「《ダークグリーン》、《ヴァージンホワイト》、《アイスブルー》。いいか、これが『細氷弾』の組み合わせだ」
ここはダンジョン18階層。『
『魔銃』を手に説明を続けるヴェルフの周囲にいるのは、二人の少女。
【ヘスティア・ファミリア】の団長であるリリルカ・アーデと、【ロキ・ファミリア】の幹部であるティオナ・ヒュリテだ。
ヴェルフたちは、とある
ヴェルフとリリルカにとってはかなりの危険が伴う深さ。だがしかし、オラリオ屈指の『Lv.6』を誇るティオナにとっては、あまりにも浅い階層。
そんな場所へ彼らがやってきたきっかけは、ティオナの親友であるアイズ・ヴァレンシュタインが、【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルをダンジョン攻略に誘ったことだった。
アイズは、数週間前の『魔城』攻略で負った怪我の後遺症から復帰したばかり。
ダンジョン
その苦痛の毎日の中で、アイズは思った。剣の腕を磨き合い、力を高める仲となった親愛なるベルと、ダンジョン攻略を一緒にしたいと。
モンスター退治と、ベルとのダンジョン攻略。その二つの願望を一度に叶えようと、アイズはちょうど
だが、ベルは普段、固定メンバーでパーティを組んでダンジョン攻略している。
そこでベルは、自分のパーティメンバーを同行させて良いならという条件を付けて、アイズと一緒のダンジョン行きを承諾した。
ベルのパーティメンバーは、同派閥の団長リリルカと、【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師ヴェルフだ。
ベルを含めたその三人と、アイズ、そしてたまたま近くにいたティオナも加わって、臨時の五人パーティが組まれた。
どうせダンジョンに行くならと、ベルたちがダンジョン行きの準備をしている間、アイズとティオナがギルド本部で
その依頼により、とりあえずの行き先は18階層に決まった。
依頼の内容は、『安全階層』である18階層にある周辺のモンスター駆除。
1階層下の19階層を中心に大量発生している、『
18階層にはリヴィラの街が存在しており、普段から冒険者が滞在している。だが、『戦争』と『魔城』攻略の影響で街に訪れる冒険者が一時的に減った影響で、モンスターの大量発生を許してしまったとのことである。
そして、現在、彼らのパーティは18階層にベースキャンプを築いたばかり。
リリルカを除く四人でテントの設営をしていた最中、リリルカは一人、リヴィラの街で情報収集をこなしてきた。なんでも、『炎鳥』は『安全階層』である18階層にも進出しており、リヴィラ近くの湖畔周辺で大量に群れているとのことだった。
その情報を聞いたアイズは、待ちきれないとばかりにベルを一人連れて、湖畔へと向かってしまった。
一方、ベースキャンプに残ったヴェルフ。初めて顔を合わせる他派閥の幹部のティオナに挨拶をしたところ、空飛ぶモンスターは得意ではないので何か飛び道具はないかと問われた。
そこで彼が荷物の中から取り出した品が、開発したての新兵器『
「この『魔銃』は、《ソイル》という『魔弾』を三つ組み合わせて、『魔剣』のような一撃を打ち出す兵器だ。今回の組み合わせでは、『氷の魔剣』と同じ感覚で使える」
「へえー。でも、『魔剣』と同じ効果なら、『魔剣』を使えばよくない?」
「『魔剣』は高価だろう? でも、この銃に込めた『魔弾』、《ソイル》は比較的安価なんだ。『魔剣』を打つ際に出るスラグや金属片を粉にして固めたもの……要は、廃棄物の再利用だな。『魔銃』本体は、日頃から整備さえしていれば、長い期間使えるはずだ」
「なるほど! 安さは重要だね!」
「それに、『魔剣』と違って《ソイル》は、かさばらない。規格を統一して、小さくまとめられるように設計したからな」
「頭良いねー」
「今回はともかく、普段の俺たちは三人パーティだからな。荷物は少なくするに越したことはないんだ」
『魔銃』に対して疑問を持ったティオナへ、開発者であるヴェルフが『魔銃』の仕組みを説明していく。
彼が話している内容は、全て派閥の外部に公開済みの情報だ。よって、ヴェルフがティオナの合いの手に気を良くして、派閥の秘密を勝手に漏らしたわけではない。
そんなヴェルフの説明をティオナと一緒に聞いていたリリルカは、ヴェルフの手の中にあるミスリルの銃を見上げる。
こんな代物があったら、サポーター時代ならきっと真っ先に飛び付いて、秘密兵器として運用していただろう。
ヴェルフが言ったとおり、『魔剣』は高価で、かさばる。
それが、比較的安価で供給され、バックパックの容量も取らないならば、非力なサポーターにとってどれだけ助かるアイテムとなるだろうか。
だが、それだけに、解せないことがリリルカにはあった。
「こんな、誰にでも扱える兵器、本当に世へ送り出してよかったのですか?」
そんな問いに、ヴェルフはあらかじめ答えを用意していたのか、スラスラと答え始める。
「この前、『ガンブレード』を造っただろ? あれをうちの派閥の
「それは、戦争用の兵器が量産されてしまうということですよね?」
「簡単に量産されるし、簡単に
「魔法の大砲、ですか……」
「そうだ。魔法の大砲があるなら、そこから小型化していけば魔法の銃はいずれ造り出せてしまう。ただし、そうなった場合、周辺諸国へ魔法の銃を供給する勢力が、俺たちオラリオの
魔術師とは、魔法関連の
「だけどな。『魔剣』を加工できるのは魔術師じゃなくて、あくまで上級鍛冶師だ。だから俺は、魔法の銃を供給して各国の軍事力を制御する役割を持つ者が、『魔剣』と同じく鍛冶師になるようにと『魔銃』を急いで造り上げたわけだ」
「!? なるほど、魔法の銃を世界に初めて公開したのが、鍛冶系派閥の【ヘファイストス・ファミリア】となるなら……」
「そういうことだな。
「うーん、よく考えていますね……」
ヴェルフの主張に、リリルカは納得するように小さくうなった。
『魔剣』や『魔銃』が戦場で使われることをただ嫌うだけでなく、その『魔剣』や『魔銃』の供給を握り、戦場をコントロールする。
そこまで考えを巡らせるまで至ったヴェルフの成長に、リリルカは人は変われば変わるものだと、感心するばかりであった。
「でもさー、その『魔銃』ってやつ、
話をしっかり理解していたのか、ティオナがそんな疑問をヴェルフに投げかける。
だがヴェルフは、その問いを軽く笑い飛ばすかのようにハッキリと答えた。
「あのプライドの高い偏屈
「あー、そっか。魔法大国って、そういうとこあるよねー」
「魔術師が造る魔法の銃自体は、すでに魔法大国が発明しているかもしれねえ。でも、それは秘密裏に造られていたものであって、先に世界に披露されるのはあくまで俺の『
「あはは、魔法大国の恨みを買いそう」
「そういうのは勘弁してくれ……あんたのところの
「そうらしいね! 魔法大国関連でよく忙しくしているよ」
そんな会話を済ませてから、三人は『魔銃』の試し撃ちをしてみようということになった。
各々武装して、18階層の湖畔へと向かう。
湖畔ではまばらに『炎鳥』が飛んでおり、それを追って幾人かの冒険者たちが狩りをしていた。
ヴェルフたちと同じように、冒険者依頼を受けて『炎鳥』の駆除をしているのだろう。
「ベルたちが見当たらないな?」
「そうですね。どこまで狩りに行ったのでしょう?」
「アイズのことだから、もっと多くの標的を求めて19階層まで行ったんじゃないかな」
ヴェルフとリリルカの疑問の声に、ティオナがそんなコメントをした。
「二人で19階層かよ。いや、ベルと【剣姫】なら余裕なんだろうが……」
「うんうん、心配するだけ損だよ。それよりも、『魔銃』撃たせてー」
「ああ、《ソイル》はもう
「えーと、こうしてから……」
ヴェルフから『魔銃』を受け取ったティオナは、言われたとおりに安全装置を外す。
そして、慣れない銃の狙いを付けて、空中を飛び交う『炎鳥』に向けて引き金を引いた。
次の瞬間、『魔銃』の銃身が輝き、銃口から氷の魔力が勢いよく噴き出した。
一点集中型の一閃ではなく、さながら散弾銃のようなわずかに広がる範囲攻撃は、見事に空を飛ぶ『炎鳥』に命中。『炎鳥』は一瞬で凍り付いて、地面へと墜落した。
「うわっ、普通の『魔剣』よりすごい! これってもしかして、『クロッゾの魔剣』ってやつ?」
「いや、今のは俺以外の上級鍛冶師が加工した普通の《ソイル》だ。『魔銃』は三発の『魔弾』を一度に消費する代わりに、『魔剣』よりも強力な一撃を放つんだ」
「なるほど、連発はできないんだね」
「そうだな。現状は、そうしている。短時間での連射に、銃身が耐えきれねえんだ」
それから三人は、代わる代わる『魔銃』の試し撃ちをして『炎鳥』を氷の彫像に変えた。そうするうちに、18階層の光源が弱まり、『夜』が近づく。そこで、三人は無理に討伐を続けずにベースキャンプへと戻ることにした。
『炎鳥』との遭遇に警戒しながら、ベースキャンプを築いた18階層の外れに三人が近づいたところ。
どうやら、ベルとアイズがすでに帰還していたのか、テントの
だが、そこでリリルカがある違和感を覚えて、目を凝らす。
「ベースキャンプに、誰か知らない方が来ているようですね。体格からして……
そんな言葉に、まさか物盗りでも来ていてベルたちが捕まえたのかと、三人はベースキャンプへと急いだ。テントに何も貴重品は置いていないが、テントや寝袋を失うのは痛い。少し不用心過ぎたかと、ヴェルフは走りながら思う。
しかし、彼らを待ち受けていた者は、物盗りなどという常識の範囲内で収まる存在ではなかった。
ベルとアイズの隣にいた人物。
いや、それはそもそも人ですらなかった。
それは、人型のモンスター。だが、そのモンスターの種類をヴェルフは言い当てることができなかった。
そのモンスターは、少女の姿をしていた。
背丈は一五〇
服はアイズかベルからの借り物だろうか。地上から持ち込んだ『
ローブの隙間から覗く皮膚の所々には、爬虫類を思わせる鱗がまばらに生えていた。
そのモンスターとも少女ともとれる存在の腕の中には、これまたモンスターが一匹抱えられていた。
『
だが、おかしなことに、このモンスター風の少女も、『カーバンクル』も、ベルやアイズ、そしてベースキャンプに辿り着いた三人に敵意を見せていない。
冒険者が目に入ると襲いかかるばかりのモンスターには、あり得ない反応。
その事実に困惑するヴェルフだが、次の瞬間、彼はさらに驚愕することになる。
「ベルと、アイズの、おともだち……?」
モンスターの少女が、人の言葉を喋った。
あり得るはずのない、あり得てはならない事態に、ヴェルフたち三人は、ただただ驚くことしかできなかった。