ダンまちTACTICS   作:Leni

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57.冒険者依頼

「《ダークグリーン》、《ヴァージンホワイト》、《アイスブルー》。いいか、これが『細氷弾』の組み合わせだ」

 

 上級鍛冶師(ハイ・スミス)であるヴェルフ・クロッゾは、ミスリルの輝きを宿す『魔銃(マガン)』に『魔弾』を込めながらそう言った。

 ここはダンジョン18階層。『安全階層(セーフティポイント)』とされる場所の一画。

 

『魔銃』を手に説明を続けるヴェルフの周囲にいるのは、二人の少女。

【ヘスティア・ファミリア】の団長であるリリルカ・アーデと、【ロキ・ファミリア】の幹部であるティオナ・ヒュリテだ。

 

 ヴェルフたちは、とある冒険者依頼(クエスト)をこなすためにこの階層にいた。

 ヴェルフとリリルカにとってはかなりの危険が伴う深さ。だがしかし、オラリオ屈指の『Lv.6』を誇るティオナにとっては、あまりにも浅い階層。

 そんな場所へ彼らがやってきたきっかけは、ティオナの親友であるアイズ・ヴァレンシュタインが、【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルをダンジョン攻略に誘ったことだった。

 

 アイズは、数週間前の『魔城』攻略で負った怪我の後遺症から復帰したばかり。

 ダンジョン狂い(ジャンキー)であり、モンスター退治(ハント)が日常のアイズにとって、ダンジョンに()もれなかった治療院での生活は、ストレスが溜まるばかりの毎日であった。

 その苦痛の毎日の中で、アイズは思った。剣の腕を磨き合い、力を高める仲となった親愛なるベルと、ダンジョン攻略を一緒にしたいと。

 

 モンスター退治と、ベルとのダンジョン攻略。その二つの願望を一度に叶えようと、アイズはちょうど本拠(ホーム)にやってきたベルをダンジョンに誘ったわけである。

 

 だが、ベルは普段、固定メンバーでパーティを組んでダンジョン攻略している。

 そこでベルは、自分のパーティメンバーを同行させて良いならという条件を付けて、アイズと一緒のダンジョン行きを承諾した。

 

 ベルのパーティメンバーは、同派閥の団長リリルカと、【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師ヴェルフだ。

 ベルを含めたその三人と、アイズ、そしてたまたま近くにいたティオナも加わって、臨時の五人パーティが組まれた。

 

 どうせダンジョンに行くならと、ベルたちがダンジョン行きの準備をしている間、アイズとティオナがギルド本部で冒険者依頼(クエスト)を受けてきた。

 その依頼により、とりあえずの行き先は18階層に決まった。

 

 依頼の内容は、『安全階層』である18階層にある周辺のモンスター駆除。

 1階層下の19階層を中心に大量発生している、『炎鳥(ファイアーバード)』という飛行モンスターの討伐だ。

 18階層にはリヴィラの街が存在しており、普段から冒険者が滞在している。だが、『戦争』と『魔城』攻略の影響で街に訪れる冒険者が一時的に減った影響で、モンスターの大量発生を許してしまったとのことである。

 

 そして、現在、彼らのパーティは18階層にベースキャンプを築いたばかり。

 リリルカを除く四人でテントの設営をしていた最中、リリルカは一人、リヴィラの街で情報収集をこなしてきた。なんでも、『炎鳥』は『安全階層』である18階層にも進出しており、リヴィラ近くの湖畔周辺で大量に群れているとのことだった。

 その情報を聞いたアイズは、待ちきれないとばかりにベルを一人連れて、湖畔へと向かってしまった。

 

 一方、ベースキャンプに残ったヴェルフ。初めて顔を合わせる他派閥の幹部のティオナに挨拶をしたところ、空飛ぶモンスターは得意ではないので何か飛び道具はないかと問われた。

 そこで彼が荷物の中から取り出した品が、開発したての新兵器『魔銃(マガン)』であった。

 

「この『魔銃』は、《ソイル》という『魔弾』を三つ組み合わせて、『魔剣』のような一撃を打ち出す兵器だ。今回の組み合わせでは、『氷の魔剣』と同じ感覚で使える」

 

「へえー。でも、『魔剣』と同じ効果なら、『魔剣』を使えばよくない?」

 

「『魔剣』は高価だろう? でも、この銃に込めた『魔弾』、《ソイル》は比較的安価なんだ。『魔剣』を打つ際に出るスラグや金属片を粉にして固めたもの……要は、廃棄物の再利用だな。『魔銃』本体は、日頃から整備さえしていれば、長い期間使えるはずだ」

 

「なるほど! 安さは重要だね!」

 

「それに、『魔剣』と違って《ソイル》は、かさばらない。規格を統一して、小さくまとめられるように設計したからな」

 

「頭良いねー」

 

「今回はともかく、普段の俺たちは三人パーティだからな。荷物は少なくするに越したことはないんだ」

 

『魔銃』に対して疑問を持ったティオナへ、開発者であるヴェルフが『魔銃』の仕組みを説明していく。

 彼が話している内容は、全て派閥の外部に公開済みの情報だ。よって、ヴェルフがティオナの合いの手に気を良くして、派閥の秘密を勝手に漏らしたわけではない。

 

 そんなヴェルフの説明をティオナと一緒に聞いていたリリルカは、ヴェルフの手の中にあるミスリルの銃を見上げる。

 こんな代物があったら、サポーター時代ならきっと真っ先に飛び付いて、秘密兵器として運用していただろう。

 

 ヴェルフが言ったとおり、『魔剣』は高価で、かさばる。

 それが、比較的安価で供給され、バックパックの容量も取らないならば、非力なサポーターにとってどれだけ助かるアイテムとなるだろうか。

 

 だが、それだけに、解せないことがリリルカにはあった。

 

「こんな、誰にでも扱える兵器、本当に世へ送り出してよかったのですか?」

 

 そんな問いに、ヴェルフはあらかじめ答えを用意していたのか、スラスラと答え始める。

 

「この前、『ガンブレード』を造っただろ? あれをうちの派閥の上級鍛冶師(ハイ・スミス)に見せたら、簡単に模倣(もほう)されたどころか、改良までされてな……それで痛感したんだ。魔法の弾を撃ち出す銃は、現代の鍛冶師にとって、そこまで造ることが難しい代物じゃないってな」

 

「それは、戦争用の兵器が量産されてしまうということですよね?」

 

「簡単に量産されるし、簡単に()()()()()()()()ってことだ。なあ、リリスケ、知っているか? 魔法大国(アルテナ)の軍艦には、魔法を撃ち出す大砲が搭載されているそうだぞ」

 

「魔法の大砲、ですか……」

 

「そうだ。魔法の大砲があるなら、そこから小型化していけば魔法の銃はいずれ造り出せてしまう。ただし、そうなった場合、周辺諸国へ魔法の銃を供給する勢力が、俺たちオラリオの鍛冶師(スミス)ではなく、魔法大国の魔術師(メイジ)になってしまう」

 

 魔術師とは、魔法関連の(アイテム)を作成する魔法使いのことである。

 

「だけどな。『魔剣』を加工できるのは魔術師じゃなくて、あくまで上級鍛冶師だ。だから俺は、魔法の銃を供給して各国の軍事力を制御する役割を持つ者が、『魔剣』と同じく鍛冶師になるようにと『魔銃』を急いで造り上げたわけだ」

 

「!? なるほど、魔法の銃を世界に初めて公開したのが、鍛冶系派閥の【ヘファイストス・ファミリア】となるなら……」

 

「そういうことだな。うちの女神さま(あのおかた)は、この大陸ではかなりの影響力を持っている。そんな鍛冶神が支配する派閥から『魔銃』が送り出されたなら、この大陸にある国は『魔銃』で好き勝手しにくくなるということだな」

 

「うーん、よく考えていますね……」

 

 ヴェルフの主張に、リリルカは納得するように小さくうなった。

 

『魔剣』や『魔銃』が戦場で使われることをただ嫌うだけでなく、その『魔剣』や『魔銃』の供給を握り、戦場をコントロールする。

 そこまで考えを巡らせるまで至ったヴェルフの成長に、リリルカは人は変われば変わるものだと、感心するばかりであった。

 

「でもさー、その『魔銃』ってやつ、魔法大国(アルテナ)に真似されないの?」

 

 話をしっかり理解していたのか、ティオナがそんな疑問をヴェルフに投げかける。

 だがヴェルフは、その問いを軽く笑い飛ばすかのようにハッキリと答えた。

 

「あのプライドの高い偏屈魔術師(メイジ)どもが、鍛冶師(スミス)に先を越された兵器の複製品を我が物顔で世に送り出すものかよ」

 

「あー、そっか。魔法大国って、そういうとこあるよねー」

 

「魔術師が造る魔法の銃自体は、すでに魔法大国が発明しているかもしれねえ。でも、それは秘密裏に造られていたものであって、先に世界に披露されるのはあくまで俺の『魔銃(マガン)』ということになる。『世界勢力』に新兵器を見せびらかして、機先を制するのは俺たち【ヘファイストス・ファミリア】だ」

 

「あはは、魔法大国の恨みを買いそう」

 

「そういうのは勘弁してくれ……あんたのところの副団長(ナイン・ヘル)とか、魔法大国にたいそう恨まれているそうじゃないか」

 

「そうらしいね! 魔法大国関連でよく忙しくしているよ」

 

 そんな会話を済ませてから、三人は『魔銃』の試し撃ちをしてみようということになった。

 各々武装して、18階層の湖畔へと向かう。

 

 湖畔ではまばらに『炎鳥』が飛んでおり、それを追って幾人かの冒険者たちが狩りをしていた。

 ヴェルフたちと同じように、冒険者依頼を受けて『炎鳥』の駆除をしているのだろう。

 

「ベルたちが見当たらないな?」

 

「そうですね。どこまで狩りに行ったのでしょう?」

 

「アイズのことだから、もっと多くの標的を求めて19階層まで行ったんじゃないかな」

 

 ヴェルフとリリルカの疑問の声に、ティオナがそんなコメントをした。

 

「二人で19階層かよ。いや、ベルと【剣姫】なら余裕なんだろうが……」

 

「うんうん、心配するだけ損だよ。それよりも、『魔銃』撃たせてー」

 

「ああ、《ソイル》はもう装填(そうてん)済みだから、後は安全装置を外して引き金を引くだけだ。ほら」

 

「えーと、こうしてから……」

 

 ヴェルフから『魔銃』を受け取ったティオナは、言われたとおりに安全装置を外す。

 そして、慣れない銃の狙いを付けて、空中を飛び交う『炎鳥』に向けて引き金を引いた。

 次の瞬間、『魔銃』の銃身が輝き、銃口から氷の魔力が勢いよく噴き出した。

 一点集中型の一閃ではなく、さながら散弾銃のようなわずかに広がる範囲攻撃は、見事に空を飛ぶ『炎鳥』に命中。『炎鳥』は一瞬で凍り付いて、地面へと墜落した。

 

「うわっ、普通の『魔剣』よりすごい! これってもしかして、『クロッゾの魔剣』ってやつ?」

 

「いや、今のは俺以外の上級鍛冶師が加工した普通の《ソイル》だ。『魔銃』は三発の『魔弾』を一度に消費する代わりに、『魔剣』よりも強力な一撃を放つんだ」

 

「なるほど、連発はできないんだね」

 

「そうだな。現状は、そうしている。短時間での連射に、銃身が耐えきれねえんだ」

 

 それから三人は、代わる代わる『魔銃』の試し撃ちをして『炎鳥』を氷の彫像に変えた。そうするうちに、18階層の光源が弱まり、『夜』が近づく。そこで、三人は無理に討伐を続けずにベースキャンプへと戻ることにした。

 

『炎鳥』との遭遇に警戒しながら、ベースキャンプを築いた18階層の外れに三人が近づいたところ。

 どうやら、ベルとアイズがすでに帰還していたのか、テントの(そば)に人影がいることにヴェルフは気付いた。

 だが、そこでリリルカがある違和感を覚えて、目を凝らす。

 

「ベースキャンプに、誰か知らない方が来ているようですね。体格からして……小人族(パルゥム)? いえ、若い女性でしょうか……?」

 

 そんな言葉に、まさか物盗りでも来ていてベルたちが捕まえたのかと、三人はベースキャンプへと急いだ。テントに何も貴重品は置いていないが、テントや寝袋を失うのは痛い。少し不用心過ぎたかと、ヴェルフは走りながら思う。

 しかし、彼らを待ち受けていた者は、物盗りなどという常識の範囲内で収まる存在ではなかった。

 

 ベルとアイズの隣にいた人物。

 いや、それはそもそも人ですらなかった。

 それは、人型のモンスター。だが、そのモンスターの種類をヴェルフは言い当てることができなかった。

 

 そのモンスターは、少女の姿をしていた。

 背丈は一五〇(セルチ)ほど。青白い肌に、長く青い髪。額には赤い宝石をたたえ、モンスターとは思えない美しい顔には、涙を流した跡がある。

 服はアイズかベルからの借り物だろうか。地上から持ち込んだ『火精霊の護衣(サラマンダー・ウール)』のローブを身に着けている。

 ローブの隙間から覗く皮膚の所々には、爬虫類を思わせる鱗がまばらに生えていた。

 

 そのモンスターとも少女ともとれる存在の腕の中には、これまたモンスターが一匹抱えられていた。

稀少種(レアモンスター)』の一種である『カーバンクル』だ。ここよりもずっと下、26階層に出現するという小さな獣のモンスターである。

 

 だが、おかしなことに、このモンスター風の少女も、『カーバンクル』も、ベルやアイズ、そしてベースキャンプに辿り着いた三人に敵意を見せていない。

 冒険者が目に入ると襲いかかるばかりのモンスターには、あり得ない反応。

 その事実に困惑するヴェルフだが、次の瞬間、彼はさらに驚愕することになる。

 

「ベルと、アイズの、おともだち……?」

 

 モンスターの少女が、人の言葉を喋った。

 あり得るはずのない、あり得てはならない事態に、ヴェルフたち三人は、ただただ驚くことしかできなかった。

 

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