ダンまちTACTICS   作:Leni

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54.鍛冶師は乗り越える

 その日、ベルとリリルカは、オラリオの北東部にある鍛冶工房に訪れていた。

【ヘファイストス・ファミリア】が所持する物件。その中で、一人の上級鍛冶師(ハイ・スミス)に貸し出されている個人工房である。

 

 工房主の名は、ヴェルフ・クロッゾ。

 上級鍛冶師に成り立ての、ベルとリリルカの専属鍛冶師(スミス)であった。

 

「それで、仕組みはこの通りで間違いないんだな?」

 

「うん、詳しい仕組みまでは知らないけど、構造自体はムスタディオさんが整備していたのをよく横で眺めていたから……」

 

 ベルが工房に呼ばれた理由は、異世界に存在したという特殊な武器をヴェルフが知りたがったからであった。

 ベルは、異世界のイヴァリース帰りだ。そこには、剣や槍といったこの世界でも広く知られる武器の他に、こちらでは見かけない武器種も存在していた。

 それは、『魔法銃』。『魔法』が込められた弾丸を筒に込め、弾丸を発射して相手に『魔法』を直撃させるという古代兵器である。

 

 銃と呼ばれる武器種そのものは、この世界にも存在する。

 しかしその銃は、ボウガンと並ぶ『神の恩恵(ファルナ)』を持たない弱者のための武器だ。火薬で金属の弾丸を飛ばすという仕組み上、使用者の膂力が一切反映されないためだ。『神の恩恵』を持つ者が遠距離攻撃をする場合、通常は弓矢を使用する。

 

 では、なぜヴェルフが『魔法銃』の構造をベルから聞き取りしているのか。それは、『魔法』を弾丸に込めて撃つという仕組みを学ぶためだ。

 

「『魔剣』ならぬ『魔弾』制作ですか……確かに、それなら戦場で武器本体である銃を失うことはありませんね」

 

 ベルとヴェルフの会話を横で聞いていたリリルカが、感心したように言う。

 そう、ヴェルフは『魔剣』を矢尻として加工した過去の経験を活かし、『魔剣』を弾丸にしようと考えているのだ。

 

『魔剣』の最大の欠点は、力を使い果たしたら折れてしまうこと。

 しかし、矢尻や弾丸はそもそも消耗品だ。使う側も、失うことを前提で戦っている。

 そのことにヴェルフは注目して、『魔剣』の発展形である『魔弾』を作り出そうとしていた。

 

「実際には、弾を直接撃ち出す仕組みにはならないと思う。手もとの『魔弾』……『弾倉』から、銃身を通して魔力を吐き出し続ける仕組みになるはずだ」

 

「はあー、ヴェルフさん、『Lv.2』になってから絶好調ではないですか。この加工超硬金属(ディル・アダマンタイト)の鎧も、お師匠様のしごきに耐えてくれましたよ」

 

「俺は未だに、最後の試練ってやつに連れてくれなかったことを恨んでいるけどな……なんだよ、『モス・ヒュージ強化種』って。貴重な『経験値(エクセリア)』を逃しちまったじゃねえか」

 

「あの光景はトラウマものでしたので、見なくて正解ですよ……」

 

 そんな言葉をヴェルフと交わしたリリルカは、先日18階層で経験した、寄生能力を持つ『稀少種(レアモンスター)』との戦いを思い出して、ブルブルと身震いした。

 だがヴェルフは、ダンジョンでトラウマ体験など今さらだ、と肩をすくめた。

 そして彼は、ベルから聞き取った魔法銃の仕組みを書き出した紙に、追加のアイデアを書き込み始める。

 それを見て、リリルカが言う。

 

「新しい『魔剣』の開発は結構ですが、リリの防具の整備も忘れないでくださいね」

 

「分かってるよ。まったく、作ったばかりなのにこんなにくたびれさせて、鍛冶師冥利(みょうり)に尽きるな、本当に」

 

「くたびれた分だけ、リリの【ステイタス】が上がっていきます」

 

「ふつーの冒険者は、そうホイホイ【ステイタス】は上がらねえからな!」

 

「リリもかつては、ごくふつーのサポーターでしたので、そのあたりは百も承知ですよ」

 

 そんなやり取りを経て、ベルとリリルカはそれぞれ情報と防具をヴェルフに托した。

 その先からは、鍛冶師の領分。

 新兵器開発という、ヴェルフ・クロッゾという男の、一世一代の挑戦が始まった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「試作ができたぜ。これが、俺が世に送り出す新しい武器種、『ガンブレード』だ」

 

 ヴェルフが完成させた新兵器。それは、銃ではなかった。

 それを形容するならば、銃の『弾倉』が取り付けられた刀剣。

 その名の通り、それはまさしく『ガンブレード』であった。

 

「また奇妙な物を作り上げましたね、ヴェルフさん」

 

 リリルカが、ヴェルフの用意した試作武器を手に取り眺めながら、そんなことを言った。

 すると、ヴェルフはよほどこの武器に自信があるのか、得意げな顔をして説明を始める。

 

「刃の部分は『魔剣』でもなんでもない、ミスリル合金製の剣だ。だが、そのミスリルっていうのが肝でな。『弾倉』に収められた『魔弾』の魔力を伝える銃身の役割を(にな)っている」

 

「つまり、『魔剣』と同じように、この剣の先から『魔法』が飛び出すと」

 

「そうだな。しかも、それだけじゃねえ。使用者の意思次第では、遠距離を狙い撃つ『砲撃』だけでなく、近距離で手傷を負わせる『炸裂』にも変わる。剣を振るって相手に当てる際に『魔弾』を起動させると、刃が『爆発』して相手に大打撃を与えるんだ」

 

「うわあ……それはまた……使いこなすのが難しそうな武器ですね」

 

「武器としての信頼性は、トコトンまで追求してあるがな。『魔弾』が尽きようが『弾倉』が壊れようが、普通の剣として使い続けられるようにしてある。『学区』の『機構武装』を見たことがあるが、あれは武器としての信頼性に難がありそうだったからな」

 

「ああ、『機構武装』はリリも見たことがあります。ダンジョンの奥で整備が(とどこお)ったら使えなくなりそうな、ゴチャゴチャした代物でしたね」

 

「あれを『反面教師』にして信頼性は十分確保したが、問題は使用感か。……なあ、ベル。剣士のお前は、これを使いこなせそうか?」

 

 リリルカと言葉を交わしていたヴェルフが、リリルカの手の中にある『ガンブレード』を眺めるベルへ、言葉の先を向けた。

 すると、ベルはパッと顔を上げて、ヴェルフにキラキラとした目を向けた。

 

「ヴェルフ! この剣、僕に売ってもらえないかな!?」

 

「お、おう? もとより剣だから、お前に使わせるために作ったもんだが」

 

「やった! うわー、この格好良い剣を使えるなんて! 困ったなあ! ダンジョンで使ったら、さらに冒険者の注目を浴びちゃうなあ!」

 

「ハハハ、そりゃあ仕方ねえ。こんなにも浪漫に溢れた武器を使って、注目しない冒険者はいねえよな!」

 

 どうやら、この『ガンブレード』はベルの少年心を大いに刺激してしまったようだ。

 そしてベルは、さっと『ガンブレード』をリリルカから奪い取り、「これ僕の!」と言わんばかりに両手でつかんでなめ回すように観察し始めた。

 

「はあー、格好良い……。ところで『ガンブレード』は武器種の名前でしょ? この試作に銘はあるの?」

 

「ああ、あるぜ。《ドキュン丸マーク3》だ。『魔弾』の方は、《獅子吼(ししく)》だな」

 

「えっ、なにそれダサい」

 

「はあっ!?」

 

「いや、《獅子吼(ししく)》はいいけど、《ドキュン丸》ってなに?」

 

「ドキュンと言ったら、銃声に決まってるじゃねーか」

 

「音を銘にするにしても、もっとこう、あるでしょ!?」

 

「はあー……見損なったぜ、ベル。この良さが分からねえとは、お前もそこまでの男だったってことか」

 

「いやいや、この超絶格好良い剣に、そんな銘を付ける方がおかしいからね!」

 

 そんなことをやいのやいのと騒ぎ始める男二人を遠巻きにしながら、リリルカは一人、この武器の活用法を考え始める。

 ベルがこの武器を使いたがっているが、正直なところ、普段のダンジョン攻略では、同パーティのヴェルフに持たせた方が効果的なのでは。リリルカはそう考える。

 

 ベルは、『全剣技』という反則技と、【幻想残滓(ファイナルファンタジー)】という反則技の組み合わせにより、今さら火力を外付けする意味がない。

 リリルカは、そもそも槍使い。ヴェルフがこの『ガンブレード』を剣として作った理由は、おそらく持ち手から刃までの距離が長い槍に『弾倉』を取り付けるにあたって、技術的課題が存在するのだろう。

 そうなると、この『ガンブレード』をダンジョンで使うべき者は、消去法でヴェルフになる。

 

 そこまで考えてリリルカは、試作の『ガンブレード』を手放そうとしないベルをどう説得するか、悩み始めるのであった。

 

 その後、彼ら三人は、ダンジョンに向かい『ガンブレード』の試運転を『初層』で行なうことにした。

『Lv.2』が二人に、『Lv.6』相当の『Lv.1』が一人。もはや『初層』は、ピクニック感覚で訪れることができる、気軽な試し切りの場と化していた。

 

「てりゃっ!」

 

 壁面から現れたばかりの『ゴブリン』をベルが『ガンブレード』で斬り殺す。もちろん、『弾倉』の『魔弾』を消耗しての一撃である。

 近距離からの爆発で、『ゴブリン』は『魔石』ごと全身がバラバラになった。あまりにも強烈な一撃だ。

 それをもたらしたのは、爆発による衝撃だけではない。爆発による刃の震動と、爆風による振りの加速が、斬撃をより強力なものに変えていた。

 

「うわー、うわー、すごい。格好良い! すごい! すごいよ、ヴェルフ!」

 

「そんなことより、使い勝手はどうなんだ?」

 

『ガンブレード』を片手にはしゃぎ回るベルに、ヴェルフが冷静な声でそう尋ねる。

 

「えっ? あ、そうだね。『魔弾』発動のための引き金を引くのが、慣れるまで難しそうかな? 『神の恩恵(ファルナ)』がない一般兵が使ったら、指が折れそう」

 

「それでいいんだ。『魔剣』は一般人でも容易に扱えてしまう兵器の側面もある。それが、一般人では扱えない難しい武器になっているなら、冒険者しか使わなくなる。そうなれば、地上でのいらねえ被害はなくなるだろう?」

 

「でも、それって地上に現れたモンスター退治で、この剣は使いにくいってことでしょ?」

 

「地上のモンスターなんて、上級鍛冶師が作る普通の『魔剣』で事足りるだろ。この『ガンブレード』が活躍するのは、何発も『魔剣』を撃つことが求められる状況だ。つまり、地上のモンスター退治じゃなくて、戦争かダンジョン攻略だな」

 

「なるほど……。それでヴェルフは、一般兵では容易に使えない仕組みにすることで、戦争に『ガンブレード』を採用させないつもりだね?」

 

「そういうこった」

 

 二人で『ガンブレード』を眺めながら、そんなことをワイワイと話すベルとヴェルフ。

 そうして、男二人は『初層』の『ゴブリン』や『コボルト』相手に、代わる代わる『ガンブレード』の試し切りをしていく。

 それを後ろから着いていって眺めながら、リリルカはこの特殊すぎる武器が本当に冒険者に受け入れられるのか、思考を深く回すのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ちなみに、後日。

 整備に出したリリルカの防具を取りに、二人がヴェルフの工房へ再び訪れたときのこと。

 ヴェルフが、なにやら恥ずかしそうな表情で、二人に報告を入れてきた。

 

「ヘファイストス様に『ガンブレード』を見せたら、遠回しな言い方だったが、お褒めの言葉をいただいた」

 

「えっ、本当!?」

 

「快挙ではないですか! 鍛冶神に称賛されるとは、それほど画期的な武器だったのですね」

 

「いやー、まあ、それは良いんだ。その後がな……」

 

 ヴェルフが、何か困ったような顔で頬を掻きながら、言いよどむ。

 当然、ベルとリリルカは、話の先を促すが……。

 

「あまりに嬉しくて……勢いのまま、ヘファイストス様に愛の告白をしたら、受け入れられてな。付き合うことになった」

 

「えっ」

 

「ええっ」

 

「俺、神様の恋人になれたらしいな? 嬉しいんだが……これって世の中の常識的に、ありなのか?」

 

 まさかの言葉に、ポカンとした表情になるベル。

 ヘファイストス神は、鍛冶の女神。それを口説き落とすというとんでもない話を聞いて、ベルはヴェルフを祝福することも忘れ、ただただ驚愕するばかり。

 一方、リリルカはというと「それだけで一つの偉業として『神の恩恵(ファルナ)』から判定を受けるのでは?」などと、失礼なのだかそうでないのか、よく分からない感想を抱いた。

 

 神が自分の眷族に手を出すことは、オラリオにおいてさほど珍しいことではない。

 ただし、ヘファイストス神がそういったことをしたという話は、リリルカは一切耳にしたことがなかった。

 

 ヴェルフ・クロッゾ。女神の心を撃ち抜いた男。

 それを知った神々が、次の『神会(デナトゥス)』でとんでもない二つ名を用意することは、容易に予想の付く未来であった。

 




・銃と大砲
ダンまち世界にも銃はあります。原作外伝の『ファミリアクロニクルepisodeフレイヤ』にて実在が確認できます。ただし、その種類や威力などは一切不明です。
『アストレア・レコード』では大砲と空砲が言及され、短銃と信号弾が使用されています。
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