「気持ちは嬉しいですが……『Lv.1』の新人が追加参戦しても、リリたちの勝利はありえません。相手は百人規模の大きな【ファミリア】ですよ」
ベル・クラネルによる『
そして、彼女はベルのことをジッと見ながら、さらに言う。
「その装備と立ち振る舞いから、腕に覚えがあると見えます。しかし、都市の外でどれだけ武勇を誇った人でも、『
そのリリルカの声は、どうしようもない悲しみに満ちていた。
それを聞いたベルは、胸が締め付けられる思いと共に、
見初めた相手がいるからと、その相手が不幸になろうとも構わず
ベルは、この状況を作り出したアポロンという神に怒りを覚えた。
もちろん、アポロン神にも言い分はあるのだろう。片方だけの意見を鵜呑みにして、物事を判断するのは愚かだ。しかし、被害を訴えるヘスティア神は、祖父ゼウスとアルテミス神が
「敵うか敵わないか、相手の強さを知らないから僕には分からない。でも……二人がこんなに苦しんでいるのを見て見ぬ振りはできない。僕に、戦わせてほしい」
そのベルの勇ましい言葉に、リリルカは愚か者を前にしたような目で、ベルを見返した。
すると、事態を見守っていたヘルメス神が、笑顔を浮かべながらベルに向けて言った。
「ベル君。【アポロン・ファミリア】の団長は『Lv.3』らしいよ。勝てるかい?」
「『Lv.3』ですか。それなら、よほどの隠し球がない限り、一対一なら勝てる自信があります」
そんなベルの自信ありげな答えに、リリルカは眉をひそめた。なんなんだ、この少年は。大言壮語にも程がある。そういう思いを込めてベルをにらみつけた。
その一方で、ヘスティアは、ベルの言葉を聞いて目を見開き、驚きを露わにした。
「本気かい、キミ。嘘を吐いていないようだけど……『Lv.3』がどれほどの強さなのか、分かっているのかい?」
そのヘスティア神の反応に、ベルはそういえば、と祖父ゼウスから伝え聞いていたことを思い出す。
神相手に、人の嘘は通じない。
地上に降りる際、力のほとんどを封じる神だが、それでも権能にも満たない能力をいくつか有したままだ。
その一つが、
そのことを念頭に置きながら、ベルはヘスティア神へと誠実に答える。
「はい。少しだけお世話になった【アルテミス・ファミリア】の『Lv.3』の団員の方々には、模擬戦で負けることはありませんでした」
「えっ? キミ、ゼウスだけじゃなくて、アルテミスとも知り合いなのかい!?」
「ええ、アルテミス様からヘスティア様に、推薦状を預かっています」
そう言って、ベルは背負っていた鞄を床に下ろし、荷物を漁って中から二通の封筒を取りだした。
片方は、アルテミス神からヘスティア神宛てのベルの推薦状。
もう片方は、祖父ゼウスからヘスティア神宛てのベルの推薦状だ。
それを受け取ったヘスティア神は、それぞれの封筒に書かれた【
「はあー、確かに天界で見た覚えのある
「ゼウスお
「どうなったらそうなるんだい!?」
驚愕するヘスティア神だが、まずは推薦状に目を通さねばと、アルテミス神からの推薦状を開く。そして彼女は、【神聖文字】を読めないリリルカへ内容を聞かせるために、音読し始めた。
「伝説のモンスター『アンタレス』の共同討伐……?」
「『Lv.3』の団員との模擬戦に快勝、ですか……? いやいや、いくらなんでもおかしいです」
「回復魔法と火炎魔法の使用……」
「弓の腕も凡庸ながら【アルテミス・ファミリア】の団員が認める水準にあり? ちょっと冗談が過ぎませんか」
「いやあ、でもこれは確かにアルテミスの字だよ。いかにもアルテミスが好みそうなデザインの、【ファミリア】を示す
「本気ですか……」
アルテミス神の推薦状を見終わった二人は、同時に眉間を揉む動作をしてしばらく考え込んだ。そして、今度はゼウス神の推薦状に目を通し始める。
「異世界に迷いこんでから、帰還? 異世界!?」
「リリは頭が痛くなってきました」
「旅の途中で、村を襲った竜の討伐……うわあ、この字もゼウスのもので間違いないよ」
「……オラリオの外のモンスターは、ダンジョンのそれよりも大幅に弱体化しているのですよね?」
「それでも、竜ほどになると、普通は『神の恩恵』なしで退治なんてできないさ」
そうして、二通の推薦状を読み終わったヘスティア神とそれを横で聞いていたリリルカは、ため息を吐きながらしばし放心した。
それからヘスティア神は、ヘルメス神の方を向いて確認を取るように尋ねた。
「ヘルメス、キミの目から見て、このベル・クラネル君とやらは、本当に『
「ああ、派閥の構成員を全員一度に相手できるかは分からないけど、強さは本物だ。なにせ竜退治の現場は、オレも目にしたからね」
「そうか……つまり、ベル君は、古代の英雄の再来ってことかい」
「どうだろうね。正確に言うなら、別の世界で力を身に付けた、異世界の英雄ってところかな」
ヘスティア神とヘルメス神がそんなやりとりをする中、【ヘスティア・ファミリア】団長のリリルカはというと、ベルを値踏みするように見ていた。
ベルが装着している防具は、白銀に輝く立派な鎧だ。胸もとには、何やら宝玉のような物が
そして、腰には二振りの剣が鞘に収まっている。どうやらベルは剣士のようだとリリルカは察して、所在なげに立つベルの身体をジッと観察した。
何気なく立っているようだが、彼の姿勢はとてもよかった。重たそうな鎧を着ているというのに、疲れている様子は見えない。体幹がしっかりしているのか、背中に一本の棒が差し込まれているかのような立派な立ち姿だ。
そして、手の平には剣ダコと、分厚そうな手の皮が見えた。そこから、彼に『神の恩恵』が刻まれていないというのも本当かもしれないと、リリルカは思った。『神の恩恵』を持つ者は、ランクアップしていくにつれ身体が頑強になり、剣ダコなどもできづらくなるという与太話を彼女は聞いたことがあった。
観察を続けて導き出したリリルカの結論。それは、少なくとも外の基準では強い人物なのは確定だ、というものだった。
しかし、『神の恩恵』なしに竜退治をして『Lv.3』の神の眷族相手に勝利を収めたという話は、信じ切れないでいた。
ゆえに、リリルカは、ある一つのことをその場で決めた。
「ベル様でしたか。ここは派閥の団長としての立場から、ベルさんと呼ばせていただきます」
「あっ、はい」
「正直、リリはベルさんの強さを信じることができません」
「そうなりますよね。信じてくださいとしか言えないんですが」
「なので……ベルさん。リリと立ち合ってください。リリはまだ駆け出し冒険者ですが、それに勝てないようでは話になりませんから」
「分かりました。模擬戦ですね」
と、リリルカとベルの間で、腕試しをすることが決まった。
なお、ヘルメス神と話し込んでいてそのやりとりを聞いていなかったヘスティア神。
彼女は、礼拝堂で突然武器を構え始めた二人を見て、ギョッとした顔をして「喧嘩は止めるんだ!」と悲鳴のような叫び声を上げた。
◆◇◆◇◆
椅子を壁際に除けた広い礼拝堂の中央にて、二人が向かい合う。
片方は、小人族の少女リリルカ・アーデ。武器は、紫紺の燐光を放つ黒い金属槍《ヘスティア・スピア》。
もう片方は、ヒューマンの少年ベル・クラネル。武器は、黄金に輝く刃の騎士剣《エクスカリバー》。
二人は互いに武器を持ち、油断なく構えた。
そして、リリルカが堂に入った構えで槍の穂先をベルに向けながら、言う。
「【ファミリア】の未来が懸かっています。手加減はしませんよ」
すると、ベルも薄く笑みを浮かべて応える。
「うん、僕も本気でいくよ」
そして、合図も無しに両者の立ち合いは始まった。
『Lv.1』の俊敏さで勢いよく距離を詰め、その身の丈からは想像もできない剛力をもって、槍で薙ぎ払うリリルカ。
『神の恩恵』を持たない都市外の傭兵相手ならば、これだけで決着が付いてしまうほどの強烈な一撃だ。
しかし。
リリルカの渾身の一撃は、見事に空を切った。
そして、彼女の視界の中から、いつの間にかベルが姿を消していた。
まさかの事態に、リリルカは驚愕する。だが、その驚きを必死で押さえ込み、ベルの気配を探す。すると、わずかに背後から床を踏みしめる音が聞こえた。
「そこっ!」
リリルカは、槍を振り回すようにして背後を薙ぐ。
小柄な
だが。リリルカの槍は、見事に弾かれた。ベルが、手にしていた白銀に輝く盾で攻撃を軽々と防いだのだ。
槍は勢いよく上へと流され、リリルカは思わず上体を起こしてしまった。驚愕に染まるリリルカの顔。
そこへ、ベルの剣が突きつけられる。その剣は寸分なく急所である首を狙っており、首に危うく突き刺ささるといったところで、ピタリと止まった。
目の前に突き出されたベルの剣を見て、リリルカは思わずその剣の美しさに見とれてしまった。
そして、そのわずか後に自身の敗北を悟ったリリルカは、腹の底から絞り出すようにして言葉を放つ。
「……参りました」
「うん、おつかれさまでした」
ベルはそう言って剣を引き、鞘に剣を収めた。
そして、ベルはリリルカに向けてニッコリと笑いながら、彼女に向けて問う。
「どうかな、団長さん。【ファミリア】入り、認めてもらえますか?」
「……ええ、リリは文句ありません。後は、ヘスティア様の判断次第です」
そうして、立ち合いを終えた二人は、礼拝堂の隅で戦いを見守っていた二柱の神のもとへと歩いていく。
ヘスティア神は二人の健闘をたたえ、それからリリルカを抱きしめて「怪我はないかい?」と優しく尋ねた。
「この通り、ピンピンしていますよ。それよりも、ベルさんの加入についてです。リリは、団長として彼の加入を推奨します」
「そうかい……」
ヘスティア神は、抱きしめていたリリルカを離し、そしてベルへと向き直った。
「『戦争遊戯』は四日後。開催場所への移動時間を加味すると、準備期間は今日も入れて二日だけだ。ボクたちヘスティア派の眷族は、団長のリリ君とキミのたったの二人。外部からの助っ人は今のところ一人だけ。正直、勝ち目は薄いだろう」
そのヘスティア神の言葉に、ベルはうなずきを返す。
「どうだい、ベル君。それでもボクの【ファミリア】に入ってくれるのかい?」
「はい。どうか、末永くよろしくお願いします」
言外に、【ファミリア】を絶対に解散させないという意味を込めて、ベルが力強く答えた。
こうして。
イヴァリースから来た剣士ベル・クラネルの冒険……『剣聖』を目指す
・眷族と眷属
ダンまち原作において、眷族と眷属という単語が混在して使われています。
本作品においては、眷族はファミリアの一員、眷属はファミリアそのものをさしてふわっと使い分ける予定です。