ダンまちTACTICS   作:Leni

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45.ジャガ丸くんミックス味

 唐突に現れた『骨竜』が放ったブレス。

 それに対し、真っ先に動いたのはベルだった。彼は《クリスタルの盾》を構えて、蒼く輝く一筋の炎を防ぎにかかる。

 

 盾と炎が衝突し、絶妙な角度で炎は逸らされた。

『骨竜』のドラゴンブレスとでも言うべき吐息は、そう長くは続かず、三人は無事なまま初撃をしのぐことができた。

 

 だが、ここでベルにとって想定外の出来事が起こる。

 盾に触れた蒼い炎が、鎮火しないのだ。

 

「ぐうううッ!」

 

 盾越しに伝わる熱気が、兜の隙間から露出したベルの顔を(あぶ)る。

 その様子を見たリリルカが、とっさに叫んだ。

 

「盾を捨ててください!」

 

「でも!」

 

「その炎はしばらくの間、消えません!」

 

「!? クソォッ」

 

 ベルの防御の起点となっている盾。それが今もなお、炎上し続けている。

 仕方なくベルは盾を手放し、床に投げ捨てるように転がした。

 

 ミスリル合金製の盾が、刺激臭を発しながら蒼く燃えている。

 

 このブレスはなんなんだ。ベルがそう思ったところで、リリルカから追加の情報が届く。

 

「27階層の『階層主』の消えない炎のブレスです! おそらく『骨竜』は、『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』を取りこんでいます!」

 

「取りこんだ!? なにそれ!?」

 

「それと、復活した前脚は、この階層の骸骨(スケルトン)系モンスターの特徴を持っています! この『骨竜』は、他のモンスターを取りこんで、欠損部位を再生させるんです!」

 

「こいつ、なんでもありだね!?」

 

 ここに現れるまで、『骨竜』に何があったのか。

『骨竜』は27階層で『闇派閥(イヴィルス)の残党』を殲滅(せんめつ)した。

『骨竜』はダンジョンの持つ免疫細胞ともいうべき存在で、破壊された階層にいる全てを殺し尽くす役割を負っている。

 その性質上、階層を移動してまで破壊の下手人を追うことはない。しかし、この『骨竜』の個体は、ジュラ・ハルマーに『首輪』を嵌められたことによって、本来の性質が変化してしまった。

 変化の末に『骨竜』には自意識が芽生え始め、己の右半身を奪った鎧姿の冒険者ベル・クラネルを打倒するという、『歪んだ目的』を抱くに至った。

 

 しかし、この『自我に目覚め始めた骨竜』が、下の階層に逃げた『自分を追い詰めた雄』を倒すには、力があまりにも不足していた。

 力が足りないならば、他から取りこめば良い。『骨竜』はそう考えた末に『進化』する。他のモンスターを喰い、取り込み、融合する能力に目覚めたのだ。

 

 そうして、『骨竜』が27階層に潜むモンスターを捕食しようと動き出したところで、不意に一体のモンスターが『ダンジョン』によって産み落とされた。

 復活周期を無視して『階層主(モンスターレックス)』である『アンフィス・バエナ』が出現したのだ。

 それは、『進化』を迎えた我が子に捧げる贄か。それとも、役割を無視して『37階層』に向かおうとする免疫細胞を止めるための『門番』か。

 どちらにしろ、『骨竜』と『アンフィス・バエナ』は、同じ生まれたばかりのモンスターながら、戦う定めにあった。

 

 ただの免疫ゆえに、時間経過でその身が自然崩壊していく(はかな)い存在である『骨竜』。

 しかし、『アンフィス・バエナ』を激闘の末に己の身に取りこんだ『骨竜』は、その短い寿命を延長させ、37階層へと続く大穴へと飛びこんでいった。

 

 そこから、『骨竜』による『標的』を探しての『冒険』が始まった。

『骨竜』を恐れて、あちらこちらで身を潜めていた『深層』のモンスター。そのことごとくを見つけ出して打倒し、時には取りこむ。

 様々なモンスターを取り込み融合させたその姿は、まるで架空の物語で語られる『合成獣(キメラ)』のようであった。

 

 融合の末に、獣系モンスターの『ルー・ガルー』から優れた嗅覚を獲得した『骨竜』。

 その嗅覚を用いて、『骨竜』はとうとう『標的』であるベルを発見するに至った。

 そして、『アンフィス・バエナ』の最大の特徴である超高熱のブレス、『焼夷蒼炎(ブルーナパーム)』を出会い頭に放ったのだ。

 

 もちろん、そこまでの事情は、リリルカには推測しきれない。

 しかし、彼女は『骨竜』の(えぐ)られていたはずの頭部に、『アンフィス・バエナ』の特徴を見出していた。

 

『アンフィス・バエナ』は、27階層の『階層主』。双頭の竜である。

 水が流れる階層で、水を掛けても消えない炎のブレスを放つと言われる、凶悪極まりないモンスターだ。リリルカは、ギルドの担当者であるエイナ・チュールとの勉強会で、そう学んだ。

 

『アンフィス・バエナ』の体内には、焼夷体液(ガソリン)という特殊な液体を生成する内臓『竜胆』があり、その液体に着火してドラゴンブレスを吐くのだという。

 消えない炎。そんなもの、いくらベルでも直撃してしまったらどうなることか。おそらくは、属性的な防護なしで耐えられるものではないだろう。

 

 よって、リリルカは盾を捨てたベルに向けて、『スキル』の伝心を込めて叫んだ。

 

「『至近距離で戦ってください!』」

 

「……!? 了解!」

 

『骨竜』は接近してしまえば、ベルが見上げるほどの高さに頭が来る。

 そうなればブレスは易々と放てなくなると、リリルカはベルに意思を伝えた。

『骨竜』の甲殻は魔法を反射するが、『アンフィス・バエナ』のブレスは魔法ではない。焼夷体液を用いた、ただの物理現象なのだ。つまり、自らのブレスで引火してしまう危険を『骨竜』は(はら)んでいた。

 

 そうして、広間(ルーム)の出入り口に陣取る『骨竜』へと駆け寄っていくベル。

 だが、『骨竜』も黙って見ているわけではない。

 その身に取りこんだ37階層のモンスター。その中には、骨を槍のように射出する能力を持ったアンデッドが存在していた。

 

杭突(パイル)』。あの骸骨羊の『スカル・シープ』が用いてくる技だ。

 盾を失ったベルは、予想していなかったその槍の直撃を頭部に受けてしまう。

 兜越しに痛みと衝撃がベルを襲い、意識が一瞬飛びそうになる。続けて二発、三発と撃たれた槍は、無意識の中、剣で弾いてどうにかしのいだ。そして、揺れる視界の中、ベルはなおも前に出た。

 

 四発目は脇腹をかすめていくが、五発、六発と続いた槍は、なんとか回避できた。

 七発、八発、九発、十発と、射撃は止まらない。

 しかし、ベルは段々、その『杭突』の連射を容易に回避できるようになってきた。

 

 彼には、この階層に来てようやく調子が上がってきた実感があった。

 それには、しっかりとした理由が存在した。

 盾と床に着火した『アンフィス・バエナ』の消えない炎。その蒼い炎が光源となり、彼の視界を明るく確保してくれていた。

 

 その後、計十六発の骨の槍を回避し、二発の槍をその身に受けたベル。前に進み続けた彼は、なんとか『骨竜』に肉薄することに成功する。

 その勢いのままベルは、《エクスカリバー》で骨の槍を産み出す右前脚を斬りつけた。

 すると、どうしたことだろう。斬りつけられた『骨竜』の前脚の一部が、煙を発して融解した。それに対して骨の前脚を抉った《エクスカリバー》は、黄金の刀身をいつもより強く光らせている。

 

「これは……!?」

 

「『スカル・シープ』は『生ける屍(アンデッド)』です、ベルさん!」

 

 そう、《エクスカリバー》は聖なる属性を宿した騎士剣。そして、この37階層のモンスターの多くはアンデッド。

 すなわち、今の『骨竜』のいくつかのパーツはアンデッドモンスターの特徴を有しており、その部分だけ聖なる力に弱くなっているのだ。

 

 いかにもキメラらしく、部位ごとに弱点が異なるかもしれない。そこまで一瞬で考えたベルは、この状況で一つの検証をすることにした。

『骨竜』に張り付くように接近しながら、彼は魔法の詠唱を開始する。

 

「【岩砕き、(むくろ)(くず)す、地に潜む者たち――集いて赤き炎となれ!】」

 

 さすがのベルも、剣を振りながらの魔法詠唱という、高等技術は使えない。

 よって、《エクスカリバー》を防御用の盾代わりに使いながら、必死で詠唱を紡いだ。

 

「【ファイア】!」

 

『黒魔法』の火炎が、『骨竜』に命中する。

 本来なら、その甲殻で反射されてしまうはずの魔法であったが……。

 

「黒い装甲部分じゃないなら、【リフレク】の効果はない!」

 

 モンスターとの融合で再生した部位には、『魔力反射(マジック・リフレクション)』の力は宿っていなかった。

 実戦中に検証する無茶をやらかしたベル。彼は真正面を向いたまま、後方へ向けて叫ぶ。

 

「リューさん、魔法で援護をお願いします!」

 

 盾がない状況で必死に『骨竜』の猛攻を(さば)き、時に攻撃を喰らいながら、ベルはもう一人の大戦力に助力を求めた。

 ベルの防御術は、盾に頼るところが大きい。その状況で、『骨竜』の左半身にある破壊力抜群の六本の爪は、未だ健在である。

 しかし、再び『骨竜』の右半身を魔法で消し飛ばすことができれば。

『骨竜』は三本脚になり、バランスを取るために、左前脚を攻撃のために使用することが難しくなるはずだった。

 しかし。

 

「リューさん!」

 

 ベルが口もとに血をにじませながら必死に叫ぶが、応答はなかった。

 ベルの後方、二人まとめてブレス攻撃の(まと)にならないようにと移動したリリルカからやや離れた位置で、リューは心に巣食うトラウマに震えていた。

 古巣である【アストレア・ファミリア】を全滅させた『絶望』が、自分を追ってきた。

 その事実にリューは衝撃を受けて、五年前の『絶望』の光景がフラッシュバックしているのだ。

 

 頼れるはずのエルフの醜態(しゅうたい)。それを目の当たりにしたリリルカの心に、様々な想いが浮かんでくる。

 この状況で、自分がすべきことは何か。そう考えたリリルカは、己の『スキル』、【旗下集結(コマンド・オーダー)】に自身の想いを込め、叫んだ。

 

「『リュー様!』」

 

「……!?」

 

「『大丈夫です!』」

 

「…………」

 

「『リリたちは、あんな負け犬キメラなんかには、負けません!』」

 

「…………。フ、フフッ、負け犬ですか」

 

 リューの脳裏に映し出された、リリルカから伝わってきた映像付きの想い。それは、この階層にいる直立二足歩行する狼のモンスター『ルー・ガルー』が尻尾を巻いて逃げ回る姿。

 ここに来て、リリルカはリューを笑わせるという手に出た。

 

 リューが37階層での探索中に、軽々と打倒してみせた『ルー・ガルー』。

 そんな狼の特徴も、あの『骨竜』は宿している。

 そして、その程度の負け犬を取りこんだ節操無しなどに、今さら自分たちは負けないという意思も、リューは受け取った。

 

 氷のように固まっていたリューの表情が、まるで春の雪解けのように柔らかくほぐれていく。

 負け犬の映像は面白かった。それ以上に、リリルカの想いが温かく、嬉しかった。

 リリルカの思念には、笑いだけでなく、リューを激励(げきれい)する意思も含まれていた。

『勇気』にあふれた小人族(パルゥム)の少女の想いは、過去に囚われたリューの心を現実(いま)に引き戻す力を持っていた。

 

 やがて、ようやく目に力を取り戻したリューが、手に握ったままだった聖樹の木刀を構える。

 過去の仲間たちから引き継いだ『正義』の心ではなく、リリルカから受け取った『勇気』の力を胸に、一歩、足を前へと踏み出す。

 二歩、三歩とゆっくり進み、やがて加速する。前へ、前へと進む。

 さらに、おぼろげな意識の中で届いていたベルの求めに応じ、魔法の詠唱を開始した。

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に(ちりば)む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火(せいか)の加護を】――」

 

 ただし、それは普通の魔法詠唱ではなかった。

 なんと彼女は、ベルが正面から相手する『骨竜』の隙を狙うかのように高速で動き回り、木刀で斬撃を与えながら、詠唱も同時にこなしているのだ。

 

 一方ベルは、『骨竜』の攻撃がリューに向かないよう牽制をし、時にはリューを庇ってその身に攻撃を受けながら、思った。

 この人、尋常ではないことをやっていないかと。

 

「【汝を見捨てし者に光の慈悲を。(きた)れ、さすらう風、流浪の旅人(ともがら)】――」

 

 それは、『並行詠唱』と呼ばれる高等技術。

 戦闘行為や高速移動を行ないながらも、詠唱を途切れさせることなく完成させるという、冒険者の間に伝わる『技』だ。

神の恩恵(ファルナ)』とは直接の関わりのない、純粋な戦闘技術である。その見事さに、ベルもリリルカも舌を巻くしかない。

 

「【空を渡り荒野を駆け、何物よりも()く走れ――星屑の光を宿し敵を討て】!」

 

 そして、聖樹の木刀で散々『骨竜』の表皮を削った後に、リューは『骨竜』の右側面に位置取った。

 それと同時に、詠唱が完成する。

 

「【ルミノス・ウィンド】――!」

 

 無数の光玉がリューの周囲に出現し、その玉が一発、二発と『骨竜』の右側面に射出されていく。

 それらは甲殻に一切触れず、アンデッドモンスターの骨で構築された右前脚を徹底的に破壊した。『魔力反射』を一度も起こさない、綿密な魔法操作であった。

 

「よしッ! これなら――!」

 

 敵の厄介すぎる破壊の左爪による攻撃頻度が、これで減る。

 そう判断したベルは、攻勢に出ようと剣の構えを変える。だが、そこでリューから待ったがかかった。

 

前衛壁役(ウォール)は私が代わります! クラネルさんは、鐘の音を鳴らしてください!」

 

 ここに来て、リューによる攻守交代宣言だ。

 

 リューの魔法は、確かに右前脚を吹き飛ばした。だが、それ以外の部位は、依然『魔力反射』の甲殻に覆われている。

 よって、最大火力であるベルの【聖魔抜剣(ラグナロク)】のチャージを行なえと、リューは主張しているのだ。

 

 リューに防御を任せて、大丈夫か?

 わずかに逡巡(しゅんじゅん)するベルだが、即座に判断を下す。

 

「【聖魔抜剣(ラグナロク)】!」

 

 選んだのは、リューの指示に従うこと。チャージを宣言しての攻守交代であった。

 

 ベルが下がり、リューが『骨竜』の正面に肉薄する。

『骨竜』は、ベルに執着しているのか、その頭部を彼の方に向けようとする。

 だが、リューはそれを隙と見たのか、聖樹から切り出された木刀でその頭部を打ちすえる。

 

 ベルが腰だめに剣を構えて、少しずつ立ち位置を変えながら、チャージを続ける。

 鐘の音が、白い石造りの宮殿に、高らかに響く。

 

 その間も、リューはいわゆる回避盾のスタイルで、『骨竜』を翻弄(ほんろう)しようと高速移動に努めた。

 だが、その最中にリューは相手の攻撃を一手読み違えてしまった。

 獣のように愚直な攻撃を繰り返すだけだったはずの『骨竜』。それが、フェイントを用いてきたのだ。

 

 合成獣(キメラ)として他モンスターを取りこむ最中に、同胞(モンスター)喰らいの戦い(しょくじ)で蓄積した経験。それが、『骨竜』の攻撃パターンの増加に繋がったのだ。

 リューの目の前に迫る、『骨竜』の牙。

 しかし、その牙がリューに届く前に、『骨竜』の動きが一瞬だけ止まる。

 本当に一瞬だけ、僅かな間の隙。だが、リューにはそれだけでも十分だった。牙を回避し、すれ違い様に木刀を鼻頭に叩き込んで、身を(ひるがえ)す。

 

 そして、リューは見た。『骨竜』の左の眼孔に突き刺さった長剣を。

 それは、この広間にあった亡骸からリューたちが回収した、錆びの浮いた剣であった。それが、こうして『骨竜』に痛打を与えた。

 功労者の正体は分かっている。後方で、援護をいつでもできるようにと、隙を狙い続けたリリルカだ。

 おそらくは、剣を投げつけた。見事な投擲だ。リューは感心しながら、振り返らずに『骨竜』を翻弄(ほんろう)するように足を動かし続けた。

 

 だが、思わぬ痛打で『骨竜』の関心を引いてしまったのだろう。リリルカのいるであろう方向に、『骨竜』が鎌首をもたげた。

 ブレスの兆候だ。

 リューの背後で、リリルカが息を飲むのが分かった。

 しかし、リューにとってその『骨竜』の行動は、明確な隙。

 下からすくい上げるように木刀を振り上げると、アゴに一撃を見舞った。開いていた大口が、勢いよく閉じる。

 

「!? うわあ……」

 

 リリルカの呆けるような声が、広間に響く。閉じた口の中でブレスを吐いた『骨竜』の顔面が、爆発を起こしたのだ。

 消えない炎が、『骨竜』の頭部を包み込む。『アンフィス・バエナ』のパーツだろうか、肉の焦げる臭いが特徴的な体液(ガソリン)の臭いと交じって刺激臭となり、至近距離にいたリューの顔をしかめさせた。

 

 だが、『骨竜』は大ダメージを負った。そしてこれは、少し離れたところで足を止めていたベルにとっても、明確な隙だった。

 

「【我と相見(あいまみ)えし不幸を呪うがよい――星よ降れ!】」

 

 チャージを終えたベルがここに来て選択した技は、『聖剣技』ではなかった。

 それは、武具破壊の剣技、『剛剣』。武具を装備している相手に有効な技だ。

 ベルは今の『骨竜』を『アンフィス・バエナの頭部を装備している状態』と見立てて、『剛剣』を選択した。

 放つのは、兜破壊の一撃。

 

「――【星天爆撃打】!」

 

 高めに高められた『剣気』が天より降り注ぎ、燃えさかる『骨竜』の頭部に命中する。

 そして、『剣気』は『アンフィス・バエナ』と融合した『骨竜』の頭部を徹底的に破壊し……首元のわずかな部分を残して、竜の頭蓋骨に似た頭部が消し飛んだ。

 

 右前脚を失い、頭部を失った『骨竜』。

 だがしかし。

 ここまで身体の部位を失っても、まだ『骨竜』は執念深く生きのびていた。

 

 倒れることなく前へと進み、後ろ脚で立ち上がって、左前脚の爪を当てずっぽうに地面に振り下ろした。

 白亜の床面が、爆散するように砕け散る。

 まさかの反撃に、リューもベルもとっさに距離を取って回避をする。

 

 まだ生き足掻くのか! リューは思った。

 しぶとすぎる! ベルは思った。

 あ、これ攻撃のチャンス? リリルカは思った。

 

 そして、リリルカは相手の特大の隙を狙うため、右手に構えていた槍を……全力で投擲した。

 

 彼女の持つ『スキル』で底上げされた膂力による、全力の槍投げ。

 それは、『Lv.1』の放てる上限を遥かに超えた威力が秘められており、頭部を失った『骨竜』の首元を深く抉った。

 

 露出した首の断面に、突き刺さった槍。

 まさかのリリルカの戦力面でのさらなる活躍に目を見開いたリュー。だが彼女は驚くだけでは済まさずに、このチャンスを最大限活かすため次の攻撃に移ろうと動き始める。

 

 心の傷(トラウマ)克服(こくふく)したのか、すっかり頭のモヤモヤが晴れたリューは、一つの攻撃方法を思い付いていた。

 ここまでやって死なない相手ならば……あの『ラムトン』と同じ目に合ってもらおうと。

 その攻撃方法が有効なのは、五年前の『骨竜』との戦いで、唯一分かっていることでもある。

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に(ちりば)む無限の星々】――」

 

 再びの、攻撃魔法の詠唱。

 その声を聞いて、同じくトドメを刺そうと動き出していたベルは、しかし最後の一撃をリューへ譲ることにした。

 詳しい話は把握できていないが、この『骨竜』はリュー・リオンという冒険者にとっての『因縁』なのだろう。ならば、彼女に引導を渡させるのが、きっと最善なのだ。ベルはそう考えた。

 

 そして、頭部を失い視覚と嗅覚を断たれた『骨竜』が暴れ回る中、リューの詠唱が完成した。

 

「【ルミノス・ウィンド】!」

 

 無数に浮かぶ光の玉。その一つが、リリルカの突き立てた神の槍に吸い込まれる。

 すると、その槍の金属でできた表面を伝って、光の魔法が『骨竜』の体内に侵入。『骨竜』の内部を光が蹂躙(じゅうりん)した。

 

 それを確認したリューは、次々と槍へ向けて光の玉を射出。

 槍から伝播した光の魔法が、『骨竜』の体内を徹底的に破壊し尽くし……『骨竜』は、灰に変わりつつある『魔力反射(マジック・リフレクション)』の甲殻をわずかに残して、消滅したのであった。

 

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