

 

「うわ、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』が見えます……25階層『水の迷都(みずのみやこ)』です。うわあ、リリ、この状況で初めて『下層』に来てしまいました」

 

『25階層か……そこは水路が多い。罠を隠すには格好の場所だ。今は階層主がいない期間なのが、唯一の救いではあるが』

 

「階層主をけしかけてくるみたいなことが起こらなくて、よかったです。状況はなにもよくないですけれど……」

 

 そんな会話を背後に聞きながら、ベルは目の前に広がる光景に圧倒されていた。

 25階層から27階層までぶち抜きで存在する、巨大な飛瀑(ひばく)。滝の横幅は四百(メドル)はあり、下に視線を向けると深さはその倍以上あった。ここまで階層をまたぐ穴を落下して降りてきたが、さすがのベルもこの高さから底の階層まで落下したら、ただでは済まない。

 

 光と水に溢れたその光景は、あまりにもダンジョンの神秘にあふれていた。

 だが、見とれている場合ではない。それよりも今はリューを追わなければ。ベルはそう考え、前方へと走る。すると、より拓けた場所で、リューが足を止め、『下層』の獣と対峙している様子が見えた。

 獣の上には、左手に鞭を構えた隻腕の猫人が、リューへ向けて奇怪な笑い声を上げている。

 ベルは走りながら、猫人の男の笑い声を掻き消すように、叫ぶ。

 

「追いつきました!」

 

 大瀑布の水しぶきでぬかるむ足もとを必死で制御しながら、リューのもとへと駆けつけようとするベル。

 しかし、そこで彼の背中から、リリルカの指摘が響いた。

 

「後続の姿が見えません! 【ロキ・ファミリア】のメンバーが、着いてきていない!」

 

『おそらく敵の別働隊に分断されたな。大丈夫、キミたちに付けたメンバーには、選りすぐりの幹部候補もいる。背後は任せて、前方の対処に専念してくれ』

 

 フィンのその言葉を聞きながら、ベルはとうとうリューの近くへ辿り着くことに成功した。

 それと同時、リリルカがベルの背後から飛び降り、槍を右手に構えて周囲を探る。ラムトンの姿は見えない。だが、前方の獣から感じるプレッシャーとは別に、地面に何かが潜んでいることはリリルカにも、そしてベルにも分かった。

 

 ベルは油断せず、ここまで駆けるために【ヘイスト】の力を発揮してくれた《エクスカリバー》を構え直し、静かに言う。

 

「助太刀します。それと、『ラムトン』というモンスターが潜んでいそうです。気を付けてください」

 

 そのベルの言葉に、リューは振り返らずジュラをにらみつけながら、ボソリと応えた。

 

「助太刀感謝します。あの男は、ここで息の根を止める」

 

「ええ、確実に仕留めましょう」

 

 聖樹の木刀《アルヴス・ルミナ》を構えるリューと、王の騎士剣《エクスカリバー》を構えるベル。

 その背後で、リリルカは神槍《ヘスティア・スピア》を右手に、通信用の双子水晶『眼晶』を左手に持ちながら、罠を探して周囲を探り続けていた。

 

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