ダンまちTACTICS   作:Leni

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51.翅の折れた妖精

 時間は前後し、リリルカが『ランクアップ』するより以前のこと。

【ロキ・ファミリア】の団員レフィーヤ・ウィリディスは、己の中に渦巻く感情を処理できないでいた。

 

 彼女は派閥の幹部候補である『Lv.4』の冒険者だ。

 妖精族とも呼称されるエルフであり、そのエルフの特徴である魔法能力を見事に発現させた、うら若き少女である。

 

 そんなレフィーヤは、最近、かけがえなのない友を失った。

 友の名はフィルヴィス・シャリア。同じエルフ族の同胞で、あの【ディオニュソス・ファミリア】の団長を務めていた。

【ディオニュソス・ファミリア】といえば、今やオラリオ中に邪神としての名が広まった、ディオニュソス神が率いていた派閥。しかし、別にその団員たちが『闇派閥(イヴィルス)の残党』だったというわけではない。

 

 ディオニュソス神は、己を慕う団員を暗示と神酒でもって惑わし、世界に混乱をもたらすという計画のために利用していた。

 フィルヴィスは、そのディオニュソス神を守るために、オラリオの冒険者と対峙した。あの『魔城』攻略の日に、ディオニュソス神とロキ神やヘルメス神が率いる勢力とで戦いが繰り広げられたのだと、攻略成功の翌日にレフィーヤはロキ神から直接聞かされた。

 そして、フィルヴィスは最終的に、オラリオ最強の冒険者オッタルによって討伐され、この世を去ったとのことだった。

 

 それを聞いたレフィーヤは、ロキ神を責めた。

 フィルヴィスも暗示と神酒で操られていたはずなのに、なぜ助けてくれなかったのかと。

 しかし、次にロキ神から告げられた言葉は、レフィーヤの想像を超えたものだった。

 

 フィルヴィスの正体は、『穢れた精霊』の手下である怪人(クリーチャー)であった。

『穢れた精霊』は、『闇派閥の残党』や『都市の破壊者(エニュオ)』に協力していた敵勢力である。よって、フィルヴィスがディオニュソス神に操られた、何も知らないただの冒険者であったはずがない。ロキ神は、そんな残酷すぎる真実をレフィーヤに告げた。

 

 レフィーヤは絶句し、悩み、そして再びロキ神を責め立てた。

 それならば、どうしてロキ神が対面したというフィルヴィスとの決戦の場に、自分を呼んでくれなかったのかと。

 しかし、ロキ神から返ってきた言葉は、再びレフィーヤを黙らせるには十分な威力を持っていた。

 

「フィンが言うには、『魔城』の攻略は、魔法を自在に使いこなすレフィーヤがいないと成り立たんかったらしい。だから、レフィーヤを攻略メンバーから外すわけにはいかんかったんや。すまんかった、堪忍な」

 

 それは言外に、【ロキ・ファミリア】の仲間たちと、友人のフィルヴィス、どちらの命を取るのかとロキ神に問われているようだった。

 少なくとも、レフィーヤはそう問われているような感覚に(おちい)った。

 

 どちらを優先すべきか自分が選択できるのか。人の命を天秤に掛けるのか。自分にはその資格があるのか。

 レフィーヤは、自問自答し……そして、答えが出ないまま、モヤモヤとした気持ちをしばしの間、抱えることになった。

 

 ロキと問答した日から、鬱々(うつうつ)とした気分の日々が続く。だが、本拠(ホーム)から出ずにふさぎ込む彼女の生活に、ふと変わった光景が交じるようになった。

 同盟派閥、いや、傘下の派閥である【ヘスティア・ファミリア】が、一週間の期間限定で『黄昏(たそがれ)の館』に住み込むことになったのだ。

 目的は、【ロキ・ファミリア】の団長フィン自ら、【ヘスティア・ファミリア】の団長に修行をつけるため、らしい。

 

 レフィーヤは思った。いくら傘下派閥の団長だからって、ひいきしすぎじゃないか、と。

 自分だって副団長であるハイエルフのリヴェリアに、マンツーマンでの魔法の指導を毎日してほしいくらいだ。だが、忙しい最高幹部に、そんなことを頼めるわけもなく。

 

 と、そこまで考えて、レフィーヤはハッとした。

 なぜ、今、自分は強くなることを望んでいるのだろう。これ以上、強くなって何ができるんだろう。

 そんな自問自答の末、今度こそ彼女は答えを出した。

 

『穢れた精霊』。ダンジョンの奥底に潜むであろう、自分たち【ロキ・ファミリア】の敵。同胞フィルヴィスを怪人に変えた、正体不明の存在。それをぶちのめすために、自分は強くなることを望んでいるのだと。

 そこまで考えたレフィーヤは……ようやくふさぎ込むのを止め、動き出した。もっと強くなるために。もっと敵を(ほふ)れるようになるために。もう二度と誰も失わないために。

 

「ベル・クラネル! 私に戦い方を教えなさい!」

 

 だが、思い込みの激しい()のあるレフィーヤは、その努力の方向をしばしば見失いがちであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 レフィーヤ・ウィリディス。山吹色の美しい髪を後頭部でまとめた、妙齢のエルフの少女。【ロキ・ファミリア】の幹部候補である。

 もちろん、この派閥と関わりの深いベルは、彼女とも会話をしたことがある。

 だが、物腰の柔らかいはず彼女は、どうしてかベルにだけツンケンした態度を取る。なぜかと周囲に問うたことがあるが、どうやら彼女はアイズ・ヴァレンシュタインのことをたいそう尊敬しているらしかった。

 

 つまりだ。突然現れたポッと出の男が、【剣姫】と仲良さげに剣の修行をしていることが気にくわない。【剣姫】に憧れる立場にある者として、許せない。そういう心理であるようであった。

 

 そのアイズは、現在、【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院に宿泊している。

 ならば、このタイミングならば、レフィーヤもツンケンしていないのでは?

 などと、リリルカの特訓のために『黄昏の館』に来る際、エルフ好きのベルは少々期待していた。

 

 だがしかし、リリルカの特訓開始から数日経ってレフィーヤと会ってみると、先ほどの戦い方を教えろ発言である。言葉の節々が見事にツンケンしていた。

 困ったな、どうすれば仲良くできるかな。そんなことを考えるベルだが、導き出した答えは単純なものであった。

 とりあえず、彼女の要求に応えてあげよう、と。

 

 そうしてベルは、『黄昏の館』にある訓練所代わりの中庭で、暴走気味のレフィーヤに戦い方の講義をすることになった。

 

「まず、どんな戦闘スタイルを目指したいか、何か想定がありますか?」

 

 最初はベルの問いから始まった。

 だが、これにはなぜかレフィーヤはキョトンとした顔になる。彼女は、強くなりたいという思いだけで、勢いに全てを任せてここまで来ていた。具体的な今後のビジョンなど、欠片も持っていなかった。

 そんなレフィーヤをベルは笑うこともせず、優しく問いを重ねる。

 

「硬い魔法の杖で殴り魔法も駆使する、戦う魔導士ですか? 剣で戦い魔法を近距離から放つ、魔法剣士ですか? もしくは、武器に『魔法』や『属性』をエンチャントする、『魔法剣』の使い手ですか? それとも、自分の身は自分で守る、動ける後衛ですか?」

 

「ムッ、ムムムー!」

 

 剣の稽古をつけてもらえるとばかり思っていたレフィーヤは、想像していなかった方向の教導に、難しい顔をする。

 もちろん、魔導士のレフィーヤがアホでバカという事実はこれっぽっちもない。彼女は『学区』という海上学園都市の出身で、成績も非常に優秀であったのだ。

 ただ単純に、今の彼女が一時的にアホでバカになっているだけである。

 

「具体的な戦い方を決めないと、近接能力を鍛えようにも、訓練すべき内容や伸ばすべき方向性が定まりません」

 

「しかし、ベル・クラネル! あなたは無節操に、様々なスタイルを取っているように見えます!」

 

「それは、僕が無節操なスタイルを取れる『レアスキル』を持っているからですね」

 

「むうっ! 私だって、他にはない『レア魔法』を持っているんですから!」

 

「それはすごいですね! その『レア魔法』の内容次第では、取るべき戦闘スタイルを決める重要な要素になりますよ……!」

 

 対抗心を燃やして、自分の『レア魔法』を誇ってみたら、なんだか褒められた。

 レフィーヤは毒気を抜かれたような気分になって、一瞬で冷静になった。

 

「……ちょっとだけ、どうするか考えます」

 

 そうして、アホバカ指数がわずかに下がったレフィーヤは、自分の今後のあるべき姿を頭の中で想像する。

 今まで出会ってきた、様々な魔法使いたち。その姿を想像する。

 やがて、一つの戦闘スタイルが、彼女の中に浮かんでくる。

 

「後方で大火力を発揮することが、この派閥(ファミリア)で私が最も貢献できる戦闘スタイルです。でも……それだと足手まといなんです」

 

「具体的にどう、足手まといなんですか?」

 

「後ろにいる私が敵に狙われたら、そこからパーティの陣形が瓦解してしまう。つまり、私に必要なのは……攻撃ではなく、防御……?」

 

「いいですね、具体性が出てきましたよ!」

 

「ベル・クラネルのような盾を持つ……いや、両手で杖を持ちたい私には向いていませんね。そうなると、回避ですか。素早く回避しながら、魔法を撃つ……? 並行詠唱。そう! 並行詠唱を完璧にして、回避能力も上げていく! それが私が取るべきスタイル!」

 

「なるほど、分かりました。回避に関しては、僕でもお教えできます。【ロキ・ファミリア】にも、回避能力に優れた方は何人もいらっしゃるでしょう。しかし、並行詠唱に関しては、僕は防御に専念する形でしか真っ当に使えません」

 

 ベルは魔法の専門家ではない。

 死にかけのリリルカを蘇生する回復魔法は使えるが、それでも本業は剣士のつもりである。

 よって、ベルは専門の人間に丸投げすることにした。

 

「今度、うちの派閥に加入する予定のエルフさんが、並行詠唱の一流の使い手です。今、オラリオの外に出かけているので、その人が戻ってきたら教えてもらいましょう!」

 

「むっ、むむ……確か、リュー・リオンさんは、『Lv.4』でしたね。それなら、教えていただくのもありですか……」

 

 オラリオの外へ『改宗(コンバージョン)』の手続きをしてくるとかで、旅立つ前に『黄昏の館』を訪れて【ヘスティア・ファミリア】に挨拶をしていったな、と数日前のおぼろげな記憶を掘り起こすレフィーヤ。

 そんな彼女のつぶやくような言葉をベルは耳にして、ちょっと驚き、ポツリと言った。

 

「何かを教えてもらう相手の『Lv.』って、そんなに気になります?」

 

「えっ」

 

「『Lv.1』の人でも『Lv.7』の人でも、自分にはない技術を持っているなら、誰でも自分の指導者になりえますよ」

 

 そんな正論を言われ、レフィーヤは口ごもる。

 そして、口もとをキュッと結んでから、噛みつかんばかりの様相でベル・クラネルに向けてツンケンし始めた。

 

「確かにベル・クラネルは『Lv.1』ですね! そんなベル・クラネルに教えてもらわないと、私は強くなれないんです!」

 

「そうですね。僕は平団員なので、こうして気軽に話しかけやすいと思いません? それを考えると、『Lv.』が高い相手に師事するのって、きっと難しいことなんでしょうね」

 

「あなたはッ! 『Lv.6』のアイズさんからッ! 気軽で気安い態度でッ! 剣を学んでいるでしょうがッ!」

 

「いや、あれはむしろアイズさんの方から模擬戦を挑んできたというか……」

 

「ムキー! 言い訳しない!」

 

 憎きベル・クラネルと会話するうちに、レフィーヤの心の内はいつの間にか晴れてきていた。

 そんな彼女の様子をリリルカの特訓に協力するために、中庭へ詰めていた【ロキ・ファミリア】の団員たちは、つぶさに見ていた。

 

 そして、その日の夕刻、『黄昏の館』の中で一つの噂が広がった。

 吟遊詩人に謳われる『剣聖の弟子』の真のヒロインは、素直になれないツンデレ魔女っ子エルフ少女だと。

 それを耳にし、噂の意味するところを理解したレフィーヤは、その場でキレて大騒ぎし始めた。これには、派閥の幹部たちも、呆れていいのか彼女が元気になってくれて安心すればいいのかと、苦笑するばかり。

 

 ちなみに、同じ噂を聞いたロキ神も「うちのレフィーヤたんをやれるかー!」と叫んだが、そちらは団員たちにいつものことかとスルーされて終わった。

 

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