ダンまちTACTICS   作:Leni

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6.クリスタルの戦士

 ベルの【ヘスティア・ファミリア】への入団が決まり、ヘルメス神は満足した様子で自派閥の本拠(ホーム)に帰っていった。

 そしてここからは、眷属(かぞく)だけの時間。ベルは、ヘスティア神に廃教会の奥まで案内された。そこにあったのは、隠し階段。地下に続く、秘密の通路であった。

 ベルがゆっくりと隠し階段を降りると、その先には生活感のある空間が広がっていた。正方形の部屋に紫色のソファーが二つあり、さらにその奥にベッドが一つ置かれている寝室がある。白い木製の扉もあり、そこはシャワー室となっているらしい。

 

「今日からここが、キミの根城(ホーム)さ! もし『戦争遊戯(ウォーゲーム)』に勝てれば、しばらくここに住むこととなるだろうから、慣れてくれたまえ」

 

 ヘスティア神にそう言われるベルだが、もしかしてこの少女にしか見えない神と、小人族(パルゥム)の少女と一緒に、この狭い小部屋で同居することになるのかと内心で胸をドキドキと高鳴らせた。

 ベル・クラネル、十四歳。田舎の村で育ち、戦場で鍛えられた彼は、あまり女性慣れしていなかった。

 

「さあ、早速、『神の恩恵(ファルナ)』を刻んでしまおう。ベル君。上半身裸になって、奥のベッドでうつ伏せになるんだ」

 

「分かりました」

 

 ヘスティア神の言われるままに、ベルは鎧を外し、さらに鎧下も脱ぎ去る。

 すると、ネコ科の肉食獣のようなスラリとした筋肉のついた、立派な上半身が姿を見せた。童顔の少年の服の下から、こんな身体が出てくるとは思わなかったのか、ヘスティア神とリリルカの女性二名はベル以上に胸をドキドキさせた。

 

 少女二人に上半身を凝視されていることを自覚しつつ、ベルは奥の部屋にあるベッドへと横たわる。ベッドからは良い匂いが漂ってきたが、ベルは努めて気にしないよう精神統一に入った。すると、そのベルの臀部(でんぶ)にヘスティア神がまたがるようにして乗る。

 

「では、これより『神の恩恵』をキミの背中に刻む!」

 

「はい、神様の血で背中に【神聖文字(ヒエログリフ)】を書く、でよかったですかね」

 

「そうだね。神血(イコル)で、キミの潜在能力を引き出す作業だ。これにより、キミは神に一歩近づくことになる」

 

 ゴクリと、ベルは口の中のツバを飲みこむ。

 

 イヴァリースにて、『聖石』という秘宝を使って悪魔(ルカヴィ)の力を得ていた教会勢力の気持ち。それは、今の自分と同じものだったのだろうか。

 そんなことをベルは思いながら、ヘスティア神の作業開始を待った。

 

 そしてヘスティア神は、用意していた針で自身の指先を突き刺すと、にじみ出てきた血をしなやかな背筋に覆われたベルの背中に押し付ける。

 すると……不思議なことに、ヘスティア神の指先はまるで水面に触れたかのようにベルの皮膚の奥へと沈み込んだ。

 

 ヘスティア神の指先がベルの背中をなぞるたび、背の表面に波紋が広がり【神聖文字(ヒエログリフ)】による【ステイタス】が、ベルの身体に刻まれていく。

 真名、『Lv.(レベル)』、『アビリティ』、魔法スロットが刻まれ、ベルは人として一つ上のステージへと昇っていった。

 だが、その途中、ヘスティア神はふと何かが気になったのか、眉をひそめて指先をピタリと止める。

 

「んん? 『恩恵』を与えたばかりなのに、すくい取れる【経験値(エクセリア)】がある?」

 

 そう言いながら、《スキル》の欄で指先を止めるヘスティア神。

 

「いや、いつものリリ君のときとは違う感覚だ……これは【経験値】じゃなくて……魂からにじみ出ている力?」

 

 そんなヘスティア神の背後からのつぶやきを聞き、ベルはうつ伏せになりながら「何か異常でもあったのだろうか」と心配になってくる。

 不具合でもあって『神の恩恵』を貰えないとなれば、一大事だ。オラリオの管理機関(ギルド)からダンジョンでの正式な活動を認められず、『剣聖』への道のりが遠のいてしまうかもしれない。そんなことをベルは思いながら、心臓を強く脈打たせてヘスティア神の作業の終わりを待った。

 

 やがて、ヘスティア神はベルの背中に全ての【ステイタス】を刻み終えた。ベルに『神の恩恵』を与えて、己の眷族(こども)とする作業が終わったのだ。

 ヘスティア神はベルの背中から降りると、リリルカが用意していた軟膏で血のにじむ指先を治療し、ベルに服を着るよう(うなが)した。

 

 それからあらためて、【ファミリア】の三名は部屋のソファーに座って、ベルに刻まれた『神の恩恵』について話す。

 

「これが、ベル君の【ステイタス】だ。正直、驚いたよ」

 

 ヘスティアが羊皮紙にサラサラと共通語(コイネー)の文字を書き、ソファーの前のテーブルに置く。

 そこには、以下のように書かれていた。

 

 ベル・クラネル

 Lv.1

 力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0

《魔法》

【 】

《スキル》

幻想残滓(ファイナルファンタジー)

 ・『魂の結晶(クリスタル)』の力を『神の恩恵(ファルナ)』に適合させる。

 ・【経験値(エクセリア)】獲得時、戦闘行動時、生物・モンスター撃破時に『魂の結晶(クリスタル)』の力を獲得。

 ・『魂の結晶(クリスタル)』の力を編集可能。

 

「……『スキル』が発現しているではないですか!」

 

 ベル本人ではなく団長のリリルカが、羊皮紙を見て跳び上がらんばかりに驚いた。

 そう、ベルには『スキル』と呼ばれる特殊能力が芽生えていたのだ。

 力から魔力まで、数値で表される基礎的な身体能力である『アビリティ』とはまた違う、眷族の可能性。一定条件で発動する特殊効果や作用を肉体にもたらす能力である。

 

「これ、絶対に『レアスキル』だぜ?」

 

 ヘスティア神が、笑いを隠せないようにそう言う。

 なんでも、『スキル』の効果は多くが冒険者の間で共有されており、その効果は一定のパターンに収まるのだという。たとえば力を上昇させるような『スキル』は、個人によって名称が異なり詳細部分が違ってもおおよその効果は似通うのだとか。

 

 しかし、それに当てはまらない、唯一無二の効果を持つ『スキル』が稀にある。

 それを『レアスキル』と呼ぶのだと、ヘスティア神は得意げに語った。

 

「見たところ、魂に関する能力のようだね。『神の恩恵』は肉体や精神に影響を与えるものであって、魂には不可侵でいるとばかり思っていたんだけど……ベル君、この『スキル』の発現に、何か心当たりはあるかい?」

 

 ヘスティア神に問われ、ベルは思い当たることが一つあり、正直に答えた。

 それは、異世界の戦場にて、『クリスタル』と呼ばれる『死者の魂の残滓』を大量に取りこんだ経験があるというもの。

 つまり、ベルの魂には、『クリスタル』という他者の『魂の結晶』が宿っているのだ。

 

「なるほど、それがこうして、『神の恩恵』と反応を起こして『レアスキル』になったわけですか……」

 

 リリルカはベルの説明を聞き、納得するようにうなずいた。その彼女の目には、強い光が宿っていた。『スキル』の効果次第では、『戦争遊戯』での勝利に繋がるのでは。彼女はわずかに未来へ希望を見出し始めていた。

 

「で、ベル君。編集可能とあるが、できそうかい?」

 

「え、ええ。やってみます。編集ってことは本でも出てくるのでしょうか」

 

 そう言って、ベルは心の中で編集、編集と念じてみる。

 すると。

 彼の目の前に、何やら四角い窓のような物が開いた。

 

「うわあっ!?」

 

「どうかしたんだい!? ベル君、大丈夫かい?」

 

 突然、慌てだしたベルに、ヘスティア神が焦ってベルに問いかける。

 するとベルは、目の前の窓のような物を指さしながら、ヘスティア神に向けて言った。

 

「か、神様! これ、これ!」

 

「うん……? 何か見えるのかい? でも、ボクには何も見えないよ」

 

「リリも、特に何かがあるようには見えません」

 

 ヘスティア神とリリルカに言われ、ベルはなんとか落ち着こうと、深呼吸を始める。

 そして、あらためてベルは二人に向けて言った。

 

「ええと、なんだか窓というか四角い枠というか、そういうのがいきなり目の前に現れて……えーと、枠の中に小さい三頭身の僕らしき絵がありますね」

 

「へえ。それが『編集画面』ってわけか」

 

「神様、これが何か分かるんですか?」

 

「さあ、見えているベル君にしか分からないさ。でも、念じたり指先で触れたりして、操作できないか試してみなよ」

 

 ヘスティア神にそう言われ、ベルは指先で目の前の『編集画面』に触れる。すると、画面の中にさらに枠が開いた。そこには、共通語(コイネー)で何やらゴチャゴチャと文字が書かれていた。

 

 左上には自分の顔の絵が書かれており、その横には『ベル』という名前と『Lv.48』との数値がある。その下には『HP』『MP』との文字と数値が並んでおり、『Brave』、『Faith』という文字もある。さらにその下には『剣聖』との文字があり、こちらにも『Lv.』の表記があった。

 画面の中央には、ベルにとってさらに理解しがたい項目が存在した。

 なんと『装備品』と書かれてた欄があり、その下には今、ベルが装着している剣と服、靴の名前が並んでいた。装備品欄の横には『アビリティ』という欄があり、その下には小さな文字絵(アイコン)が並んでいる。一番上の文字絵の横には『全剣技』という文字が書かれていた。

 

 ベルは何が何やらと言った様子で、ヘスティア神に今見た全てを説明する。

 するとヘスティア神は、額に手を置きながら、乾いた笑いを返してきた。

 

「ははぁ、まさかのゲーム画面と来たか」

 

「『遊戯(ゲーム)画面』、ですか?」

 

「いや、こっちのことさ。でも、間違いなく『レアスキル』だ。……いいかい、ベル君。これからボクの言うことをしっかり聞くんだ」

 

「えっと、はい」

 

「ボクたち神の多くは、下界に娯楽を求めて降りてきている。下界の民(こどもたち)がもたらす未知の可能性に惹かれているんだ。だからね、『レアスキル』なんてものは、神々の興味を引く格好の材料なのさ」

 

「お祖父(じい)ちゃん……神ゼウスも、そんなことを言っていました」

 

「うん。だからベル君。その『レアスキル』は、ボクが言っていいといった相手以外には、漏らしてはいけないよ。でないと……神々に追い回されて眷属(ファミリア)に勧誘され続けることになる」

 

「うえっ、分かりました……」

 

 ベルはヘスティア神の言うことをしっかりと心に刻んだ。ヘスティア神以外の神に興味を向けられてはたまらないという思いで、ベルの心の中はいっぱいになった。アポロン神に見初められたリリルカのような扱いは、勘弁願いたいベルであった。

 

 そして彼は、あらためてヘスティア神の言うところの『ゲーム画面』と向き合う。

 

 すると、ベルはこの画面の用語説明が載っている『戦術指南』や『名将の手引き』といった複数の小項目を見つけ出した。それらは全て、『ブレイブストーリー』という大項目に収まっている。『ブレイブストーリー』には、他にもベルの人生の歩みやこれまで学んで来た二つの世界の情勢なども載せられていた。

 それをヘスティア神に説明すると、こう返された。「『戦術指南』に『名将の手引き』ね……おそらくそこに載っているのは、キミの『レアスキル』の取扱説明書だ。今すぐ確認すべきだよ」、と。

 

 それから。

 ベルはヘスティア神とリリルカが見守る前で、【幻想残滓】の詳細を確認することになった。

 彼が『ブレイブストーリー』内のいくつかの小項目を読み終わるまで、一時間かかった。だが、そのおかげでベルは自身の『レアスキル』について重要なことを理解できた。

 

「どうやらこの『レアスキル』は、これまで感覚的に扱ってきたイヴァリースの力を機能的に使えるようになるもののようです」

 

 ベルがそう言うと、同意するようにヘスティア神も言う。

 

「そうだね。さらに言うと、機能的なだけじゃなくて発展的にも使えるのだろうね」

 

 たとえば、『アビリティ』という欄に存在した『全剣技』というもの。

 ここには、ベルが師匠である【雷神シド】から学んだ剣技の流派、『聖剣技』『剛剣』『暗黒剣』の三つの技がズラリと並んでいた。

 その中には、ベルが手足のように使いこなせる【無双稲妻突き】のような技もあり、その欄には『☆☆☆』という三ツ星マークと『Master』との文字が書かれていた。

 

 一方、未だに習得が完了していない技には、習得に必要な『JP』の数値が設定されている。

 ヘスティア神に先ほど見せてもらった【ステイタス】にもあった、各種行動で獲得できる『魂の結晶(クリスタル)』の力。その一つが『JP』のようである。

 

 戦い等を経ることで獲得した『JP』を消費すると、対象の技の欄が『習得済み』という表記に変わる。ベルは『ブレイブストーリー』内の説明でそう学んだ。

 そして、『習得済み』となった技は、『アビリティ』欄に『全剣技』をセットしている時に限り扱えるようになるとのことだ。

 

 そして、『習得済み』の状態にしたうえで、対象の技をこの【幻想残滓】という『スキル』に頼らぬ自分自身の技術として落とし込むことができれば、表記は『Master』に変わる。そうすると、『全剣技』をセットしていないときでも、その技を自由自在に扱えるようになると説明にはあった。

 

「『アビリティ』だけじゃない。『ジョブ』も今後のキミを左右する重要な機能だよ」

 

 ヘスティア神のその言葉に、ベルは確かにとうなずく。

 

 ヘスティア神がいうところの『ゲーム画面』には、『アビリティ』以外に『ジョブ』という項目があった。

 これは、イヴァリースに存在していた戦闘職業の専門家になれるというもの。

 

 たとえば、ベルが最初から就いていた『ジョブ』である『剣聖』に就けば、剣の扱いが上手くなり、自動で『全剣技』という『アクションアビリティ』がセットされる。

 これを『弓使い』という『ジョブ』に変更すれば、『アクションアビリティ』には『チャージ』という攻撃の溜め撃ちができる能力がセットされ、さらに弓とボウガンを自在に扱えるようになる。

 

 なお、『アクションアビリティ』は、ジョブに就いたときに自動にセットされる固定枠と、今まで習得してきた中から選んでセットできる自由枠の、合計二つの枠が存在するようだ。『弓使い』の『ジョブ』に就いていると、『チャージ』が自動でセットされ、もう一枠に『全剣技』などを自由にセットできる、といった具合だ。

 

『ジョブ』ごとに『JP』を消費することで覚えられる『アビリティ』には、『アクションアビリティ』以外にも種類がいくつか存在する。

 敵の攻撃に反応して行動を起こす『リアクションアビリティ』。

 様々な補助効果を与えてくれる『サポートアビリティ』。

 移動に関する特殊効果である『ムーブアビリティ』である。

 

 それらをあらためて一つずつ口に出して、ベルはヘスティア神とリリルカに説明していく。

 すると、少女たちは『戦争遊戯』までどう『JP』を稼ぎ、どの『アビリティ』を習得すべきか大激論を交わし始めた。

 

「『JP』の獲得量を増やす『獲得JPアップ』! これは必須だよ! 一度覚えたらずっと外せない、呪いというべき強力な『アビリティ』だ!」

 

「ヘスティア様……『戦争遊戯』の準備に当てられる自由時間が、明日だけしか残っていないということをお忘れですか? 戦場への移動開始日はすぐに来ます。取るべきなのは『ムーブアビリティ』の『移動+1』です。駆け抜ける能力の向上が戦場でどれだけ有効か、ヘスティア様でもお分かりになるでしょうに」

 

 そんな少女二名のやりとりにたじたじになりながら、ベルもなんとか自分の意見を主張しようとする。

 

「あのー、僕は新しい剣技を覚えたいんだけど……」

 

「却下だよ!」

 

「論外です!」

 

「ええー……」

 

 自分の意見を即座に否定され、ベルは肩を落とす。

 すると、そんなベルに説教するかのごとくリリルカが言う。

 

「いいですか。ベルさんはすでに、『Lv.3』の実力者に模擬戦で勝てるという剣の腕をお持ちです。それなのに新たな剣技など! 今、必要なのは、戦場で活用できる能力です!」

 

「う、うん……」

 

「ですから、ベルさんは明日一日で、『移動+1』を覚えていただきます。いいですね?」

 

「は、はい……」

 

「おっと、待つんだ、二人とも。他の『アビリティ』の詳細も、しっかり確認すべきだぜ?」

 

 そうして、ベルはヘスティア神とリリルカにせっつかれるまま、夜が更けるまで自身に芽生えた『レアスキル』の確認を続けさせられることとなった。

 

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