ダンまちTACTICS   作:Leni

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55.太陽神の宴

『神の(うたげ)』。その名の通り、神が主催する宴会(えんかい)である。

 神が他の神々を招き、特にこれといった目的もなく騒ぎ、飲み食いする催し物(パーティ)

 開催の義務は誰にもなく、特定の神の持ち回りといったこともない。騒がしいのが好きで資金に余裕のある神が気まぐれに開く、そんな気楽な集まりであった。

 

 ちなみに、冒険者の中には『神会(デナトゥス)』と『神の宴』を混同している者もいるが、この二つは根本的に役割が異なる。

『神会』は定期的に開かれている派閥の主神同士の会合であり、冒険者の二つ名の決定という、暇を持てあました神々にとっての最大の関心事が実施される。よって、『神の宴』には出席しないが、『神会』には出るという神も多く存在していた。

 ただし、『神会』には『Lv.2』以上の眷族がいないと参加できないのだが。

 

「ということなんだ。ベル君、分かったかい?」

 

 ここは、『竈火(かまど)の家』の居間。とある日の夕刻、食事を終えた【ヘスティア・ファミリア】が、食後の歓談を行なっていた。

 話題は、『神の宴』について。『神会』と『神の宴』の区別がついていなかったベルに、ヘスティア神が簡単な説明をしたのだ。

 

「なるほど……。つまり、会議と宴会の違いってことですね?」

 

「会議……あれは会議なのかな? ベル君の二つ名を決めるときに一度だけ『神会』に特別参加したことがあるけど、あれは会議なんて真面目な場じゃなかったなぁ……」

 

「参加資格の必要な『雑談会』と、招待されれば誰でも参加できる『飲み会』の違いですよ、ベルさん」

 

 と、ここで、食後のコーヒーをのんびりと飲んでいたリリルカが、もっと簡単に二つの催し物を言い表した。そして、コーヒーカップをテーブルの上に置き、テーブルの上に広げられたカードをリリルカは見る。

 そのカードは、【神聖文字(ヒエログリフ)】と共通語(コイネー)の両方で書かれた『神の宴』の招待状だ。

 

 送り主は、【アポロン・ファミリア】の主神アポロン。

『神の宴』の題目は、ラキア王国との戦争での戦勝を祝ってとのこと。今さらながらの祝勝会である。

 ちなみに、【アポロン・ファミリア】は『魔城』攻略には参加せず、当日は街中の警邏を担当していた。そのため、『魔城』での勝利については書かれていなかった。

 現在、【アポロン・ファミリア】は以前より規模を縮小させている。そのため、『魔城』攻略に供出できるほどの戦力を抱えていなかったのだ。

 

「しかし、リリたちが資産の半分を徴収したのに、『神の宴』を開けるくらいの余裕があるのですね、アポロン派は」

 

「ああ、それはこの前ヘファイストスから聞いたんだけど、少数精鋭になった結果、かえってダンジョン攻略が(はかど)るようになったらしいよ」

 

「そういえば、団員の『改宗(コンバージョン)』も自由にさせることと条件を付けていましたね……。神アポロンを純粋に慕う団員しか、今は残っていないのですね」

 

 そんな言葉を交わしながら、リリルカとヘスティア神はベルと出会ったばかりの頃を思い出す。

 異世界帰りの剣士ベル・クラネルが衝撃的なデビューを果たした『戦争遊戯(ウォーゲーム)』から、そろそろ三ヶ月が経つ。

【ヘスティア・ファミリア】の勝利で、ヘスティア神は【アポロン・ファミリア】から資産の半分を没収した。

 さらに、強引に眷族を派閥へ引き入れる行為を禁じ、団員たちの『改宗』を無条件で許す、という条件をヘスティア神はアポロン神に突きつけた。

 

 神同士の契約は、おおよそ守られるものだ。もし契約を破ろうものなら、他の神々から「ダサい」と後ろ指を指されながら今後、無限に等しい永い時を過ごすことになる。

 全知全能の超越存在(デウスデア)が、わざわざ全知零能の身となって下界に降りてきているゆえに、地上の神々は様々な制約を己に課している。よって、その制約を破ることも、神にとっては非常に「ダサい」こととされていた。

 

「で、その『神の宴』にリリとベルさんが参加するよう、神アポロンから(うなが)されているわけですね……」

 

「ああ、招待状に書かれた趣旨を見る限りだと、お互い、自分の眷族を自慢し合おうとのことだけど……」

 

「すごく、うざったそうですね」

 

「神は基本、自分の眷族が大好きだからね……『神の宴』に連れてくるほどとなると、一番のお気に入りだろうし」

 

『選りすぐりの眷族と共にご参加ください(同伴は二名まで)』と書かれた招待状。

 テーブルの上のそれを見下ろしながら、リリルカとヘスティア神が好き放題言っている。

 一方、ベルはと言うと、少し困ったような顔で招待状を見ていた。

 

「これ、僕も参加するんですか?」

 

「もちろん、ベル君も連れていくぜ? 同伴は二名までってちゃんと書かれているからね。ベル君だけ仲間外れにはしないさ」

 

「僕、パーティに着ていけるような正装とか、持っていないんですけど……」

 

 心配そうに言うベルに対し、ヘスティア神もなるほどとうなずきつつ、答える。

 

「そうだねえ。リリ君の正装は団長ということで用意してあるけど、ベル君の分はまだだったね。この機会にこしらえてしまうかい?」

 

「貸衣装でいいですよ。ベルさんはまだ成長期なのですから、着れなくなったらどうするのですか」

 

 リリルカも横からそんなことを口にして、それから二人はベルにどんな衣装を着せるかの話し合いを始めた。

 ベルは、神々が集まるオラリオのフォーマルな格好というものを一切理解していない、田舎生まれのイヴァリース育ち。それゆえに、彼は二人の意見に口出しができないでいる。

 そして、せめてまともな見た目になりますようにと、自身の主神ではなくイヴァリースの神に祈るのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「直接愛することは許されなくても、この目で見て愛でることは許されるはずだ!」

 

『神の宴』の会場で、【ヘスティア・ファミリア】一行を自ら出迎えたアポロン神。

 その彼は、リリルカを見つけたとたん、彼女に流し目を向けてきてヘスティア神から反発を受けた。

 そこで彼の神が放った言葉が、今の台詞であった。

 

 ヘスティア神は、さすがにこの発言までは(とが)めることができず、仕方なくリリルカに言った。

 

「うっとうしいだろうけど、我慢してくれないか。リリ君に魔の手が伸びないか、しっかり監視はしておくからさ」

 

「この程度なら我慢できますから、問題ありません」

 

 美貌の男神の視線を汚物のように扱う二人。

 これには後ろについてきていたベルも、逆にアポロン神が可哀想になってくるほどだった。

 

 一方、アポロン神はというと、この程度の扱いは気にもしていないようだ。彼はなおもリリルカに熱い視線を送りながら、言う。

 

「リリルカ・アーデ。『ランクアップ』したそうだね。おめでとう。キミのその栄光への道は、太陽が照らしている。今後も、活躍を期待している」

 

「えっ? あ、ありがとうございます、アポロン様」

 

 まさかの『ランクアップ』に対する祝福。何を言われるのかと身構えていたリリルカは、反射的に礼を返した。

 すると、すでに会場に訪れてアポロン神とリリルカという組み合わせで何かが起きるかを期待していた神々が、ざわめきを立てた。

 

「えっ、今『ランクアップ』つった?」「は? お前知らないのかよ。リリたんは今や『Lv.2』だぞ」「『深層』からの帰還を知らないとか、おっくれってるー」「『深層』行って『ランクアップ』とかマジヤバい」「まっこと『小人族(パルゥム)』は(たが)が外れておるのう……」「うちの子はそんなことないけど?」「あんたは過保護すぎるんだよ!」

 

 そんな会話が神々の間で交わされる。

 リリルカは、それを聞いて自分の『ランクアップ』が神々の噂になっていることに気づき、ゲッソリとした気分になった。

 神は基本、地上に娯楽を求めて滞在している。そのため、神に注目されてもろくなことにはならないのだ。

 

 そうして【ヘスティア・ファミリア】一行は、神々の注目を浴びながらパーティ会場の片隅に陣取った。

 以前であれば真っ先に料理へ飛びついていたヘスティア神も、今では可憐なドレスを着て己の眷族を(はべ)らしながら、優雅にウェルカムドリンクを楽しんでいる。

 

 ベルも従騎士をそれなりの期間務めた元騎士ということもあって、こういう場には少々の慣れがある。

 

 唯一、リリルカは公的な場に慣れていない。彼女は緊張しながらも、ちょっかいを出してきそうな周囲の神とその眷族を目視でチェックしていた。

 それを見たベルも、一応周囲の面々を確認しておこうと、顔を動かさずに視線を周りに向けた。

 

 しかし予想外にも、彼らへ接触しようとしてくる者はいない。

 やがて、開催予定時間が近づき、ギリギリで到着した各派閥の主神が眷族を伴って、続々とパーティ会場へ入場してきた。

 

 ヘファイストス神は、団長の椿・コルブランドと平団員のヴェルフ・クロッゾを伴っていた。さらに、そのヴェルフと腕を組んで、エスコートされながらの入場である。

 ロキ神は、病み上がりのアイズと、無理やり参加させたレフィーヤを連れて両手に花だ。

【ヘスティア・ファミリア】にとって馴染みの神であるヘルメス神は、姿を表さない。大方、またオラリオの外で旅をしているのだろうと、ヘスティア神はささやくようにしてベルたちに言った。

 

 それから、最後尾。そこには、ベルがこれまで見たことないほどの美しい神がいた。

 そのあまりの美しさに、会場中の視線が集まる。

 美の女神フレイヤの登場であった。眷族であろう巨漢の猪人(ボアズ)を後ろに侍らせ、優雅に歩いている。

 

 ベルはその女神の美貌を見て、とっさに左腕の手首付近をさすった。

 すると、そのベルの行動をヘスティア神が見ていたのか、彼の左手に目を向ける。

 

「ん? ベル君、オシャレなアクセサリーだと思っていたけれど、その腕輪って……」

 

 そう、ベルはフォーマルなスーツの手もとに、一つのアクセサリーを付けていた。

 だが、宝石店などで買った装飾品というわけではない。イヴァリースから持ち込んだ強力な効果を持つ装備の一つであった。

 その名も、《ン・カイの腕輪》。【イシュタル・ファミリア】との決戦で【ロキ・ファミリア】の勝利を決定付けた、耐魅了の腕輪である。

 

「ベル君、警戒しすぎだよ……」

 

「えっと、送還された神イシュタルの他にも美の神がいると聞いて、ちょっと警戒しちゃって」

 

「別にフレイヤは誰彼構わず魅了を振りまくほど、困ったちゃんではないよ。節操なしではあるけどね」

 

 呆れたように、ヘスティア神が言う。

 その彼女が遠くのフレイヤ神の方を見ると、相手は微笑みを浮かべながらヘスティア神へ向けて手を軽く振ってきた。

 ヘスティア神も相手へ手を振り返しながら、隣のベルに向けてさらに言った。

 

「それに、ベル君はフレイヤの好みじゃないらしいよ」

 

「……うわ、そう言われると、僕、すごく自意識過剰なことをしている気がする!」

 

 そんな一幕がありながらも、開催時間ちょうどとなり、アポロン神の宣言で『神の宴』が始まった。

 楽団による音楽が鳴り響き、会場の中央が空けられる。どうやら、今回はただの立食パーティというわけではなく、ダンスパーティも兼ねているようであった。

 

「ベル君、ダンスは踊れるかい?」

 

 料理に手を付け始めたヘスティア神が、会場を見渡していたベルに言う。

 すると、ベルは困ったように言葉を返した。

 

「イヴァリース式のなら……こちらの様式は知りません」

 

「へえ、それはそれで見てみたいね! そうだ、リリ君、ベル君と踊ってみないかい?」

 

「へっ? リリですか? ……身長が違いすぎませんか?」

 

 突然話題を振られたリリルカが、困ったように眉を下げて隣に立つベルの顔を見上げた。

 すると、ベルは柔らかい笑みを顔に浮かべながら、彼女に言葉を返す。

 

「リリ団長と同じくらいの背丈の子と、ダンスをしたこともあるよ。騎士団の関係で、貴族の子供がダンスを練習するときの相手役をやらされたんだ」

 

「それなら、まあ構いませんが……リリは踊れませんよ?」

 

「大丈夫、リードするよ。さあ、僕と踊ってくださいますか?」

 

「……ふふっ、いいですよ」

 

 そうして、ベルとリリルカは互いに手を取り合い、ホールの中央に躍り出る。

 ヒューマンと小人族(パルゥム)という異色の組み合わせで、他とは違うステップのダンスを踊る二人は、周囲の関心を呼んだ。

 

 イヴァリースの貴族式のダンスをしっかりとこなすベルと、『Lv.2』の身体能力でそれについていくリリルカは、意外とさまになっていた。それに触発されたのか、次々とパートナーを決めた者たちがダンスを開始して、宴は盛り上がっていく。

 

 そして……ベルとリリルカのダンスを熱心に眺めていた者が一人、ヘスティアがいる場所とは別方向の壁際にいた。青いドレスを着込んだアイズだ。

 自分もベルさんにダンスを誘われないかなと、ぼんやりつぶやくアイズ。

 当然、その言葉は隣にいたレフィーヤとロキ神の耳にも入っており……別の意味で、パーティ会場の片隅が騒がしくなるのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 地上で神々と眷族たちが踊っている、まさにその時。

 オラリオの地下深く、ダンジョンの『深層』にて、ある異物が生まれた。

 それは、黒い『ミノタウロス』。

 

 本来は『中層』に生息し、『深層』では生まれるはずのない『ミノタウロス』。

 その黒い異常個体は、ただのモンスターではなかった。

 

 本能で行動し、冒険者を見てもただ襲いかかるだけの猛獣でしかない、ダンジョンのモンスター。

 だが、この黒い『ミノタウロス』には、明確な自我というべきものがあった。

 本能ではなく理性をその目に宿し、彼は己が生まれた理由(わけ)を探る。

 そして、結論付けた。自分には、生まれた意味を導き出すことはできないだろうと。母なるダンジョンの声は、彼には聞こえない。

 

 だが、生まれた理由が分からなくとも、これからやるべきことは彼には分かった。彼は、なぜか襲いかかってくる周囲のモンスターを鏖殺(おうさつ)し、その胸に埋め込まれていた『魔石』を引きずり出した。

 灰に変わるモンスターを無視して、彼は『魔石』を己の口に放り込む。すると、わずかながら自分が強くなったことを彼は知覚した。

 

 そして、彼は理性を宿した思考でもって、思う。

 

 ――強くならねば。

 

 彼の脳裏に過ぎるのは、金属鎧を着込んだ剣士と、彼が放つ雷光の一撃。

 彼は思う。

 

 ――強くなり……あの『雷光』を打ち倒さねば!

 

 生まれた理由は分からずとも、彼にはやるべきことがある。

 強くなり、雷光を破らねば。あの鎧姿の剣士を倒さねば。

 

 彼は異形。ダンジョンの異物。

 だがしかし、彼が抱いた想いは雷光の剣士を打倒すべしという、モンスターとして本来あるべき感情(ほんのう)

 

 彼は異端。母なるダンジョンが産んだ一匹の『異端児(ゼノス)』。

 新たに産声をあげた孤高の『戦士』である。

 




以上で第五章は終了です。休載期間を挟んで未履修だった原作の外伝の確認をしてから、第六章『神の偶像』編に続きます。
第六章は二部構成で、前半は『異端児』編、後半は『アエデス・ウェスタ』編となる予定です。

「なにベル君? リュー君が黒いゴライアス戦を経ていないから『経験値』不足で『Lv.6』になれない? ベル君、それは原作通りの試練しか課していないからだよ。逆に考えるんだ。『主人公用の試練をサブキャラにも課しちゃってもいいさ』と考えるんだ」

というわけで、第六章後半で合流するリューさんに章のキーキャラクターとなってもらうため、休載期間で『アエデス・ウェスタ』を履修してきます。

以下、未履修の外伝。
・グランド・デイ
・アエデス・ウェスタ
・ナイツ・オブ・フィアナ
・オラリオ・ストーリーズ
・掌編集2
・ファミリアクロニクルEpisodeアスフィ
・ファミリアクロニクルEpisodeヘイズ
リストアップしてみると未履修まだまだありますね……。
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