ダンまちTACTICS   作:Leni

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第四章後半開始です。せっかくなので、このまま章の最後まで毎日更新でいこうかと思います。最後まで順調に書けたらですが……。


42.奥へ奥への大潜行

 殺戮(さつりく)が始まった。

 

 モンスターに騎乗した『闇派閥(イヴィルス)の残党』。その数は、ベルがすでに斬り捨てた相手を除いて、合計で六人。

 その彼らが、『骨竜』によって次々と討ち取られていく。

 

 先ほどまでの戦いで、ベルが容易に弾いていた左前脚の六本の爪。

 しかしそれは、『超硬金属(アダマンタイト)』の鎧で身を固めた前衛らしき男を軽々と引き裂いた。

 

 当然、この場から真っ先に逃げ出した者もいた。

 だが、足力に優れるモンスターに騎乗しているといえども、速さでは『骨竜』には到底敵わない。

 背を見せて逃げたところで、『骨竜』は容易に追いつく。そして、右側の一部を失った大きな口で、騎乗しているモンスターごと、相手を丸かじりにした。

 

「あああああ! どうしてだアアアアア!」

 

『闇派閥の残党』の一人、獣人の男が、叫びながら手にした魔剣を振るう。

 しかし、魔剣から放たれた炎は、『骨竜』の体表に命中する。しかし炎は、そのまま一八〇度ベクトルを変え、獣人へと跳ね返る。

 獣人の男は『骨竜』の『魔力反射(マジック・リフレクション)』を知らなかったのだあろう。そのまま魔剣の炎で黒焦げになり、さらに『骨竜』の尾の一撃を食らってバラバラに吹き飛んだ。

 

 一人、二人と、順番に討ち取られていく『闇派閥の残党』。

 そんな中、ベルは極力『骨竜』の興味を引かないようゆっくりと立ち位置を変えていく。

 『骨竜』がリューとリリルカに直接向かわないよう、庇える場所に位置取ったのだ。

 

 だが、それはベルの失態であった。彼は、リューとリリルカに背を向けるべきではなかった。

 なぜなら……彼が相手をすべき敵は、『骨竜』だけではなかったからだ。

 

 崩壊した27階層。積み重なる水晶の瓦礫。

 その中から。

 突然、一匹のモンスターが飛びだしてきた。

 

 それは、巨大な蛇。

 ベルが討ち取り、灰の山に変えたはずの存在。『ラムトン』。

 その巨体が、瓦礫の山を吹き飛ばして、姿を現したのだ。

 そう、ジュラ・ハルマーが従え(テイムし)ていた『ラムトン』は、もう一匹いたのだ。

 

 その『ラムトン』は、ジュラ・ハルマーが最期に発した指示を正確に実行しようとする。

 すなわち……【疾風】ことリュー・リオンと、小人族(パルゥム)のガキことリリルカ・アーデを食い殺そうと。

『ラムトン』の頭部に付けられた『魔道具(マジックアイテム)』の首輪で指令は正しく処理され、巨蛇が勢いよく二人に飛びついた。

 

 もちろん、この程度の強襲に反応できないようなリューではない。

 しかし、リリルカは違う。彼女はこの階層において、圧倒的弱者だ。ラムトンの突進に、対応できるわけもなく。

 リリルカはその場で棒立ちになり、迫る『ラムトン』を呆然と見つめることしかできなかった。

 

「アーデさん!」

 

 一人で回避してはリリルカを守れない。迎撃は不可能。さすがにこの巨体を逸らすことはできない。そこまで判断したリューが、リリルカを抱えてその場から飛び退こうとする。

 だが、予想外の重みに、跳躍は失敗。リリルカの持つ槍の重さがリューの想定を超えており、脚にかける力の加減を誤ったのだ。

 

「あっ、これは……」

 

 そんなリリルカの情けない声を残して、二人は『ラムトン』の大口に呑み込まれた。

 

 それは、全て一瞬のこと。

 ベルは、背後に振り返ってその様子を自身の目で見ていた。

 彼が守るべきだった存在。自分をここまで導いてくれた頼もしい団長が、モンスターによって丸呑みにされた。

 

「あ、ああッ、ああああ。お前えええええッ!」

 

 ベルは、すぐさま《エクスカリバー》を『ラムトン』に向けて振るおうとする。

 しかし、『ラムトン』は二人を呑み込んだ突進の勢いのまま、地面に衝突。水晶の瓦礫が飛び散り、ダンジョンの床が(あら)わになる。

 そして、ダンジョンの床は鈍い音を立てて、大きく穿たれた。

 

 穿孔。

 

『ラムトン』の最大の特徴である、階層移動の兆候だ。

 そのまま『ラムトン』は、床に潜ってベルの前から消えようとしていた。

 

「待て、待てよッ! 返せッ!」

 

 ベルが全力で駆けつける間にも、『ラムトン』の全身は吸い込まれるように地面の下へと潜っていく。

 そして、ベルが『ラムトン』のもとへと駆けつけたときには、その長い全長のほとんどは、地面の中に沈んでいた。

 

「ダメだ! 持っていくな!」

 

 ベルは、必死で『ラムトン』の尾に剣を突き刺す。

 地上の密林地帯に潜むという巨蛇は、獲物を丸呑みにしてゆっくり獲物が体内で溶けるまで待つという。

 よって、今『ラムトン』の腹を裂けば、リリルカとリューを取り戻すことは叶うかもしれない。

 

 だがしかし、剣を突き刺した程度では『ラムトン』が潜る勢いは止まらない。

 逆に、ベルは地面の下に潜行しようとする『ラムトン』の巨体に、《エクスカリバー》を持っていかれそうになる。

 

「クソおおおおおッ!」

 

 ベルは、右手に持った《エクスカリバー》を全力で握る。

 そして、彼は必死で地面に潜り続ける『ラムトン』の尾に、張り付くように身を寄せた。

 リリルカをさらってこの場から去るつもりなら、自分もどこまでもついていってやる。そんな執念を見せたのだ。

 

 そうして。

『骨竜』が残りわずかな『闇派閥の残党』を狙って大暴れする中。

『ラムトン』とベルは、27階層から姿を消した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 地面の中を進む感覚は、最悪であった。

 痛いし、うるさいし、痛い。ここまで盾と剣を失わずに済んだのは、奇跡だったかもしれない。

 ベルは、ようやく止まった『ラムトン』の尾から剣を引き抜きながら、そんなことを思った。

 

 下に下にとひたすら潜ったラムトンは、ある場所で動きを止めた。

 ここは何階層だろうか、ベルには理解が及ばなかった。

 なにせ、周囲は暗い。ひたすらに暗い。暗すぎて、ベルは階層の特徴を一切把握できない。

 

 ベルは、事前に勉強していたダンジョンに関する知識を思い出す。

 ダンジョンは、下の階層に行くにつれ、壁や床の放つ光が弱まっていくと。

 そんな環境で冒険者たちがどう視界を確保するのかというと、松明やランタンを灯すのではない。ギルドの担当者であるエイナ・チュールにそのことを聞いて、驚いた過去がベルにはあった。

 

 高い『Lv.』を誇る冒険者は、身体能力が向上していく。

 それは、腕力や脚力といった純粋な膂力(りょりょく)だけではない。視力なども、超人の域に達するのだという。

 

 一方、ベル。

 彼は、『レアスキル』の恩恵で高い膂力を手にしてはいるものの、その他の身体能力は『Lv.1』相応にしかない。

 つまり、彼は……27階層よりも下にある暗い階層で、視界を確保することはできないということであった。

 

 夜目が利かない。

 いや、一応は、一般人よりは利く。月明かりの下、昼間と同じ程度には動ける。

 だが、他の駆け出し『Lv.1』と同じ程度しか、夜目が利かないのが彼の現状である。

 

 しかし、だからといって、この場で暗さに怯えてジッとしているわけにはいかない。

 目の前には『ラムトン』がいるはずで、その体内ではリリルカとリューが溶かされている最中のはずだ。

 ベルは思い出す。かつてのイヴァリースでした一つの『冒険』を。

 

『ディープダンジョン』と呼ばれた遺跡。

 そこでの戦いは、ここと同じように真っ暗な環境での戦いだったのだ。

 ゆえに、ベルはすぐさま行動を開始した。

 

「【岩砕き、(むくろ)(くず)す、地に潜む者たち――集いて赤き炎となれ!】」

 

 初手は、彼が騎士時代から使えていた魔法の詠唱。

『黒魔法』と呼ばれる、攻撃用の魔法だ。

 だが、その目的は、『ラムトン』を攻撃するためではない。

 

「【ファイア】!」

 

 詠唱が終わるとともに、火炎の塊がわずかに離れた前方に発生する。

 ベルの狙いは、光源の確保。発生した炎が、今、ベルのいる場所の全容を彼に知らせてくれた。

 

 彼が居る場所は、大広間だった。半径四〇〇(メドル)ほどの巨大な広間(ルーム)

 だが、その環境に反して、モンスターは、目の前で鎌首をもたげる『ラムトン』以外にはいない。

 もしかすると、ここは『ラムトン』の『巣』なのかもしれない。ゆえに、他のモンスターは『ラムトン』に排除されているのではないか。ベルは、そう考えた。

 

 そして、肝心の『ラムトン』。地面に身体を潜らせているということはなく、全身が床の上にあった。

 ならば、救出に問題はない。ベルはそう考えて、《エクスカリバー》と《クリスタルの盾》を構えた。

 ベルの装備する武具は階層移動による激しいシェイクにも耐え、破損を見せていなかった。これは、おそらくベルがセットしている『サポートアビリティ』の『メンテナンス』による効果だろう。

 

 装備は万全。ならば、後は二人をラムトンの体内から救出するのみ。狙うは、魔石。

 そうベルが判断して、動き出そうとした瞬間。

 突然、『ラムトン』が爆散した。

 

「……えっ!」

 

『ラムトン』の体内から光があふれ、その全身を蹂躙していく。

 皮を破き、肉を焦がし、血と臓物を撒き散らしながら、『ラムトン』の胴体が弾けていく。

 

 そして。

 その光の中心から、リリルカを抱えたリューが姿を現した。

 

「リリ団長! 覆面エルフさん!」

 

 思わず、ベルが歓喜の叫びを上げる。

 おそらく、『ラムトン』の体内で魔法を使ったのだろう。

 それも、長い詠唱を必要とする、高威力の攻撃魔法を。ベルはそう推測した。

 

 その魔法の実行者は、当然、リリルカではない。覆面エルフさんこと、リューだ。

 リューは、『ラムトン』に呑み込まれてもなお意識を保ち、生き延びるため必死で詠唱を紡ぎ、魔法を放って胃の中から脱出した。ベルはそう考え、実際にその推測は当たっていた。

 

 広大な空間に、攻撃魔法の光が満ちる。

 その最中、『ラムトン』の体内から必死で逃れたリューは、剣と盾を構えているベルの姿を見つけた。

 すると、リューはとっさにベルに向けて言葉を飛ばす。息も絶え絶えの声であったが、それは確かにベルの耳まで届いた。

 

「クラネルさん……! 『ラムトン』の、魔石を、破壊してください……!」

 

「はっ、はい!」

 

 言われるがままに、ベルは『聖剣技』を『ラムトン』に向けて放つ。

 すると、次の瞬間、『ラムトン』の全身は灰に変わった。魔石の位置は、25階層の戦いで把握している。ベルの攻撃は的確であった。

 

 灰が舞い散り、リューとリリルカがそれに埋もれそうになる。

 だが、リューの狙いとしては、これで正解だった。

 

「よかった、消化液が残る前に……灰に変わった。アーデさんは……よかった、息がある! クラネルさん、ポーションは、余っていますか……?」

 

「ホルスターの瓶は……無事です! それと、回復魔法も、回復の技も使えます!」

 

「急いで、アーデさんを、手当てします……。胃液と、圧力で……死にかけている……!」

 

「!?」

 

 リリルカと共に『ラムトン』に呑み込まれた時のリューは、その腕の中に抱えていたリリルカを必死に守ろうとした。

 だが、彼女ができたことは、必死で彼女を自分のロングケープに包んで、胃の中の消化液から防護することだけ。

 だが、『ラムトン』の『毒の酸』とも言うべき消化液は強かった。ケープとついでに全身の服が、呑み込まれて脱出するまでのわずかな時間で、ボロボロに溶けかけていた。

 

 そして、消化液よりも厄介だったのが、体内へと向けた圧力だった。

 蛇は、全身が筋肉でできているという。移動のために筋肉が発達しているのだが、巨蛇のモンスターである『ラムトン』もその例外ではなかったようで……その筋肉の収縮が、胃の内部を圧迫してきたのだ。

 

 リューは、その圧力になんとか耐えた。彼女は『Lv.4』の強者だ。わずかな時間ならば、全身を圧迫する凶悪な力にも抗える。

 しかし、リリルカに関しては、そうはいかない。彼女は、か弱い『Lv.1』の駆け出し冒険者でしかないのだ。

 

 よって、リリルカは巨蛇の胃の中で、『毒の酸』に浸蝕されたうえで、抗えない圧力で全身を押しつぶされることになった。

 耐えきれぬ激痛によって、今の彼女は気絶している。そんな状況でも、槍と『眼晶』を未だ手放していないのは、執念の賜物と言えた。

 

「【今は遠き森の歌。懐かしき生命(いのち)の調べ】──」

 

「【清らかなる生命(いのち)の風よ、失いし力とならん!】――」

 

 灰にまみれたリリルカの治療をするため、まずは体力回復薬(ポーション)を飲ませたリューとベル。二人はさらに、リリルカを生存させるため回復魔法を詠唱し始める。

 リリルカの呼吸は浅く、さらに弱々しい。今にも死んでしまいそうだ。だが、そんな彼女を絶対に死なせないとばかりに、二人の魔法が発動する。

 

「【ノア・ヒール】!」

 

「【ケアル】!」

 

 魔法の光が、優しくリリルカを包み込む。それによって、リリルカの呼吸は強まった。リューが他者との接触もいとわずリリルカの胸に耳を当てると、心音も安定していることが分かった。

 ホッと息を吐くリュー。

 その横で、ベルは『スキル』の編集画面を開く。

 暗い中で、ベルは急いで装備画面を開き、『アクションアビリティ』のセットを変える。『時魔法』を『拳術』に変更し、編集画面を閉じた。

 

 そして、ベルは『拳術』を発動。『気』を練り、体外へと発する。

 

「【チャクラ】!」

 

 優しい光がリューとリリルカに触れ、彼女たちに宿る潜在能力が活性化する。

 そして、一瞬だけ解放された力がリューとリリルカの傷を癒やし、精神力(マインド)を回復させた。

 

「クラネルさん、この力は……」

 

「僕の『スキル』ですよ」

 

「……精神力(マインド)を癒やすとは、破格の『スキル』ですね」

 

「ええ、覚えて以降、ずっと役に立ってくれています」

 

 そして、精神力に余裕のできたベルは、自在に操れる唯一の『黒魔法』である【ファイア】を使い、虚空に火を灯し始めた。

 攻撃用途として使うには心許ないが、光源として使うには十分であった。

 それを見たリューは、ああ、と納得する。

 

「規格外の力を見て勘違いをしていた。クラネルさん、あなたはまだ『Lv.1』でしかないのですね」

 

「はい……夜目が利かなくて……」

 

「しかし、困りましたね。夜目が利かないと、この階層から戻ることは、とても難しい」

 

「あの……覆面エルフさん、ここって何階層なのか分かりますか?」

 

「ええ、この階層には一度、来たことがある」

 

 リューは、覆面が溶けて(あら)わになった口もとを、キュッと引き締めながら、周囲を見た。

 光を発するはずのダンジョンの壁は、月明かりよりも弱いわずかな燐光しかない。

 それでも、『Lv.4』の彼女の目には、しっかりとこの階層の風景が見えていた。

 石造りの、白い階層だ。

 

「ここは、『白宮殿(ホワイトパレス)』。おそらくは、37階層……『深層』です」

 




>よかった、消化液が残る前に……灰に変わった
原作一巻で、ベルは死んだはずのミノタウロスの血にまみれたまま地上に戻っています。
よって、ドロップアイテム以外でもモンスターの体液が残る可能性があります。アイズとベートがミノタウロスの魔石を抜かなかったなら話は別ですが。
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