ダンまちTACTICS   作:Leni

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53.半妖精の憂鬱

「お久しぶりです。こうして無事に、地獄から生きて帰りましたよ」

 

 突然入室してきたドワーフの男に向けて、椅子から立ち上がったリリルカはそう言って挨拶をした。

 

「なんで無茶をするんだ、リリちゃん! いくらベル坊がいたからって、あんな危ない場所で『闇派閥(イヴィルス)』のヤツらと戦うなんて! オラぁ、後から話を聞いて、心配で心配で!」

 

 身長差でリリルカを見下ろす形となったドワーフは、その厳つい手でリリルカの手を取り、泣き出さんばかりの声色で大声を発した。

 すると、その声に重ねるようにして、個室の入口付近から別の男の声が響いた。

 

「こらっ、ノックをしないか! これだからドワーフは、品がなっていないと言われるんだ……。急に失礼したな、リリルカ嬢、エイナさん」

 

 開いたままのドアの向こうからそんな発言をしたのは、美しいエルフの男だった。そのエルフは、ドワーフの男を追うように個室へと入室し、リリルカの前へと歩み寄ってくる。

 その二人の男を見て、座ったままのエイナは目を瞬かせた。

 

「えっと、ドルムルさんとルヴィスさん? どうしてこちらに?」

 

「おう、ミィシャちゃんから、リリちゃんがここにいるって聞いてなぁ……」

 

「申し訳ない。エイナさんの仕事中だから邪魔にならないようにしろと、私は言ったのですが……全く。ああ、ベル君も久しいな」

 

 個室にやってきた男二人。

 それぞれ、ドワーフの名をドルムル、エルフの名をルヴィスと言った。

 

 その二人はリリルカに用があるらしく、彼女の前に立っている。そして二人のうち、ドルムルがリリに向けて言った。

 

「元気そうでよかったなあ。リリちゃん、『Lv.2』になったそうだな。おめでとう!」

 

 そして、それに遅れてルヴィスも告げる。

 

「私も自派閥の主神から噂を耳にしたので、リリルカ嬢を祝いにきた。キミは小人族(パルゥム)の身でありながら、栄光への第一歩を踏み出したのだ。誇ると良い。だが、慢心は禁物だ。『深層』まで行ったらしいな。そんなことをしていたら、命がいくつあっても足りんぞ」

 

 どうやらリリルカの【ランクアップ】をそれぞれ知って、わざわざ祝いに来たようであった。

 そう、この二人、実はリリルカとエイナの共通の知り合いであった。

 その出会いは、リリルカが【ソーマ・ファミリア】に所属していた頃にさかのぼる。

 

 路地裏で倒れていたリリルカを拾い、その辛い境遇を知ったリューとヘスティア神。彼女たちは、派閥の者たちに虐げられていたリリルカを解放するために、公権力の一種に近いギルドの協力を得ようとした。

 そこでヘスティア神が解決方法の相談をしにギルドへ訪ねた。ちょうどその時、ギルド本部で受付をしていたのがエイナだったのだ。

 しかも、その相談の場に、偶然、ではなく半ばエイナをストーキングしていたこのドワーフとエルフの男二人が居合わせていた。

 

 そして、エイナと彼ら二人の協力を取り付けることに成功したヘスティア神は、リューと共に【ソーマ・ファミリア】の悪行とリリルカの境遇を人伝(ひとづて)でドンドン街中に広げていった。その後、多くの冒険者やオラリオ市民の協力を経た結果、【ソーマ・ファミリア】を神酒と暴力で支配していた団長ザニスの犯罪の証拠をつかむことに成功。最終的にリリルカは、【ヘスティア・ファミリア】に『改宗(コンバーション)』することができたのだった。

 

 つまり、このドワーフとエルフの男は、リリルカにとっての恩人たちなのだ。

 しかも、二人ともそれぞれ派閥は違えども、『Lv.3』の実力者。リリルカにとっての頼れる先輩冒険者でもあった。

 

「はー、めでてえ、めでてえ。あっ、しまった。祝いの品を何も持ってきてねえや。そうだ、リリちゃん。いつもの飴ちゃんいるか?」

 

 ドルムルがそう言いながら、腰に下げたポーチから包み紙に入った飴玉を取り出し、リリルカへ渡そうとする。

 

「飴で喜ぶほどお子様ではないと、何度も言っているじゃないですか」

 

 だが、そう言って飴玉を受け取ろうとしないリリルカ。

 ショボンとした表情をしながらドルムルは、ベルの方へと飴を動かすが、甘い物が苦手であるベルも受け取りを拒否した。

 

「そうか……。じゃあ酒がいいか? オラ、最近、良い酒を手に入れてなぁ」

 

「いえ、リリ、お酒はもう、こりごりなので……」

 

「あっ、ああ。そうだったな……いや、でも最近の【ソーマ・ファミリア】はだいぶ健全になったんだぞ? チャンドラのやつ、さすがはドワーフだで。なかなか酒造りの腕が良い」

 

「確かに、最近は酒造り派閥として良い噂を聞きますね。上手く回っているようで何よりです。でも、お酒はご遠慮します」

 

 古巣が綺麗になった事実が嬉しくはあるのか、小さな笑みを浮かべるリリルカ。

 そんなリリルカの笑顔を見て、ドルムルはホッコリとした気持ちになった。

 一方、そんなやりとりを横から見ていた、ドルムルとは別派閥のエルフであるルヴィス。彼は、ため息を吐いて淡々と告げた。

 

「まったく無神経なヤツだ……。リリルカ嬢。エルフが集う喫茶店に頼んだ名物のカットケーキだ。派閥の人員分の三つ入っている。【ランクアップ】の祝いとして受け取れ」

 

「おお、エルフなのに気が利くでねえか!」

 

「エルフなのに、は余計だ。いや、他種族に対して気が利かん同胞が多いことに、最近気付いてきたのも事実なのだが……」

 

 ドルムルとそんなやり取りをしながら、ルヴィスはリリルカの前のテーブルに紙箱を置いた。

 

「ああ、甘くないチーズケーキも一つ入っているので、甘い物が苦手なベル君も一緒に食べてくれ」

 

 ケーキと聞いて、自分は遠慮するかなと思っていたベルだが、甘くないケーキと聞いてベルは目を輝かせる。

 

「ありがとうございます! ヘスティア様と一緒にいただきます!」

 

 ベルが年相応に喜び、エルフの男と、ついでに長身のドワーフがウムウムとうなずく。

 そして、ドワーフのドルムルは、「甘い物が苦手なら、ハッカの飴を用意しとくかな……」などとつぶやいていた。

 ベルは、そもそも飴はいらないですと言うか言うまいか悩んだが、その答えが出るよりも早く、ドルムルが再びリリルカに向けて言った。

 

「ところでよ、この前、『豊饒(ほうじょう)女主人(おんなしゅじん)』に行ったら、リューの(あね)さんがいなかったんだけどよ」

 

『豊饒の女主人』。リューが給仕として勤めていた酒場のことだ。先日、【ヘスティア・ファミリア】の全員で、吟遊詩人の(うた)を聞きにいった店でもある。

 

「最近、手配書が撤回された【疾風】リオンの正体って、姐さんだろ?」

 

 ドルムルのその言葉に、ルヴィスの額にシワが寄る。

 だが、尋ねられた本人のリリルカは、あっけらかんとした様子で答えた。

 

「そうですよ」

 

「やっぱりそうかー。オラ、最初に会ったときからそうだとは思っていたんだよなあ」

 

 そんな、手配書のことなど気にして言わんとばかりに、ただただ納得の表情を浮かべるドルムル。

 一方、エルフのルヴィスはというと、難しい顔をして、誰に告げるでもなく言った。

 

「復讐の道に堕ちた末路は美しくなかったが、彼女の派閥が掲げていた『正義』は私も認めるところだ」

 

「オラ、駆け出しの頃、【アストレア・ファミリア】には助けられたことあるだよ」

 

「私は関わりがなかったが、その(こころざし)は共感できる部分があったのは確かだ」

 

 二人は『Lv.3』の第二級冒険者だ。ここまで【ランクアップ】するにあたって、オラリオで相応の時を過ごしている。

 オラリオの『暗黒期』も経験しており、その時代に『正義』を貫いていた【アストレア・ファミリア】のことも知っていた。

 

 彼らが以前、リリルカを救おうと思ったのも、そのあたりが理由にあったのかもしれない。『正義』を体現していた【アストレア・ファミリア】の【疾風】リオンであるリューが主導しているなら、リリルカは救われてしかるべき存在という論法である。

 基本、この二人は、善意に満ちた気の良い男たちなのだ。

 

「リュー様ですが、今度、【ヘスティア・ファミリア】に入ることになりました。酒場にいなかったのも、それが理由です」

 

 そんな気の良い男たちに、リリルカはリューの今後を伝える。

 すると、ドルムルの顔に、笑みが浮かんだ。

 

「そうか! そうかそうか! めでてえ、これはめでてえぞ!」

 

「待て、リリルカ嬢。まさか団長の座を譲るのではあるまいな?」

 

 一方、ルヴィスはリリルカの今後が気になったのか、そんなことを尋ねた。

 彼は、小人族でありながら『Lv.2』までのしあがったリリルカのことを正しく認めている。一方で、復讐の道に堕ちたリューのことは、団を率いる器ではないと思っていた。

 

「団長を譲ろうとしたら、拒否されました……」

 

 リリルカがそう答えると、ルヴィスが納得したようにうなずく。

 

「それでいい。リリルカ嬢、キミは将の器だ。団長に相応しい逸材なのだ」

 

「うんうん、オラもそう思うだ」

 

 そうして、リリルカと二人の男は、追加でベルも交えて近況を報告し合った。それからしばらくして、勉強会の邪魔をしてはいけないというルヴィスの言葉で、ドルムルとルヴィスは個室を去っていった。

 その一連のやりとりをエイナは、複雑な表情で見守っていた。

 

 エイナは以前、ドルムルとルヴィスのアドバイザーをしていたことがある。

 今、リリルカとベルにやっているのと同じように、親身になってダンジョンで生き延びるための知識を学ばせた。冒険者としての相談も、幾度となく受けた。

 その結果、ドルムルとルヴィスは二人ともエイナに惚れてしまった。美女美少女ぞろいの受付嬢やアドバイザーが冒険者に惚れられることはよくある事例と言われている。

 そんな理由で、エイナは二人の男に同時に愛されてしまった。そして、エイナは二人に愛されているという事実をしっかりと自覚していた。

 

 そして、二人の担当を終えた後も、しばらくの間、エイナは二人から熱烈なアプローチを受けていた。その想いに応えるつもりはなかったため、彼女は対応に苦慮(くりょ)していた。

 だが、数ヶ月程前から、二人からのアプローチはスッパリと収まっていた。

 

 きっかけは、リリルカを【ソーマ・ファミリア】から救済したあの出来事だ。

 彼らはリリルカのことを可愛い後輩冒険者として可愛がりつつ、自身は先輩冒険者としての貫禄(かんろく)を見せようとし始めた。

 それからだ。二人がエイナを巡って、醜い言い争いをしなくなったのは。

 

 さらに二人は、新たに【ヘスティア・ファミリア】入りしたベルのことも、何かと面倒を見ていた。

 彼らは、エイナのストーカーから、模範的な上級冒険者に変化したのだ

 

 良いことだ。エイナは思う。

 しかし、良いことなんだけど……釈然としない。エイナは思った。

 

 そして、リリルカと【耐異常】の育成方針について劇論を交わすうちに、ふと気付いた。

 

 ――二人の態度が変わったということは……もしかして、私、二人に愛想を尽かされた!?

 

 別に、エイナは二人の男のどちらとも恋仲になりたいとは思っていない。

 だが、一方的に彼らから見限られた可能性に、彼女はショックを受けてしまった。

 

 ギルドの受付嬢の仕事をしているエイナは、自分の美貌をしっかり自覚している。

 つまり、容姿には自信を持っていた。

 

 ――それが、まさかこうなるなんて!

 

 エイナは、失恋したわけではないのに失恋を味わったような気分になった。

 そして、モヤモヤした気分のまま、【ヘスティア・ファミリア】との本日の勉強会を終えた。

 

 ちなみに、ドルムルとルヴィスの二人が、エイナへの無理なアプローチを止めたのには、別の理由がある。

 

 それは、リリルカの解放に協力した多くの冒険者やオラリオ市民に、普段のエイナへのストーカー行為を(とが)められたからだ。

 さらに、モテたいならば格好良い冒険者としての姿を見せろ、と助言を受けたことも大きい。

 未だに、二人の想いはエイナの方を向いており……エイナの今の感情と、二人の事情をリリルカが知れば、こう言ったであろう。

 

 押してダメなら引いてみろって、本当だったんですね、と。

 




・ドルムルとルヴィスの過去
原作におけるドルムルとルヴィスが、オラリオの『暗黒期』を経験しているかは不明です。
よって、【アストレア・ファミリア】との関わりと、リューの正体に二人が気付けたあたりの話は、本作のオリジナル設定となっています。

・リリへの協力者が多いのに『戦争遊戯』で【ヘスティア・ファミリア】に助けがなかった理由
【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』は原作と同じく『助っ人は一人まで。そして助っ人を提供する派閥は、都市外の【ファミリア】に限る』がルールとして盛り込まれていたので、直接的に助けるには【ヘスティア・ファミリア】に『改宗』するしかないのですが、『改宗』はそうホイホイするものでもできるものでもないので、主神がオラリオ外にいるリューさんくらいしか助けに入れませんでした。代わりに、間接的に協力をしようとした人は多かったため、10話でヘスティア様がオラリオ中を駆け巡って協力者から物資をかき集めています。
リリを自派閥に引き入れようとするフィンの暗躍・根回し(12話参照)もあったのですが。……これが主原因の気もしますね!
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