ダンまちTACTICS   作:Leni

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66.エルピス

 ヘファイストス神がヴェルフに託し、ヴェルフがリューへと渡した一式の道具。

 その中に、一丁の銃が存在した。

 

 ヴェルフが【ヘスティア・ファミリア】の『冒険』に付いていくために開発した『魔銃』だ。

 だが、リューが構える『魔銃』は、ヴェルフが直接製作した作品ではなかった。

 

 製作者は、ヘファイストス神。

 ヴェルフが造り上げた『魔銃』とは段違いの完成度を誇るそれ。

 鍛冶神自らが創り上げた究極兵器《鍛冶神(ヘファイストス)魔銃(マガン)》である。

 

『魔法』の効果により星々をまとうリューは、その《鍛冶神の魔銃》の弾倉を開く。

 弾倉には、三発分の弾丸を込められるようになっていた。完成度を上げても、基本設計はヴェルフの造り上げた『魔銃』と同じ。つまり、《ソイル》を三発込めて初めてその効果を発揮する。

 その《ソイル》も、リューはヴェルフから受け取っていた。

 

「神ヘファイストス自ら創った《鍛冶神(ヘファイストス)魔弾(ソイル)》……」

 

 リューの腰には、大量の《ソイル》が収められたベルトが巻かれていた。

 しかも、その《ソイル》は一つ一つが異なる性質を宿している。

 

「《ソイル》の組み合わせは、私に一任されていましたが……」

 

【ヘスティア・ファミリア】のオリンピア行きを聞いた鍛冶神ヘファイストスが、一晩で用意した大量の《ソイル》。

 だが、『魔銃』の弾倉へ一度に込められるのは、それらのうちの三つ。

 どの《ソイル》を使うのが一番相応しいのか、リューは船旅の間、真剣に考え続けていた。

 

 やがて、オリンピアに着き、エピメテウスとベルの問答を聞いた彼女は、ようやくその答えを導き出した。

 

「不完全な『天の炎』。人を薪にする『穢れた炎』。英雄に悠久を与えた『原初の火』。かつて世界を救い、そして世界を滅ぼす全ての元凶――」

 

 周囲で人型の『炎獣』との戦いが繰り広げられる中。

 リューはただ真っ直ぐ前を向いて、高らかに宣言する。

 

「――お前に相応しい《ソイル》は決まった!」

 

 リューは腰に巻いたベルトに左手を伸ばして、一つの《ソイル》を抜き取る。

 指の先に摘ままれた一つの《ソイル》。それを己の目の前に掲げ、その効力を再度確認するように彼女は告げた。

 

「生み出す事を許さない――《ヴァージンホワイト》!」

 

 純白に染まった《ソイル》を確認したリューは、勢いよく弾倉に差し込んだ。

 続けて、ベルトから真っ赤な《ソイル》を取り出す。

 

「全てを()き尽くす――《ファイヤーレッド》!」

 

 燃えるような赤色を持つ二つ目の《鍛冶神(ヘファイストス)魔弾(ソイル)》も、《鍛冶神(ヘファイストス)魔銃(マガン)》へと投入される。

 

「そして……」

 

 最後に取り出したのは、銀色に輝く美しい《ソイル》。

 

永遠(とわ)(くさび)うつ光――《フォートシルバー》!」

 

 全ての《ソイル》が『魔銃』へと収められ、弾倉が閉じる。

 それを確認したリューは、『魔銃』を構え、射撃体勢を取る。

 片腕を前方へと突き出し、銃口をやや上に向ける。

 

 やがて、星々の輝きを周囲にまとったリューが告げる。

 

浄火(じょうか)せよ――【ヘスティア】!」

 

 星々の形で待機させたままだった【ファミリア・レコード】。その『魔法』の効果を正しく発動させるための、対象者(なまえ)の宣言。

 それにより、絆を深めた仲間の能力が付与(エンチャント)される。

 

 彼女が『魔法』によって呼びだした能力、それは、女神ヘスティアの『権能』。

 そう、彼女の『魔法』がもたらす神血(イコル)継承は、神血を共有する眷族の『魔法』や『スキル』だけでなく、神血を持つ『神の権能』すら継承することができた。

 

『魔銃』に宿った炉神の『権能』。

 それを確認することもなく、宣言とほぼ同時にリューは《鍛冶神の魔銃》の引き金を力強く引いた。

 

 次の瞬間。

『魔銃』の銃口から《ソイル》の力が融合、増幅して解き放たれ、炎の弾丸として撃ち出された。

 金とも銀とも表現できる煌びやかな炎の塊が、『穢れた炎』に照らされた空間を切り裂いて突き進む。

 

 その炎の弾丸には、眷族(ひと)規模(スケール)に落とし込まれた『悠久の聖火』が宿っていた。

 さらに、その『聖火』を宿す弾丸は、全知零能に落ちた身とはいえ火の『権能』を持つ鍛冶神が自ら造り上げたもの。

『聖火』の規模は増幅され、まさしくエピメテウスが操る『穢れた炎』に対抗できる力を秘めていた。

 

 しかし、弾丸が向かう先は、今もベルが足止めを続けるエピメテウスではない。

 炎が突き進む先。それは、大地の窪みで今も燃え続ける『穢れた炎』だ。

 

「お、おおおおおッ!」

 

 とっさにエピメテウスは『穢れた炎』へと向かう弾丸を逸らそうと、炎剣(つるぎ)を振りかぶる。

 彼が振るうこの『神創(しんぞう)武器』の真なる名は、《神の(はらわた)(ついばむ)(わし)》。

『原初の火』をエピメテウスに操らせるためにプロメテウス神が与えた、『神の権能』を制御する一種の『装置』だ。その『装置(エトン)』ならば、『悠久の聖火』すら撃ち落とせてしまうだろう。

 

 だがしかし、弾丸を逸らそうとするエピメテウスの動きは、彼と相対していたベルにとって大きな隙でしかなかった。

 

「【不動無明剣】!」

 

 聖なる騎士剣から放たれた聖なる『剣気』が、隙を晒したエピメテウスに直撃する。

 そして、追撃とばかりにベルは、エピメテウスの胸を《エクスカリバー》で逆袈裟に斬りつけた。

 

 鮮血が舞う。これまで『穢れた炎』の加護で強固な守りを保っていたはずのエピメテウスが、胸部に切り傷を負ったのだ。

 さらに追撃しようとするベルだが、相手はさしもの『大英雄』。反撃の蹴りが、ベルを大きく吹き飛ばした。

 

 だが、その間に炎の弾丸はエピメテウスの頭上を越え、大地の窪みへと弧を描いて落下していく。

 そして、燃え盛る『穢れた炎』のもとに着弾し――

 

 下界を焼き尽くすはずだった穢れに、聖なる炎が『着火』した。

 窪み(クレーター)に溜まった『穢れた炎』が、異なる性質を持つ炎によって食い荒らされる。

 まるで穢れそのものを燃料とするかのごとく、光り輝く浄化の炎が燃え広がっていく。

 

 そして、聖なる炎は大地の窪みを飛びだし、大空洞全体に燃え移っていった。

 当然のように、大空洞にいた全ての者が炎に包まれる。

 

 しかし。炉神の『権能』は、人を傷付けない。

 安寧(あんねい)を司る竈火(かまど)の女神の火は、(じゃ)を清める力のみを宿す。

『穢れた炎』が『浄火(じょうか)』され、分解され、鎮火されていく。

 

『デミ・アルカナム』である『天の炎』は強大な力の塊だ。

《鍛冶神の魔銃》で大幅に増幅されたとはいえ、『神の力(アルカナム)』には到底届かぬリューの『悠久の聖火』。そこに『天の炎』を鎮火させられるほどの力はない。そのはずだった。

 

 だがしかし、今の『天の炎』はもはや天界に存在した『原初の火』ではない。

 下界の『負の感情』に汚染されきった『穢れた炎』なのだ。

 エピメテウスがベルとの問答で告げた通り、その性質は『神の力』ではなく『人の力』。

 ゆえに。『天の炎』を汚染した穢れは、『人の力』での『浄火』が可能になっていた。

 

 さたにリューは、その『浄火』をもたらすに相応しい《ソイル》を見事に選び出していた。

 下界を滅ぼすほどの莫大な量の穢れ。これをそのまま『悠久の聖火』を燃やす『(まき)』へと変える。そんな答えを彼女は導き出していたのだ。

 

「……まさか、このような手で!」

 

 聖なる騎士剣で斬りつけられた胸の傷を左手で押さえながら、エピメテウスは遠方にいるリューを見た。

 聖火に包まれながらも平然とした様子でエピメテウスを見つめる相手に、彼はしてやられたという顔となる。

 

 だが、全ては遅きに失している。

 

 彼の背後では今も『穢れた炎』が、『悠久の聖火』によって焼かれている。

『穢れた炎』から直接力を引き出していたエピメテウスは、その身に宿した『デミ・アルカナム』を徐々に失いつつあった。

 

「もはや、これまでか……」

 

 遠い昔、はるか古代に敗走を続けた英雄エピメテウス。

 だが、今回ばかりは、負けても逃げ延びることはできないと彼は悟っていた。負けを受け入れて、再戦を誓うことはできないと理解していた。

 

 よって、彼はせめて最後の戦いだけは逃げることなく終わらそうと、目に力を入れる。

 炎剣(つるぎ)を構え直し、蹴り飛ばしたはずの『最新の英雄』をその双眸で見る。

 彼の目の先では、『最新の英雄(ベル・クラネル)』がすでに立ち上がっていた。光り輝く聖剣を構えて『古代の英雄(エピメテウス)』へと真っ直ぐ顔を向けていた。

 

 尋常ではない力が、ベルの聖剣に宿りつつある。

 彼の高まる『剣気』を肌で感じ取ったエピメテウスは、さらに、聞き慣れない音を耳にした。

 

 それは、鐘の音。天上から降り注ぐような光を感じさせ、それでいて終末を知らせる闇をも感じさせる、荘厳な大鐘楼(グランドベル)の音色。

 

 次が、最後の一撃となる。

 それを悟ったエピメテウスは、自身が持つ最大の技で迎え撃つことを決めた。

 炎剣を高らかに掲げ、彼は唱える。神に捧げる穢れきった『祝詞(のりと)』を。

 

「【ここに願い(たてまつ)る! そして、どうか(ゆる)し給え! 我は神言(しんげん)に背く者! この手は災禍(さいか)を開く罰!】」

 

 その『祝詞』に応じるように炎剣が震え、うなるような音を立てる。

 

「【目覚めよ、花嫁! 呪われし泥の巫女! 愚者の婚姻、絶望の約定(やくじょう)背神(はいしん)の業火! 希望はなく、祝福は去る!】」

 

 炎剣に限界を超えさせるための祝詞は、まるで呪いの言葉のようであった。

 

「【されど、汝の罪は我等の罪! 葬られし贖罪(しょくざい)に代われ、炎の(わし)! 共に捧ぐ、常春(とこはる)の地獄!】」

 

 叫ぶような自身の声に交じって、エピメテウスは聞いた。

 ベル・クラネルが唱える、高らかな詠唱を。

 

「【地獄の鬼の首折る(やいば)の空に舞う――無間地獄(むげんじごく)百万由旬(ひゃくまんゆじゅん)――】」

 

 終わりの時はすぐそこに迫っている。

 そう感じつつも『古代の英雄(エピメテウス)』は、それでもなお『最新の英雄(ベル・クラネル)』に立ち向かうため駆け出す。己の身に僅かに残された『穢れた炎』を推進力へと変える。

 そして、彼は炎剣を大きく振りかぶり、全力でベルへと叩きつけながら、宣言する。

 

「――【エルグス・パンドラ】!」

 

 それと同時、ベルも己の持てる最大の力で、その一撃に(あらが)った。

 

「――【冥界恐叫打】!」

 

 炎剣と聖剣が交差し、互いにそれまで高めていた力を解放する。

 業火がベルを焼き、『剣気』がエピメテウスの全身を突き抜ける。

 

 だが、激しい『剣気』を受けたのはエピメテウス本人だけでは無い。

 彼がその手に握りしめていた炎剣(エトン)も、強烈な『剣気』に晒された。

 ベルが放った一撃は、まさかの武器破壊技。神が創りたもうた神器に、人の身で逆らおうとするあまりに無謀な『冒険』。

 

 神への挑戦。神への反逆。

 果たして『最新の英雄』の『冒険』は実を結び、無謀な一撃は()()()

 

 炎剣の柄がきしみ、神が鍛え上げたその刃にわずかな欠けが生じる。

 神が創り出した装置に乱れが生じる。

 それにより、エピメテウスは『穢れた炎』の制御を手放してしまう。

 彼の身に宿っていた『デミ・アルカナム』の力が、急速に消失する。

 

 大地の窪みに潜み、下界を焼き尽くさんとしていた『穢れた炎』は、『悠久の聖火』によって浄火され焼失していた。わずかな残り火も炎剣の破損によって正常に操ることができなくなり、エピメテウスの体内を焼き尽くさんとする。

 これにより、『黒竜』を討とうとしていた『敗残者』は、戦う術すら失った。

 

 何度敗走しても、何度挫折を味わってもそのたびに立ち上がってきた『古代の英雄』は――この最後の戦いにて己の完敗を認めた。

 今回ばかりは逃げ帰る場所もなく、エピメテウスはその場に膝を突く。

 

「そうだ。それでいい……」

 

 炎の加護を失った『大英雄』が、ベルを前にして立ち上がることなく、ただそうつぶやく。

 

()()()()()……」

 

 彼を古代から生かし続けてきた炎の加護は、『悠久の聖火』の『薪』となり燃え尽きた。

 もはや、エピメテウスが辿る末路は、一つしかない。

 

 朽ちる。三千年の月日を生きてきた彼の肉体は、すでに炎の加護なくして維持できる状態になかった。

 手指の先から風化していき、まるで『悠久の聖火』に焼かれているかのように灰へと変わっていく。

 それでもなお、彼は言葉をつむぎ続ける。

 

「『最後の英雄』へと至れ……『最新の英雄(ベル・クラネル)』……!」

 

『愚物』と(さげす)まれた『古代の英雄(エピメテウス)』の三千年の歩みは、こうして止まった。

 




・人が『神の権能』を使えるのか?
例外中の例外ですがヘルンが変神魔法、フェルズが蘇生魔法を使えるので不可能ではないはず。
ちなみに、本作のリューさんが『魔法』で『神の権能』を引き出しても、そこに『神の力(アルカナム)』は宿っていないためダンジョン内でも問題なく使用できます。『ファミリアクロニクル』ではヘルンがフレイヤの『美神の権能』をダンジョン内で問題なく使えていました。『神の力』や『神威』が伴っていない『権能』のみだとダンジョンは反応しないようですね。

・『神創武器』は破壊できるのか?
『アルゴノゥト』で『天授物(アーティファクト)』の『鎖』をミノタウロスさんが壊しています。
『神創武器』は劇場版で描写された『神の力』ほどトンデモ存在ではないので、効力が切れかけた『鎖』と同じノリで、下界に存在する力でも破壊できそうというのが、個人的な見解です。
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