ダンまちTACTICS   作:Leni

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46.上へ上への大冒険

 激戦の末に『骨竜』を撃破したベルたち一行。

 だが、彼らの『試練』はそこで終わりではなかった。

『骨竜』が灰になった直後、モンスターが大量に広間(ルーム)へと押し寄せてきたのだ。それも、次から次へと途切れることなくだ。

『骨竜』による重圧が消え去ったためか、派手な戦闘を繰り広げてしまったためか、あるいは【聖魔抜剣(ラグナロク)】の鐘の音をダンジョン内に響かせたためか。いずれにせよモンスターたちは、ベルたち三人の息の根を確実に止めるために、続々と広間へと走り込んできた。

 

 広間一面がモンスターの死骸と灰で埋め尽くされるまで、三人は戦い抜いた。モンスターの来襲が途切れたことで、ようやく三人は『休息(レスト)』を取ることができるようになった。

 三人の『休息』は、まずは水の確保から始まった。

『黒魔道士』の『ジョブ』で覚えた【ブリザド】の魔法で氷を作り、それを【ファイア】で融かして水にするのだ。緊急時の飲用水としては、十分耐えられる味であった。

 

 それから順番に睡眠を取った三人は、空腹に耐えながら37階層の探索を再び開始。時間の感覚がないまま数度の睡眠を経てマッピングを続け、その結果、彼らはなんとか『正規ルート』への道を探り当てた。どこかで『正規ルート』と繋がっているというリリルカの考えは正しかったのだ。

 もちろん、『正規ルート』に入ってからも厳しい戦いは続く。なにせ、現在この階層に他のパーティはいないのだ。『正規ルート』上のモンスターは、全てベルたちが相手しなければならない。

 

 それでも、少しずつ、少しずつ、着実に三人は帰還の道を歩んでいた。

 よほどの事態に遭わなければ、このまま『安全階層(セーフティポイント)』まで脱出はできるだろう。そのリリルカの見立てに、ベルは「今回はここまでよほどの事態にしか遭ってなくない?」とのツッコミを入れてしまった。

 すると、リリルカに「余計なことを言って、現実になったらどうするんですか!?」と叱られてしまった。理不尽だ、とベルは思った。

 

 やがて彼らは、36階層への出入り口まで辿り着く。なんとか三人とも無事なまま『深層』から脱出することに成功し、ベルとリリルカは手を取り合って喜んだ。

 そこからも彼らは、ダンジョンを逆走するようにして『冒険』を繰り広げた。

 砂漠を越え、密林を進む。モンスターの脅威度は徐々に下がってきているが、疲労は着実に蓄積してきており、意外と戦いは楽にならない。リリルカに至っては何度もモンスターの攻撃を受けて死にかけ、そのたびベルの【レイズ】の魔法にお世話になるほどであった。

 それでも三人は、けしてくじけるものかと励まし合い、上へ上へと進んでいった。

『密林の峡谷』と呼ばれる階層では食料を豊富に確保でき、水量の多い水源も見つけることができた。

 

 そこで「身体が痒くて集中できないので、少しでもいいから身体を拭きたい」と、己の血で全身を赤黒くしたリリルカが言い出して、恥ずかしさからベルがその場から離れようとした。

 すると、「この場所で戦力を低下させるとか、リリに死ねと言っているんですか!?」という文句を言われてしまった。理不尽だな、とベルは思った。

 

 しかし、アポロン神に見初められたほどの美少女小人族(パルゥム)と、自身の好みにドストライクな年上美女妖精族(エルフ)の水浴びを順番に見ることができて、ベルは役得を感じた。彼はダンジョンの中で役得を感じられるほど、心に余裕ができていた。

 その結果、「何この状況で鼻の下を伸ばしているんですか!?」とリリルカに叱られてしまった。理不尽すぎる、とベルは思った。

 

 そんな、モンスターが彷徨(さまよ)う密林の中で身体を清めるという無理を通して、サッパリとした一同。

 心機一転足取り軽く、彼らは32階層から29階層を一日もかからず踏破した。

 そして、『安全階層(セーフティポイント)』である28階層『迷宮の花園(アンダーガーデン)』に、とうとうベルたちは足を踏み入れ……。

 

「あーっ、いたー! フィーン! 竜殺し君、いたよ!」

 

【ロキ・ファミリア】の幹部、双子アマゾネスの片割れを見て、ベルは安心のあまり、涙を流してしまった。

 これにはさすがのリリルカも、ベルを(とが)めるようなことはしなかった。むしろ、リリルカも涙を流して生存を喜び始め、思わず二人で抱擁(ほうよう)を交わしてここまでの健闘を称え合った。

 

 ちなみにリリルカは水浴びを一度はしたものの体臭が目立っており、ベルは思わぬ女の子の秘密の臭いにドキドキしてしまった。

 その鎧越しの動悸(どうき)をどういうわけか見抜いたリリルカに「しばらくベルさんには近づきません!」と言われてしまった。まあいいか、とベルは思った。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

【ロキ・ファミリア】が中心となった救助隊は、ベルたち三人の『休息(レスト)』を何よりも優先した。

 ここまで強行軍を続けたことは当然、救助隊も理解しており、まず彼らにスープを与えた後、男女別のテントの中にそれぞれ突っ込み強制的に眠らせた。『密林の峡谷』を通ってきたため、食事は十分に取れているとの判断だったのだろう。

 

 そうして三人は、丸一日眠りこけ、ようやく万全な体調を取り戻すことができた。

 

 それから救助隊は三人に温かい食事を取らせ、人心地ついたところで地上への帰還を開始した。

 まず目指すのは、18階層『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』。『リヴィラの街』という、冒険者が作った大拠点が存在する『安全階層』だ。

 

 その道中で、救助隊を指揮しているフィンが直々に、ベルたち三人にここまでの道中で何があったかの簡易な聞き取りをしてきた。

 リリルカが、『仮称:骨竜』は三人で確実に討ち取ったと報告すると、フィンは小声で告げてきた。

 

「そのモンスターのことは、周囲に漏らさないようにね。ギルドの上の方から、秘密にするよう釘を刺されたんだ」

 

 すると、救助隊が持ち込んだ服に着替えて肌面積を減らしたリューが、ポツリと言った。

 

「ギルドの上のさらに上からの通達ですね?」

 

「ああ、【疾風】、キミは五年前にも遭遇(そうぐう)していたんだろうね。まあ、そういうことさ」

 

 そういうことって、どういうこと?

 ベルはそう思ったが、何やら複雑な事情がありそうで、黙っていた。

 リリルカも、やぶ蛇にならないよう自分は無関係ですと言った表情を貫いていた。

 

 愛弟子の様子に、思わず苦笑するフィン。彼はそんなリリルカに向けて、今度は妙な話題を振ってきた。

 

「地上では、大変だったよ。事後処理が山ほどあるのに救助隊を編制することも大変だったけど、それ以上の厄介事があったんだ」

 

「ええっ、地上でもあのあと何か事件があったんですか?」

 

 リリルカが、巻き込まれたくないと言わんばかりに嫌な顔をする。

 だが、フィンは笑いながら、リリルカに言葉を返す。

 

「キミたちの主神がね。ダンジョンへ自分も助けに行くって言い出して、救助隊に着いてこようとしたんだ」

 

「何をやっているんですか、あのポンコツ神様は!?」

 

「これ以上の面倒事はさすがに勘弁してほしかったからね。神ヘスティアは、ロキに任せてさっさと出発してきたよ」

 

「地上に帰ったら、ヘスティア様にお説教しなければなりませんね」

 

 そんなやり取りを経て、フィンの聞き取りは中断する。フィンが好きで好きで仕方がなく、リリルカを恋敵だと一方的に思っている双子アマゾネスの姉ティオネが、持ち場を離れて乱入してきたからだ。

 さらに、ティオネの妹のティオナが、今回の冒険譚を聞きに追加で乱入してきた。フィンは苦笑しながらカオスと化したその場から離れて、救助隊帰還の指揮に戻った。

 

 それから三日後。

 ベルたちは、無事、地上へと帰ることができた。

 

 大泣きするヘスティア神に迎えられたベルとリリルカ。リューのもとにも、彼女が働いているという酒場の同僚が、何人か迎えに来ていた。

 ようやく家に戻って休める、ベルがそう息を吐いたところで……彼ら三人と、フィン、そして派閥の主神二人は、ギルドから緊急の呼び出しを受けるのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「単刀直入に言おう。キミたちが遭遇した、『仮称:骨竜』。我々は『破壊者(ジャガーノート)』と呼んでいるが、あれの存在に箝口令(かんこうれい)を敷かせてもらう」

 

 彼らが通されたのは、ギルド本部の奥にある広間。主神ウラノスが鎮座する祈祷の間であった。

 そこには、ウラノス神だけでなく、謎の骸骨姿の魔導士が控えており、ウラノス神の言葉を代弁していた。

 

生きた屍(アンデッド)』と見紛うばかりのこの骸骨は、実は魔法で永遠の寿命を手に入れた、生きた人間であるらしかった。

 なんでも、ウラノスの腹心の部下であり、『神の恩恵(ファルナ)』を受けたれっきとした人間なのだと、最初に自己紹介をしていた。

 名前はフェルズ。あの通信用の魔道具(マジックアイテム)である『眼晶(オクルス)』を作り出した魔道具制作者、いわゆる魔術師(メイジ)でもあるとのことだ。

 

 その彼が、『骨竜』こと『ジャガーノート』に関わる一切を秘匿しろと、この場にいる全員に要求してきた。

 だが、それに対してフィンが真っ向から反発、いや、抵抗し始める。

 

「その要求に僕らが従う理由はあるかな? ギルドは別に、神々や派閥(ファミリア)に対して言論統制をできる権限なんて持っていないよね」

 

「『ジャガーノート』の出現条件が漏れれば、いたずらに出現させようとする者が出かねん」

 

「そういう話をしているんじゃないんだ。ギルドが僕らに要求を通せる立場にあるのか、という話をしているんだよ」

 

「その立場にはないな。だが、我々の要求は、至極真っ当なものだと理解していただきたい」

 

 フィンとフェルズは、言葉の応酬で場の主導権を握り合おうとしている。

 だが、ここでリリルカが横から割って入った。

 

「【ヘスティア・ファミリア】は、ギルドに一つの条件を飲んでもらえれば、ギルドの要求にも応える用意があります」

 

「ほう……?」

 

「へえ、リリルカ?」

 

 フェルズとフィンが、リリルカに注目する。何を言い出すのだろうかと、骸骨魔術師と小人族(パルゥム)の青年が、小人族の少女を見る。

 一方で、ベルとヘスティア神は、リリルカが何を言い出すのかハラハラして見守った。ギルドに金を無心したりしないだろうな、と心配しながら。

 

「【疾風】リュー・リオンの要注意人物一覧(ブラックリスト)の登録と賞金首としての手配を正式に撤回し、冒険者に戻っても良いと認めてもらえば、リリたちは箝口令を受け入れます」

 

「アーデさん!?」

 

 黙って話の流れを見守っていたリューが、驚き声を上げる。

 そう。リリルカはここに来て、金の無心以上の要求をギルドの主神ウラノスに対して、通そうとしていた。

 

「よかろう」

 

 そして、それはすんなりと通った。フェルズではなくウラノス神自ら、リリに応えたのだ。

 

「やりましたよ、リュー様。これで、【ヘスティア・ファミリア】へ『改宗(コンバージョン)』していただければ、派閥の仲間として一緒に『冒険』を続けられます」

 

「アーデさん……」

 

「あっ、それとも、【アストレア・ファミリア】に戻りたいですか……?」

 

「いえ……あなたの言葉、ありがたく受け取らせてもらう。今回のような『冒険』をまた共に」

 

「今回みたいなのをもう一度は、勘弁してもらえないでしょうか……?」

 

 そうして、リリルカがここ数ヶ月ずっと秘めていた「リューと一緒の派閥に所属したい」という望みは、無事に達成された。

 だが、これはあくまで【ヘスティア・ファミリア】の要求を通しただけ。

 別の派閥に所属していることになっているリュー・リオン個人は、また別で要求を通せる余地がある。そこで、リューは、今回の『冒険』で一つだけ心残りなことをギルドに托すことにした。

 

「今回、37階層で見つけた冒険者の亡骸から物資を漁り、勝手に使用しました。そのことを彼らの主神に謝りたい。その物資の多くは消耗してしまいましたが、遺髪は無事に持ち帰っているので、それも返したい。仲介していただければ、箝口令を再び受け入れます」

 

 これに応えたのは、フェルズだ。

 

「どこの派閥の主神かね?」

 

「それが、身元が分からないのです。団旗らしきものはあるのですが、エンブレムがかすれて見えない。そこで、主神や派閥探しも、ギルドに任せたい」

 

「ふむ……」

 

「私は『改宗』のために、しばしオラリオを離れる必要がある。その間に、ギルドへお願いしたいのです」

 

「了解した、受け入れよう。ウラノス、構わないな?」

 

「構わぬ」

 

 そういうことになった。

 それからは、フィンとロキ神が、ギルド側から良い条件を引き出そうとバチバチの交渉を始めたが、これには【ヘスティア・ファミリア】とリューには関係のないこと。

 ヘスティア神を含めた四人は、ロキ神がウラノス神に向けてがなり立てるのを無視しつつ、祈祷の間の片隅に集まった。

 

「アーデさん、ありがとうございます。オラリオの外にいるアストレア様にお願いして、『改宗』の許可を得てきます」

 

「いいのですか? 【アストレア・ファミリア】にそのまま残っても、リュー様が幸せになれるなら、リリはそれでも構わないのですよ?」

 

「いえ……私は、あなたと、クラネルさんの今後の成長をここ、オラリオで見届けたい。アストレア様には、不義理を謝ってきます」

 

「分かりました。リュー様の【ヘスティア・ファミリア】入りをリリは歓迎します!」

 

 リューとリリルカがそこまで話したところで、ヘスティア神が横から機嫌良さげに言った。

 

「いやあ、リュー君がとうとう、ボクたちの家族になるんだねえ。感慨深いね」

 

「リリも、ようやく団長という重荷から解放されるようで、安心しました」

 

「何を言っているのですか? 団長は、依然、アーデさんだ。私は、団長の器ではない」

 

「ええっ、『Lv.1』が団長で、『Lv.4』が一般団員とか、前代未聞ですよ!?」

 

「別に今さらだよ、リリ君。あ、それに、リュー君は長期間【ステイタス】を更新していなかったわけで、『ランクアップ』するかもしれないよ。楽しみだねえ」

 

「『Lv.5』が平団員に……!? 無理です、リリに団長は務まりません!」

 

「大丈夫だ。あなたなら、きっと今後も私たちを導いていける」

 

「そう言って、リリに全てを任せて楽をしようとしていますね!?」

 

 女三人の騒がしいやりとりをベルはニコニコとした笑顔で一人、黙って聞いていた。心の中で、憧れの『年上エルフさんと一つ屋根の下』な生活が始まるのかも、とのんきに考えながら。

 すると、我関せずを貫いているベルを見咎めたリリルカが、彼に向けて言う。

 

「そこの無関係ですって顔をしたベルさん! ベルさんからも、二人に何か言ってあげてくださいよ!」

 

「ああ、うん。この【ファミリア】、女子率高いよね」

 

「いきなり何を言い出すのですか!? ハーレムですか、ハーレムでも狙っているのですか!?」

 

「あ、いや。今のは違くて……」

 

 思わず変なことを口走ってしまったベルに、リリルカが噛みつくような表情を浮かべて騒ぎ出す。

 そして、「リリたちは、ちょっと一緒に危機を乗り越えた程度でなびくような、軽い女ではないですからね!」と叱られた。女心は複雑すぎる、とベルは思った。

 




以上で第四章『深淵の迷宮』編は終了です。
次章は『異端児編』を予定していましたが、幕間的な章を挿入することにしました。『深層』から帰還したベルくんの日常と、リリ団長の修行がメインになります。
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